#32 ゴシップガールは塔の上

 文化部棟有志による抗議行動は、風紀委員との直接対決の結果、数時間で鎮圧された。


 その一部始終は新聞部のリベラル系誌により詳細に伝えられた。

 規制線をくぐって堂々建物の内部から屋上に到達し風紀委員たちとの派手なワンド使用合戦の結果に全員確保された抗議活動有志の姿を太平洋校ワルキューレたちは「まあ、そうなるわな」と淡々と受け止め、風紀委員によって連行される彼女らの映像にものがなしげなBGMをつけて配信したリベラル系新聞の報道のありかたが「演出過剰だ」と批判された程度のことで終わった。

 抗議行動に移った元文化部棟民は本来なら叛乱を企てたとして厳重注意以上の処分を食らうとみられていたのだが、生徒指導担当の教職員に小一時間ばかりお説教をくらわせられ、自分たちが築いたバリケードを自分たちで撤去するよう命じられただけで解放された。謹慎にも停学にもならず、営倉や矯正キャンプに送られることも無かった。

 事実上の「おとがめなし」である。


「『生徒間のもめごとに教職員は口は出さない』、学園長のおはからいでござる」


 抗議行動の次の日、文化部棟で非常階段に築いたバリケード作業中のミナコとサランは雑談を交わした。


「成程ね~。その辺は一貫してんだね、うちの学園長」

「お陰で首の皮一枚で助かった格好にはなるが、しかしお上に判断で救われたという格好になるのは艶絵描きの端くれとしては忸怩たる思いが無いではござらん。良識ある者が眉を潜ませるほどの美を描くのが本懐であったというのにああもあっさり子供のポンチ絵として片づけられてしまうことはむしろ屈辱でござる」


 地上におろした机の上に座ったミナコは腕を組んで複雑な表情でうなる。あいかわらずのキンキン声のござる口調ではあったが、一アーティストとしての気概を傷つけられて憤慨している様子は隠さない。

 ミナコがそれほどの絵師魂を秘めていたことに打たれながら、サランは処分が軽くすんだことを単純に寿いだ。


「まあ、それでもさ、営倉とか矯正キャンプ送りそういう面倒なことにならなかったのは良かったと思うよう?」

「しかしサメジマ氏、表現活動の場のないこの太平洋校は巨大な営倉と変わらぬのではござらんか?」


 ふわふわの長い髪にうさぎの耳に見えるようにリボンを巻いたミナコはいつものようにひたすらコミカルな女の子にみえるのに、語る内容は重く深刻だ。その様子に戸惑っていると、二人のそばにすすっと近寄る者がいる。

 振り向くと、風紀委員の腕章をまいたものがいた。キタノカタマコの後ろに控えている侍女の一人だ。要注意人物のサメジマサランが接触していることに気づいて見張っていたのだろう。


「ケセンヌマさん、お片付けの手が停まっています。おしゃべりは控えること。サメジマさんは皆さんの邪魔をせぬよう」

 

 感情を一切感じさせない丁寧な言葉遣いで風紀委員長は二人を制する。仕方がなくサランはミナコから距離をとった。


 明日からまた九十九市へ向かえという、いつものルーティンワーク出撃の命令が二人に出ている。話はまたその時にでもの意味をこめて手を振って立ち去った。

 同じように手を振り返すミナコのそばで、風紀委員長はサランが十分に離れるまで、じいっと目で追っていた。くわばらくわばら。



 このような小規模の叛乱と鎮圧はあったが、大多数の元文化部棟住民は好き勝手にしぶとく生きていた。校内の空きスペースを乗っ取るものも少なくない。

 元卓上ゲーム研究会もその一つで、修練用具室を新たな拠点に据えていた。勿論無許可である。

 

 体育館裏にある修練用具室。サランはその日そこに用があった。

 

 タイガとのなんやかんやで不本意ながら慣れ親しんだ場所でもあるそこに近づくと、輪切りにした柑橘類の飾り付きヘアゴムで麦わら色の髪を二つにぎゅっと結んだビビアナが、何かを護るように立っていた。近づくサランに気が付くと、焦ったように一指し指を口元にたてた。

