みずべにて

 みずべちほー近辺の林の中で、セルリアンの群れが蠢いている。そのほとんどは通常の青色だが、歪な腕を生やした真っ黒なセルリアンが数体混ざっていた。

 行く手を阻むセルリアンを前に、二人のネコ科フレンズが身構える。白と黒、対照的な姿をした二人組だった。

 正面を見据えたまま、全身が黒い毛皮で覆われたフレンズが口を開く。

「ホワイトタイガーがいてくれて心強いわ。これ、うちだけじゃかなり厳しいで」

 その隣では、威厳のある雰囲気をまとうフレンズが静かに闘志を燃やしていた。

「礼には及ばんぞ、クロヒョウ。目的が同じであれば、協力するのは当然のことだ」

『腕ノアルセルリアンハ、変異サンドスター・ロウニヨッテ狂暴化シタモノダヨ。注意シテネ』

 二人の足元にちょこんと立つボスがアドバイスする。干渉禁止令を解除された今、全ての機能を駆使してフレンズたちをサポートすることが出来た。

「ならば、そのセルリアンは我に任せよ。……パークの平和を脅かすモノに、我らの力を見せてやろうぞ!」

 ホワイトタイガーから虹色のサンドスターが溢れ出す。同じく野生解放で目を光らせて、クロヒョウがセルリアンをびしりと指差した。

「あんたらのせいでライブが台無しや! 絶対許さへんからな!」

 楽しみにしていたペパプのライブを中止にされた怒りをぶつけると、黒セルリアンが耳につく鳴き声を上げた。それを皮切りに群れが動き出して、二人は迫るセルリアンに向かっていく。

 クロヒョウが通常のセルリアンを片っ端から蹴散らし、腕のあるセルリアンへの道を切り開き。

 ホワイトタイガーがその道を駆け抜け、瞬く間に狂暴化セルリアンへと肉薄した。

 サンドスターで光る爪が黒セルリアンを切り裂き、むき出しになった石を粉砕する。

 クロヒョウとホワイトタイガー。二人の出会いは、少し前に遡る。


 マーゲイに負けず劣らずのペパプファンであるクロヒョウは、先週に告知されたライブを見るため、はるばるみずべちほーへ向かっていた。

 彼女が黒い嵐を目撃したのは、ライブに胸を躍らせていた道中の事。行く先のみずべちほーを覆い、こちらにも迫って来る何かによからぬものを感じて、近くにあった池に飛び込んだ。

