第91話 悲劇喜劇 

 やあ、おいらです。


 おいら、できれば、今回の駄文は百話以降も続けたいなと思っていたのですが、いろいろな問題があって、どうもムリみたいなようです。格好をつけた物言いをすれば、諸般の事情で終了いたしますというところでしょうか? ええ、記者の皆さんのご質問にお答えします。まずは、夕日新聞さん。うん、終了の具体的理由ね……次の質問をどうぞ。はい、毎々新聞さん。なぜ、最前の質問に答えないかですか……次の質問をどうぞ。闇雲新聞さんね。そう、国民に対して無責任な態度ではないかですか……次の質問をどうぞ、と言いたいところですが、おいらは河野太郎ではないので、ここですぐに、無礼な態度を反省するとともに、はっきりとお答えしますよ。ええ、あなた方の質問には申し訳ございませんが、現時点では具体的にお答えできません。スマンな、皆の衆。では、失礼。


 ふー、どうも最近、産後の肥立ちが悪いのです。通いの産婆さんも「うーん、ぺこりさん。あんたには言いづらいことだけど、もう長く持たないかも知れんよ。うなぎの肝やら馬肉やら、セサミンアンドコンドロイチンとか、にんにく卵黄とかさあ、精のつくものをたんと食べないと、本当に死んでしまうよ。それだというのにペコリさんったら、おかゆさんにも口をつけてないじゃないか。それじゃあ、お乳も出なくて、産まれたばかりの赤子まで死んでしまうよ」

 おいらは答えました。赤子のことは上野恩賜公園動物園から、特別チームの飼育員さんが二十四時間体制で診てくれるということ。栄養たっぷりの特別なミルクを飼育員さんが持ってきてくれているので問題ないということ。おいらはいつ、死んでも構わないということ。

 それを聞くと通いのお産婆さんは目に涙を浮かべ、言いました。「でも、でもねえ。赤子には母乳を与えないと、将来丈夫な子に育たないよ」

 おいらは返答します。仕方ないよ。虚弱なおいらから産まれちゃったのが、赤子の不運。おいらだって、母乳をもらってないしさ。それでも一応、ここまで生きたからね。まあ、トラブルは尽きなかったけれど。ははは。本来なら、ちっちゃいうちに死んじゃうはずだったおいらが、当時の医術で生きながらえたんですよ。赤子は飼育員の皆さんや、京大の山中教授のiPS細胞とやらでなんとかなるんじゃないですかね。お産婆の姐さん、ごめんなさい。おいらちょっと疲れたよ。なんだかとっても眠いんだ。できることなら、ルーベンスのあの絵を見たかったけどねえ。パスポートがないからムリですね。あれ? 死んだはずの元妻の飼いねこ、チビとアビがきているよ。チビはおいらに懐いていたけれど、おいらのことを怖がって、逃げ回っていたアビまでがきてくれるとはありがたいねえ。

「ちょっと、ぺこりさん。ぺこりさん! ああ、看守の先生、来てください。ぺこりさんがたいへんですよ!」


 何か問題でも?


 えっ、ぺこりはオスだろうって? まあ、そうですよ。でもね、ここまで、みなさんには内緒にしていましたが、おいらことぺこりはオスですがメスなんです。そうでしょう。よくわからないですよね。お気持ち、理解します。ああ、勘違いしないでください。おいらはいわゆる、女装家でも、LGBTでもありません。こう言えばわかりますかねえ。雌雄同体なのです。


 でもね、本来はそういうことにはならなかったはずなんです。全ては予期できぬ奇禍が原因なのです。愛する夫、鹿児島名物しろくまと悦びの時を過ごした、我が母のエゾヒグマは(あくまで、キャラクターの方のペコリのことですよ。作者ぺこりの両親はヒトです!)北海道の道東、知床半島の名山、羅臼岳に戻って来ました。鹿児島から、知床。野生のエゾヒグマがどうやって戻ってこれたかは謎です。当時は九州新幹線も北海道新幹線もないのですから。 飛行機ですかね? わかりません。その時、母のお腹にはおいらと、双子の妹がいました。そこに、とても悪いハンターが現れました。ハンターにはハンターの掟というものがありまして、子供を身籠っている動物は撃たないという決まりがあるのです。しかし、そのハンターは母を撃ちました。それも運悪く、急所に当たり、間も無く、母は死にました。その際、母は大自然たる神にお願いをしました。「お腹の子供だけはお助けください」とね。

 すると、突然、東の空から巨大な彗星が現れ、辺りを強烈な光で包み込みました。悪いハンターの姿はその光で跡形もなく溶けてなくなってしまいました。母のお腹の中にいる、おいらと妹は、光の中から、姿なき声を聞きました。