 それに従い、サランは声は出さずに手を上げる。ビビアナは猫のような足取りですばやくサランの傍まで駆けてきた。そして早口で告げる。


「サメジマ姐さん今ちょっとアレがコレでソレしてやすんでちいっとお引き取り願えるってことはできませんかねっ」

「? リリ子に今から行くって言ってあんだけど、アイツ今ここに居るだろ?」

「え⁉ ……っいやいや今いません、いらっしゃいませんから!」


 必死に修練用具室からサランを遠ざけようとするビビアナの努力は徒労に終わった。サランの視界に修練用具室の壁の前に立つ二人の陰が見えたから。

 一人が壁にもたれ、一人が壁に両手をついで持たれている方が逃げられない態勢をとっている。人気の少ない体育館裏に相応しい、古式ゆかしい求愛行動だった。

 壁に手をついている方の足元がルーズソックスとスニーカーなので誰と誰なのかが一目瞭然だった。


 自分が必死に隠そうとしていたものをサランがいともあっさり見つけてしまったことに気づいたビビアナが、そばかすの散ったその顔に焦りを隠さずサランの目を手のひらで塞いで封じ、早口の小声でまくしたてる。


「ち、違うんですアレはあれでしてそのっ、この前の一件のご褒美が欲しいってリリイ姉貴がタイガ姉貴におねだりした結果っつうやつで決して浮気とかそういうんじゃあ……っ」

「……ああ~……」


 サランの胸にじんわりと喜びがあふれる。隠した目の下の口をにやあっとほころばせるサランにビビアナは大いに戸惑ったようだ。え、姐さん? とサランを怪訝そうによびかける。


「あの、安心してくだせえっ。お二人はまだ未遂ですっ、タイガ姉貴ぐいぐい来られるのに慣れてねえんでなんのかんのはぐらかしてるのに我慢きかなくなったリリイ姉貴があの態勢にもってった所ですんで……っ」

「なんだよ。なんでリリ子相手だと急にグズグズになんのかねあのアホの子は……?」


 両目を塞いでいたビビアナの手を掴んで、サランはそのままてくてくと歩き出した。意味もなく体育館の周りを一周する気になったのだ。それくらいの時間があれば、二人はやるべきことをちゃっちゃか済ますことだろう。

 サランの急な散歩に付き合わされる形になったビビアナは戸惑いを隠さない。いちゃつく二人と鼻歌をもらしたい気分のサランを交互に見返す。


「あ、あのいいんですかいっ? 姐さんにしてみりゃタイガの姉貴は浮気ってことになっちまうんですぜっ?」

「そりゃ違うよう。正しくはトラ子にとってはうちが浮気相手みたいなもんだから。あの二人はああなるのが正解。――あ~長かった。やっと肩の荷降りた」

「? そいつぁ一体どういう意味で?」

「意味も何も言ったまんまだよう」


 清々した気持ちで歩きながらうーんと伸びをする。本当にサランは心から晴れ晴れした気持ちでいた。これであのややこしいメジロ姓の二人のお守りとしての立場から解放されると思うと嬉しくて仕方がない。足取りだって軽くもなる。

 そんなサランを半歩ほど遅れて歩くビビアナはサランの言った言葉の意味を受け止めかねるのか、しきりに首を傾げながらついて来る。


「でも、だって、いいんですかい姐さんっ。タイガ姉貴がリリイ姉貴のところに行っちまって」

「いいも悪いも、あいつら元々二人で一つみたいなもんなんだからトラ子がうちのとこに迷い込んできたのが何かの間違いだったんだよう。収まる所に収まってめでたしめでたし。なんも言うことない」

「……ええ~、そいつぁちょっと冷たすぎやしやせんかい、姐さん。タイガ姉貴に対してなんつううかこう、情っつうか、未練っつうもんが無えっつうんですかい? そりゃちいっとそっけなさすぎやすぜ?」

