第6話ボディーガードって楽しい? ②

「お待たせしました」


 満面の笑みを浮かべて、帰り支度を終えた唯倉さんが俺のところに来た。俺はこの何とも言えない空気に耐えきれず聞いた。


「この雰囲気……大丈夫?」

「ん?」


 一瞬、何のことかわからないっていう感じで小首を傾げた唯倉さん(それはそれでものすごく可愛い仕草だった)は、すぐにその雰囲気を感じとって、クラスのみんなに向かって声をかけた。


「こちらは葵ちゃんのお兄さんで、和紗 悠さんです。ちょっと訳があって、これから当分の間は一緒に登下校することになると思いますが、あまり気にかけないで下さいね」


 なんか思いっきり自己紹介的なものをされちゃったぞ。とりあえず、俺も何か言っとかないとまずいよな。


「え、えっと、和紗 葵の兄の和紗 悠です。今、唯倉さんが言ったようなことになったのでよろしく」


 俺の話を聞いて、窓ぎわにいた髪を茶色く染め、制服の胸元が開くように軽く着崩している、いかにも恋愛の噂に目が無いっていう風体の女子3人組が食い付いてくる。


「あんさ、ちょっと質問なんだけどさ」

「ん? なに?」

「葵の兄貴がどうして葵じゃなくて、美咲を迎えに来るん?」


 まあ、もっともな質問だ。でも、馬鹿正直に事件の依頼を受けましたとも言えないしな。


「えーっと、それは…………」


 俺が言いよどんでいると、隣から唯倉さんが口を開いた。


「それは……」

「それは……?」


 もったいぶっているような、唯倉さんの口調にクラスのみんなが注目する。


「やっぱり言えない!」


 みんなが一斉に拍子抜けして転ける。

 おいおい、みんな乗りいいな。ここのクラスのみんな、お笑いのセンスがあるのかよ。


「わぁーたよ。これ以上詮索してしても、うぜーぇだけだしな。まぁ、なんだ、がんばんな」


 3人組のリーダー的な娘が応援しているぜっていう感じで言った。こいつ絶対に何か勘違いをしてる。


「ありがとう」


 そんな俺の思いを意に介したようすも無く、唯倉さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。




 学校からの帰り道、まだ赤く染まる前の日の光を浴びて歩道を小学生が数人、鬼ごっこでもしているのだろうか走りまわっている。そんな小学生を横目で見ながら、唯倉さんは俺の前を歩き、俺はその後を周りを警戒しながら離れないようについていく。


「あの〜」

「ん?」


 唯倉さんが不思議そうな表情で俺を見る。


「どうして和紗先輩は私の後ろを歩いているんですか?」


 ああ、これはあれかな? 一緒に出掛ける時によく葵が言う「あまり近づかないで、ダサい男と一緒に歩いてるなんて思われるとイヤだから」ってやつかな。こんな美少女に、なんで近くを歩いてるのよ的なことを言われたと思っただけでも涙が出そうだ。


「えーっと、俺は今、唯倉さんのボディーガードやってるわけでしょ。だからある程度はそばにいないと、何かあった時に守ってあげられないわけ。分かる?」

「ええ。それは分かりますけど…………」


 はぁ、分かってもらえて良かったよ。


「それならば、私の横に並んで歩いているほうがいいと思うのですけど?」

「はい?」


 あれ? 俺の聞き違いかな?


「唯倉さん、今、隣に並んでなんとかって言った?」

「言いましたよ! 恥ずかしいんで何度も言わせないでください」


 唯倉さんは真っ赤な顔をしてもじもじしている。

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