第36話 エリアの恋物語
ー魔の国 医療室ー
そこでは、上の階でそんな話をしているなんてことに気が付かないで医師であるエリアは暇そうに、背伸びをしていた。
そして、ふとデスクに飾ってある一つの写真立てを見つめた。
その一枚の写真には、とても美しい女性とエリアの二人で仲睦まじく抱き合っていると言うものだった。
「クレア・・・僕は、このままでいいのかな?キミを奪った神の国住人を・・・僕は、許してもいいのかな?」
『クレア』そう写真に話しかけては、今にも泣きそうに微笑んでいた。
争いが始まる前、クレアとエリアは婚約者だった。しかし、クレアは神の国の住人だった。そして、能力者の一人で『人の記憶を操る能力』に『人にその能力を引き継がせる能力』を兼ね備えていた。
つまり、エリアは元々は普通の人間だったのだ。
クレアは、出身は神の国だったが在籍は魔の国という当時はとても珍しい形で交際をしていた。
争いが始まってからも、同棲を続けていたエリアとクレア。とても、幸せな日々を過ごしていた。
『私、エリアと出会えてとても幸せだよ。エリアのこと心から愛してる』
そう言った彼女の笑顔をエリアは今でも忘れられない。
しかし、幸せな日々はそう長くは続かなかった。
争いが酷くなるにつれて、魔の国がクレアに対する態度も酷くなる。
初めは、無視をされるようになった。今まで仲良くしてくれていた親友でさえ口を聞いてくれなくなってしまった。次は、暴力を振られるようになった。ガラの悪い連中から、殴る蹴るなどの暴力を振られた。それでも、クレアは魔の国から出ようとはしなかった。
『私なら大丈夫!エリアがいてくれるから』
そんな生活を続けていた時、エリアが大怪我をして帰ってきた。
傷だらけのエリアを見てクレアは、心を酷く痛めた。
『私のせい?』
「違うよ」
『うそよ!!私が神の国の住人だからでしょ?!だから、エリアまで・・・』
その日から、エリアが何を言っても何をしてもクレアの心はどんどん闇に落ちていった。
とうとう、彼女はベッドから起き上がるのさえ辛くなる。
そして、とうとう自分のことを傷つけ始めた。果物ナイフを自分の喉に当てて、自ら命を立とうとしたのだった。
エリアは、必死に止めた。床に落ちる果物ナイフと崩れ落ちるクレア。
『なんで・・・こうなっちゃったのかな?ごめんね・・・エリア。傷つけてばかりの私を許して・・・』
ポロポロと零れ落ちるクレアの涙に、エリアは黙って抱きしめることしか出来なかった。
少し落ち着きを取り戻したクレアは、エリアのおでこに自分のおでこを重ねた。
「どうしたの?」
『お詫び・・・』
「え?」
『私の能力をあげる』
「どういうこと?」
重ねたおでこから何か伝わってきたのを感じる。
『エリア・・・本当にごめんなさい。でも、私ずっと貴方のこと見守ってるから・・・弱い恋人でごめんなさい』
「クレア?一体・・・」
『争いのない世界だったら良かったのにね・・・そしたら、ずっと傍で笑っていられたのに』
「クレア?」
おでこから離れようとするが、クレアが震えた手でそれを許さない。ポタポタと、エリアの腕に落ちる彼女の涙。
『エリア・・・愛してるわ。幸せになってね・・・さようなら』
そのまま、クレアは力尽きたように床に崩れ落ちる。
「クレア?!!大丈夫?!」
『ん・・・?ここはどこ?あなたは誰?」
エリアは全て察してしまった。
彼女は、彼女自身のエリアに関する記憶を消してそのお詫びとして、その能力を自分にくれたのだと。クレアは、逃げたのだ。これ以上、愛おしい恋人が傷付いていくのを見るのが嫌だったから。いっそのこと忘れてしまった方が楽だと思ってしまったから。
記憶を失くしたクレアに涙が止まらなかった。心にポッカリ穴が開いたようなそんな感覚に襲われた。
『だ、大丈夫ですか?』
恐る恐るエリアに手を差し伸べる。
「ああ、大丈夫だよ。僕は、エリア・・・医師だ。キミは怪我をして、手当てを受けてそのまま眠ってしまったんだ。でも、手当ても済んだしキミの国に帰りなさい」
彼の話を聞いてから、満遍な笑顔を浮かばせた。その笑顔を見るのは、何年ぶりだろうか。
『そうなのね!!ありがとう!!』
そのままクレアは、神の国へと帰り二度とエリアを思い出すことも帰ってくることもなかった。
この日、エリアは泣き崩れた。声が枯れるまで、まるで悪いことをして叱られる子供のように泣き崩れた。
『私、エリアと出会えてとても幸せだよ。エリアのこと心から愛してる』
ーー あの時の言葉は嘘だったのかい?キミのいない世界にキミは生きていけと・・・言うんだね。
その日から、エリアは女性を愛することが出来なくなった。
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