巡り合うけもの 前編

 パークを危機に陥れた黒いかばんを撃破し、ロッジに集まったフレンズたちが仲間やパートナーとの再会を喜び合っていた頃。

 木漏れ日が差し込む森の中を、カラカルはラッキービーストと共に歩いていた。

 何故か落ち葉に混ざって転がっているカゴとじゃぱりまんを不思議に思いつつ、目的地へ足を進めていく。

「ん?」

 その遥か頭上を複数の影が通り過ぎて、カラカルは立ち止まって顔を上げる。黒く大きな耳と、その先端から生えた房毛がわずかに揺れた。

 木々の合間からは青空が覗き、舞い上がったサンドスターがうっすらと虹色に輝いている。少し前まで分厚い雲に覆われていたのが嘘のような、そして滅多に見られない奇麗な空を、鳥のフレンズたちが同じ方向へ飛んでいく。

「あっちって確か……」

『みずべちほーダネ。ビーバートプレーリーガ暴走シタフレンズタチヲ落とし穴デ捕獲シテイタミタイダカラ、ソノフレンズタチヲ助ケニ行クンジャナイカナ?』

 何気ない呟きに答えたのは、足元にいるラッキービースト。体には多くの細かな傷があり、尻尾が根元から無くなっている個体で、長い間カラカルと行動を共にしていた相棒だ。

「そういえばそんな事言ってたわね」

 今回の騒動が起きるまで一言も喋らなかった相棒に返事をしつつ、カラカルは再び歩き出す。

 ラッキービーストが話したビーバーとプレーリー。遊園地で元凶のセルリアンと戦っていたフレンズたちだけでなく、大勢のフレンズたちが各ちほーで戦っていた。

 凶暴化したセルリアンを退治していた者。暴走したフレンズを確保していた者。無事なフレンズを助けて保護していた者。翼のセルリアンを討伐し、暴走フレンズが連れ去られるのを防いでいた者。

 カラカルもそんなフレンズの一人。フィルターを修復し山で待機していたヒグマたちを遊園地へ行かせるため、彼女たちと入れ替わる形で山を守っていたのだ。

 その時一緒にいたトムソンガゼルとサバンナシマウマとは山を下りる際に別れている。今頃さばんなちほーに帰って縄張りの見回り中だろう。

『見エテ来タネ』

 ラッキービーストの言う通り、道の先にロッジが見え始める。そこがカラカルたちの目的地だ。

 遊園地で戦っていたフレンズたちや被害に遭ったフレンズはロッジなどの宿泊施設に集まっている。その知らせを聞いたカラカルは、あるフレンズと会うために山を下りたのだ。

「え……!?」 

 カラカルが立ち止まる。彼女の目に映るのは、ロッジの前に停められたジャパリバス。

「うそ……あれって!」

 一瞬呆けていたカラカルが走り出し、バスへ近づいていく。

 置いて行かれる形になったラッキービーストは、ぴょこぴょこと跳ねて後を追った。

 やがてカラカルはバスの前で足を止めると、驚きの表情で車体に手を触れる。

「まさかこのバスだったなんて……」

 パークにヒトがいた頃はこれ以外にも数台のバスがあり、通信で話したヒグマたちが使っていたのはその中のどれかだと思っていた。

「懐かしいわね……」

 しかし今目の前にあるのは、かつてカラカルがヒトと一緒にいた頃に使っていたバスと同じものだった。

 長い間放置されていたせいか、黄色い車体は全体的に塗装が剥げて、いたるところに茶色い錆の色が浮かんでいる。記憶の中にあるバスとは比べ物にならないほどボロボロだ。

 ずっと昔に運転席と客席が分かれてしまい、運転できるヒトもいなくなって、もう動く事はないと思っていたジャパリバス。せめて誰かの家として使われていればいいと思っていたけど、こうしてまた本来の姿を見られて、誰かを乗せて走っているのを知れたのが嬉しい。

