第27話こころとこころ ③
今から二年前。
「俺に解けない謎なんて、無いつーの!」
中学二年生の夏、俺は完全に思い上がっていた。
「何言ってんの! バッカじゃないの!」
葵はウンザリした表情で冷やかな目で俺を見ている。
「馬鹿ってなんだよ! 馬鹿って! 警察で迷宮入りしていた事件を、これで十件解決したんだぜ!」
俺は地元の町で天才少年探偵と言われ、知らぬ者がいない存在になっていた。
「だ・か・ら・何だって言うのよ! あんたが成りたい名探偵って、そういうんじゃ無いでしょ!」
「うるせぇよ! なんだ? 俺が人気者になったんで妬いてるのか?」
「ばぁ〜か! 勝手にすれば!」
葵はそう言って怒ってリビングを出ていった。
ああ、勝手にするさ。俺の推理は完璧なんだからな。
俺はテーブルに無造作に広げられているファイルの中から、そのうちの一つを手に取る。
「ん? 警察の依頼?」
探偵としての認知度が上がり始めてから、時折、こうして警察から依頼も入るようになってきた。
ファイルの表題は…………離れの茶室殺人事件。
「殺人事件か…………」
これまで色々な事件を解決してきたが、殺人事件はあつかった事は無かった。それは俺がまだ中学生だということと、殺人事件は俺自身に危険が及ぶ可能性があると思っていたからだ。
でも、その時の俺は自身の推理力に過信していた。
「よし! こんなのササッと解決してやるぜ!」
俺はファイルを開いた。
事件の内容はこうだ。
旧家の当主、仁藤 仁左衛門が真冬の離れの部屋で何者かに首を鋭利なナイフで刺し殺されたというものだ。
離れの中は仁藤 仁左衛門一人きり、外は雪が積もっていて足跡は一つだけという、開放された中の密室殺人といった様相を呈していた。
当時、母屋に居たのは二人。一人はこの家のお手伝いさんで西田 良子。もう一人は仁左衛門の孫の仁藤 孝。
仁左衛門の妻と息子夫婦は五年前の事故で亡くなっていて、この家にはこの二人以外立ち入る人物はいない。
事件が起きた時間の二人のアリバイは、西田 良子は台所で夕食の準備を、仁藤 孝は居間でテレビを見ていたと言っている。
「ふぅ〜ん。この二人のどちらが、もしくは二人共が犯人の可能性が高いってことか。でも、証拠となるものが無いのと、足跡を残さずにどうやってあの離れに行って戻ってきたのかってことか」
俺はファイルを手にしてリビングのソファーを立ち上がった。
「まぁ、行ってみるしかねえーか」
俺が仁藤家に着くと、お手伝いさんの西田 良子が向かい出てくれた。
「警察の方はもうお越しになっておられますよ。どうぞ、中へ」
西田 良子は四十代後半で物腰が柔らかく、朗らかな感じの人だ。
俺は案内されるままに仁藤家の廊下を歩いた。仁藤家は離れがあることからわかるように、かなりの時代がかった建物で、長い廊下を進んで行くと、目の前に庭園と呼ぶに相応しい和風の庭があたり一面に広がっていた。
「こちらからどうぞ」
庭を望む縁側から草履を履いて、離れへと繋がる石畳を歩いて行く。離れの入り口から中に入ると年配の刑事が立っていた。
「いやぁ、お待ちしておりましたよ。名探偵殿」
顔は笑っているのだが、明らかに俺のことを小馬鹿にしたような言葉ぶりだ。
まあ、確かに、俺のような中学生が事件を解決しているというのは、地道に捜査をしてきた刑事にとっては面白くない事なのかもしれない。
「お呼び立てして申し訳ありません。えーっと…………」
「稲垣と言います」
「あ、稲垣さん」
俺は深々とお辞儀をした。その対応に少しは気分も晴れたのか、少し柔和な表情を浮かべる。
「それで、私を呼んだ理由とは?」
「それは直接、担当された刑事さんに、現場で詳しく話をお聞きしたかったからです」
「ははははっ、若いのになかなか感心な事を言うな」
四畳半の離れで、母屋に届きそうなくらいの大声で稲垣刑事は笑った。
「では、説明しようか」
「お願いします」
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