第13話 魔鋼騎士勲章
「全く。無茶しすぎなんだよ。善く戦闘中に、ぶっ壊れなかったな」
「すっ、すみませんっ軍曹」
ラミルが整備中のマクドナード軍曹に謝る。
「まあいい。今夜中に修理は終えておく。それまで、お前達は休んでおけ。
明日も作戦は続くだろうからな」
「はあ。では、お言葉に甘えさせてもらいます」
ラミルはキャミーを伴い、野戦テントに戻る。
「ミリアまで引っ張り出さないと人手不足な位、酷くやられてたって事ですかね」
キャミーがラミルに訊くと、
「そうみたいだ。もし、私達が魔鋼騎じゃなかったら、命は無かったかもな」
「うへっ!そんなに・・・ですか?」
キャミーが驚いて、目を大きく見開く。
「そりゃあ、重戦車の砲弾を喰らって、この程度で済んだんだからな。
リーン少尉とミハル様サマ・・だよ」
「そうですね。ミハルの奴、この事を知ったら威張るかな?」
「はっはっはっ。そんな奴じゃないの、知ってるだろぅ」
「ですね」
キャミーも、ラミルに笑い返した。
「それにしても車長と、ミハル。遅いな・・・」
「そうですねぇ。
戦果報告と行動指令を受けるだけにしては時間が掛かり過ぎてますね」
「何か悪い事に成ってなけりゃ、いいがな・・・」
ラミルは師団司令部の方を見て、腕を組んだ。
「はあ?私達の小隊を本来の姿に・・・ですか?」
リーン少尉が参謀に訊く。
メガネを掛けた神経質な顔の中佐参謀が、
「そうだ。貴様達の戦功は、素晴しい。一両で7両も喰ったのだからな。
陸戦騎エースとなったのは、我軍でも数両しかいない誉れだ。
よって、その力量を認めて、師団直属小隊の任を解く。
今後は適時各方面軍からの要請で、行動する様に」
「では、今作戦には今後?」
「・・・今次作戦は、終了した。
作戦の継続は、補給され次第に決定される事になるだろう」
リーンはミハルと顔を見合わせて、
「作戦終了・・って事は、撤退するのですか?」
その言葉に顔をヒクつかせて、参謀が怒鳴る。
「撤退ではない、転進と言え。
我々は戦線を縮小、エンカウンター南東40キロまで退くのだ。
そこで補給を待つ」
<これだから、負けてしまうんだ。
こんな参謀が居るから味方に被害が多く出るんだ>
ミハルは手を握り締め、奥歯を噛み締める。
怒りがこみ上げて来るのを我慢して立っていた。
「解りました。第97小隊は修理完了次第、後方に進出し、命令を待ちます」
そう言って、リーン少尉は話を打ち切った。
2人は参謀に敬礼をして退出する。
「ミハル、我慢して。あんな奴でも、上官は上官だから」
「はい。でも悔しいです。今日の闘いで散って行った人達の事を想うと・・・」
「私も・・・こんな酷い状況だったなんて。
此処の師団長は、よくあんな男を参謀に使っているわね」
2人は司令部テントから出て、愚痴を言い合い自隊の方へ向おうとした。
「誰だ、お前達は!」
急に横から声を掛けられて振り向くと、
「何処の隊だ、お前達は?」
数人の高級士官がこちらを見ていた。
<わっ!金ベタの襟章。佐官以上だ>
ミハルは慌てて姿勢を正し、敬礼する。
リーン少尉は少しも慌てず、申告した。
「陸戦騎の独立第97小隊、リーン・マーガネット少尉です」
「おっ、同じくミハル・シマダ一等兵です」
カチコチになって、ミハルも申告した。
「こんな所で何をしているんだ。用事が済んだのならさっさと原隊へ戻れ」
参謀肩章を吊った中佐参謀が、リーンに向って怒鳴る。
それを奥の年配の男が止めた。
「リーン?リーン姫ではないですか?
