第83話 天地無用

 あっ、皆さまお疲れ様です。わたくし、こちら、カクヨム内でいつも好き勝手な事を喋って、世間の方々に、若干のご迷惑と多大なる不快感を与えてしまっている、よろしくま・ぺこりの一の家来にして、マネジメントやその他の介助を生業としております、F .かっぱと申す、妖怪と人間のハーフでございます。前回の文中に少しだけ登場させていただきました。覚えていていただけたでしょうか? いえいえ、もちろん、忘れていても問題はございません。ただ、一言申し添えますならば、実はこの、カクヨム様にキャラクターの方のぺこりではなくて、作者の方のぺこり、ちょっと物言いが難しいですか? 簡単に例えると、小説家、法月綸太郎先生の作品に登場する、名探偵、法月綸太郎。坂木司先生の『ひきこもり探偵シリーズ』に登場する、坂木司という盲目の青年。もっといえば、有栖川有栖先生の著作に登場する、「学生アリス」と「作家アリス」という同一人物なのか、他人なのか不明な有栖川有栖という人物。そういう程の作者の方であるよろしくま・ぺこりの駄文の初期の方に、わたくしはちょこちょこ、出演させていただいておったのですが、最近はほとんどお声が、いえ、ゴールデンイーグルスのオコエ選手とは関係ないです。彼とは“ハーフ芸人の会”で二、三回酒を酌み交わした程度で……失礼しました。余計なことでした。とにかく、お声が掛からないので、今の動物プロダクションにマネージャー幹部候補生として入社いたしました。そしたら、キャラクターの方のぺこりが「おいら、フリーでやっていくのに限界を感じた。そのプロダクションの社長さん、紹介してくれよ」と泣きついてきましたので、やむなく、引き合わせました。すると、ぺこりって“人たらし”の才能があるのですね。すんなり、所属タレントになってしまい、旧知の中だということで、わたくしが彼のマネジメントを担当することになってしまいました。本当のことを言えば、ぺこりとは一切の縁を切りたかったのですが、因果応報というか前世からの宿縁というのか、結局は離れられない間柄のようです。もしかしたら、心理学でいうところの“共依存”というやつかもしれませんね。うん? 精神医学の方ですかね。


 まあ、年末のNHKさまが持てる力を出し切ってご用意された超大型歌番組をウチのぺこりが台無しにしてしまい、「平成最大の放送事故」とか「まさに災害の年にふさわしいクレイジーぶり」あるいは「あんな、凶悪なクマを猟友会の方々、いや環境省や、国土交通省はなぜ、放置していたんだ!」という国民のお怒りがSNSに拡散されまして、まさにぺこりは強制的に冬眠を命じられ、わたくしも心の内で「冬眠ではなく、永眠してください」と祈ってしまいました。