 ペンギンのフレンズのペパプほどではないが、クロヒョウも泳ぎが得意である。

 今までで一番長く潜り、限界を感じて顔を出した時にはもう嵐は治まっていて、穏やかな光景が広がっていた。

 幸か不幸か、その日は誰とも会わずに夜になり、念のために木の上で休んで一日を終えた。

 そして今日。みずべちほーを移動している最中にボスと会い、野生暴走や狂暴化セルリアンと言ったパークの異変を教えられたのだ。

 いきなり喋った上、「分からない事はボスに訊いて」となんだか変な事を言うボスに驚きつつ、クロヒョウは真っ先に確認した。

 ペパプは無事なのかと。

 ピロピロと妙な音を出した後、ボスはまた違う声で答えてくれた。

 彼女たちは全員無事。しかしマネージャーのマーゲイが野生暴走になってしまったらしい。だがすぐに取り押さえられ、被害は出なかったそうだ。

 ペパプは遊園地に向かっている。それを聞いたクロヒョウは、すぐボスに道案内を頼んだ。

 ペパプがパークを守るために行ったのなら、そのペパプを支えるのがファンの使命。

 そんな思いを胸に、クロヒョウは遊園地を目指していた。

 しかしファン仲間のマーゲイがいつマネージャーになったのか。凄く羨ましい。

 彼女が野生暴走になったのは悲しいし、一緒にペパプをサポート出来ないのが残念だった。

 そうして遊園地に向かっている時にボスがホワイトタイガーを見つけ、一緒に行動することになったのだ。

 セルリアンの群れに遭遇するのは、その後間もなくのことである。


「やっぱペパプは最高や!」

「ああ。しかもここはみずべちほーだ。奴らと戦うのにうってつけだろう」

 セルリアンの群れを殲滅した後、ボスを通して届いたヒグマの言葉と、それに答えた大勢のフレンズたちの声。

 黒セルリアンは水に触れた所が石になる。ペパプたちが発見した弱点を聞いたクロヒョウとホワイトタイガーは、深い林の奥から移動し始めていた。

 たとえ遊園地に行くのが間に合わなくても、そこで戦っているフレンズたちの力になれるように。

 黒セルリアンと戦いやすい場所。ステージ近くの水辺に案内してくれるボスに付いて行きながら、クロヒョウはふと気になった事を訊ねる。

「そういや、ホワイトタイガーはどうやってあの嵐を避けたん?」

「川に飛び込んでやり過ごした。我は泳ぐのが得意だからな」

「あ、うちと一緒や。ホワイトタイガーも泳げるんやな」

 共通点を知ってちょっと嬉しくなったクロヒョウに、先頭を進むボスが解説した。

「ネコ科ノ動物ハ水二濡レルノヲ嫌ウケド、実ハ泳ゲル動物ガ多インダ。ダケド水ヲ好ンデ積極的二泳グノハ、トラトジャガークライダネ」

 ふりふりと尻尾を振るボスの話を聞いて、ホワイトタイガーが納得したように呟く。

「なるほど。だからあんなに濡れていたのか」

「なんかあったんか?」

 即座に突っ込んだクロヒョウに、ホワイトタイガーは彼女と会う前のことを話し始めた。


 修行のためにパークを巡り、たまたまみずべちほーに来ていたホワイトタイガーは、鍛錬をしている時に黒い嵐に巻き込まれたらしい。

 その後ボスからパークの危機を知らされ、遊園地を向かっている途中、全身ずぶ濡れのブラックジャガーに襲われたそうだ。

 野生暴走の事は聞いていたため、怪我をしないように気を付けてブラックジャガーを気絶させ、ボスの案内で近くにあった小屋に運び込んだらしい。

「あの子も野生暴走に……」

「知っているのか?」

「前のライブで友だちになったんや」

 肩を落とし、悲しそうに答えたクロヒョウに、気まずくなったホワイトタイガーが俯く。

「……すまんな。野生暴走になっていたとはいえ、お前の友だちに手荒な事を」

「ホワイトタイガーが謝る事ちゃうで。……遊園地にいるっちゅうセルリアンの親玉にはホンマ腹立つわ」

 今すぐ野生解放して爪をお見舞いしてやりたい。クロヒョウが遠くにいる元凶に怒りを募らせた時、ホワイトタイガーは進む先に大きな岩があるのに気付いた。

 近づいてよく調べてみると、岩の下には格子状に組んだ木が敷かれていて、その更に下にはぽっかりと空間がある。

「これは、落とし穴か?」

 格子の隙間から中を覗くと、思ったよりも深い穴の底に誰かがいて、じゃぱりまんが数個転がっていた。

 同じく穴を覗き込み、クロヒョウが驚いた声を出す。

「ピューマ?」

 ブラックジャガーと同じく、三代目ペパプの立ち上げライブで友たちになった子が、どうして落とし穴に閉じ込められてるのか。

「ニャウウウ……!」

 こちらに気付いたピューマが威嚇するような声を上げる。クロヒョウが穏やかに話しかけるも、返って来るのは言葉にならない獣の鳴き声。

「……この様子だと、野生暴走になってしまっているようだな」

「みたいやね。でも、誰がこんなん作ったんやろ?」

 野生暴走になったピューマを捕まえたフレンズは誰かと、ホワイトタイガーとクロヒョウが顔を見合わせる。

「検索中、検索中……」

 その時、足元のボスが声を発した。ピロピロと音を立てて間もなく、二人の疑問に答える。

