第5話ボディーガードって楽しい? ①

 部室から出た俺は、さっそく唯倉さんのいる教室へと向うことにした。隣には部活に行くために、一緒にミス研の部室を出てきた葵が付いてきている。


「ねえ、あんた」

「ん?」

「美咲ちゃんの話を聞いて、犯人の目星はついたの?」

「そんなのつくわけないだろ」

「だって、推理小説の名探偵とかは、初めて事件現場に行ったときに全ての推理が終わっていて、事件解決篇でよく言うじゃない『私には初めからあなたが犯人だとわかっていました』とか」

「そんなの小説だけだよ。常識的に考えてみろよ。初めて事件現場に行って犯人がわかるってことは、それだけたくさんの証拠を残しているってことじゃない? それだと、別に名探偵じゃなくても、警察が調べればすぐに犯人が捕まるって」

「そっか」

「ただ……」

「ただ?」

「ひとつだけ気になることが」

「ほーら、やっぱりあるんじゃない、ほらほら言ってみ、あいつが犯人だ! って」

「そういうんじゃないんだけどな。うーん。まだ不確実なことだから言えない」

「えーっ! そこまで言っといて普通やめる?」


 葵は納得いかない様子で、ふくれっ面をしている。

 そんな葵のことは放っておいて、俺が気になっているのは、封筒の中に入っていた便箋にあった『わたしはおまえをミている』という切り貼りだ。

 仮に、ストーカーによる犯行だったとして、ストーカー行為は大きく二つに分けられる。

 一つは、相手のことが大好きで、ある意味ファン行為に近い形でのストーカー。

 もう一つは、相手とのトラブルから発展する、遺恨型のストーカー。

 で、今回の文面は『わたしはおまえをミている』なので、前者の方に分類される。もしも、後者なら文面は『わたしはおまえをゆるさない』になったはずだ。

 そうなると、一つの疑問がでてくる。

 前者に分類されるということは、自分を認識して欲しいはず、なのに、どうして文字の切り貼りという、自分が認識されない行為を行ったかということだ。

 ただ、俺が気になってるっていうのも、あくまで、今回の便箋がストーカー事件だったらの話で、全くそういう意図の無い便箋だったら、俺の空論ってことになるんだけど。


 ミス研を含む各部室は旧校舎にあり、普段俺たちが授業を受ける教室のある新校舎へは、渡り廊下で繋がっている。

 一年生の教室に行く俺と、部活に行く葵は渡り廊下で別れる。


「じゃあな、部活頑張れよ」

「言われなくても頑張るわよ!」

「それよりもあんた、妹の友達に手を出すんじゃないわよ!」

「だ、誰が手ぇ出すかよ!」


 いや、確かに可愛いと思うけどさ、思うだけで、どうこうしようって気持ちは無い。


「あの娘はクラスの学級委員長やってて、学年でもトップクラスの成績を納めている真面目な娘なの。そんな娘に、もしも変なことをしようとしたら絶対に許さないだからね。分かった?」

「へいへい。分かりましたよ」


 俺は両手を上げて、そんな事はしませんよっていうポーズをとる。葵はそんな俺の姿に満足したようにうんうんと頷く。


「じゃあ、美咲ちゃんのことよろしくね」

「了解」


 部活に遅れそうなのだろうか、慌てて走っていった葵のうしろ姿に、ひらひらと手を振って俺は渡り廊下を歩いていく。

 渡り廊下を渡って新校舎に一歩踏み出すと、周りは一気に生徒であふれかえる。帰り支度をする生徒やら、部活に行く生徒、帰りにどこに寄ろうかなんて話し声も聞こえてくる。


「さてと、唯倉さんはどこにいるかな」


 唯倉さんのいる一年二組を後ろの入り口から覗き込む。


「あっ、和紗せんぱーい!」


 唯倉さんは覗き込むんだ俺の姿を見つけて大きく手を振る。

 ちょ、ちょっと、それまずいんじゃないの?

 案の定、教室内の空気がざわざわし始める。そりゃあ、そうだよな。上級生の男子が下級生の女子を迎えに行くなんて普通じゃないしな。

 俺は変な誤解を招かないように小さく頭を下げた。女子生徒たちの好奇な視線と、男子生徒のうちのクラス委員長に手を出しやがってみたいな視線が入り乱れて、犯人らしき人物なんて感じ取ることすら出来ない。

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