 ところが、当のぺこりときたら、一応、独居房に閉じこもって反省の意思を内外に伝えているように見えましたが、実際のところは、持病というか宿痾というか因業の病である、躁うつ病の躁状態が悪化してしまったようで、房内でYouTubeを閲覧しながら、米津玄師さんの『Lemon』を熱唱したり(ぺこりのせいで、徳島からの米津さんの生歌がおじゃんになってしまったというのに……)、突然、「カルロスを呼べ! カルロスに会いたい。じっくり話したい」とか口走ったらしく、看守の先生が「カルロスっていうのはゴーン容疑者(または被告)のことか? 444号。それならば、彼は東京拘置所にいるから会うことはできない。それに、ゴーン容疑者が仮に有罪となっても、死刑には絶対ならないから、この監獄には来ないよ」と諭されたそうなんですが、ぺこりのやつ、急に怒り出して「ゴーンって誰よ? 除夜の鐘か? うるさくって眠れなかった。ご近所トラブルだっちゅうの。おいらの会いたいのは、トシキ!」と叫んだそうです。ここで、看守の先生、ちょっと考え込み、「トシキ……カルロス……えっ、まさか、オメガトライブのカルロス・トシキのことか!」看守の先生はどうもぺこりと同世代のようです。でなきゃ、この発想は出てきませんよね。すると、ぺこり「君は1000%🎶」と歌い出して止まらなかったそうです。わたくしの記憶が正しければ、若い頃のぺこりは「おいらが好きなのは、杉山清貴&オメガトライブであってカルロス・トシキのオメガトライブは偽物なんだ! こんな悲惨な事態になっちゃったのは全て『二人の夏物語』が売れすぎちゃって、メンバーが、何か勘違いしちゃったからなんだよ。ギャランティーでメンバーが揉めちゃって『オメーがトラブルなんだよ!』って喧嘩していたと、秋元康さんが毎日新聞の日曜版に書いていたよ。ついでに言っちゃうとさ、本来、オメガトライブの作詞は主に康珍化さんがメインで、メロディーは林哲二さん。この二人のミックスがよかったんだけど、時々、秋元さんも作詞していたんだ。あとは稲垣潤一さんの歌なんかも作詞していたのかな。だから、おいら的には、秋元さんって二番手っていう感じだったんだけど、秋元さんさ、とんねるずについたことで、道が開けちゃったよね。おにゃんこクラブを経由して、今じゃあ、AKBだのKGBだの(違うか!)乃木坂、欅坂、ひらがなけやきだっけ? 権太坂は……違うね。わかるわかる。押しも押されぬ大プロデューサーだよ。羨ましい。それはともかく、もともとオメガトライブは『ザ・ベストテン』十位圏内に入るか、入らないかの瀬戸際バンドだったんだ。でも、それが彼らにとっては一番幸せなことだったのさ。おいらがシングルで一番好きな『Riverside Hotel』なんて結局十位以内に一回も入らなかったしね。ああ余談だけど、おいらのもっとも好きな曲は最後のアルバムのオーラス『First Finale』。あの曲を聞くと無慈悲なおいらの涙腺が開いちまうんだ。なんか、おいらの青春も終わりだなあって気がしてさ。えっ? ああ、たぶん、おいら高校生だったかな? 青春終わるにはまだ早いって? バカ言っちゃいけねえ。だいたいおいらは病弱だったから、本当は中学ぐらいで死んでたはずなんだ。それが、現代医学の進歩が過ぎて、生き残っちまった。まさに、生き恥を晒しているってこと。だから高校時代なんか、余生だよ」とか言っていました。

 それが今では牢内で、「今の杉山清貴はさ、ハワイで遊びまくって、金が減ってくると日本にきて、コンサートやって小遣い稼いでまたワイハだろ。気に入らねえ。それに比べて、カルロスは故郷のブラジルで堅実に稼いでるんだろ。慎ましいや。清貴よりカルロスの方が日本人の魂持ってるよ」と看守の先生に、いつまでも喋りかけてくるそうで、先生も、いい加減に嫌になってしまって、出入り自由な独居房の扉にロックを掛けて、出入り不自由にしてしまったそうです。ところが、ぺこりはそのことに気がつかず、桑田佳祐さんの真似をして『一人紅白』をやり出したそうです。しかし、ぺこりはあんまり、女性シンガーのレパートリーがなくて、特別枠ばっかりつくちゃって、最終的にはミスチルの曲ばっかり、しかも『HANABI』のリフレイン。でも、桜井さんの音域って高いじゃないですか。ぺこりの高音って、ある種の殺人超音波みたいらしく、監獄に住み着いていた、ドブネズミや、ゴキブリたちがびっくりしてみんな逃げ出し、築地の場外市場とか豊洲方面に逃げて行ったそうです。日本の食卓が危険に晒されてしまいます。またしてもぺこりは国民にご迷惑をかけてしまったのです。申し訳ございません。


