第20話動き出した犯人 ⑤
「音楽室にはいませんでしたか?」
「はい」
「佐々木さん、トイレには?」
「いません」
「新川さん、部室には?」
「いませんでした」
どうやら、担任の佐伯先生を中心にして校内を探し回っているようで、かなりバタバタしている。
「先生! まだ、見つからないんですか?」
「そうなのよ。いったいどこに行ったのかしら…………」
葵の問いかけに困りきった顔をしている。
「先生、ちょっといいですか?」
「ああ、和紗くん。あなたも探すの手伝ってくれるの?」
「あ、はい。もちろんそのつもりですが」
「それは心強いわね」
こういった場面では、少しは俺の過去の事件解決の実績を評価してもらえているのかもしれない。
「もう一度整理しますね。美咲ちゃんは5時間目の音楽の授業は受けていた。6時間目の授業には教室にはいなかった。これは間違いないですね」
「ええ」
やっぱり、音楽室から自分の教室に戻る途中で、何かが起きたとしか思えないな。
「音楽室から教室に戻る間、美咲ちゃんの姿を見かけた人は?」
「それが…………みんなよく覚えていないって言うのよね」
「じゃあ、誰か不審な人物がいたとかは?」
「それも、誰もクラスのみんな以外は見ていないって言うのよ」
目撃情報無しか…………とりあえず、教室から音楽室にかけて、調べてみるしかないか。
「先生、すでに調べられたとは思いますが、俺たちはもう一度、音楽室を見に行って来ます」
「そう。じゃあお願いね。何か分かったらすぐに連絡してちょうだい」
「わかりました」
さっそく、俺と葵は3階にある音楽室へと向かった。
音楽室は三階の階段から一番奥に位置している。その横に扉があり、扉を開けると非常階段があるのだが、通常内側から施錠されていて、わざわざ施錠を外して利用するってことは無い。
「もしかして、犯人は非常階段を使って美咲ちゃんを連れ去ったんじゃない?」
葵は非常階段の扉を開いて外を見ている。
「それは難しいだろ。非常階段から廊下に入り、美咲ちゃんを連れて再び非常階段から逃げるなんて」
「どうして?」
「非常階段の扉から二階に下りる階段までは一直線の廊下だ。そのうえに、この場所を遮るようなものが一つも無い。犯人が美咲ちゃんを強引に連れ去ろうとしたら、当然、誰かの目に留まるだろうし、美咲ちゃんも無抵抗で連れて行かれる訳がないから、その場は大騒ぎになると思う」
「そっか。そうだよね」
葵は開いていた非常階段の扉を閉めて施錠した。
「じゃあ、美咲ちゃん、どこに消えちゃったんだろう…………? っていうか、犯人はあの三人に違いないのよね! じゃあ、あの三人を調べれば美咲ちゃんの行方が分かるんじゃない?」
「…………うん」
葵の言う通り、三人のうちの一人が犯人だったら、そうするのがベストだ。しかし…………。
「うーん。相変わらず、なんだか煮え切らないなあ!」
葵には話して無いが、俺の中でもう一つの可能性が存在している。
それは三人とは違う別の犯人の可能性だ。
その人物が犯人だとしたら…………。
いや! 今はそんなことを考えている場合じゃない、美咲ちゃんを探すのが先だ!
俺は携帯電話を取り出して小早川部長に電話をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます