第93話 一休宗純
やあ、おいらです。
もう終わりまで駆け足で行くことに決めました。ギャロップ、ギャロップ! 『週刊ギャロップ』はキヨスクなどの駅売店でお求めください。一般の書店では販売しておりません。でもごく一部の書店にはおいてあるのよねえ。ややこしいわ。えっ、スケキヨ? あんたは白いマスクでもかぶってな! できたら窒息するがいい。
とにかく、おいらは書きます! たと〜え〜読者がいなくても〜。書かずにおれぬ時もある〜♬ あれ? いつもの音符記号でないよ。まあ、いいか。最前の曲の一節は昔『ムー一族』の中で、みなみらんぼうがさ、居酒屋で横に女性をはべらせて歌っていたやつのメロディーを脳内再生させてください。うん? ボクちゃんどうしたの? 浮かない顔してさ。この店、初めてよね? そんなに緊張しなくてもいいのよ。おいらが一人でやっている店だからね。あら、まさか未成年? ダメよ。未成年と車の運転している人にはお酒を提供できないし、強く、お断りするのが、この店のポリシー。いいえ、チェルシーではないの。チェルシーなら「あなたにあげたい」ってなっちゃうでしょ。ああ、そう。ハタチ超えてるの。おいら、安心。で、何に悩んでるの? うんうん『ムー一族』がわからないのね。わかったわ。あなたスマホかタブレットを持っているわよね。当然ね。それで、検索しなさいな。うちの店のもう一つのポリシーは「わからないことは自分で調べる」ですからね。今夜は初夜だからいいけど、今後は「ボーッと生きてんじゃないよ!」ってリアルなチコちゃんを見せてあげるわ。何? ママおいくつですかって? レディーに年齢きくなんて失礼よ。でも、あなた、バーチーに似ているから教えてあげるわ。おいら永遠の五才。NHKに寄りすぎ? そうね。でもおいら、あちらさんとは利益供与の関係にあるから。へー、あなたもNHKと関係があるの。あなた、お名前は? 瀬戸康史さん。ああ、『まんぷく』に出てる俳優さんね。ごめんね、『まんぷく』観ていないのよ。諸般の理由でね。でもだからか、最初にね、あなたがエバラの『プチっと鍋』のCM出てた時、バーチーに似てると思ったの。というかバーチーだと思い込んでたわけ。だって、正直、バーチーの顔、はっきりと記憶してたわけじゃないからさ。曖昧まい、恋じゃないってなんかちがうけど。今じゃ瀬戸くんの方をしっかり認識してるわ。公共放送の力ってすごいね。
バーチーで思い出したけど、年が開けたら、『ヤマザキのランチパック』から剛力彩芽が消えたわよね。代わりはバーチーよ。やっぱりさあ、ZOZOタウンはダメよねえ。人気商売ではさあ。宇宙には行けるかもしれないけど、芸能界の頂点にはもう行けないわね。うふふ、ざまあみろって感じ。どんだけ〜! あらいやだ、勘違いしないでね。おいらは純粋な乙女よ。期間限定ですけど。ところで、瀬戸ちゃん、この店に何しに来たのよ。えっ、水沢舞子? ごめんね。舞子は基本、ここにはいないわ。平日はおいら一人。土日祝日はかっぱが一匹ヘルプで来るけど。舞子が来るのは、特別なパーティーとかで本物の美人さんが必要なときだけなの。ええ? ママも綺麗ですよだって! 何か飲む? それとも食事する? もちろん、おごり。「安心してください。入ってますよ。お風呂に」いつでもオッケー。
それにしてもさあ、中邑菫ちゃんってすごいよね。藤井聡太七段より天才かもよ。九才であの国民栄誉賞の父っつあん坊やと引き分けちゃうんですもの。井田さん? 天気予報やってたお姉さんのこと? ああ、父っつあん坊やね。彼はあんまり興味ないわ。それより菫ちゃん、天才だし、かわいいわ。『崖の下のポニョ』を歌ってた子よねえ? あれ、違うの? だから藤巻取り巻きがいなかったのね。なんか違うって? わかってるわよ。調べるのがねえ、この歳になると難しいというか億劫。えっ、五才でしょって? そうよ。でもあくまでクマとしての五歳ですから〜残念。うん、自分で調べてね。