 わたくしはわたくしなりに、この状況を打開するべく、努力をしようと思いまして、いろいろと策を練りました。まずはとにかく、 NHKさまに謝罪をしなくては、ならないのですが、先様のお怒りはとても激しい上に、総務省から、新年早々、たいそう手厳しい、叱責があったようで、わたくしのような一介のマネージャーごときでは謝罪になりません。下手をすれば、頭のお皿を修復不能なほどに割られてしまいかねません。本来であれば、当社の社長が自ら“虎屋の羊羹”を千竿くらい持参して、謝罪しなくてはならないと思います。ただ、先様がパワハラや、傷害の疑いで警視庁の渋谷警察署に立ち入られてはいけないので、土下座はできません。せいぜい深々と頭を下げるくらいしか方法はないのですが、なんと間が悪いことに、社長は「わしなあ、この新年で、愛するワイフと結婚六十年なんや。六十年やで。陛下と美智子さまとだいたい同じや。要するにのう、わしは動物プロダクション界のエンペラーや。だからな、この年末年始、六十年ぶりに長い休みとるで。ちょっとカタギの衆が行けんようなとこ。入国も困難なカントリーにやな、いくつか潜入しちょるつもりや。大丈夫、心配せんでもいい。ちゃんと、先方には話しつけとるし、ボディーガードに若貴兄弟つける手はずや。言い方間違えたな。花田虎上氏と元一代年寄、貴乃花光司氏や。なんや聞いた話やと、優一くんやら、元貴ノ岩に元日馬富士、河野景子元夫人に、再婚の新婚、花田美恵子さんもくるっちゅう話や。コーディネーターさんのな。確か、HIVとかゆう代理店や。旅行代理店の他に傭兵募集もしとるとかゆうてたなあ。けったいな会社だわ。それより、けったいなのは花田家の皆さんの人間関係やけどな。そうそう、藤田憲子はんは兄弟両方に嫌われていてこんらしい。わしは本当は曙はんに同行して欲しかったんやがのう。重いご病気で入院しとるらしいわ。心配やな。じゃあ、かっぱよ、あんたが当分、わしの名代や。面倒なこと起こすなよ。水かき切断するからな。しかも、高枝切り鋏でや。じゃあのう。ちゃお!」まあ、そういうわけで、社長を呼び寄せるのはほぼ、不可能なのであります。わたくし、恥ずかしながら、かっぱなのに泳ぎが不得手なのです。その上、水かきを切られてしまったら、水辺に近寄ることもできません。それではお皿が乾燥してしまいます。今の時期、それでなくてもお皿のケアが大事です。とりあえず、ニベアを塗っていますが、使い方に問題とかあるでしょうか? キュレルの方が良いのでしょうか?


 ああそうそう、ぺこりの話でしたね。とりあえず、わたくしは法務省に赴いて、前の臨時国会でお疲れの、山下法務大臣にお会いして、ぺこりの死刑執行について、率直にお伺いしました。

「そうですねえ。ぺこり死刑囚ですよね。彼の場合、平成事件史上、いや、戦後、違うな。有史以後、最低最悪の犯罪者でありますので、できれば迅速な執行が望まれるところですがね。再審請求や助命嘆願の人数も空前絶後の〜、って叫びたくなるほどのものがある上に、弁護団に紛れて、『わたし、弁護士資格ないので』とか言いながら、ビシビシ、本省にプレッシャーをかけてくる、ヨネクラっていう、TBSの安住紳一郎アナの恋人みたいな女性がいましてね。どうにもこうにも。で、天皇家のお代替わりが来ちゃうと、なかなか執行は難しいのが、現状でありますです。はい」

 うーん、ぺこりに対しては強行採決できないってことですね。ぺこりになんの隠された力があるのでしょうか? だいたい、ぺこりはどのような、凶悪犯罪を犯したのでしょうか? 長年一緒にいるわたくしですら、わからないのです。実は作者たる方のぺこり氏にそれとなく聞いてみたのですが、黙して語らず。しかも、酒が飲めないのに、急にバーボンをがぶ飲みしちゃって、前後不覚に陥り、救急搬送されて、いまは新緑病院のICUに入ってしまって、面会謝絶状態になってしまいました。たぶん、よほどわたくしに真実を語りたくなかったのか、ネタが出来上がっていないかのどちらかだと、わたくしは推測いたします。

 こうなると、社長に聞くのが一番なんですが、水かきを失うのがとても怖いので、それはできないチョイスです。いいえ、森永の美味しいビスケットの話ではないです。

 さてと、どうしますか? ああそうか! ぺこりに聞いてしまえばいいじゃありませんか、ハナコさん。だって、当人ですものね。わたくしは早速監獄へと走り、いや実際には電車とタクシーを使いましたよ。かっぱは空を飛べません。ガメラは飛べるよですって? あいつはカメです。同じように甲羅をつけていますが、あっちは超軽い素材で作られているんです。怪獣は日々進化します。時々、ハリウッドにも進出しますからね。それに対して、妖怪は基本、昔から変わっていません。映画に出るたって、『ゲゲゲの鬼太郎』くらいです。もっとも鬼太郎を演じられた、ウエンツさんはロンドンに進化しに行きましたけどね。ああ、ダメです。ひらがなで、きたろうって書いちゃダメです。意味合いが大きく変わってしまいます。天国で、水木先生がひっくり返ってしまいます。えーと、念のための確認ですが、わたくしは純粋な妖怪ではなくて人と妖怪のハーフですから。もちろん、ミックスと呼んでも差し支えないですよ。


