第16話 スパイ活動

拳銃のボルトを引いて作動を確認するキャミー。


その手には皇国戦車兵が護身用として良く用いる、ベレッタが握られていた。


遊低ボルトの作動を確認して、


「よし、そっちはどうだ?」


キャミーは腰のベルトにホルダーを着けながら尋ねる。


「えっと、いや、あの・・・」


ミハルが冷や汗を垂らして、自分の服装に戸惑った。


「キャミーさーん、用意整いました」


ミリアが肩掛け鞄を持ってキャミーの傍に来ると、


「へえっ、ミハル先輩似合ってるじゃないですかぁ」


ミリアがにたあっと笑って駆け寄ってきた。


「ううっ、ミリアが笑ったぁ」


ミハルは涙目になって焦る。


「はっはっはっ、似合ってるぞぉ、ミハル!」


傍に控えていたマクドナード軍曹が、大笑いしてミハルを見て言った。


「軍曹!どうして私だけスカートなんですか!

 どうしてウイッグ被らされてるんですかぁ!」


ミハルの格好は茶色の髪のウイッグを被り、冬なのに胸元を覗かせるプチコート。

丈の短いスカートから伸びる足には、太ももまである靴下ストッキング

そして足首までのヒールの高いブーツ・・・


「よーく似合ってるぞぉ、ミハル」


軍曹はミハルを見て、涎を垂らす。(おいっ)


「どっからこんな服、出して来たんですか!って、軍曹・・・涎」


ミハルがジト目で、軍曹を睨むと、


「ふっ、こんな事もあろうかと。いつでも用意周到なのは、整備班長の務めだ!」


マクドナード軍曹は力一杯言い切った。


「・・・。あかん・・・これ」


キャミーが、呆れ返って額を押える。


キャミーは皮ジャンに、スラっとしたジーパン。

ミリアも皮のジャケットとスラックス。

どちらも行動派の姿だった。

それに比べて・・・


「私もスラックスか、ジーパンにしてください。

 こんなスカートじゃ動きにくいし、・・・そのぉ」


ミハルが恥ずかしがって、


「あ、う。お尻が寒い・・・です」


ミハルが真っ赤に頬を染めて抗議すると、


「おーっ、そうだったのか!そりゃ気付かなくて悪かったよ」


マクドナード軍曹がポンと、手を打って衣料箱から取り出してミハルに突き出す。


「ほい、これ!」


マクドナードが、ミハルに突き出したのは・・・


<むむむっ、毛糸の・・・パンツ・・・?>


「アホかーいっ!」


ミハルとキャミーとミリアのパンチが、炸裂した!



3人がリーン少尉の前に並んで、説明を聞く。


「3人には敵情偵察の為、アラカンの村へ行って貰います。

 任務の第1は、敵兵力の確認。

 第2は村民の有無・・・この2点だけでいいわ。

 無理をして危険に巻き込まれぬ様に。

 以上です」


「はい!了解しました」


キャミー、ミリア、ミハルの3人が敬礼する。

(因みに、ミハルの服装は皮ジャケットにスラックスである。)


リーンは更に軍人としての心得を言う。


「いい?絶対に敵との接触は駄目よ。

 あなた達は軍服を着ていない・・・ゲリラと同じ扱いなの。

 見つかったら、直ちに殺されてしまう事になる。

 くれぐれも注意してね」


リーンに注意されて、


「解っています。それでは、キャミー以下3名、行って参ります」


キャミーがリーン少尉に敬礼して出発を告げる。


「本当に気を付けてね。行ってらっしゃい」


リーンが微笑んで手を振るのを、


「行ってきまーす!」


どこかへ遠足にでも行く様なミリアに、


((ポカッ))