 バスに手を当てたままロッジを見やると、各建物を繋ぐ通路や壁の周りでフレンズたちがせわしなく動いているのが目に入った。

「結構やられてるわねー」

 壁の一部が壊れたり屋根の一部が落ちたりしているのは、凶暴化セルリアンの襲撃やそれに抵抗したフレンズがいたからだろう。

『へいげんちほーノ城ヤゆきやまちほーノ温泉宿ニモ被害ガ出テイルヨウダヨ。……全部ノ修復ニハ時間ガカカリソウダネ』

 足下からの声に視線を落とす。ようやく追いついたラッキービーストがこちらを見上げていて、カラカルはそっか、と頷く。

「落ち着いたら私たちも手伝いましょ」

 まずは会いたいフレンズがここにいるか確認しようと、カラカルはラッキービーストを伴ってロッジへと入っていった。


「うぬぬ……」

 意気揚々とかばんの服を洗っていたアライグマは、思わぬ苦戦を強いられていた。

 目につく汚れはほとんど無くなっている。しかしかばんが気にしていた染みが何度水に漬けたり擦ったりしても消えないのだ。

 両手で広げた服を睨みつけ、アライグマは鼓舞するように声を上げる。

「なかなか手強いのだ……。でもアライさんは諦めないのだ!」 

 大きな叫びが部屋に反響し、更に音量が上がってフェネックの耳に届く。

 声や音がわんわんと響く部屋に眉を寄せつつ、彼女はやんわりとアライグマに話しかけた。

「アライさーん、ここまでやれば十分じゃないかな?」

 消えない汚れと穴はサンドスターの力で直せばいい。そう言ってアライグマの作業を止めようとする。

 彼女の苦戦ぶりを見かねて出た言葉だったが、アライグマは首を横に振った。

「ダメなのだ! かばんさんの服はアライさんがぴっかぴかにするのだー!」

 服を容器に溜めた水に沈めると、汚れを無くすためにごしごしと擦り始める。

 アライグマが使っている容器は平たく丸く、持ち上げれば体のほとんど隠してしまうほどの大きさだ。それでいて空の状態なら片手で持ち歩けるほど軽い。

 これはアリツカゲラが用意してくれたもので、服を洗うなら水が使えるこの部屋が良いだろうと、アライグマとフェネックがいる【おふろば】に案内してくれたのだ。

 アリツカゲラによれば、動かすと水が出たり止まったりする【じゃぐち】というものを使い、ゆきやまちほーの温泉のような、部屋の一部を占める場所に水を溜め、そこで水浴びをする場所らしい。

 しかし水を溜めるのに時間がかかり、じゃぐちの使い方に戸惑うフレンズも多いため、普段はあまり使っていないそうだ。

 実際、アリツカゲラがじゃぐちで水を自由に流したり止めたりする様を見たアライグマとフェネックは、何が起きたのか分からずに驚いていた。

 二人に説明していたアリツカゲラも初めて見た時は心底驚き、とあるフレンズにおふろばやじゃぐちの使い方を教えてもらったと語っていた。

「いやー、参ったねえ……」

 ざぶざぶと音を立てて服を洗うのを再開したアライグマを眺めて、フェネックは小声で呟く。

 洗うのが得意とはいえ、これ以上かばんの服を奇麗にするのはアライグマでも無理だと思う。しかし自信たっぷりにかばんの服を預かった彼女は、自分が奇麗にすると言って聞かないだろう。

 こうなった時のアライグマは頑固だ。下手に止めようとするより、服を奇麗にする方法を博士やかばんに訊いて来た方が良い。

「おや……?」

 フェネックの大きな耳がぴくりと動く。優れた聴覚が捉えたのは、部屋の外から聞こえた足音。

 おふろばの手前にはもう一つ部屋があり、廊下と二人がいる場所を繋いでいるのだが、そこから足音が近づいてくる。

「アライさん! フェネック!」

 やがて入口から姿を見せたのは、初めて会うフレンズだった。服はサーバルとよく似ていて、彼女と同じ大きな耳は黒く、先端から生えた房毛が特徴的なフレンズ。傍らには傷だらけのラッキービーストがいて、こちらに顔を向けていた。

「誰なのだ? ……アライさんたちの事を知ってるのか?」

 手を止めたアライグマが不思議そうに首を傾げ、フェネックも怪訝な表情を浮かべる。黒耳のフレンズとは初対面のはずだが、相手は自分たちの事を知っているようだ。

「この声……もしかして」

 しかしフェネックは相手の声に聞き覚えがあった。アライグマはまだ気付いていない様子だが、ヒグマと一緒にいた時、通信でこのフレンズと話をしたはずだ。

 黒耳のフレンズが歩み寄って来て、尻尾のないラッキービーストが後ろに続く。

「あなたたちと会うのは初めてだけど、アライさんとフェネックの事は前から知ってるわよ。この子に頼んで通信もしてたしね」

「という事はー、おねーさんはやっぱりカラカルかなー?」

「なにぃー!?」

 またもや甲高い声を響かせて、アライグマが水に漬けていた手を出して立ち上がった。

「本当にカラカルなのか!?」

「ええ。私はカラカルよ」

 黒耳のフレンズ……カラカルが少々驚きつつも名乗ると、アライグマは尻尾をぶんぶんと振って喜びをあらわにする。

「アライさんたちの代わりに山を守ってくれたのだー!」

「お陰でゆうえんちに行けたよー。ありがとうねー」

 盛り上がるアライグマと彼女の隣で微笑むフェネックを順繰りに見やって、カラカルは床に置いてある容器に目を落とした。

「それ、誰の服?」

「ん?」

 これが毛皮じゃなくて服だと知っているのか。フェネックが口を開くよりも前に、アライグマが胸を張って答える。

「これはかばんさんの服なのだ! アライさんが洗ってるのだ!」

 かばんの名前を聞いたカラカルは一瞬息を呑むと、真剣な顔で言う。

「……ちょっと見せてくれる?」

 静かな気迫に押されるようにアライグマとフェネックが左右に分かれて、カラカルは容器から引っ張り出した赤い服を両手で広げる。

 ある程度洗い流されて分かりにくくなっているが、小さく空いた穴を中心にシミが広がっている。水の匂いに混ざって感じたのは、微かな血の匂い。

「怪我してるの? そのかばんって子」

 水が滴る服を持ったままカラカルが振り返り、フェネックは知っている事をそのまま伝える。

「背中に怪我をしたみたいけど、傷は塞がってるみたいだよー」

「そう……それで汚れた服を洗ってるわけね。……って、どうしたの。アライさん」

 大まかに状況を理解したカラカルは服を容器の中に戻すと、同時にアライグマがしょんぼりと尻尾を垂らしているのに気づいた。

「さっきからずっと洗ってるのに、かばんさんの服がぴっかぴかにならないのだ……」

「あ、あー……」

 先ほどまでの元気が嘘のような落ち込んだ声を聞き、カラカルは容器の中に戻した服を一瞥する。そして、アライグマとフェネックの傍に佇むラッキービーストへ視線を向けた。

「ラッキー、服を洗う時に使うやつ、あれここになかったっけ?」

『チョット待ッテネ』

 ラッキービーストが電子音を立て始め、三人は喋らずに様子を見守る。

 間もなく電子音が止み、ラッキービーストは顔を上げた。

『……マダ残ッテイルカ分カラナイケド、置イテアル場所ハ分カルヨ。付イテキテ』

 跳ねて移動するラッキービーストとおふろばを出ていくカラカルを、アライグマは訝しげな顔で見送る。

「どこに行ったのだ?」

「うーん……何か探してるみたいだねー。隣の部屋から音がするよー」

 フェネックの耳に聞こえていたガタガタ音が終わったかと思うと、何かを手にしたカラカルがラッキービーストと一緒に戻って来た。

「これ、使ってみて」

 カラカルは持っていたものをアライグマに手渡す。それは石のような白い塊だった。

 見た事のない物体を恐る恐る撫でて、アライグマは感触を確かめる。

「なんかつるつるしてるのだ……?」

「嫌な匂いはしないねー」

 横から覗き込んだフェネックが匂いを確認する。カラカルから渡された物体に興味をそそられる二人に、ラッキービーストの声がかかった。