「未練? 未練なぁ……」


 ビビアナの批判めいた口調に触発されて、ついつい思わずタイガとの爛れた日々を振り返ってみた。そういやアイツは最近調子に乗って人の体をあちこちまさぐったりくすぐったりで散々翻弄して、こちらが根をあげる様子を楽しんでいたフシがある。そういう流れにあえて乗ってみて痴態といっしょにバカを晒してみるのもやってみるとそれなりに楽しくはあったが、冷静になってみるとあのアホの子の前で先輩としての威厳を手放したことについては悔やまれないこともなかった。

 最後に一回くらい、こっちが主導権を握ったまま思う存分ニャァニャァ鳴かせてごめんなさい今まで生意気言いましたって謝らせてみたくはあった。タイガはサランの体が敏感過ぎると耳元で囁いては悦に入っていたが、本人も負けず劣らず触られることに弱かった。大きさも関係しているのかどうか不明だが胸がことのほか弱かった。正面から背後からそおっと触れるなり指を沈み込ませるように揉むなりすると、赤らめた顔を背けたり猫目を潤ませて唇を噛んで必死に声を殺すも耐えきれなくなり小さな声をあげて崩れ落ちる。そういう様子は攻撃には強いが防戦になるとひとたまりもないタイガの性質そのものにも見えて、可愛らしいといえば可愛かった。


 ああいう顔はもう一回見ておいてもよかったかもしれない。

 そんな悔いがサランの胸にしみじみ湧き上がったが、ビビアナの顔を見て我に帰った。サランのことをおっぱい星人と罵る時のミカワカグラに通じる、理解しがたい人間に向ける眼差しをこっちへ向けていたからだ。


「ま、まあこれで良いんだようっ!」

「……いいんすかねぇ? あっしはこうみえて尼さんに育てられやしたんで神様に顔向けできないようなドライでオトナな関係っつうもんはちいっと肌になじみやせんや。病める時も健やかなるときも死が二人を分かつまでっつうのがやっぱり一番ですぜ」

「そんなこというならまずトラ子を注意しろよう。諸々の原因はアイツの気の多さだぞ」

 

 歩きながら十字を切って人を罰当たりなやつ扱いするビビアナに、サランは少々むっとする。

 そんなこんな、他部の小生意気でおしゃべりな一年坊主相手に無駄口を叩いているあいだに体育館の角を三つ曲がった。最後の角を回れば修練用具室の入り口にまで戻る。

 しかしその最後の角の手前で数名による集団がもろもろと集まっていた。大半が角の向こうをのぞき込んでいたが、遠目にも怪我人だと判る一人だけぶすったれて壁にもたれている。


「――あれ、お前んとこの先輩たちじゃないのか?」

「でやんすね。メジロの姉貴たちが今アレでコレでそうなってやすんで、入り辛いんすよ」

「……だろうなぁ」


 サランはしみじみ頷く。


 卓上ゲーム研究部は名目上はまだ存在している。しかし今やその実態はメジロリリイ後援会事務局である。数日前、バドミントン賭場の売り上げを巡る問題から始まった麻雀勝負の場にリリイが乱入した結果がこうである。

 負ける気がしなぁい――と本人が宣言した通り、リリイはそれから勝って勝って勝ちまくったらしい。相手に有利なルール、三対一という悪条件、そんな逆境をリリイはものともしなかった。華麗な指捌きと驚異の読み、そして場にながれるツキまで支配してたった一人で勝ち続けたという。

 天使のような微笑みを湛えることで自身の手の内を探らせず、相手を罠にハメて高配点の牌を何度も振り込ませ、グルになっている三人を仲間割れをはかるという心理戦を仕掛け、イカサマを見破ろうとした者が逆に牌に何かをしこもうとした瞬間を見逃さずに日傘の石突を手の甲に押し付けて指の二三本なくしてもいいのかとばかりにぐりぐりやって脅しつけたりしたものだから、卓上ゲー研の皆はすっかり委縮し疲弊し消耗したのだという。


「侵略者なんぞよりおっかねえ、悪魔ディアブロってぇのは地獄インフェルノじゃなく地上にいるって尼さんがおっしゃってたことはこれかって思い知りやした」


 夜通し行われた違法勝負に立ち会ったビビアナの感想がこれである。


 タイガの敗け分を取り戻した上に卓上ゲー研の実権や学校内外にバレてはまずい違法のあれこれの実態を掌握し、ついには、これ以上はもう勘弁してくださいと土下座で泣きと詫びを入れさせることに成功した。

 そうして、メジロ姓二人に逆らってもいいことはないと骨の髄まで染みわたらせた上で、リリイは自分たちに立てついた者たちを配下においたのだった。ちなみにタイガはリリイの代打ちが始まってすぐ、緊張と興奮から解き放たれて修練用具室のマットの上で爆睡していたらしい。


 メジロ姓の二人の配下となった卓上ゲー研の面々は、ビビアナと一緒に歩くサランに気づいて整列し素早く姿勢を正す。それをみてサランは身構えた。

 

 自分たちを有無を言わさずギュウギュウに負かしたリリイ<<<そんなリリイが一途に想いを寄せている婚約エンゲージ相手であるアホの子のタイガ<<<<<そのタイガがパイセンパイセンとやたら懐いてベタベタ甘えてる元文芸部員でフカガワハーレムのサメジマ先輩、という、ヒエラルキーが卓上ゲー研の中で出来上がってしまい、サランはこのアウトローワルキューレ集団に仰ぎ見られる席に知らぬ間に着かされていたのだった。

 さすがフカガワハーレムの謎多き新メンバー、メジロ姓の二人を手玉にとるのもお茶の子さいさいってわけかと、勝手にイメージを物騒な方向で上方修正された上でである。サランにとってはひたすらありがた迷惑な話であった。

 そんな中、未だ包帯をあちこちにぐるぐる巻きにした怪我人のワルキューレだけぶっすりした表情でサランを見返してくる。唇をとがらせて、お前なんかこわくないからなという表情で睨んでくる。これが先日タイガに危うく頭蓋骨をブチ割られる羽目になりかけた卓上ゲーム研究部の部長となる。アウトローワルキューレに仰ぎ見られるより、こういう態度の方がサランにとっては好ましい。


 先輩たちの元にてけてけと駆け出したビビアナが小声で訊ねた。


「どうでやんすかっ? 姉貴たちに動きありやしたかっ?」

「どうもこうもねえよ。あのままチューするのしねえの同じことばっか繰り返してイッコも進展してねえし」

「あのアホギャルがさっさとやることやってくんねえとうちら部屋に入れねえし」

「姐さーん、ちょっとアホの方のメジロにガツン言ってくださいよぉ」

「誰が姐さんだ? うちはお前らみたいな妹抱えた覚えはないっ」


 スレた雰囲気のアウトローワルキューレたちにそんな風に呼ばれ始めて憤慨しながら、同じように物陰からいちゃつくメジロ姓二人の様子を見守った。

 さっき見た壁ドンの姿勢から変わり、リリイがタイガの首に両腕をまわして甘えていた。常日ごろから一緒に行動したがったりリングの交換をせがんだりするわりに、リリイがこういった大胆な行動に出るのは結構珍しい。それくらい業をにやしているという合図の筈だが、タイガが緊張しているのがその背中の強張りでわかった。チッとサランは舌を打ち、小声で毒づく。


「せっかく時間作ってやったのに、何やってんだあのアホはっ」

「全くっすよ。そのせいでファンクラブ起ち上げが作業ずれ込んでるし」

「同時進行でバド賭場の片付け作業もやっちまわねえとなんねえっつうのに」


 メジロ姓の二人と卓上ゲーム研究部の面々が始めたバドミントン賭場は、文化部棟に籍を置く初等部一から二年の間だけに広まっただけの可愛いお遊びレベルで済まされるものではなかった。校外のアンダーグラウンド系ゲームサイトを窓口に外部から客を呼び込みつつ結構な規模で展開していたらしい。勿論、胴元である自分たちがワルキューレであることを徹底的に伏せたまま。

 文化部棟前の中庭で、ワルキューレたちがラケットでシャトルを打ち合って無邪気に遊んでいるバドミントンのプレイを、どこかのアンダーグラウンドなゲーム専門空間に用意されたファンシーな仮想空間内で可愛くて魅力的なCGキャラクター達がリアルタイムで再現していたのだ。観客たちはその勝敗を予測して金を賭ける。ネコやウサギ、イヌにリスといった可愛い小動物たちが擬人化したゲームキャラの中身やその運営がワルキューレだとおそらく知らないまま――。


 サランが知っているバドミントン賭場の真実はここまでである。ある機会にビビアナがもっと詳しく教えようとしてくれていたが、有無を言わさず口を閉じさせた。

 ここだけでも、露見すれば素行不良のワルキューレたちが流される矯正キャンプ行は免れず、下手すれば退学・放校即確定の大悪事である。これ以上のことを知ってしまうと、万一の時に共犯者として連座させられるおそれがある。いくら不熱心でもサランは高等部卒業までは太平洋校で頑張る気持ちでいるのだ。やってもいないギャンブルの関係者として処分をくらい、初等部中退の一兵卒ワルキューレとして後ろ指さされながら酷使されるような将来は絶対避けたい。

  

 そんな保身意識からも卓上ゲー研の連中とは適切な距離を置いておきたいという意志に反し、当のアウトローワルキューレ達は呑気にサランを尊敬し慕っていた。 

 リリイ<タイガ<サランのヒエラルキーに加え、「風紀委員が動きだすぞ」という情報を垂れ流してくれた先輩として一定の恩義を感じてくれてのことらしい。せいぜい一、二年生たちが小遣いをだしあって遊んでいる草バドミントンだと思っていたからこそ気軽に注意を促せただけにすぎないというのに。


「そもそもなんでリリイちゃんほどの人があのロケットおっぱいのアホギャルにあそこまで入れ込むんすか? 趣味悪くねっすか?」

「でもってなんであのアホもリリイちゃんじゃなく姐さんにベッタリなんすか? フツー逆じゃねっすか?」

「そんなもんうちが知るかようっ」


 卓上ゲー研のメンバーの言動から、リリイは非常に恐れられているがタイガは怒らせさえしなければどうってことのない存在だと軽く見られている状況をまざまざと把握させられる。まあ無理も無い。


 不意に背中をつんつんと突かれて振り向くと、包帯まみれの卓上ゲー研部長がサランをじいっと睨んでいた。

 モカ色の肌にストレートにした銀髪をボブにした猫背気味の姿勢、初等部二年の卓上ゲーム研究部部長の名前はパール・カアフパーハウというらしい。

 卓上ゲーム研究部は彼女を中心に立ち上げた部であるのも関わっていて、メンバーは全て初等部の二年と一年だ。というわけでサランがこの場で一番の先輩になるわけだが、パールは眼鏡型端末ごしにぶっすり不機嫌な眼差しを向ける。コンタクトを用いて片目だけブルーに演出した瞳でぎゅっと睨んでくる。 


「(ひそひそひそ)」

「え、何?」


 まくれ気味の唇を動かしてもそもそと語る声が小さすぎ、サランには聞き取れない。先日の通話では、リリイ相手に流暢なアウトロー弁で喋っていたというのにだ。

 その代わりにビビアナがサランに語って聞かせる。


「えっと、『なんでもいいからどっちかをとっとと連れていってくださいよ』って部長が仰ってやす」

「んー、まあ、うちもリリ子に用があって来たんだけど、あれじゃ声かけづらいし。つうかこの状況で邪魔したらアイツまた絶対ブチぎれるもん。そうなったら死ぬほど面倒だから待ってる方が賢い」

「(ひそひそ)っ、(ひそひそひそひそひそ)っ」

「えっと『そんなことそっちの都合じゃないですか。正直ぶっちゃけ邪魔でしかたねえからリリイちゃんに用事あるならとっとと連れてって欲しいんですけどっ』って仰ってやす」

「──待てビビ、本当にこの部長さっきの間でそれだけの台詞口にしてる? 盛ってないか?」

「(ぼそぼそぼそぼそぼそぼそ)! (ぼそ)!」

「あの『話そらすなっつんだよ、このちんちくりん!』と仰ってやす」

「なんでお前にまでちんちくりん呼ばわりされなくちゃなんねえんだようっ、まともに人と話もできねえやつにそんなこと言われたくねえぞ、この野郎っ」


 ムカっぱらの立ったサランと、眼鏡型端末をかけたパールは睨みあう。が、勝敗はすぐに決した。直接人と話すことができないくらい、人見知りが激しいらしい後輩がメンチの切りあいに強いわけが無かった。舌打ちしながら目をそらし、憮然とした表情でまた壁にもたれる。

 眼鏡型端末のスイッチを入れて、太平洋校以外のどこかきっとアンダーグラウンドであるにちがいない仮想空間にアクセスしながら両手を動かしてなにがしかの作業を始める。ちなみに島内から他所の仮想空間にアクセスすることはあまり推奨はされていない。非合法の場所などもってのほかである。

 うちは何も見ていない、感知していない、自分に言い聞かせるサランへのあてつけのようにパールは小声の早口で不機嫌そうに呟き続ける。


「(ぶつぶつ)っ(ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ)っ、(ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ)っ」


 顔の表面をチカチカさせながらパールは作業に集中する。何を言ってるのかとビビアナに視線で問うと、意を汲んだ一年生はちゃんと訳してくれた。


「えっと、『あの時あの頭の中が駄犬並みな乳デカアホギャル猫目女にぶちのめされなきゃあたしらはボロ勝ちを決められていた。仮にあの便所育ちの成り上がり極悪ラフレシアアイドルにカチコミされたところであたしさえ動けていたらあそこまでみっともない負けっぷりを晒さなかった。あんな飴食いハンパもんワルキューレの舎弟なんぞに落ちぶれたのも、あんたがあの時アホ女に通話なんかかけて来やがったせいだ。そのせいで潮目が全部変わっちまった』って仰ってやす」

「――なあ、ビビ? 本当にこいつそれだけの間でそれくらいの台詞口にしてんの? やっぱお前適当に盛ってんじゃないのか?」

「勘弁してくださいよ、部長のお言葉を盛って伝えたところでどうなるっつうんですかい」


 ビビアナの言葉を肯定するようにパールは頷いた。しかしサランの方は見ようとはしない。気が小さいのかふてぶてしいのかまるで分らないが、微妙に人をイライラさせる後輩であることは確かであった。

 そんな部長に部員たちはだらけた口調で話しかける。


「まーでも部長~、タラレバ言ったって始まりませんって。うちら敗けたもんは敗けたんだし」

「そうそう、大体リリイちゃんのケツ持ちやってんのファン家だよ? 長いものに巻かれた方が賢いって絶対~」

「部長んとこの親っさんなんて西海岸でイキってる女衒上がりのドチンピラじゃないっすか。しかもネブラスカとかからハリウッド目指して出てきたお姉ちゃん引っ掛ける自称プロデューサーでしょ~」