暫くお会いしない間に大きくなられましたな」
男が前に出て来て、懐かしそうに話し掛けてきた。
「えっ?あなたは・・・」
リーンの前に現れた白髪混じりの髪をした男の襟章は・・・
「師団長閣下。お知り合いで?・・・姫?」
中佐参謀は、師団長とリーンを交互に見て話す。
「ああ。このお方は我国の第4皇女リーン・フェアリアル様だ。
私の教え子でもあるがね」
「は?ファブリット中将の教え子・・・え?皇女様ですって?」
中佐参謀は、漸く理解したのか逆に姿勢を正して敬礼する。
「ファブリット教頭先生お久しぶりです。
お変わり無くお元気そうで何よりです」
ペコリとリーンは師団長にお辞儀をして、
「中佐殿。下級者に敬礼はよして下さい。軍紀が乱れますから」
リーンが微笑んで参謀に言った。
<ひええぇっ!
私も知っている、あの”白髪の狼”教頭先生が師団長閣下だったなんて。
ホントびっくりしたぁ>
ミハルは心臓がドキドキしてるのを押えるのがやっとで、敬礼したまま立ち尽くしている。
「ほう、誰かと思えばあのシマダ教授の娘か。
元気でやっとるみたいだな、噂は聞いたぞ」
ファブリット師団長が、ミハルに目を向けて答礼してくれた。
「ひゃ、ひゃいっ。元気でありますぅ教頭先生」
声が裏返って、変な返答をしてしまった。
「はははっ、変わらんな、シマダ君。
もう生徒と教師の間柄では無くなったのだから先生と言うのは、無しにしてくれんかね」
優しく労わる様な瞳で、師団長はミハルを見て微笑んだ。
<変わったのは教頭先生の方ですね。
あんなに厳しかったのに、それがこんな優しい目をしておられる。
同じ砲術科学校出だからかな。
それとも師団長として戦場へ赴いた軍人としてなのかな?>
ミハルは元教頭先生でもあった師団長を見てそう思った。
「それはそうとして、リーン姫様。
訳を話してもらえませんか。
どうして
姉姫様の様に司令部付きとして軍中央へ行かれるものと思っておりましたのに」
ファブリット中将は、リーンに向って疑問を訊く。
「それは・・・今は言えません。
あえて言うなら、そうしたかっただけです。
そうしなければいけなかっただけです・・・」
リーンの瞳が曇ってしまった。
それに気付いたファブリット中将は、直ぐに感づいた。
「はっはっはっ、そうですか。
またの機会にでもお話下さい。
それはそうと、今日は司令部へ何の用ですかな?」
リーンとミハルを交互に見て、用件を聞こうとする師団長に、
「あ、いえ。戦果報告と明日からの作戦予定を伺いに・・・」
リーンがファブリットに訪れた訳を話そうとすると、
「ほほう、戦果報告・・・輝かしい戦果を収められたようですな。
副官、報告書を見せて貰いなさい」
中佐参謀が、リーンの手から報告書を受け取り、報告内容を調べた。
「むう。軽戦車1両と、中戦車5両。
・・なに!?重戦車1両も、か?
間違いではないのか?たった1会戦で、7両も撃破したと言うのか!」
「はい。確実撃破のみ、報告しております」
リーン少尉が参謀を睨んで返答した。
「ふ、ふんっ。そうか、解った」
リーンの態度で、不味いと思ったのか中佐参謀は引き下がる。
「ほう、さすが姫とシマダ君だ。
生き残る事ですら難しい戦で・・・善くやって下さいました。
私からも感謝します。おいっ、参謀!」
ファブリット師団長は、もう一人の参謀を呼んで、
「独立第97小隊に感状を授けてあげなさい。
それと、車長と砲手にエースの称号を、魔鋼騎士の勲章を与えてあげなさい」
<え?魔鋼騎士の勲章ですって?一等兵の私に?>
ミハルはドキリとして、ファブリット中将を見た。
参謀が一人の通信下士官に何かを取りに行かせる。
「師団長。それは一兵卒に与えられる勲章ではありません。前例が有りません」
中佐参謀が文句を言うのを、
「前例が無いと言うなら、私が作りましょうかね。
それで宜しいのではないかね、中佐」
ファブリット中将はにこやかに言ってからミハルを見て、