『ソレハ【セッケン】ダヨ。ヒトガ服ヲ洗ウ時ニ使ッテイタモノナンダ。汚レテイル部分ニ擦ッテカラ洗エバ、服ガ奇麗ニナルハズダヨ』

「これを使えば、かばんさんの服をぴっかぴかに出来るのかー!?」

「よかったねー、アライさん」

 せっけんの説明と使い方を聞いたアライグマは目を輝かせ、興奮した表情で何度も頷く。

 カラカルはお礼の言葉を述べる二人に微笑むと、落ち着いた口調で訊ねた。

「かばんに会いたいんだけど、どこの部屋にいるの?」

「かばんさんはサーバルと一緒に【みはらし】の部屋にいるのだ」

 無邪気な返答にカラカルの顔が強張る。ほんの一瞬だけ硬直した彼女へ、アライグマの言葉を引き継ぐようにフェネックが言う。

「でも明日の方が良いんじゃないかなー? 二人とも疲れてるし、早く寝ろって博士も言ってたから」

「うん……そうね。ありがと。それじゃアライさん、頑張ってね」

 カラカルに応援されたアライグマは、腰に手を当てて満面の笑顔を浮かべる。

「まかせるのだ! かばんさんの服は、アライさんが今度こそぴっかぴかにするのだ!」

 再びおふろばを後にするカラカルとラッキービーストを見送ると、早速容器の前に屈みこむ。

「よーし! 洗うのだ!」

 興奮した表情で宣言する彼女を、フェネックは微笑ましく見守るのだった。


「カラカルではないですか」

 驚きが多分に入った声に、カラカルは通り過ぎようとした廊下の角を振り返る。

 そこには泣きはらした顔の博士と、彼女に支えられながら木杖をつく助手。おふろばを出てから探していた二人だ。

「コノハ、ミミ」

 二人が長を名乗り始めた頃からの付き合いであり、彼女たちにパークの歴史やヒトの事などを教えていたカラカルは、島の長たる博士と助手を名前で呼んだ。

「お前、どうしてここに?」

 山にいたはずのカラカルがなぜロッジにいるのかと、博士は目を丸くしている。

 山の監視を買って出たフレンズがいたのは聞いていたが、それがカラカルたちだと知ったのは、かばんが黒いかばんを倒した後の事。遊園地を出発する前にヒグマたちから教えてもらったのだ。

 野生暴走になっていたので運び込まれたのか、それとも暴走した誰かを運び込んで来たのか。どちらの理由かと考えたが 答えはどちらでもなかった。

「かばんに会いたかったのよ。念のため明日まで山にいるつもりだったんだけどね」

 カラカルはそう言って、ロッジに来た経緯を語る。

 パークにはびこっていた凶暴化セルリアンと変異サンドスター・ロウの消滅。つまり元凶である黒セルリアンが消え去ったという通信を聞いた後、サバンナから行動を共にしていたトムソンガゼルとサバンナシマウマと一緒に山の見回りをしていた。

 カラカルは知らせを受けてすぐロッジに向かいたかったが、万が一に備えて翌日まで山に残る事にしたのだ。

「見回りをしてたらドールとミーアキャットに鉢合わせてね。様子を見に来たって言うから、山の事は任せて下山したのよ」

「二人だけに任せたのですか? ……流石に人数が少なすぎるのでは?」

 サンドスターの山は広い。凶暴化セルリアンや変異サンドスター・ロウが消滅したとはいえ、まだ安全とは言い切れず危険ではないか。助手のもっともな意見にカラカルは苦笑する。

「ブラックバックたちもいるから問題ないわよ」

 ドールとミーアキャットと会って間もなく、タスマニアデビルとオーストラリアデビルを連れたブラックバックがやって来た。

 聞けば、彼女たちもドールとミーアキャットと同様、山の様子を見に来たのだと言う。

「あの子たち、セルリアンが一斉消滅した時にちょうど山の近くにいたみたい。で、話してるうちにハクトウワシも来てくれたから、山の見張りを頼んだの」

 ハクトウワシは騒動の最中、オオタカ、ハヤブサと共にパークを飛び回り、フレンズの救出などに当たっていたらしい。事態が収束してからは各地に散って見回りを行っていて、山に集まっていたフレンズたちを見つけたそうだ。

 今すぐにでも会いたいフレンズがロッジにいる。カラカルは思いがけず集まったフレンズたちにその事を話して山の見張りを頼み込むと、ドールたちは快く引き受けてくれ、ハクトウワシも見張りに加わってくれた。

「山を管理してるラッキーにはドールたちと一緒にいるようにしてもらったし、もし何かあったらその子に頼んで通信するように言っておいたわ」

 助手を支えていた博士は、傾きかけた体勢を戻しながら頷く。

「それなら山の方は大丈夫でしょう。みずべちほーにはジャイアントペンギンがいるので心配いりませんし、その二か所は問題なさそうなのです」

「さばんなちほーもね。ガゼルとシマウマが縄張りを見回るって張り切ってたわ」

 山はドールたちに、さばんなちほーはガゼルとシマウマ任せ、カラカルはロッジへ向かった。

 会いたいフレンズがいるとは言ったものの、かばんがロッジにいる確証はなかった。しかし怪我をしたフレンズや暴走していたフレンズはパーク各地の宿泊施設に収容すると通信で聞いていた。

 ロッジアリツカは宿泊施設の中で遊園地に一番近い。遊園地で元凶の黒セルリアンと会話をしていたかばんもロッジにいるだろうと踏んだ。

 その予想は当たったのだが

「かばんに会いたくて来たけど、もう休んでるんでしょ?」

 その通りだと首肯して、博士はカラカルの問いに答える。

「しばらくはサーバルと一緒に絶対安静なのです。会うのなら明日にするのですよ?」

「分かってるわよ」

 絶対安静と聞き、カラカルが不安げに眉を寄せる。

 アライグマとフェネックから話は聞いている。自分の我儘よりも二人を休ませるほうが優先だ。

 彼女は表情を引きしめ、真剣な眼差しで続けた。

「ねえ、あの黒セルリアンを倒したのって、誰?」

「かばんとサーバルなのです。かばんがいなければ、我々は間違いなく負けていたのです」

 ヒトのかばんがいたからこそ脅威に立ち向かい、今回の騒動を収める事が出来たのだと、博士は助手が暴走状態になっていたのを伏せて語った。

 顔を曇らせた助手には触れず、カラカルは憂いの表情で溜息を吐く。

「そっか……結局、かばんとサーバルに全部任せちゃったわね」

「かばんに頼りきりだったのは我々も同じなのです。お前が気にする事ではないのです」

 山のフィルターを修復し、サンドスター・ロウを封じる事が出来たのも、無事なフレンズたちに指示を出して被害を最小限に抑えられたのも、ヒトのかばんが知恵を働かせてくれたから。自分たちではきっとそこまで出来なかった。

 博士の言葉を受けたカラカルの表情は晴れず、沈んだ面持ちのまま独白するように言う。

「……私に出来る事はあったはずなのよ。あのセルリアンの事を他のフレンズに伝えたり、ヘビクイワシやマンモスに頼んで記録を残しておくべきだった」

 遊園地へ向かう最中に聞いた通信で、元凶のセルリアンとそれを生み出した密猟者に強い怒りを覚えた。けれど、同時にずっと手をこまねいていた自分にも憤りを覚えた。

 活動を止めていたセルリアンを倒すのは無理でも、知っている事を伝える事は出来たはずなのだ。

「お前、一体何を言ってるのですか?」

 まるで元凶の黒セルリアンを以前から知っているような口ぶりに、助手が疑問を口にする。

 彼女はカラカルが何故そんな事を話すのか分からなかったが、博士は何かに気付いたように息を呑み、信じられないという目でカラカルを見つめる。

「まさかお前」

「大変なのだー!」

 突如響いた絶叫に言葉を遮られて、博士が露骨に顔をしかめる。

「まったく、騒々しいやつなのです。今度は何をしたのですか」

「……あ」

 博士はここにいないアライグマに呆れ、思い当たる事があるカラカルは間の抜けた声を出す。

「ちょっと見てくるわ。あんたたちはここで待ってて」

 無理して動き回るのは止めろと念を押し、カラカルは博士と助手を残してその場を離れていった。

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