第19話動き出した犯人 ④

 学校の玄関先で葵と別れ、自分の組の下駄箱に向かった。同級生の何人かと朝の挨拶を交わし下駄箱の蓋を開ける。


「ん?」


 うち履きの上に白色の封筒が置かれている。


「どうした? 和紗」


 隣でうち履きに履き替えていた、クラスメイトの山里が声をかけてくる。


「い、いや、なんでもない」


 俺は封筒を手に取りズボンのポケットに突っ込んだ。そして、うち履きには履き替えずに玄関を出て、校舎の裏側に回った。

 登校して来る学生でごった返している正面と違って、この時間の校舎裏は異様なくらいの静けさが漂っている。

 俺はさっきポケットに突っ込んだ封筒を取り出した。

 封筒の表も裏も何も書いてない。


「まあ、当然だよな」


 この封筒を見た時から、あなたの事が好きですみたいなあま〜い感じとは真逆のものだということ。そして、多分、美咲ちゃんの事件とも関係しているんだろうと予想はしていた。


「さて、と、何が書いてあるのやら…………」


 封筒の上の部分を右側から破いていく。そして、中に入っている四つ折りたたまれた紙を取り出し、開く。


 お・ま・え・を・ユ・る・さ・な・い


 美咲ちゃんの机に入れられていたものと、同じように雑誌等の印刷物を切り貼りして言葉が作られていた。

 許さない…………か。

 昨日の事といい、犯人は俺に対して憎悪を抱いていることは確かだ。

 でも、どうして?

 仮に美咲ちゃんのことが好きな奴が犯人だったとして、別に付き合っている訳でもない俺に憎悪を向けてくるだろうか?

 それとも、犯人が勝手に俺と美咲ちゃんが付き合っていると、勘違いして憎悪しているだけなのだろうか?

 そんなまとまらない事を考えてる俺に2階窓から声がかけられた。


「おーい! 和紗、何やってんだ? もうすぐ朝礼が始まるぞ!」

「あ、わ、分かった! 今、行く!」


 俺はもやもやとした気持ちのまま教室へと急いだ。



 授業も滞りなく進み、今日も部室に寄ってから、美咲ちゃんを家に送り届けようかなあと思ってた矢先、葵がすごい勢いで俺の教室に飛び込んできた。


「た、た、た、大変!」


 葵は言葉になら無いくらいに慌てている。


「何を慌ててんだよ」

「だから、大変なのよ!」

「で、何が大変なんだ?」

「美咲ちゃんが居なくなったの!」

「はぁ?」


 美咲ちゃんが居なくなったって、今、授業が終わったばかりだぞ。そんな、授業が終わって数分の間に消えるってことは無いだろう。


「それって、授業が終わってからトイレに行ってるとかじゃないのか?」

「違うんだってば! 5時間の授業の後に行方不明になっているの!」

「じゃあ、6時間目の授業には居なかったっことか?」

「そう! 1年生のクラスは大騒ぎになってる」

「分かった! すぐに1年のクラスに行こう!」


 俺と葵は教室を出て1年のクラスがある1階へと走った。

 授業が終わり廊下には結構生徒たちが出ていたが、その合間をぬって走った。所々に貼られている『廊下を走らないで下さい』っていう貼り紙が目に入り、心苦しくはあったけど、今はそれどころでは無い。


「葵、詳しく説明してくれないか?」


 俺は走っている間も少しでも情報が欲しかった。


「わかった。美咲ちゃん、5時間目の音楽の授業は席に着いて授業を受けていたみたい」

「音楽の授業ってことは音楽室に行っていたってことか?」

「うん」

「それで、6時間目の授業に出てないとなると…………音楽室から教室に戻る間に何かあったとしか思えないな」


 2階から1階へと続く階段を一気に駆け降り、美咲ちゃんのクラスに近づく。

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