「リーン少尉、シマダ君。こっちへ来たまえ」
中将が2人を近付くように手招きする。
参謀達と少し離れた所へ招くと、
「すまないな2人供、こんな無謀な作戦につき合わせて。
軍中央から直接作戦指揮参謀が来て、命令を悉く邪魔するのだよ。
硬直した作戦の為、何人もの若者を無為に殺してしまった・・・申し訳ない」
「師団長・・・やはり師団長の命令ではなかったのですね。
お会いした時、何故教頭先生があんな命令を下したのか疑問に思っていました。
そうですか、軍中央の作戦であんな事に・・・
まるで、この作戦で誰かを殺そうとしているかの様でした。
部隊の全滅と共に・・・」
リーンが師団長を見詰て、手を強く握る。
<リーン少尉?誰かって・・・誰の事ですか?>
ミハルは、先の戦いで自分独りが生き残ってしまった事を思い出す。
「リーン姫・・・お気を付けて下さい。
戦いの中で、敵弾で死ぬ事は名誉な事かもしれませんが、
味方に狙われて同士討ちで殺される事も戦場では少なからず有る物です。
私は命令を出しました。
姫の隊を我が師団直轄部隊から外すようにと。
これで97小隊は、少なくとも味方討ちからは免れる事となるでしょう」
「ファブリット・・教頭先生!ありがとうございます。
そこまでお考えくださっていたとは思って居ませんでした。
疑ってごめんなさい、先生ごめんなさい」
リーンは自分の身を案じてくれている慈父の様なこの師団長の指揮が、
軍の中央に居る人物によって邪魔されている事を心から詫びた。
そして、その人物によって抹殺されるべき者が、自分である事をも師団長は解っている事が心苦しくて悲しくてしょうがなかった。
「謝る事など無いのですよ、姫。
姫様の事を見てきた私共は、信じておりますから。
必ず皇王様の御心が、姫様のお力でお救いされますのを。
この戦争を御止めになられる決断を下されるのを」
「はい。私も皇王様が御心を開かれる事を信じています」
ファブリット師団長は優しくリーンを見て、励ましてくれた。
そして・・・
「シマダ君、君のご両親とはよく話をしたものだよ。
覚えているかな幼年学校で君はクラスに馴染めず、何時も一人っきりでいたね。
御両親が心配されて、砲術科学校で教頭をしていた私の元へ来られてね、
相談したものだよ。
教授とは武官時代からの友人でね。
良くヤポンの話をしたものだったよ。
そんなシマダ夫妻を護れなかった私達を許してくれないか」
元恩師であり、教頭先生でもあった現師団長は、ミハルを見詰て許しを請うた。
「え?師団長閣下が両親とそんな親交が有ったなんて、知りませんでした。
・・・許すも何も・・・中将閣下の申されるままに」
ミハルは、恐縮してお辞儀した。
「そうかね?それは有難い。
ずっと心の奥にしこりとなっていたからね。
シマダ君、君の弟君にも許してもらったのでな。
これでやっと胸の痞えが取れたよ」
「え?マモルと・・・マモルとお会いになられたのですか?」
ミハルが弟の事を聞くと、
「ああ。この作戦が始まる前に学校に寄ってな。元気な子だね。
ミハル君もあれ位元気だったら、友達も沢山出来ただろうに」
「元気・・・だったんですね。良かった・・・」
ミハルは少し涙ぐんで喜んだ。
「ああ。元気過ぎて困る位だったよ。
クラスの中でも、かなり人気者みたいだったからな」
「へえぇ。そうでしたか」
ミハルは嬉しそうに、懐かしそうな顔をしていた。
「ところで、シマダ君。
君には相当な能力が秘められている様だね。
その能力を使って、リーン姫を護ってはくれないだろうか。
この老いぼれの願いだと思って」
「はいっ、当然です。
私は小隊長を、車長を守りたいです。小隊を護りたいです」
ミハルはファブリットに頷く。
「そうか。では宜しく頼みますよ。
「え?あっ、はいっ!」
ファブリットに称号で呼ばれて、一瞬戸惑ったがミハルは力一杯それに答えた。
その時勲章を携えて、副官参謀が胸章を持って現れた。
