僕なりの異世界転生

「ねぇ、ハグして」


 彼女を抱きしめた。ここが一番のラブロマンス。これ以降、彼女はアルティミシアとかいう魔女となり、物語は急に展開する。それを知っているから、強く彼女を抱きしめた。腕の中で彼女が少し声を出す。痛かったんだろうか。


 彼女は潤んだ目をして俺を見つめる。あぁ……そんなに痛かったんだ。


 「ゴメン」と言おうとした時、彼女は俺の唇を人差し指で止めた。


「ねぇ、キスして」


 少し戸惑う。しかし、彼女の目は強い意志を湛えている。それに応えなくては男じゃないだろう。うざったい髪を掻き上げて、彼女の顔に顔を近づける。彼女の目がゆっくりと閉じ、視界には彼女の唇しか映らない。お互いの唇が重なる―――


「はーい。そこまで」


 俺と彼女の間を棒状の物が遮る。なんだ一体?


「はーい、どうも。アレフガルドから来ました勇者です。ちょっと正座しろ」

「誰だお前!? どうやって宇宙まで来た!?」

「ガタガタうるせぇなぁ。ルーラだよ。レベル12くらいで覚えんだろうが」

「ルーラ?アビリティのことか!? バカな!?次元を超越するG.Fなんていないはずだ!!魔女の手の者か!?」

「何回も言わせんな。ロトの血を引いた勇者様だよ。あんまりうるせぇと……ギガデインするぞ? お前が死んでも別にかまわねぇし。それが嫌なら正座しろよ。先輩命令だ」


 先輩命令。こんな先輩はしらない。しかし、その言葉には言い表せない強制力があった。俺と彼女は正座をしてしまう。


「ねぇちゃんは戻って寝てていいわ。とりあえず、話あんのは兄ちゃんだけだから」

「いえ……一緒にいます」

「あっそう。 彼氏のダサいとこ見えちゃうけどいいのね? それで良いなら良いよ……おい、兄ちゃん名前は?」

「スコール・○○○ハート」

「はい。まず一発ね」


 勇者と名乗る男に、棒状の物で頭を殴られた。そんなに痛くはない。それよりセットが乱れることの方が気になる。髪は角度が大事なんだよ。角度が。


「お前よぉ……主人公なのに名前長いんだよ!!普通4文字くらいだろうが!」

「……すみません」


 名前が長い?なんの言いがかりだ?こんなの初めてだ。彼女が怯えながらも、微妙な笑顔を貼り付けて男に問いかける。


「あの……あなたの名前は?」

「ああああ」

「いや、あの……お名前なんですけど」

「だから、ああああ」

「ああああがお名前?」

「あぁ」

「ああが名字でああが名前ってことですか?ああ・ああ?ああ=ああ?」

「ねぇちゃんバカにしてんだろ……パルプンテ!」


 信じられないことが起きた。誰かの大きな笑い声が聞こえたのだ。バカな!宇宙だぞ!?


 しかし、それだけじゃなかった。男が舌打ちをし、もう一度「パルプンテ」とつぶやくと、彼女は……リ○アが……鉄になってしまった。


「ああああ!!!リ○アああああ!!!」

「おいガキィ!呼び捨てしてんじゃねぇ!! 会心の一撃食らわすぞテメェ!!」

「なんなんだアンタ!一体なんの恨みがあるんだ!」

「恨み? ただのやっかみだよ。おんなじ主人公なのに、おんなじとこにいるのに、この差はなんなんだって妬みだよ!!!!!」

「ふざけんな! 全員とカードしたから知ってるんだ!!お前みたいなやつ、ガーデンにいない!」

「『アレフガルドから来ました』って言ってんだろうが!」


 勇者が棒で俺を殴りつける。弱っていたのか、耐えきれなかったのかは分からない。しかし、結果的に棒は折れて使い物にならなくなった。今が……チャンス。背中に背負った剣を抜き、勇者と対峙する。