 で、監獄に行き、面会の手続きをしていると、刑務員の先生が、「ああ、444号ですかあ。ちょっと厳しいですね」とおっしゃいました。

「どういうことですか?」

 とわたくしが伺うと、刑務員の先生は「444号はまあ、ありていに言えば、キチガイになっております」と教えてくれました。ああ、遅かった。八日まで持つと思ったのになあ。そんなに早く、激躁状態になってしまったかあ。こうなっては仕方ありません。とりあえず、ぺこりからインターネットとお金、横浜銀行のバンクカードを取り上げないと、またとんでもない浪費をしてしまいます。それから、女性刑務員の先生と看守の先生を隠さなくてはいけません。躁が悪化すると、性行為に対して奔放になってしまいます。強制性交なんてしてしまったら、タレント生命はおろか、人生を損なってしまいます。あれ? あいつはクマだから人生じゃなくて、熊生かな。そう思ってると「心配ないさー」と言って突然、ウチの社長が登場しました。

「社長!」

 思わず、わたくしは泣き崩れてしまいました。そうしますと、社長は持っていたコンビニの袋から、マルゲリータのピザパイを一切れ取り出し、それを頬張ると、

「ピザの社長」

 と、のたまいました。

「社長! 冗談言っている場合じゃないのです」

 わたくしが吠えると、

「ノープロブレム。ミスターヘッドディッシュ。ぺこりのWi-Fiの電源は切断したわい。わしの、イモトのWi-Fiは海外でも使えるけどな。それから、やつのお財布はスリの銀次に抜き取らせた。レディーたちのことも、安心せい。皆が、わしだけに振り向くように、この身体に、媚薬のスプレーシュッシュとしたわ。そいで、やつの体と独居房にはわしのお抱え科学者、まあマッドサイエンティストだけんどね。そいつに『逆ファブリーズ』という秘密兵器を作らせたわ。それを振りかければ、妙齢なレディーどころか、嗅覚の衰えた、クソババアも近づいてこないという優れものだ。今度、QVCでアンミカ姐さんに実演販売させよかと思っちょる」

「しゃ、社長! パーフェクト、エクセレント、トロピカルじゃなくてエキセントリック少年ボーイ!」

「わしを誰だと思っているんだ?」

「どちら様でしたっけ?」

「サイトウさんだぞ!」

「ええっ、そんな平凡パンチな苗字なんですか?」

「若者にウケる、ジョークや。アホめ。キャバクラでこう言うと、お嬢たちにウケるんじゃ」

「でしょうね。ところで社長のお名前は?」

「はい。極道究(ごくどう・きわむ)と申しますって、お前、なんで、ソロバン弾いてんだよ」

「まあ、わからなかったら、アレクサか、オッケー、グーグルとか言ってみてください」

「まあ、そないなことせんでも、わしは知っちょるがのう。お互い、歳だからのう」

「いやあ、わたくしたちの年齢でもわからない方多いと思いますよ」

「そりゃあ、そうだな。わはははは」


 こうして、ぺこりの躁状態は置き去りのまま、二回にわたって、大々的に描かれた大スペクタル、茶番劇は幕を閉じるのです。


 どうでしたか、皆さま? お正月特別企画、『平成最後のバカ病人』本編は、構想十秒、怪我一生。これで、この駄文エッセイのPVはリーマンショック並みの下落を……すでにしているんです。それに、本当のおいらの躁病も、確実に、こちらはアゲアゲですよ。もしかしたら、閉鎖病棟に入るかも。そうしたら、出入り不能の閉鎖病棟っていうストーリーができますけど。おそらく、発表はできないでしょうね。ああ、過労だ。トヨタのカローラ。

 

 しーん。


 ゾクゾクするぜ、この静寂。まあ、とにかくお疲れっした。

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