ぼくは太陽とダンスをする
「おひさまは毎日どこに行くんだろう?」
ぼくは気になって、りんごをひとつポケットに出かけることにしました。
石になった森の中を歩いていると、たくさんのカルガモが母親を探し回っていて鳴いています。
かわいそうになって「一緒に探してあげるよ」と話しかけたけど、ちりじりになって逃げていってしまいました。
少し悲しい気持ちになって歩いていると、大きな赤い草原にたどり着きました。
そこにはおじいさんがいて、ハゲあがった頭を抱えながら悩んでいた。
おじいさんは「わたしの羊を知らないか?」と聞いてきたから、ぼくは「知らないよ」と答えました。
でもおじいさんは「困ったなぁ。市場にいけなくなる」とくりかえします。そして「ねぇ君。羊になってくれないかな」と言ってきたから、ぼくは急いで逃げ出しました。
もう!羊なんて嫌だよ。
草原を歩いていると「ここまでだよ!」と怒鳴る声が聞こえた。驚いて立ち止まると、がけがぼくの足を掴んでいました。
「ここまでだよ! これ以上は危ないから!」
「わかったよ。はなしてよ」
がけさんは声が大きいだけで、あんがい良いやつでした。がけさんなら何か知っているんじゃないかな?
「ねぇがけさん。おひさまがどこに行っているか知っている?」
「知っているよ」
「どこに行っているの?」
「そりゃあ家に帰っているに決まっているさ。ほら、ちょうど家に帰ったよ」
がけさんが教えてくれた先には、海がおひさまを迎え入れているところでした。
おひさまのオレンジ色と海の青が混じり合うこともなく、水面に光が広がっていきます。そして役目を終えると、だんだんと黒くなって海の中に沈んでいきました。
「キレイだねぇ」
「おひさまも眠る時間だからね。お風呂に入っているんだよ」
「ぼくが行ったらおひさま怒るかな?」
「分からないよ。でも、おひさまはお仕事で疲れているからやめたほうが良いんじゃないかな」
そう言われると行きたくなります。なんて言えば、おひさまの家にお邪魔できるのでしょうか?
うでを組んでうなっていると、黒くなった海の上に光の道ができています。まっすぐにおひさまに向かって。ぼくはがけの言うことを無視することにしました。
おひさまに近づくほどまぶしくて。ぼくは下を向いてしまいます。
そのうちに目を開けることも出来なくなって、立ち止まってしまうと、お父さんみたいに低い声がします。
「ねぇきみ。ここは僕の家なんだよ。勝手に来たらだめじゃないか」
おひさまが怒っているようです。ぼくはどうしたらいいか分からなくなってしまいます。
「どうしてきたの?」
「おひさまがわるいんだ」
「よくわからないよ」
おひさまは困っているようでした。ふとポケットの中のりんごを思い出しました。
「ねぇ、おひさま。これをあげるから僕を家に入れてくれないかな?」
目を閉じながら、りんごを差し出します。
「わぁ。りんごだね! 大好きなんだよ! 僕の家においで!ふたりで食べてダンスしよう!」
おひさまは喜んで招き入れてくれました。海の中のおひさまは、光を取って素顔になっています。
ぼくらは楽しくダンスをしました。
おひさまが「好きなだけいていいよ」と言ってくれたので、ぼくはおひさまの家でお泊りをすることにしました。
たのしく過ごしていても疲れます。次第に眠くなったので、横たわって目を閉じると、ふと「あさはいつ来るのだろう」と思いました。
でも、ほんとうに疲れてしまったので「かんがえてもしょうがないや」とそのまま寝てしまいました。
了
【※後味が悪いのがお好きな人は、下記の設定をごらんください】
石になった森=ビル
カルガモ=群衆
おじいさん=経営者
羊=奴隷的ななにか。
がけ=忠告
りんご=命、心臓。
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