第30話 抱え込むな

オリビアの頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。いっそ、こんなことになるのならばシェリルとリアムたちと出会わなければよかった。そう、願ってしまう自分も居ることに虫唾が走るほど気持ち悪かった。


 ーー コンコン。


 部屋のドアをオープンにしていた為、誰でも入れた。


 ノック音がした方を振り向くとそこには、ギルバートの姿があった。


「なに?さっきの会議の話聞いてたんでしょ?」


「聞いてた」


 そう、先ほどの会議室にギルバートも出席していたのだった。


「だったら話は早いわ・・・出て行って!!今は、一人にしてちょうだい!」


「できねえ」


「なによ、アンタもなんかあるわけ?アンタも・・・シェリルを殺せって・・・リアムさんを殺せっていうの!?ふざけんじゃな・・・」


 ギルバートは、思わずオリビアを抱き寄せた。


「もういいから、少し黙れ」


「離せっ!!離せってば!!!!」


 彼の胸の中でオリビアは、力いっぱい暴れだした。しかし、そんなオリビアにギルバートはまるで癇癪の子供をあやすように背中を撫でてやる。


 少しして、オリビアは落ち着きを取り戻して今度は小刻みに震えだした。


「離してよ・・・」


「離せねえ・・・」


「なんでよ・・・」


「お前が好きだからだ・・・オリビア」


「バッカじゃないの・・・そんな安い嘘に引っかかるわけないでしょ」


「今は、それでもなんでもいい。ただ、お前が落ち着いてくれるならそれでいい。落ち着くなら・・・いつもみたいに笑ってくれるなら殴られたっていいんだよ。そんなことじゃ、俺は居なくならねえから・・・。お前のこのちっせえ体には、大きすぎる問題だ・・・よく頑張ったな」


 オリビアは、ギルバートの今の言葉に救われたような気がした。勝手に溢れ出す涙が頬を濡らす。


「私は・・・どうしたらいいのぉ・・・。わからない・・・シェリルには幸せになってほしいのに・・・リアムさんにも幸せになってほしいの・・・どうして、幸せを願うことも罪なの?」


「罪なんかじゃない。お前は、優しすぎるんだ。たまには裏切ってもいいんだよ、国も国民もお前の仲間もオリビア、お前自身も・・・裏切れ。じゃないと、お前が壊れちまう」


「おかしなこと言うのね・・・でも、私は裏切れない・・・誰も・・・」


「今すぐ、答えを出す必要もない。忘れるな俺は、お前の味方だ」


「ありがとう・・・ギルバート・・・」


 その話を聞いてしまっていた男が一人、廊下の隅に居たのは誰も知らなかった。 

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