「コノ穴ハ暴走フレンズヲ捕マエルタメ二、プレーリートビーバーガ協力シテ作ッタモノダヨ。二人ハペパプヤヒグマタチト合流シテ、アト少シデ遊園地二到着スルッテ」

 野生解放のように目を光らせて、ボスは言葉を続けた。

「フレンズヲ一名発見。誰カガコチラニ近付イテ来テイルヨ。暴走状態カモシレナイカラ気ヲ付ケテネ」

 ピューマの他にも誰かいる。クロヒョウとホワイトタイガーは背中合わせに立つと、周囲を注意深く見回す。

 近くでがさりと音がして、クロヒョウはそちらへ意識を向けた。林の影から現れたフレンズに、思わず顔を明るくする。

「ジャ……」

 名前を呼ぼうとした刹那、唸りを上げて振るわれた腕がクロヒョウを打ち据え、彼女を軽々と吹っ飛ばした。

「クロヒョウ!?」

「グルォアアアッ!」

 林に轟く獣の咆哮。耳をつんざくような雄たけびがホワイトタイガーの声を掻き消す。

「なんだ、お前は……」

 相手の姿を捉えたホワイトタイガーが息を呑む。

 可愛らしい外見に似合わず、クロヒョウを一撃で吹き飛ばす怪力。狂暴になっているのは野生暴走の影響だろうが、見た目との違いが激しすぎる。

 殴り飛ばされたクロヒョウは、茂みに倒れたまま動かない。

『ジャイアントパンダダネ。大熊猫トモ呼バレテイルヨ。ソノ名ノ通リクマノ仲間ダカラ、気性ノ荒イ一面モアルンダ』

「ガフゥー!」

 ボスに答えるように荒い息を吐き出し、ぎらつく目でホワイトタイガーを睨むジャイアントパンダ。どうやらクロヒョウを殴っただけでは物足りないらしい。

 興奮するジャイアントパンダとは対照的に、ホワイトタイガーは獰猛な獣と化したフレンズを冷静に見据えていた。

「ボス。クロヒョウを頼む」

『マカセテ』

 ボスが耳を動かして返事をした直後、構えたホワイトタイガーから虹色の輝きが溢れ出す。野生解放した彼女に反応して、ジャイアントパンダが牙をむき出した。

「ゴルル……」

「お前の相手は我だ。……いくぞ!」


「ジャイアントパンダって実は武闘派らしいけど、それって本当なの?」

「ウチもその噂聞いたことある。……でもそうは見えへんなあ」

 三代目ペパプの立ち上げライブが終わった後のこと。

 クロヒョウは近くでライブを見ていたピューマ、ジャイアントパンダ、ブラックジャガーと意気投合し、会話に花を咲かせていた。

 ピューマから質問されたジャイアントパンダは、のんびりとした顔で得意げに返す。

「そうですよー。おっとりしてるって言われますけど、怒るとセルリアンなんて目じゃないくらいヤバヤバです。とってもヤバいんですよー」

 近くに来たボスからじゃぱりまんをもらおうとしていたブラックジャガーが、カゴに伸ばしていた手を止めた。

「頼りになるじゃないか。だが、オレも負けてないぞ。一撃の強さには自信がある」

「かっこええなあ……。もしライブの時にセルリアンが出ても、二人がいれば安心やな」

 そんなことは起きないでほしいと思いながら、クロヒョウは冗談交じりに返していた。


「う……」

 鈍い痛みに顔をしかめて、クロヒョウは目を開く。ファン仲間たちではなく林の木々がぼやけた視界に映り、自分が地面に倒れているのに気付いた。

 はっきりしない意識の中で体を起こした途端、頭がぐらぐら揺れるような感じがした。今まで感じた事のない不快感に襲われて、また倒れてしまいそうになる。

「きもちわる……」

『頭ヲ強ク打ッテイルカラ、安静ニシテイタホウガイイヨ』

「ボス……?」

 いつの間にか傍に来ていたボスの言葉に、気を失う寸前の記憶が蘇る。そうだ、ジャイアントパンダに声をかけようとした瞬間、突然頭に激しい衝撃を受けたのだ。

 殴られた頭を押さえて、恐る恐る手を見てみる。幸い血は出ておらず、野生暴走になることはなさそうだが、かなり強烈な攻撃を食らってしまった。

「ガアアア!」

 クロヒョウを殴打したジャイアントパンダが獣の叫び声を上げる。ぶおん、と音を立てて振るわれた剛腕をかわして、ホワイトタイガーが素早く後ろに回り込んだ。

「ぬん!」

 相手を傷つけないよう、爪ではなく掌底を背中に叩き込む。よろめきつつも踏ん張ったジャイアントパンダに追撃はせず、飛び下がって間合いを開ける。

 苛立った様子で振り返るジャイアントパンダ。野生暴走で目を光らせ、恐ろしい形相を敵に向けた。

「ガゥオオオオオオ!」

 腕を横に突き出し、怒りの咆哮を上げて突進する。その俊敏な動きはホワイトタイガーの予想を遥かに超えていて、次の刹那にはジャイアントパンダが間近に迫っていた。

「くっ!」

 とっさに両腕で防御したものの、凄まじい威力に吹き飛ばされてしまいそうだった。息が詰まるような衝撃が体に伝わり、自分の意志とは無関係に後退してしまう。

 クロヒョウが目覚めたのが視界の端に見えて、ホワイトタイガーは一瞬そちらへ意識を向ける。

 それが、致命的な隙を生んだ。

 ジャイアントパンダが肩を怒らせ、真正面から敵に体当たりする。避ける間もなく直撃を食らったホワイトタイガーが、その勢いのまま背後にあった木に叩きつけられた。重い音と共に木が揺れて、大量の葉が地面に落ちていく。