拳骨を食らわせてキャミーが引っ張っていく。

ミハルは心配そうに微笑むリーンに軽く手を振ってから、キャミー達の後を追った。






小隊野営地から10キロ程離れた山間の村、アラカン。


この村が平和を破られたのは数ヶ月前。

突然侵攻して来た帝国軍に占領されてからは村民はただ怯えて暮すより無かった。

村から逃げ出そうとする者は、老若男女を問わず殺された。

ただ怯えて帝国軍の成すがままにするしか生き残る事は出来なかった。


村へと繋がる街道のあちこちに破壊された、車や荷車が放置されていた。


そして・・・


「惨い・・・」


ミリアが目を背けて、から離れる。

キャミーは黙って、人柱を見詰た。


<みせしめに・・・銃殺じゅうさつしたんだ>


村の入り口に数本の人柱が並んでいる。

何の為の見せしめか解らないが、男女を問わず殺すその行為に怒りがこみ上げてくる。


「降ろしてあげたいが・・・今にきっと奴らを追い出して・・・

 すまない・・・待っていて下さい」


キャミーが怒りに震える手で、人柱に頭を下げる。


「大丈夫でしょうか?ミハル先輩は・・・」


ミリアが心配そうに、キャミーに訊いた。


「うん。あたし達も急ぐぞ、ミリア」


キャミーが早足で歩き出すのを追って、


「はい」


ミリアも駆け出す。




「ふーん。こんな長閑なんだ、フェアリアの山田舎って」


ミハルは山々に囲まれた村を独りで観光でもしているようにゆっくり見回す。

しかし、その瞳はゆっくり観光している様な長閑な瞳の色ではなく、辺りの気配に探る険しさがあった。


<どうやら、村の西側に敵部隊は居ないみたいね。

 まあ、こっちは直ぐ山が迫っているから攻めて来れないし。

 居るとすれば反対の東側か南側。

 そっちはミリアとキャミーさんが調べてくれている筈。

 だとしたら私は北側の森を調べないと>


ミハルはそう思って北側の森を見た。


「おい、見慣れない女の子が森の方へ行こうとしているぞ。

 停めててやらないと、また酷い事になるぞ」


白髪の老人が建物の中で周りの男達に言ったが、

誰一人として、その娘に注意しに行く者は居ない。


「誰か行って、停めてやったらどうだ。

 あの娘は他の土地の者だろう。

 見た事の無い黒髪をしているから、もしかしたら外国人かも知れないんだぞ?」


老人が村の男達にそう言っても誰もが怯えて老人から顔を背ける。


「情けない奴らだ。そんなに帝国の奴らが恐いのか!」


老人が、呆れて怒鳴ると、


「あたしが、呼んでくる!」


そう言って一人、栗毛の少女が飛び出して行く。


「まっ、待てアリシア。お前は行くな!」


老人が手を伸ばして止めたが、栗色の髪を靡かせて、アリシアはミハルの元へ駆け出していた。


<北側の森に何か光る物が見える。

 あれは・・・荷物運搬用のトラック?それも3両もいる。

 それに、あの丸太のような物が何本も突き出た林・・・

 まさか、あれは・・・?>


ミハルが知らず知らず、近寄ってしまうと、突然・・・


「何だお前は!此処に近寄った者はただでは済まさんと言ってある筈だ」


背後から数名の帝国軍服を着た男に銃を突き付けられて、


<しまった。林に気を取られて、気付くのが遅れた>


ミハルは冷や汗を垂らしてゆっくり振り返り、微笑んで小首を傾げる仕草をする。


「何だ、よそ者か。何処から来た。何処の国の人間だ?」


一人の男が銃を突き付けて訊いて来るのを言葉が解らないふりをして、

笑顔のまま首を左右に振って小首を傾げる。


「何だこの娘。言葉が解らないのか?」


銃口を下ろして戸惑う男が、


「分隊長、この娘言葉が解らないみたいですぜ。どうします?」


後ろに控えた大男に訊く。


「ふん、外国人か」


髭面の男が、ミハルの前まで近寄って、


<! 何っ!?>


くいっと、顎を上に向けさせられて顔をまじまじと見据えられる。


「お前、何処の国のスパイだ?それとも軍人だ?その瞳を見れば解る。

 その瞳にはオレと同じ人殺しの罪を背負った者しか出せない色が見える」


髭面の男にそう言われて思わず顔を背けてしまうミハルに、


「どうやら、オレの言葉が解るらしいな・・・」


ニヤリと笑う大男はミハルの手を握って、


「こっちへ来るんだ。外国人の娘!」


その大男はミハルの手を掴んで元来た村の方へ歩き出した。


<どうしよう。このままじゃあいずれ正体がばれてしまう。

 そうなったら捕虜、いえゲリラ扱いで殺されてしまうかも・・・>


ミハルは大男から逃れようと思ったが、


((ジャキッ))


後ろに控えた男達が小銃を構えているのが、目に飛び込んでくる。


<あ、駄目だ。もう逃げれない。

 キャミー、ミリア・・・ごめん、私捕まっちゃった。

 ラミルさん、リーン少尉ごめんなさい。

 もう私・・・駄目みたい。

 もう私、リーン少尉を護れない。

 ・・・ごめん、リーンお姉ちゃん>


ミハルは、諦めて手を引かれて連行される。


絶体絶命の危機。

ミハルは諦めて、大人しく連行される。


私服で捕まった軍人の運命は悲惨である事を知っているミハルは、覚悟を決めた。

手を引く大男に自分が何をされるというのかをも・・・気付いていた。


連れ込まれた部屋で、ミハルを待っている運命は如何に?

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