それを掴んだ中将自らが勲章を授けてくれた。
「陸戦騎独立第97小隊、隊長魔鋼騎士リーン・マーガネット少尉。
同じく魔鋼騎士ミハル・シマダ一等兵。
君達の武勲を賞して、この騎士章を授ける。
今より君達は栄えある皇国陸戦騎エース、魔鋼騎士となったのだ。
この栄誉の為、更なる活躍を期待している。受け取りなさい」
リーンとミハルに一つずつ騎士章が胸元に付けられて、
「ありがとうございます」
2人はファブリット中将に敬礼した。
2人の敬礼に答えて、
「それでは2人供、武運長久を祈る」
そう言って師団長は参謀たちを伴って、指揮所の方へ歩いて行った。
その後姿に、2人は敬礼を続けながら見送った。
「教頭先生、いえ師団長閣下も苦労されていたんですね。
中央軍司令部は、一体何を考えているんですか。
こんな馬鹿な作戦指導をするなんて」
ミハルが愚痴ると、
「ミハル。先程ファブリット師団長が仰られた事なんだけど。
私達の小隊がこの作戦に加えられたのは多分、
その中央軍司令部の、とある人物の策略だと思う。・・・私を殺す為」
「え?少尉を・・・ですか?」
ミハルが驚いて聞き返す。
「うん。私ね、皇族の中で邪魔者扱いされ続けてきたの。
皇族の中で一人だけ魔法力を持つ人間だから。
皇王様が上のお姉様達より私を、第4皇女の私を跡目継ぎと呼んでしまってから・・・」
「ええっ!少尉は皇太子様なのですか?」
ミハルは驚きのあまり腰が引ける。
「あははっ、皇族内だけの話だけどね。
皇王様が古来の伝承を信じられてしまって、
魔法力を持った私を救国の皇女だ、何て呼ぶから上のお姉様達が怒ってしまって・・・
私の事を遠ざけるようになってしまったの。
それに私は上のお姉様達と違って正妻の娘じゃないから」
リーン少尉は寂しそうに、目を伏せてミハルに言った。
「そう・・・だったのですか」
ミハルは搾り出す様に、口を開く。
「それでね、私の事を気遣ってくれた人が、
一般の人達の中へ入れば皇位継承問題から逃げられると思って幼年学校へ入れてくれたんだけど。
やっぱり許してくれなかったみたい。
どうしても私を亡き者にしたいみたいね。
中央軍司令部に姉様達を皇位に付けたがっている人物が居るのは解っていたけど・・・こんな酷い事をするなんて考えてもいなかった。
・・・私の為に師団長を始め、皆に迷惑を掛けてしまった。
私、どうやって謝ればいいのか・・・」
リーンは歯を食い縛り、涙を堪える。
「少尉!私、私は許せません。
自分の欲の為に誰かを犠牲にするそんなやり方。
絶対許せません!
人の命を何だと思っているのですか!
この無茶な作戦指導の為に死んで逝った者の命を、
誰が償えると思っているのですか!
何の為に死んでいったと思っているのですか!
みんな大切な人を想い、故郷を想って闘ったのに。
・・・悔しいです」
ミハルは拳を握り締め、声を震わせて、
「私、少尉と共に闘います。
そんな人達の為に死んで堪るもんですか。
きっとこの戦争を生き抜いて、弟と共に故郷へ帰ります。
それが死んでいった人達への慰めだと思いますから」
ミハルの瞳から、涙が零れ落ちる。
「ミハル・・・そうね。
私達が生き残れれば、それが皆への罪滅ぼしになる。
・・そう考える事にするわ、私も」
リーンは頭上の星空を見上げて、ミハルと同じ様に強くなろうと、強く生きようと思った。
「ふう。少尉。怒ったら、お腹減りました・・・ね」
ミハルが怒りを抑えて、お腹を押さえて少し笑い掛けて来るのに、リーンは救われた気になる。
「ふっふっふっ、ほんとね。
小隊に戻って食事を摂りましょうか。
こんな時は味気ないレーションじゃなくて、温かい物が食べたいわ」
「ほほう!その言い方は誰かにお料理を作って欲しいと言われているようですな!おっほん!では、私めが御作りしましょうではないですか!」
ミハルはリーンに向って胸を張って言った。
「ええっ!?ミハル・・・料理・・出来るの?」
リーンが疑ってくるので、
