第31話こころとこころ ⑦

「しかしな、どうしてドローンが河合さんの持ち物だってわかるんだ?」

「それはテレビの画面とスマホですよ」

「テレビとスマホ?」


 車内の煙草の煙を逃がす様に、運転席の窓を少し下げながら不思議そうにこちらに顔を向けた。


「ドローンを操作するのにはスマホにドローンからの映像を映して操作出来るはずです。それが、わざわざ大きなテレビ画面に映してたとなると…………」

「ああ、操作が不慣れな為に大きな画面が必要だった」

「そうです。そして、操作したドローンを離れの換気用の窓から侵入させ仁藤 仁左衛門を殺害した」


 信号が緑に変わり、再び車は動き出す。稲垣刑事は煙草を灰皿で消しフッと息を吐いた。


「じゃあ、今、向かっている場所にそのドローンがあるというんだな」

「はい。たぶん、仁藤 孝は証拠隠滅を図ろうとしてるんじゃないかと思います」

「それじゃあ! いっちょ、奥の手を出すとするか」


 そう言うと、パトランプを取り出し、運転席の窓から手を出して、車の屋根にパトランプを乗せた。

 けたたましいサイレンの音と共に「前を開けてください」っていう稲垣刑事の声が辺りに響き渡っている。


「ちょ、ちょっとやり過ぎじゃないんてすか?」

「証拠を処分されちゃあ、こっちとら商売あがったりだからな」


 商売って! 警察の仕事って商売かよ!

 こんな俺のツッコミも河合さんの家に到着して、家に入ったときに吹き飛んた。



「これって…………」


 河合さんの家は河川敷の住宅が建ち並ぶ中にある新築のアパートの306号室だ。

 俺と稲垣刑事が駐車場に車を停め、階段を駆け上がって、部屋の前まで行くと部屋のドアは開きっぱなしになっていた。

 その開きっぱなしになっていたドアから見えたのは、頭から血を流して横たわる男性の姿であった。


「まずいな」


 慌てて男性に駆け寄る稲垣刑事。

 俺は呆然と立ち尽くした。

 事態を甘く捉えていた。いや。これは殺人事件であり、人の生き死に関わる問題であることを、初めから頭の中でよく理解していなかった。


「ダメだな」


 稲垣刑事はそう言って、立ち上がり、救急と警察に電話をしている。

 ダメって…………。

 この人が死んだってことか…………。

 心臓の動悸が高鳴り、全身の力が抜けていく。俺は壁にもたれかかるように崩れ落ちた。


「おい! 大丈夫か! 名探偵」


 稲垣刑事は俺の様子を見て驚いて近づいてくる。


「お、俺のせいだ…………俺がもっと早く事件を解決してれば…………」

「何、言ってんだ! ばかやろう! お前さんは良くやった。ちゃんと事件を解いたんだ」


 俺の両肩を持ち、しっかりと俺の目を見て諭すように話しかけてくれる。


「で、でも…………」

「いいから、お前は帰って安め! いいな! ここからは警察の仕事だ」

「は、はい…………」


 俺はアパートを出て家に向かって歩き出した。

 さっきまで晴れていた空が嘘のように、空いっぱいに雲が広がり、俺の目もとに一粒の雨が落ちて、頬を伝い流れ落ちる。

 俺はどこで間違えたんだ。

 答えは間違ってはなかった。でも…………。

 この結末は俺が望んだものでは無い。

 たぶん、初めから間違えてたのだろう。

 俺のなりたかった探偵って、こんな探偵なのか。

 いや、俺がなりたかったのは、被害を最小限に留める為に推理する探偵じゃなかったのか。

 ぽつりぽつりと降っていた雨が、次第に強くなっていき、俺の思い上がった頭を打ちのめす。

 俺は何も分かってなかった。

 そう。

 何も…………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る