デリンジャー

「ガキが大人を殺せるのは銃だけだ。まずは分解を覚えろ」


少年が手際よく小銃を分解し始める。


「なぁ。お前が殺したいやつってどんな奴だ?」


作業が終わった少年は、手を膝に置き黙ってうつむく。


「ふぅん。まぁいい。終わったか?次は組み立てろ」


何も言わずに組み立て始める少年。それを見下ろしている男の目は、限りなく暗くて冷たい。少年が組み立て終わった銃を手に取り、仕上げを確認する。


「―――細かい作業、好きなのか?」

「……好きです」

「そうか。次はマガジンに弾丸を込めろ。殺したい奴の顔を思い浮かべて。怒りや憎しみなどの悪意を込めながらだ。そうすりゃお前の拳の代わりに、弾丸が相手を撃ち抜くだろうよ」


少年がゆっくりとマガジンに弾丸を込める。まるで愛撫にも似た手付きで、愛おしそうに丁寧に。


「肉体だけじゃなく心も殺すと誓いながらだ。殺すなら相手の全てを殺せ、奪え、消せ。それが殺す側のマナーだ」


ドアが開く音がする。男が流れるように胸元から銃を抜き侵入者に向ける。入ってきたスキンヘッドの黒人は、慣れているかのような素振りで両手を上げた。


「ジュニア。俺ですよ」

「サム。入る前にはノックして名乗れ。殺すぞ」

「すみません!支度が整いました」

「そうか。分かった。先に行っててくれ」


サムが了承して部屋を出ていく。ジュニアと呼ばれた男は冷蔵庫からコーラを取り出し少年に手渡す。


「小僧。今から俺たちは出ていく。餞別にその銃くれてやるからさっさと出てけ」


少年はコーラを一息に飲み干し、一切の逡巡なくテーブルの上のものをバックに詰め込み始める。


「その銃は飛距離もなきゃ威力も低い。殺そうと思ったら抱きしめられるくらいの距離が必要だ。そのことを忘れるな」


少年がジュニアに向き合い「ありがとうございました」と一礼する。部屋を出ていこうとする少年に、ジュニアが「なぁ」と呼び止め、顔だけで振り返った少年に「小僧。もう会うことはねぇだろうけど……名前、何ていうんだ?」と続けた。


少年はジュニアに向き直り初めて顔を上げる。部屋が薄暗いせいか、その顔は恐ろしく陰鬱に見えた。


「―――今は誠」


誠と名乗る少年は、ジュニアに一礼して部屋を出ていく。一人残されたジュニアは、ポケットからタバコを取り出し、一服しながらひとりごちる。


「……あの歳であそこまで悪意を孕めるもんかね。日本も怖え国になったもんだ」


ドアは開いたまま軋んだ音を立てている。

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