「んなちっせえ親っさん見切ってさぁ、ここでリリイちゃんバックアップして黄家の方に顔と名前を覚えてもらった方が得だって、得」

「(ぼぞぼそぼそぼそ)っ!」

「まーたそういうこと言う~。そもそも親っさんにワルキューレ仕事の上がりを持っていかれるのがイヤだって言ってたの部長じゃないっすか」

「そーだそーだ、だからバド賭場の話をあいつらにもちかけた癖に~」

「うちら十分もうけてたのに、あの時部長が余計な欲かくから~」

「(ぼそぼそぼそぼそぼそぼそ)!」

「だーれも部長が悪いなんて言ってねえじゃねっすか。それどころか結果的に黄家とお近づきになれてよかったんじゃねって言ってんだけどこっちは」

「そうそう、結果オーライオーライ」

「ま、部屋に入れねえのは困りますけどね~」


 卓ゲー研の面々には、パールの掠れた小声は普通に聞き取れるらしい。ぺちゃらくちゃらとアウトロー業界の事情がとびかうおしゃべりを始める。

 眼鏡型端末を額の上に押し上げたパールは涙目になっていた。まともにしゃべれないくらいだから非常に打たれ弱く、孤立無援の立場にされるのも苦手であるらしい。


「(ぶつぶつぶつぶつ)っ!」

「だぁからぁ、何も部長が悪いなんて言ってませんってこっちはぁ。ガキみたいな拗ね方すんのやめてくださいよ、も~」

「(ぼそぼそ)っ! (ぼそぼそぼそぼそ)っ!」

「あーもうわかってるわかってる、うちらの懐に金が入るために骨折ってくれたってのも分かってる分かってるって、感謝してるっても~、……これで満足?」


 後輩や同輩に軽く適当にあしらわれて、コミュニケーションに深刻な問題をかかえているらしいパールも黙っていられなくなったらしい。あの時リング越しに聞こえたのと同じ、アニメみたいな甘めのロリータ声で喚き散らした。


「うるさあいっ! お前らなんか嫌いだ、人にばっかり危ない仕事押し付けやがってこの恩知らずの腐れビッチども、まとめて黄家の連中の前でくっせえ股開いてろ!」

「あー? んだこら人が今まで大人しくしてやってたら調子こきやがって」

「それくらいデカイ声出せるなら普段から出してろ、この人見知り陰キャメガネ!」

「そーだそーだ、うちらにしか聞こえないような音域で喋るとか器用なことしやがって! コウモリかよ」

「つか何? 前から訊きたかったんだけどオッドアイとかなにそれっ。だっせ、はっず。カッコいい思ってんの?」

「ふんっだ、イカサマアリの三対一勝負でボロ負けしたお前らに何言われたって悔しくないねっ。つうかさ、恥ずかしくねえのお前らっ。あんな負け方したら恥ずかしくって外歩けらんないけどフツーはさぁっ!」

「別っつに~、タメの脳筋アホギャルにぶん殴られてビビッてしょんべん漏らす方がよっぽど恥ずかしいし~」

「そーだそーだ、十四にもなって恥っずかし~」

「……っ、言うっ? お前らそういう人の恥部抉るようなこと言うっ? なんなの、最悪っ、あたしお前らの為にさんざん危険な橋渡ってやったのに……っ」

「あーもう、またそうやって泣く~、結局泣いたら許されると思ってんだろ~?」

「大体、先に人のこと腐れビッチとかいったのそっちじゃん。なんで被害者ぶるかなぁ?」

「あ、あのですねぇ先輩方っ、お話も結構ですがちいと声が大きすぎやすぜっ」


 先輩たちの聞いていられないようなやり取りにたまりかねたのか、おろおろとビビアナが窘めに回ったが全く功は奏していない。

 それどころか、ザッザッと苛立ったような足音が近づいてきて、ひょっこりと体育館の陰から愛らしく顔を覗かせる者がいた。

 リリイだった。


「ねぇ~、みんな何を大きな声でお話してるのかなぁ~っ?」


 アイドルらしい満面の笑顔を浮かべているが、それを見た卓上ゲー研の面々は口々にひぃっ! と叫んでその場に整列する。

 委縮するのも無理は無かった。メジロリリイに接したことがあるものならわかる、仮面のような笑顔を浮かべていた上に、手にはトレードマークの日傘がある。石突の先をしっかりこちらへ向ける。


「私とたーちゃんが大事なお話をしてるんだけどぉ、もうちょっと静かにしてもらえるかなぁぁぁ~っ?」


 いや、あの、その……と口々に言いながら、皆はパールの背後に回った。まともに会話もままならない部長なのにこういう時は頼りにされているらしい。パールも不敵な笑みを浮かべて、端末を降ろしてリリイと向かいあう。

 そしてにこぉっとわざとらしく笑顔を浮かべると、舌ったらずなアニメ声で告げた。こう言う時はちゃんと声が出せるらしい。


「リリイちゃん、サメジマ先輩がお話があるんだって」


 どん、と背中を押されたサランはリリイの前に転がり出る。振り向くとパールはもう既に素知らぬ顔をしていた。

 コイツ……っ、と瞬間的に腹を立てたサランは腹をくくってリリイと向かい合った。案の定リリイはサランを見るなり露骨に天使めいた表情を引っ込めるなりつかつかと歩み寄って、サランの襟首をつかんで小声で刺すように囁く。


