第95話 埋草記事

 やあ、おいらです。


 前回の途中で、おいらが「最終回までの残りの話は埋め草です」なんて発言をしたら、ストックの記事たちがざわついてしまって、「ペコリさん。そうだったら、僕たちのこと、今は書かないでください。そして、新作に書いてください」と嘆願書を持ってきました。


 イヤなこった。


 おいらは、夢破れたとはいえ、総裁さま……逃げちゃったけれどさ、彼に、「世界征服」を託されたクマですよ。自分の思い通りにやります。忖度はしません。ドンチャックも観ない。あれ? 観ていたかな? 古いことだよ。忘れちゃった。『ガンバの大冒険』は絵柄が嫌いで観ていなかった。それは確実。


 この前、書き損なった、床屋の話をしましょう。おいらがね、覚えている一番古い記憶は、床屋さんの椅子に座って、散髪されているシーンなんです。それが、暗闇。本当の漆黒から、急に明るい場所が現れて、おいらその時「また始まるのか?」みたいな思いを心に描いたのをはっきりと覚えています。はっきりしすぎているので、夢か、後から作られたウソの記憶かもしれません。なぜか、床屋さんにおいらの家族が全員いて、おいらが散髪し終わったら、実父のふるさと、新潟は柿崎に行くようでした。なんかできすぎてるんですよね。のちの想像なのかな?


 でもね、おいらは記憶ができるようになったの、とても早かったみたいで、ウチの借家。もともと二階は一部屋で、その横は大きな物干し場だったのですが、家主の親戚さん。通称、隣のおじさん。現在、九十うん才。まだ元気。その人が、ウチのために物干し場を潰して、部屋を増築してくれたのです。おいらはそのことを逐一覚えているのですが、実母にそれを話したら「あんたが、そんなこと覚えているはずはない」とたいそう、驚いていました。生来、古いことは覚えています。それを口にするたび、話し相手が驚きます。だから、あまり話さないようにしています。いやー、でも最近のことはすぐ忘れます。本なんか、読んでる先からどんどん忘れちゃってさ、「あなたは誰?」と絶対に答えてくれない登場人物に聞いたりします。認知症かな?


 で、床屋さん。初見の記憶に出てきた床屋さんとは長い付き合いでした。腕のいい、とってもいい人。でも、引越しでいなくなってしまいました。次にきたのが、太ってて、鼻息は荒いわ、腕は悪いわで、神経質なおいらの気分を逆なでしました。おいらが床屋に行くのイヤなのはこの人が原因かも。でもこのデブ、場所を代えはしましたけれど、生き残っているみたいです。最近、菊名に行っていないので不確実な情報ですけど。


 そう言うわけで、しばらくは床屋難民していたのですが、近所の踏切の向こうに新しい床屋があると言う情報を得たので、行ってみました。そしたら、明らかにヤンキーなお兄さんがやってる店で、とても怖かったんです。でも、話好きで、好感の持てる人でした。若い嫁さんもいました。そして腕が良い。ここに決めた!


 でね、随分と通ったんですけど、ある日、ここをたたむと言うんです。「えーっ」ショックなおいら。そうしたら、「ここは借りていた店なんだけど、今度は自前の店を持つんだ。菊名駅西口商店街の中。近いから、よかったらきてください」と言う。ふー、焦ったぜ。危うくまた難民になるところだったよ。


 新しい店に行きだした頃から、おいらの髪の毛を着るのは、ヤンキー兄さんではなくて、若い嫁さんの方になりました。彼女、以前は持っていなかった理容師免許をとったようです。

 でね、嫁さんはおいらの好みではなかったけれど、まあまあ、美人の部類に入ったんじゃないかな? 散髪してると、彼女の、おっぱいがおいらに当たったりするの。ドキドキしたわ。チェリーボーイには刺激が強いよ。その一方で、ヤンキー兄さんは、おいらのことをなんとなく、避けているような気がしました。たぶんなんですが、彼って、元ヤンなのに、おしゃべりがすごく好きなの。でも、おいらは緊張しているから、全く喋らない。その辺の阿吽の呼吸が合わないんだよね。だから、嫁さんが、妊娠したりして店にいないときはおいらの散髪を兄さんがやってくれたんですけど、長い沈黙が続くの。我慢していたんじゃないかな? 喋りたくて、ウズウズってね。でも決して悪い人ではないんですよ。道であって、挨拶をすれば、笑顔で返してくれたもの。


