ゾンビはダメヨ

 吸血鬼とゾンビで社会情勢が分かるという考察。好景気だと吸血鬼が人気で、不景気だとゾンビが人気だと思う。



 中二病は世界中の人間が罹患する重篤な病で、ふとしたタイミングで成人を迎えても蘇ってくる。現在の僕は、ティーンのころに流行っていたMALICE MIZERにハマっている。血を吐きながら空を舞えれば、大空に還れる可能性について、揺れながら足を浮かせて考察してみる。



 MALICE MIZERと言えば、中世バロックの世界観を忠実に再現した衣装ヴィジュアル系バンドだ。ゴシック衣装をまとい、クラシックに裏付けされた確かな演奏技術を誇っている。若い人にはGacktが在籍していたバンドと言えば分かりやすいか(MALICE MIZERファンにとってGACKTは地雷になり得るから、これ以降はGACKTは出さない)



 彼らのステージングは退廃的で耽美的だ。SM地味たパフォーマンスからパラパラまでカオスな演出である。そこで、ベースのyu-ki氏が伯爵と呼ばれていたことを思い出した。彼に注目すると、ドラキュラ公の異名をもったヴラド3世を彷彿させるヒゲを蓄えていた。そこで社会情勢は吸血鬼とゾンビで変わるのではないかという仮説が浮かんだのである。



 現在のゾンビの代表格といえば、アメリカのドラマ「ウォーキング・デッド」だろう。吸血鬼と言えば、トム・クルーズが演じた「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」とかになるのだろうか。それとも「ヘルシキンキ」なのか。まぁ、アメリカ作品で考えよう。




 ゾンビと言えば噛まれたら感染し、自らも意思なきゾンビになる。吸血鬼は人間を噛んで眷属を生み出す。経口感染という共通点はあるが、感染後の意志の有無で大きな違いがある。また、吸血鬼は始祖と言われる個体が大きな感染力を持つが、ゾンビの場合はどの個体でも等しい感染力を持つ。




 次に対象のステータスである。ゾンビは脳を破壊されない限り、身体が腐りきっても活動する。一方、吸血鬼は日光が致命傷になるため、夜間しか活動できない。また、銀の銃弾を打ち込まれたり、心臓を木の杭で突かれたら死ぬ。ニンニクの香りに弱いなど、弱点が多い。




 次に食事についてだ。ゾンビは人間の血肉を摂取するが、消化機能があるかは疑問であり、そもそもが食事をしなくても活動できるという点が挙げられる。一方吸血鬼は、処女の生血に代表されるように食事へのこだわりが強いように見受けられる。




 容姿や知性はどうだ? ゾンビは醜くて知性の欠片もない。吸血鬼は、ゴシックファッションに身を包み、とても博識で妖艶に描かれる。



 長々と書いたが、上記をまとめるとこうだ。



 ・ゾンビ

 A:意志はないが、急所を破壊されない限り、どんな環境下でも活動できる。感染力が強い。

 B:必要最低限の食事ですら必要ない

 C;全身が腐っているため、醜悪な容姿をしている。


 ・吸血鬼

 A:知性があり魅力的な存在だが活動に制限がある。また、弱点が多数ある。感染力は弱い。

 B:処女の生血であったり、ワインであったりとグルメ。

 C:中世貴族然としており、容姿に対して強いこだわりがあると見受けられる。



 以上のことを俯瞰で見ると、ゾンビはゴキブリ、吸血鬼は保護が必要な試験管から出られないホムンクルスみたいなもんである。



 さて、現在の社会情勢や文学畑を見てみると、ゴキブリを題材にした作品が非常に多い。ホムンクルスのことなど忘れたかのように、ゴキブリがはびこっている。




 人気というのは憧れと同義だと思う。そうなると視聴者や読者が、ゴキブリ作品を見て嫌悪や恐怖をしている裏側には、ゴキブリの生存力に憧れを持っていると言えるのではないだろうか。



 昨今の社会情勢を見てみるととても不安定だ。株価は安定せず、自動車にはリコールだらけ。増税をしたかと思えば、年金事務所から使途不明金が出たり、韓国が徴用工への賠償金を請求してきたりと、個人も政府も非常に不安定だ。吸血鬼のように、足が地から浮いており、保護を求めたくなるくらい未来に希望が持てない。



 そういった状況に僕らは生きている。ゾンビ作品の裏には、ゴキブリ並みの生存能力を持ち、何の意志も持たないで本能のままに振る舞いたいという潜在意識が隠れているのではないだろうか。そこに向上心はなく、本能のまま振る舞いたい衝動があるのだと思う。それは破壊衝動というのだが。



 80年代にアメリカで作られた「バタリアン」というゾンビ映画が世界中でヒットした。ゾンビ映画の金字塔みたいなもんだ。レーガン大統領の時代には、ソビエトとの冷戦が終末を迎え、ブードゥー経済学と言われた理論の下で、民間の投資を推奨するために大幅な減税と政府支出金を増やして70年代から続く赤字も解消された。景気に沸く若者は、製造業ではなく投資業についた。




 だが87年に反動はやってきた。無茶な支出により、政府に金がなくなり、海外からの借金で経常収支赤字を補填していたのだ。各国はドルに信頼を寄せすぎていたため、危うく世界恐慌になる寸前だった。アメリカ国内では、投資業がもてはやされていたため、工業基盤に大きな損失を出していた。レーガン政権は、結果として赤字を促進させ、外国諸国との貿易合戦に負けてしまった。日本はアメリカの失策で、大きな恩恵を受けていたのだが。




 さて、鳥の目で見てみよう。政府に金がなく、工業は衰退し投資業などの虚業がもてはやされる経済社会。アメリカの過去と現在の我が国に共通点はないだろうか? このまま日本がアメリカと同じ道を辿ったら、だれが恩恵を受けるのか? 過去の事例に類似点は多いはずだ。アメリカ以上の貿易大国である日本が破滅したら、回復にアメリカ以上の時間がかかるだろう。



 ゾンビをもてはやしていると、我々もゾンビになりかねない。人間でいたいものである。違う世界でやり直す異世界が人気ということは、我々は思考停止をしているのかもしれない。

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