第4話ミステリー研究会と美少女依頼人③
「やれやれ」
「だね」
「部長さんにも困ったものですぅ〜」
俺ら三人と依頼人の唯倉さんは部長の姿を見送った後、話を続けた。
「昨日の朝に、この封筒があったんだよね」
「はい」
「その前後に、何か変わったことはなかった? 例えば、誰かに後をつけられるとか、誰かに見られているとか?」
「いいえ。特別にこれといって変わったことはありません。後をつけられるってことを感じたことは無いのですが、見られているというのは少しあります。気のせいかもしれませんが」
これだけの美少女だと他の人から見られても不思議はねーか。まあ、とりあえずは後をつけるといったストーカー行為は無しと。
「では、対人関係でトラブルとかはなかった?」
「それも記憶している限りはないです」
トラブルも無しか。これじゃあ、手がかりすら無いな。しょうがない。もうちょっと突っ込んだ質問してみるしかねーか。
「えーと、ここからはプライベートな質問になるんだけど、もし答えたく無い場合はスルーしてもいいからね」
「はい」
俺としても、あまり突っ込みたくないところではあるんだけど、ストーカー事件となると、この質問はやっぱり必要だよな。
「過去につき合った人物で、何か問題があったことはありますか?」
「えっ!? えっ、えっ、な、無い」
「過去につき合った人との問題も無しか」
「ち、ち、違う!」
「ん?」
唯倉さんは耳を真っ赤にして、誰が見ても明らかにわかるくらい動揺している。そして、うつむいて、膝の上のギュッと握りしめた手を見つめている。
「……無いの」
消え入りそうな声で答えた。
「だから、えっと……過去につき合った人との問題は無かったんだよね」
「違います!」
「えっ? 何が違うの?」
「だから! 私は今まで誰ともおつき合いしたことが無いんです!」
「ああ、今まで誰ともおつき合い…………って、ええーっ!」
普通に驚いてしまった。唯倉さんは才色兼備という、言葉のイメージそのものっていう佇まいで、男子生徒からの人気も高いだろうし、つき合っている男の子がいても当然の事に思えたからだ。
「本当につき合ったことが無いの?」
「はい」
「あんた、その質問にやけに固執するわね」
葵が目を細めて俺を睨んでくる。
ちょ、ちょっと待てよ。なんでそんなに怒ってるんだ? いや、確かに、唯倉さんみたいな可愛い娘が今まで一度も男性と付き合ったことが無いって話は、興味が無いっていったら嘘になるけど。
「この話は、事件の性質上聞かないと先に進まないだろ」
「まあね」
葵はまだブツブツ言ってるがそれはほっといて、これで過去の恋愛のトラブルの線も薄く無くなったか。
「それでは私とつき合いませんか?」
「えっ!」
いつの間に帰って来てたのだか、顔をボコボコに腫らした部長が、唯倉さんに声をかける。
「そ、それはちょっと…………今はこの封筒のことで頭がいっぱいで…………」
唯倉さんは部長の顔に驚きながら、やんわりと断わりする。
「部長〜、何ですかぁ〜、その見すぼらしい顔はぁ〜」
「知夏ちゃん! 気にするんじゃない。名誉の負傷だ!」
いやいやいや、名誉の負傷じゃないし。
どうせ空手部の行って佐伯くんに『お前が犯人だ!』なんて言ったせいでボコられたんでしょう。
ったく、部長はそんな酷い顔を気にもとめず、真面目な口調で話す。
「しかし、これで事件は振り出しに戻った。もう一度始めから考えなければならないな」
振り出しも何も、まだ何も始まって無いし。
「唯倉さん、後のことは我々にお任せ下さい。後でうちのエースがボディーガードに行かせますので、それまで教室で帰宅の準備をして待っていて下さい」
おいおい、エースって、俺が彼女のボディーガードするんかい。
「そうですか。それではよろしくお願いします」
唯倉さんは少し不安げな表情を残して、部室から出て行った。
「それでは諸君! 今回の依頼の検証をしてみよう」
「部長、今回はやけに気合いが入ってますねぇ」
「いや、知夏ちゃん、私はいつでも、どんな事件にも、依頼人の気持ちになって親身に取り組んでいるよ」
「そうかなぁ〜」
嘘っぽい部長の言葉に、知夏ちゃんが騙されるわけも無く。
「どうせ〜、今回の事件を解決したらぁ、唯倉さんとデートでも出来るって思っているんじゃないですかぁ〜」
「な、な、何を言っているのだい。知夏ちゃん。わ、私がそんなことを思っているわけないだろう」
図星か。
「えーと、とりあえずだな。私は唯倉さんの周辺の調査をする。和紗くんは唯倉さんの警護と、不審人物が近づかないかを注意して貰いたい。知夏ちゃんは、私と和紗くんが集めてきた情報の整理してくれるかな?」
「はい」
「わかりましたぁ〜」
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