第33話 救援救心

 やあ、おいらです。


 まあ昼飯を食います。おいらは夏になると食欲が増すので、夏バテがありません。だからって、秋や冬だって食欲落ちません。だからデブです。でも、春はちょっとねえ、調子悪くなるんだよね。毎年、桜が観られない。悲しい。


 ああ、昼飯だ。忘れてた忘れてた。冷蔵庫には冷凍そばがある。それだけ。それだけってことは、ありゃ、めんつゆがない。塩もない、醤油もない、砂糖も、ソースも酢も、ラー油も、クミンも、ターメリックも、柚子胡椒も、唐辛子もない。

 なぜなら、おいらは料理をしないのだ。三食インスタントなのだ。笑ってくれるなおっかさん。背中の唐獅子が泣いている。


 さて、いつもだったら、隣の独居房の松本さんに「めんつゆ貸してよ」とお願いして快く借りられるんだけどね。向こう三軒両隣。でも最近、松本さんの執行が近づいているらしくて、身辺整理が忙しくて、おいらの相手していられないみたいなんだ。さみしいなあ。そういえば、おいら、松本さんの顔を一度も見たことないや。福山雅治似だったら、おいらと張り合うな。ま、ちょっとおいらの勝ちだろね。


 さて、今日のお話終わり。おいら基本的に文庫本一冊読んだら、一駄文書いているんだけど、まだ読めていないんだ。だから終了!


「ちょっと待って!」「待ってください」


 あら、お一人さんと一匹。お久しぶり。新しい読者の方はあんたたちのこと全然知らないから、自己紹介しなさい。

「はい、あたし。『女優』という駄作で主演を演じさせていただきました、水沢舞子と申します。よろしくお願いいたします」

 おう、いっちょまえに挨拶ができるようになったか。感心感心。でもな、『女優』を駄作っていうな。監督、おいらだぞ。せめて、流行と縁がなかったと言ってくれ。

「僕の名前はF.かっぱです。ぺこり先生の執事です。ぺこり先生が事故った時に現れます。本当は貴族の出です」

 で、何しに来たの?

「ぺこりさんがピンチだというので助けに来ました」

 へー、で、何するの?

「あたしのオススメ本を紹介いたします」

 舞子、本なんか読むのか?

「芸術の勉強になると思って読み出しました」

 じゃあ、何を紹介するの?

「はい、若竹七海先生の『ぼくのミステリな日常』です」

 おいおい、ミステリーじゃないか。何が芸術だよ。エンターテインメントじゃないか。

「師匠の影響です」

 …………で、進めて。

「みなさん怒ってください。この本、最近ブックカバーが可愛くなっちゃったの。あたしのは古いから、あんまり可愛くない!」

 そういうのはいいから、面白さを、みなさんにね。

「うん、短編集かなって思って読んでいたら最後に××」

 肝を言っちゃダメ。

「面白かったです」

「では次は僕です」

 ああ、かっぱくんごめん。タイムオーバー。また、暇な時にね。

「そんなあ」

 で、何を紹介したかったの?

「逢坂剛『燃える地の果てに』」

 そりゃあ、ダメだよ。

「なんでですか?」

 燃えたら、お皿渇くだろ。

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