「ぐあ……」 

 腕ごと挟まれた体がみしみしと軋み、ホワイトタイガーの口から呻きが漏れる。このまま潰されてしまいそうだった。

「ホワイトタイガー……っ!?」

 クロヒョウは彼女を助けようと立ち上がるが、急に目の前が白く染まり、体がふらついてへたり込む。

『無理ヲシチャダメダヨ、クロヒョウ。ジャパリマンヲ持ッテキテアゲルカラ、ソレマデ休ムンダ』

「そんなんしてられんのや……!」

 悔しさをあらわにボスへ答え、クロヒョウが野生解放する。

 マーゲイ。ブラックジャガー。ピューマ。ジャイアントパンダ。ファン仲間が暴走状態になってしまったのに、自分は何もできていない。

 暴走したフレンズを元に戻せるというお守り石はない。だからジャイアントパンダも力ずくで止めるしかないのに、早々に気絶してホワイトタイガーに任せっぱなしだ。

 そのホワイトタイガーが、友だちが危ないのに、ただ見ているだけなんて我慢できない。

「ぐ……っ」

 ボスの静止を無視し、不快感を訴える体を強引に動かして立ち上がろうとした時。

「がさごそ。がさごそがさ……なーんか騒がしいと思ったら、やっぱり暴走フレンズか」

 そんな緊張感のない声が割り込んだ。

 茂みをかき分けて現れたのは、海の中を羽ばたくペンギンのフレンズ。特有の翼であるフリッパーを揺らし、前傾姿勢でゆったり歩く。

 ジャイアントパンダは首を動かし、突然姿を見せたフレンズへ視線を向けた。今押さえ込んでいる敵よりも弱く、すぐ仕留められそうな獲物がいる。

「グルル……」

 ホワイトタイガーから離れて、ジャイアントパンダはペンギンのフレンズに標的を変えた。

 ふらつくクロヒョウとずるずると崩れ落ちるホワイトタイガー。ペンギンのフレンズはすぐに状況を理解し、二人に笑顔を送った。

「暴走したジャイアントパンダ相手によく頑張ったなー。後はワタシに任せて、ちょっと休んでなよ」

「ガアアアアア!」

 言葉が終わるか否かの瞬間、ジャイアントパンダが身を低くして突進する。ペンギンのフレンズが跳ね飛ばされる光景が、クロヒョウとホワイトタイガーの脳裏に浮かんだ。

 助けたくても満足に動けず、二人がなすすべもなく見守る前で。

 ドスンと鈍い音がして、ジャイアントパンダが止まった。

「ゴアッ!?」

 驚いたような声が上がる。当然だろう。この場にいる誰よりも戦いに向いていなさそうなペンギンのフレンズが、片腕ならぬ片フリッパーだけでジャイアントパンダを止めてみせたのだ。