「子供らよ。私は総裁だ。お前たちの母の声を聞き、ここへ来た。お前たちを助けようと思う。だがな、お前たちの細胞は母の死により血液などが遮断され、壊死しておる。だから、完全に二匹を助けることはできない。ただし、二匹を一つの物体にすることは可能だ。もともと、お前たちは双子。気心もしれていよう。一つの体を共有しても、うまくやっていけるだろう」

 光の光度が急速に上がり、おいらと妹は気を失いました。


 どれくらい、時が経ったかはわかりません。おいらたち、いや、おいらと妹の共同体はネイチャーガイドのお兄さんに助けられました。そして、驚くことに、おいらたちはヒトの言葉を解し、喋ることも、文字を書くことも、勉強すらできたのです。おいらは学校というものに入りました。しかし、心も体も未熟で、不安定だったおいらは一年ごとに、オスとメスへの変態を繰り返してしまい、その度に学校を抜け出し、違う土地の学校への転校を繰り返していたのです。諸手続きは総裁と名乗った光が、その配下の者を使ってやってくれました。おいらが、自由に思い通り、オス、メスへの変態をできるようになったのはハーバード大学の大学院博士過程をトップ成績で卒業した頃でした。


 さて、これからどう生きるべきかとおいらおよび妹の意識が考えていた時、再び、身の回りが強烈な光に包まれました。そう、あの日以来、二度目の総裁との邂逅です。

「ぺこり、よくぞ優秀なクマに育った」

 総裁は言いました。

「今後は、余の元で全力で働くのだ」

 もちろん、大恩ある総裁さんです。おいらと妹の意識は頷きました。でも、その仕事内容はなんでしょう? 完全週休二日制? 給与体系は? 残業代は支払われる? 福利厚生は? 住宅手当その他は?

「あのね、ぺこりさあ。普通のサラリーマンになりたいの?」

 なぜか、総裁は渋い声を出しました。

 では、どんな仕事なのですか? 総裁さま。

「うぬ。望みは高く、世界征服だ。そのためにはどんな悪業でもするのだ。ぺこり、お主はその優秀な頭脳を用い、我が組織のリーダーとなり、悪逆の限りを尽くすのだ!」

 うーん、大恩ある、総裁さまのご命令なんで、喜んでお引き受けしますが、そういう組織が台頭してくると、なんか、現政権側で、正義の味方みたいなチームとか個人が出て来ますよねえ。なんかやたら強い奴らが。おいら、腕力には自身ないんですけど。

「ぺこりくん。お主はテレビの観すぎみたいだなあ。いまの世界なんて、みんな核兵器とかで牽制し合うことに、熱中しちゃって、我々のようなイレギュラーの組織が存在すること自体に気がついてないのよ」

 へえ、さすが総裁。では喜んでお引き受けします。

「よし、いい子だ。ではニックネームを与えよう。ベルク・カッツェはどう?」

 えー、かっこわる。山猫って意味にしたいんでしょうけど、文法的というか単語的に全然、違いますよ。おいらはぺこり。よろしくま・ぺこりのままでいいです。

「ああそう。文法違うの……お主、余より賢くなっちゃった?」

 さあ、どうでしょうね。まあ、とにかく、ホワイトハウスとクレムリンでも破壊しましょう。あとは、おいおい考えますね。おいらと妹でね。

「う、うぬ。あまり無理をしないようにな……では」

 

 そういうわけで、おいらは世界規模のテロリズムをおこなったわけです。もうちょっとで、世界征服ができたんですけどね。結局、組織を大きくしすぎたせいで、どうもできの悪いメンバーが入って来てしまい、ほんと、些細な馬鹿野郎の判断ミスで、日本のおまわりさんに捕まっちゃったんです。総裁ときたら、計画の挫折を知ると、とっとと宇宙に逃げちゃうしね。だから、全責任をおいらが取らされることになったの。でも、悪逆非道の一方で、主に、妹の意識がおこなったんですけど、大掛かりな、難民救済とか、ボランティア活動もしたんですよ。まあ、主に、我が組織の宣伝活動なんですけどね。それを恩に感じた、世界中の有志が、おいらの助命を嘆願したり、再審を請求したわけです。日本の政府も、十億を超える、署名なんてみたことないから、おいらを簡単に処刑できず、結局、国連に責任を丸投げしたんですが、ちっとも答えが出ないみたい。


 こういう、理由でご納得いただけますか? 前の、書籍殺しなどという、しみったれた理由より面白くないですか? そうでもない? ああ、そうですか……

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