「むう。少尉、私が料理出来ないとでも?」
「え?いや。ミハルが料理してる所なんて見た事無いから・・・」
「ふっふっふっ。まあ、任せて下さいよ。腕におぼえあり。です!」
「うっ。なぜか・・・身の危険を感じるわ」
リーンが冷や汗を垂らして、ミハルを見詰た・・・
「おいっ、ミハル。何やってんだよ。
・・・って、少尉!少尉!!ミハルが毒物を作ってますっ!」
キャミーが、料理を作っているミハルを見て騒ぐ。
「キャミーさん、失礼な。これの何処が毒物なのよ」
ミハルは口を尖らせて、咎める。
「んっ?ミハルが何か作ってるって・・・何だよこれ?」
ラミルも寄って来て様子を見ているが、
「ふーん、変わった匂いですね。何ですこれ?」
ミリアまで不思議そうに、匂いを嗅いで不審がる。
「もう!料理に決まってるでしょ。
もう直ぐ出来ますから、皆さん食べてみて下さい」
そう言って大きなお鍋から一掬い食器に盛って味見して、
「うん、よし、出来た。さあ、どうぞ食べてみて下さい」
ミハルがキャミーに食器を渡すと、
「え?何だこれ?シチューじゃねえよな。何だこれ?」
「まあ、シチューの様な物ですけど。
私の故郷では冬に良く食べる物でして・・・<鍋>って言います」
「な、鍋って・・・そのまんまじゃねえか。
・・・うっ、じゃ、じゃあちょっとだけ・・・ずずっ」
「・・・どう・・・です?」
ミハルが少し固まったキャミーの様子を伺って見詰ると・・・
「おおっ!東洋のマジックか?美味いっ!!」
((ぱああっ))
「へへー。そうでしょ、そうでしょ。さあ、食べて下さいよ」
ミハルはほっとして胸をなでおろす。
「キャミー、ほんとに美味いのか?」
ラミルの問いにキャミーは答えず、料理に夢中になって食べ続けている。
「ほんとかよ?」
ラミルも一口啜って、
「!!妙な味だが、これはいけるっ」
2人はよほど気に入ったのか、黙々と食べ始めた。
「どう。ミハルの料理は?」
リーン少尉が、みんなの輪に入ってくると、
「はい、少尉もどうぞ」
ミハルが料理を盛った器を手渡すと、
「あ、ありがと。うわっ、変わった臭いね。スープ?」
「いえ。東洋のマジック、鍋って言うそうです」
ミリアが笑ってリーンにフォークを手渡す。
「ラミル、キャミー。一心不乱で食べてるけど・・・
そんなに美味しいのかしら?」
そう言って、恐る恐る口にすると、
「ミ、ミハル!何なのです?このお料理。
どうやって作ったの?あなた本当に魔法使いだったの?」
リーンの口にも合ったみたいで、大袈裟に驚く。
「いや、あの・・・少尉。
この味付けは粉末しょうゆって言いまして、ヤポンでは普通に使われていまして・・・。お口に合いました様で・・・良かったです」
「そっか。あなたの故郷の味ね。
いいなあ、こんな美味しい料理が普通だなんて。
行ってみたくなったなあ、ヤポンに」
「あはは、それはどうも。是非」
ミハル達は料理を囲んで笑い合った。
「ねえ、みんな。明日の朝、古城の基地へ戻るわよ」
食事中の皆に、リーンが告げる。
「えっ!?帰るのですか。作戦は?」
「まだ、中止命令も出ていないのに・・・どうして?」
ラミルもキャミーも突然の事でビックリしている。
「どうも、私達はこの作戦には必要ないみたいね。
師団長命令でね、私達は何処の部隊にも属さない。
正に独立部隊って事らしいわ・・・ね」
リーンはそっけなく言って、
「まあ、それだけの戦果を挙げたって事」
そう言って銀色に輝く、魔鋼騎士勲章をみんなに見せた。
「うおっ!本物の騎士章なんて始めて見た」
キャミーが驚いて、リーンに近付く。
ラミルは食器を片手に、
「やはり、陸戦騎乗りとなって、車長が騎士章を持つのは誇りですなあ」
うんうん頷きながら、胸を張った。
ミリアはリーンの騎士章を見ながら、ミハルを見て、
「良かったですね、ミハル先輩。
これで名実共にマチハは魔鋼騎、我々もまた魔鋼騎乗りって名乗れますものね。 先輩も貰ってもおかしくないですけど・・・ちょっと残念です」