「あーあー折れちゃった。まぁいいや。なぁお前。その剣って、いつから持ってんの? なんて名前?」

「候補生になったときからだ。 名前はガンブレード」

「ふーん旅立ち前からねぇ……なぁ。その棒、なんて言うか知ってる?」

「興味もない」

「ひのきのぼう。ちょい太めの檜の枝だよ。初心者や子どもでも分かるようにひらがななんだよ」

「それがどうした! 俺には関係ない!」

「関係あるに決まってんだろ! 世界を救ってくれって王様に頼まれて、渡された宝箱に棒と布の服と小銭入っててみろよ! それでオオアリクイとか角持ったデケェうさぎと戦わなくちゃいけないんだぞ!! どんだけ怖いと思うんだ!!あぁん!?」


 得も言えない迫力に面食らう。


「なんだお前!?かっこいい名前もありゃ、レベル1から剣も持ってて? かわいい彼女いてキスとかしようとしてんの?」

「え、まぁ……はい」

「そうじゃねぇだろ! 主人公ってそうじゃねぇだろ! ひのきのぼうから銅の剣になった感動分かるか!?漢字になって、やっと一人前になったって喜び噛み締めたことあるか!? カタカナなんて他国に出て初めて出てくんだよ!!カタカナの装備になったら『遠くまできたんだなぁ……』って切なくなるんだよ!! 分かるか!?お前には分かんねぇだろうなぁ!!最初からカタカナの剣持ってるもんなああああ!!!

「えぇ……なにこの人……」

「頑張って小銭貯めて装備整えて、やっと旅に出る。地道に経験値積んで、レベル上げて強くなって、ボスに挑むもんだろ!!それが主人公だろうがああ!! 何普通に制服で宇宙来てんだよ!!」

「あ、はい。すみません」

「仲間だってそうだ! そりゃ俺もパーティーに女いたよ。 でもな! 恋愛関係になんてなるかよ! 女戦士は俺よりでかくて強いし、盗賊はスキあらばパクって逃げようとするし、魔法使いはずっと一人で笑ってるし、商人は金出さないとやらせてくれないし! 僧侶にいたって『私は神に捧げた身。あなたと関係は持てません』とか言って女戦士とできてるし!!! 悪の親玉倒すのに、恋愛関係なんていらねぇんだよ!」

「すみません……でもですね、生まれたときが違うからですね」

「あぁそうだねそうだね!! 君は悪くないね!!全部時代が悪いんですよね!! はいはい!すみません! でもな!お前に当たらなきゃ誰に当たるんだよ!! 先輩のグチを聞くのが後輩の仕事だろうが!!」


なんて清々しいほどのやっかみなのか。そう思うと勇者がかわいそうに思えてきた。


「あの……グチを聞くのは良いんですけど、僕なにやれば良いんですかね?」

「まず先輩を敬え」

「あぁ、はい」


 コイツうぜぇ。ただの老害じゃねぇか。


「俺を創った神様は最高なんだよ。世界的なクリエイターでな。俺だってかめはめ波打てるかもしんないんだよ」

「はい」

「でもな、時代がドットなんだよ。分かるドット?神様の素晴らしいデザインなんて、一切反映されてないんだよ」

「あぁ、でも僕もそうです。宣伝用では線が細い感じですけど、実際はこんな感じです」

「そうか。お前も苦しんでたんだな……悪いな。愚痴っちゃって」

「先輩、泣かないでください。俺、なんかあったら聞くんで」

「おうありがとうな。楽になったわ……ムッ!? どっかでいなくなった主人公を探すべく、きわどい格好したヒロインが女友達とパーティー組んで、強くてニューゲームをしようとしている!!なめんじゃねぇぞ!!」

「そうすか」

「いいか!お前には馴染みないかもだけど『ひのきのぼうを大事に』だからな!!心に刻んどけ!! 調子乗ったらまたシメるからな!! じゃあな!!リレミト!!!」


 そう言って勇者は目の前で消えた。考えてみればすごい人だ。G.Fの力も借りず自力で魔法を使いこなすんだもんなぁ。武器を使わせても一流だろう。多分戦っていたら負けていただろな。


「あれが先輩か……下が出来ても、あぁいう風にはならないように気をつけなきゃ」


 ふと、横を見ると微妙な笑顔で鉄化している彼女がいた。どうすればいいか分からなかった俺は、何故か持ち上げようと試みたが、あまりの重さに挫折。とりあえず、リ○アの代わりにコールドスリープをすることにした。

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