ああ、その質問するんだ。タイトルの一休宗純ね。あなたの幼少期にはもう、テレ朝でアニメの『一休さん』はやっていなかったわよねえ。そうよね。最近、DocomoのCMであのテーマ曲流れるけれど、鳥肌が立つわ。違います。感動しているのではなくて、おいらはあの番組が大っ嫌いだったの。もうさあ、いかにも大人が子供に観せたがるアニメじゃない? 毒がないっていうのかなあ? あんなの観ていたら、ロクでもない子になるわ。観ていないおいらもロクでもないって? 残念、しばらくは観ちゃっていたのよ。悔しいわ。なんだかさあ、たくさんのインチキくさい団体から推薦されていたじゃない? あれからして、いやらしい大人の世界を覗いている感じ。ちょっと熱発したかも。
でさあ、後年になっておいらも知って、喝采をあげたんだけど、一休宗純って、あんな素直で活発な子供でもなんでもなかったみたいね。頭はよかったんでしょうけど、屈折して偏屈な人生を送った人なわけ。天皇家の血筋を継ぎながら、当時はいわゆる南北朝の時代でしょ。複雑な政治問題に彼も振り回されてね、結局僧侶になるしか生き残る道はなかったのよ。職業選択の自由あははん、なんて言えなかったというか歌ってもいられないの。そんな子がさあ、素直な性格になるわけないよね。今なら、ヤンチャして少年院に入って、出所して十代で結婚して、子供できちゃって、生活のために心を入れ替えて働いて、気がついたらまともな大人になっていたってのが一番いい話でしょ。一休は不良にもなれないんだから鬱屈するわね。
でさあ、結局半分壊れちゃったのかはよくわからないけれど、髑髏の細工を施した杖をついて、京都なんかを徘徊していたらしいわ。破戒僧ね。詳しいエピソードはあとで調べてね。
おいらがすごい衝撃を受けたのはさあ、歳をとってから、盲目の美女、森女、または森侍者というのと懇ろになって、その性生活を赤裸々な詩にして発表していること。さすがのおいらでも、ここには書けない卑猥な言葉を詠んじゃっているの。おいらはアレは漢字でこう書くんだあと、正直にいうと、とても勉強になりました。例の視聴率が当時の歴代最低大河ドラマ『花の乱』で一休を奥田瑛二さんが演じていたんですけど、彼がいくらヒゲ生やして、汚い僧衣を着ても本物のエグさには叶わなかったねえ。奥田さん、安藤サクラのお父さんじゃないの? 挨拶はした? まあ、いいわ。でさ、森女は年末に出る、ストーリーブックでは島田陽子だったんだけど、かつての世界的美女もさあ、私生活にトラブルが多くて、降板しちゃったの。でね、実際は壇ふみが演じたんだけど、彼女ってどちらかといえば、健康的美女じゃない? 似合わなかった。でも、おいら『花の乱』好きなのよ。三田佳子はどうでもいいけど、市川團十郎、萬屋錦之介、細川萬斎。それに若き日の松たか子と市川海老蔵(市川新之助)がちょこっと出ていて、松さん、むちゃくちゃかわいいのよ。ずっと出てくれればよかったのにな。で、おいらは前編のDVDは持っているんだけど、後編がないの。瀬戸くん、買ってよ〜。ああそう、ダメ。じゃあ、お会計ね。百万円よ。そう、ここはぼったくりバーだからね。じゃあ、金払って、とっとと帰んな。裏にはタートルキングがいるよ。
はい、ありがとね。
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