ミリアの言葉に、ミハルはリーンを見た。
「ふふっ、ほんとよね。ミリア」
リーン少尉は悪戯っぽく、ミハルを見る。
<勲章、着けてなくて良かった・・・って事かな・・・>
ミハルは料理を作る前に、勲章を自分の用具袋に締まって置いたのを思い出してリーン少尉の顔を見る。
そんなミハルにリーンは微笑んで、
「戦果はミハルが挙げたのにね。ミハルにも貰えるといいのにね」
リーン少尉はニヤニヤ笑いながらみんなに素知らぬ顔で言った。
「ほんと、ミハル先輩だって能力を持っているのに」
ミリアがそう言うのをキャミーが呟く。
「あたし達は兵だからな。下士官だったとしたら、貰えたのかもしれないな」
キャミーが階級のことで文句を言った。
「確かに一兵卒が貰った前例はないからなあ」
ラミルがキャミーの言葉を引き継ぎ、諦め顔で言った。
「そっか。みんなミハルも貰えたらいいと、思ってるんだね」
リーン少尉が、皆に念を押す。
「そりゃあ、ミハルがあんなに闘ってくれたから、こうして飯を食えるし、無事でいられるんですから」
キャミーさえ、ミハルの奮闘を認めてくれている。
「一両に2人の魔鋼騎士が乗っているって。
前例は無いにせよ、私達には誇りですから」
ラミルも、ミハルが魔鋼騎士になれることを願った。
「ミハル先輩が一等兵だからって、7両撃破の砲手にエースの称号を与えないなんて、我軍のお偉方は、頭カチカチみたいですね」
<そうでもないわよ。少なくても、ここの師団長閣下は・・・>
ミハルは、そんな3人に微笑んで、
「でも私はそんな勲章より、みんながそう思ってくれている事のほうが嬉しいから。ありがとう、みんな。」
そう言うミハルに、リーンが笑いながら、
「そうよね、ミハル。それがあなたの本当の勲章だよね。
私もそっちの勲章が欲しいな。
私も貴女に負けない位頑張って、みんなに誇りに思って貰える車長になるからね」
リーン少尉が親指を立てて皆に宣言すると、
「車長だって良い指揮してくれたじゃないですか。ミハルに負けてませんよ」
「そうそう。だからこうしてミハルの料理食べられているんだから」
「そうですよ。私、装填手になれた事、今一番の誇りなんですから。
皆さんと一緒に闘える事が誇りなんですから」
ラミルとキャミー、そしてミリアが口々にリーンの指揮を認めている事を伝える。
「うん。ありがとうみんな。
私も、もっと頑張って皇国一の車長って呼ばれるようになるから」
「ほう、そうだったら、あたしは皇国一の無線手」
「私も、皇国一のドライバーだな」
「私も、皇国一装填の早い装填手ですね」
ミリアが先走って言ったのを、揚げ足を取ってキャミーが、
「皇国一とちり早い、装填手な!」
「うっ、キャミーさん。酷いですぅ」
ミリアが涙目で訴える。
「あははっ、すまんすまん」
キャミーが笑って誤魔化すと、皆が笑った。
「さて、明日からまた私達の新しい闘いが始まるわよ。
皆で強くなって、勝ち残りましょう。生きる為に!」
リーンが立ち上がり、手を突き出す。
「はい!どんな所へも連れて行ってください。
道無き道だとしても操縦してみせます」
ラミルがその手に自分の手を合わす。
「敵の無線だろうと、どんな暗号だって聞き逃しません。任せて下さい」
キャミーも、その手に合わせて、ミリアを見る。
「装填も、車内の修理だって、こなしてみせますから。私も一緒に闘います」
ミリアがキャミーの手に続く。
そして、
「敵が如何なる強敵だとしても、必ず護ってみせますから。
必ず倒してみせますから。
みんなと一緒に生き続ける為に!」
ミハルの手が4人と重なる。
5人は伸ばした手を、天に向け掲げて誓う。
「私達の未来を護る為に。私達が目指す未来の為に!」
リーンの言葉に4人が口を揃えて応える。
「
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