バイクが舞えば黒と灰

エゴラッピンで好きなのはタバコ、ジゴロ



バイクはトライアンフで、足元にはディアのブーツ



風も寒さも防げないビロードのジャケットを羽織って、ハンドルに持たれて外国のタバコに火をつける。



少し湿気った煙が苦く感じる



だから何だというのだろう。ここを離れる理由も離れない理由もない。



それならさよなら。



海岸線を西へ。ゴーウェストを口ずさみながら。



香りは排気ガスに統一され、風景が後ろに流れ行く。風切り音に混じる波の音。



昔の彼女が少しよぎっては消えた。



あの子は元気なのだろうか。



少し考えたけど、どうしようもないから笑って捨てた。



長年続けた仕事も辞めた。もう何も残してない。



大声で叫ぶ。誰も聞いちゃいない。



ヘルメットの中に俺の声が響く。



誰かの声にアレンジされたかのように、響く。



ひとりじゃない。ひとりかもしれないけど、君ひとりじゃない。



目の前の硬化プラスチックに叩きつけてくる雨粒。



実際はそんなに強くないんだろ? アクセルを緩めればおとなしくなるくせに。



だからもっと速く走れよ。衝撃も思い出も追いつかないくらいに。



曲がり角なんて先が見えないから楽しいんだ。じゃあ曲がらなければ、楽しいままで終わるだろう。



前輪から伝わる衝撃。フロントフォークがひしゃげ、有り余ったエネルギーは、機体を宙へと向かわせる。



少し見えた空は、グレーとブラックのコンストラクトで。



少し近くなったと思ったら、急激に遠ざかった。



そっか。遠いものは遠くにあればいいんだ。近づいちゃダメなんだな。



その後は真っ暗だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る