第18話動き出した犯人 ③
「あんた、腕は大丈夫なの?」
「全然大丈夫だよ」
今朝も俺は葵と美咲ちゃんのボディーガードしながら登校している。
「お兄さん、昨日ので怪我したんですか?」
「いやぁ、ちょっとね」
「えー! どこですか? 痛みます?」
美咲ちゃんが、俺の体をあちこちと見回す。
「本当に大丈夫だから」
俺が美咲ちゃんと話をしている間、葵は妙にキョロキョロと周りを気にかけている。昨日の事があって、不審な人物がいないかどうか目を配っているようだ。
俺はポンと葵の頭に手のひらを乗せる。
「そんなに気を張ることはないよ」
「でも…………」
「こんな疎らにしか人がいない場所では何も出来ないよ」
美咲ちゃんのボディーガードを始めてから、いつもの登校時間より早めに家を出るようにしているので、通勤通学の人もそれほど多くない。
「えっ? 何かあったんですか?」
「いや、何も無いよな、葵」
「そ、そうね。あはははは…………」
「そうですか?」
美咲ちゃんは訝しげに俺と葵を見ている。
「ああ、そういえば、以前から聞きたかった事があるんですけど?」
「ん? 何かな?」
「お兄さんって、たくさんの事件を解決されてるんですよね?」
「たくさんかどうか分かんないけど」
「じゃあ、中には殺人事件なんかもあったんですか?」
…………殺人事件。
俺の背中を冷たい汗が流れ落ちる。
「あ…………、あ…………」
何かを口から発しようとするけど、言葉にならない。そんな俺の姿を見て葵が助けに入ってくれる。
「まあまあ、そんな事はいいじゃん! 美咲ちゃん。今日は学級委員長の仕事はいいの?」
「あっ、忘れてた! 急がないと!」
美咲ちゃんは慌て駆け出していった。
「あんた、大丈夫なの?」
「ち、ちょっと、大丈夫じゃない……かも…………」
「ったく!」
俺は道の端にしゃがみ込んだ。
殺人事件…………。俺の過去の過ちであり、名探偵になりたいという夢を諦めた事件。今でも夢に出てくるし、一生背負っていかなければならない出来事。
俺の体はどんどん冷たくなっていき、震えも止まらなくなっていく。
葵は俺の背中に両手をそっと添え、頬を近づける。
「大丈夫。私がついている」
数分間、そうしていただろうか? 俺の耳に届いた囁くような葵の声は、徐々に俺の震えを抑えていき、冷たくなっていた体も温かさを取り戻していった。
「ありがとう。もう、大丈夫」
葵は俺の背中からゆっくりと手を放した。
「まったく、こんな人のいっぱいいる所で、本当に恥ずかしいんだから!」
顔から耳まで真っ赤にして、いつもの不機嫌そうな声で話してくる。
ったく、いつも葵には敵わないな。言いたく無いけど、俺にとって最高の妹だよ。
本人に直接言わないけど…………。
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