 そうしたら、実父が、公団の抽選に当たってしまい、我が一家は旭区の若葉台団地に引越しになってしまいました。バスに乗らなくては街や、電車の駅に出られない、僻地です。今までが便利だったからねえ。ちょっと辛い。

 でも、巨大な団地だから、商店街はあるし、イトーヨーカ堂もある。なんと、バカ書店まである。坪数ちっちゃいけど。そして、その店さあ、おいらの心をくすぐるのよ。浦沢直樹の『マスターキートン』全巻平台とかね。思わず少し買って読んでたら、実母まで読みだして、ハマったんだろうね。自分で残りの全巻買っちゃってんの。おいらが買えば社割が効いたのに。そういうとこ、金銭感覚がお嬢様な人でした。さらに、『マスターキートン』を読み終わった頃に『Monster』のフェアだよ。買うよねえ。でも、全巻買ったんですけど、完結していなかった! 待つのって辛いわ。若葉台の店のマジックに引っかかったおいらは浦沢直樹の漫画を買うようになるのです。でも『ヤワラ』は無視したよ。結局さあ、長崎尚志さんがついてからの浦沢作品が面白いんですよね。でも、結局はバカ書店は撤退して、福家書店が居抜きで入りました。でも、福家書店ってアイドルの写真集がウリですよね。住民の高齢者問題が浮上している若葉台に福家書店はどうなの? まだあるのかなあ?


 床屋に戻って。当然、若葉台にも床屋があったんだけど、そこには入る気がしませんでした。結局、バスで十日市場駅(今住んでいるところ!)に出て、横浜線で、菊名に出て、いつもの、あの店で散髪していました。でも、腕がいいからさあ、客が結構来るのさ。おいらは予約制になったらどうしようと不安になりました。おいら電話ができないじゃないですか。まあ、結局最後まで押しかけましたけどね。


 終末は突然にやってきたのです。流石のおいらも「バス電車乗り継いで散髪に行くってバカじゃないの?」そう、実母のことを笑えない、おいらはおぼっちゃまでした。貧乏だけど。だからと言って、商店街の床屋には行きたくない。おいらのだした結論は、「自分で切る」でした。うまくいくわけないって? ノンノン、それが上手にできたのよ。誰もが、自分で切ったと言っても信じなかったよ。普通のハサミで、チョッキンしただけなのに。あとは掃除機で、頭をかき回して、細かい毛をとるだけ。おいらさあ、軽い天然パーマなの。だからちょっとくらい変な切り方してもわからないのです。ラーメン大好き小池さんみたいなチリチリだったら、ちょっと難しかったよね。


 だいぶ、長いこと自分で髪を切っていました。床屋に行ったのは結婚式の前日だけ。だって、女性陣が「絶対、自分で切るな!」ってうるさいんだもん。

 床屋にまた行きだしたのは、キチガイになってからですね。職場近くに『QBハウス』ができたんで、勇気をだして入りました。最終的に、五厘刈りにして、家に帰ってから、電気シェーバーで、残りの毛をそり、スキンヘッドにしました。妙に似合っていたらしいです。


 最後におまけ。

 今日は精神科だったんですよ。いつものふかふかソファーに座って、ぼーっと待っていたの。おいら、病院とかでは読書できないたちなのね。テレビがついていたんですけど、いつものNHKではなくて、どうもBSかCSのよう。おいらはテレビが観られない位置にいたんですが、声は聞こえる。そしたら、受付カウンターから古賀先生が現れたの。その瞬間、サントリーのオメガなんとかのCMが流れて、古賀先生が出演してたみたいなの。先生、絶対に気が付いてたと思うけど、知らん顔してました。吹き出しそうになったよ。先生さあ、予告で見たけど、またTVに出るみたい。これは地上波。おいらの主治医は医療タレントだね。

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