「先輩への礼儀がなってないなー?」

 体から虹色のサンドスターを放ち、ペンギンのフレンズはいたずらっぽい笑みと余裕を見せる。

「……うっそやろ……」

 予想外すぎる光景にクロヒョウは体の不調を忘れ、ホワイトタイガーはただ呆然とする。

 ペンギンのフレンズが頭を押さえていたフリッパーを離す。支えを失った相手が体勢を崩したところで、すかさず顎へフリッパーの一撃を入れた。

「グゥオオオッ!」

 目を血走らせ、仰向いた顔を戻したジャイアントパンダが吠える。クロヒョウを吹っ飛ばし、ホワイトタイガーを後退させたように、目の前の獲物へ腕を振るった。

 ペンギンのフレンズはその場から動かず、相手の手や腕をはたき、次々と繰り出される攻撃をあしらっていく。

 同時に振り下ろされた両腕を跳ね上げて、ペンギンのフレンズはフリッパーを構え直すと、

「マナーの悪いお客さんはお断りだよ」

 本気なのか冗談なのか分からない言葉を放ち、がらあきになったジャイアントパンダの胴へ渾身の力でフリッパーを打ち込んだ。

 ジャイアントパンダが宙を飛んで、近くにあった木に激突する。したたかに打ちすえられた彼女は、ぐったりと手足を投げ出して動かなくなった。


 林を出た先、ステージを望む水辺のほとりに移動した三人は、そこで腰を下ろして休んでいた。

 ボスが持って来てくれたじゃぱりまんを食べながら、ホワイトタイガーがぽつりと呟く。

「修業が足りんな、我は」

「いや、ジャイアントペンギンさんが強すぎるだけやで、たぶん……」

 若干落ち込んている彼女を励まして、クロヒョウもじゃぱりまんを頬張る。

「シッシッシッ。歴史の重みってやつだ」

 二人の窮地を救ったフレンズ、ジャイアントペンギンは何事もなかったように笑う。小さい体とは裏腹に妙な貫禄があった。

 それぞれがじゃぱりまんを食べ終えた頃、ボスが小さくも耳に刺さる音を立てた。

『チョットイイカナ。遊園地ノ様子ヲリアルタイムデ流スヨ』

「お? あっちはどうなってるんだ?」

「あっち?」

 ボスとジャイアントペンギンが何を話しているのか分からず、クロヒョウが首を傾げる。ホワイトタイガーも不思議そうに目を細めた。

 ジャイアントペンギンはにやりと笑う。

「まあ見てな。すぐ分かるよ」

 三人に背を向けたボスの目が緑色に光る。すると、空中にたくさんのフレンズたちとセルリアンの姿が現れた。

「なんや!?」

「なんだ!?」 

 クロヒョウとホワイトタイガーが同時に驚きの声を上げる。向こう側の林を背景にフレンズたちがセルリアンと戦っている。一瞬何かをこするような音がして両者の姿が歪み、また元に戻った。

 半ば呆気に取られている二人へ、ジャイアントペンギンは簡単に説明した。

「野生暴走の事とかを聞いたと思うけど、まーあれと一緒だな。ラッキービーストは自分が見ているものを遠くのラッキービーストに伝えて、こうやって誰かに見せることもできるんだ」

 今見ているのは【ゆうえんち】の【えいぞう】だと教えられて、ホワイトタイガーが感嘆する。

「……すごいな、ボスは」

「ペパプや! ほらペパプやで!」

 急に肩を揺すられて脇を見ると、クロヒョウが興奮した様子で目を輝かせていた。心底嬉しそうな笑顔の彼女につられて、ホワイトタイガーもかすかに頬を緩める。

 時折乱れる映像では、ペパプが持っている筒状の何かから水が飛び出して、それを浴びたセルリアンの体の一部が石のように固まっていく。

「おー。あいつら頑張ってるな」

 ペパプが放水に使っている【みずでっぽう】のおかげで、戦いはフレンズたちに有利な状況になっていた。動きが鈍くなったセルリアンが次々と撃破されていく光景に、ジャイアントペンギンも笑みを浮かべる。

「我らも負けていられんな。立てるか、クロヒョウ」

「もう大丈夫や」

 ホワイトタイガーと一緒にクロヒョウが立ち上がる。減った分のサンドスターを取り戻してだいぶ体が楽になった。動いても気持ち悪さや頭の痛みは感じない。

『待て!様子がおかしい!!』

 映像から叫び声が発せられ、何が起きたのかと三人が怪訝な表情をする。しかし心配はいらなかった。

 セルリアンの体が崩れ落ち、サンドスターとなって消えていく。映像はたちまち光で満たされて、目が眩むほどの明るさに包まれた。

 そして、ボスが映像を消した。

『凶暴化セルリアン並ビニ、変異サンドスター・ロウノ消滅……サンドスター化ヲ確認。各ちほーデモ同様ノ現象ヲ観測。暴走フレンズノ安否確認ヲ要請――』

 しばしピロピロと音を立てていたボスは、虹色に光らせていた目を元に戻して体を反転させる。

『元凶ノセルリアンハ消エ去ッテ、凶暴化シタセルリアンモ消滅シタ。……パークハ、救ワレタヨ』

「ホンマか!?」

 クロヒョウが歓喜の叫びを上げ、ホワイトタイガーは驚きと喜びをないまぜにした表情になる。騒動が終わったのを知ったジャイアントペンギンは、やれやれと安心して呟いた。

「恐竜並みに厳しかったなー」

『ダケド、無事ナフレンズノ安否確認ヲシタリ、暴走シタフレンズノ保護ヲシタリシナクチャイケナイヨ。……ステージ近クノ小屋二マーゲイガイルラシイカラ、様子ヲ』

「ウチが見てくる! ピューマとジャイアントパンダのことは頼むで!」

 ボスの言葉を遮って、クロヒョウがステージへと駆け出す。残されたホワイトタイガーとジャイアントペンギンもまた、暴走していたフレンズを保護するために林へと向かうのだった。

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