「大っきい声出さないでくださいっ、たーちゃんが気づいちゃいますからぁっ」


 目と声が必死だった。ここ数日みせた顔の中では一番余裕が無い。よほどの本気で迫っていたらしい。


「頑張って頑張って勇気だしてぇっ、やああっとあの状態まで持っていけたんですぅっ。サメジマ先輩じゃなく私を見てってぇ、私のために地球絶対破壊ミサイル受け止めてくれなくちゃ嫌ってちゃんと言ったんですぅっ。そこまでやったのに今先輩の顔みちゃったらぁ、何もかも台無しになっちゃうじゃないですかぁぁぁぁっ! なんで来ちゃったんですかぁぁぁ~っ? メッセージだって私、無視しましたよねぇぇ〜っ? 空気読んでくれませんかぁぁぁ~っ?」

「悪かった悪かった、そんな正念場だって知らなかったっ!」


 羞恥からか怒りからか、顔を真っ赤にしたリリイが日傘の先を突きつけようとするのを白刃取りの要領で押えて躱しながら小声でサランは謝る。空気を読んで体育館を一周していたことはこの際伏せる。説明している余裕だってないので手短に告げた。


「悪いな、ちょっと頼まれて欲しいんだよう」


 この正念場に人をパシリ扱いする気かと、凶悪に歪んだリリイの顔の前にサランは葉書を一枚差し出した。実家で書かされた暑中見舞いの残り葉書だ。

 宛先は、鰐淵珠里様へ、になっている。それに目を通して、リリイは概ね何かを察したらしい。表情から険を抜く。それを見こしてサランは小声で素早く告げる。


「これをワニブチに渡してくれ。頼む」


 ジュリ宛ての葉書、ということが分かった瞬間リリイはにっこり美しく微笑んだ。アウトローめいた凶悪さがきれいに消える。華奢な指先でそっと葉書を丁寧に受け取った。


「――了解いたしましたぁ」


 え、嘘、マジ、となぜか卓上ゲー研のメンバーがどよめく。リリイに使いっぱしりを命じるサランへの眼差しに尊敬の意が加わったのが気にならないではなかったのだが、今は構ってる暇はない。


「悪いな。アイツあの騒動以来うちからの連絡にまともな返事を寄越さないんだ。こうでもしないともう動きゃしねえ。お前、籍はまだ新聞部だろ? つうことはまだワニブチとの連絡係はお役御免になってないって解釈して構わないわけだなっ?」

「たとえお役御免になってたとしてもぉ、私、サメジマ先輩とワニブチ先輩の友情のためなら喜んでお手伝いいたしますのでぇ~」


 ふふふ、と心底嬉しそうにリリイは微笑む。そういう表情は本当に天使のようだ。実際心から嬉しいのだろう。リリイは常日頃からサランがジュリと関係を強めることを望んでいたのだから。

 しかし、その表情も軽快な足音と呑気な声が近づくにつれて一変する。


「リリイ~、あんまりそいつら脅すんじゃねえぞ~? 待たせてるのこっちだし。――つうかサメジマパイセンの声しねえ?」

「ううん! 気のせい、気のせいだから!」


 くるりとスカートの裾をひるがえしリリイは回れ右をすると、さっと駆けだして体育館の角の向こうへ消える。そしてタイガの腕を掴んで歩きだした。ちょっと気分を変えましょ、などと言いながらたくみにタイガをリードする。決して後ろを振り向かさない。手際の見事な後ろ姿を見送りながら、サランと卓上ゲー研のメンバーはおお~っと唸った。

 そして、サランを尊敬のまなざしで見つめる。


 自分たちでは太刀打ちできない凶悪な美少女アイドルに使いっぱしりを命じた。

 同時に自分たちの拠点である修練室の出入り口付近を塞いでいたメジロ姓の二人を簡単に排除した。


 それだけでサランの株は彼女らの前で数倍に跳ね上がったらしい。生意気そうなパールまで、オッドアイのふくれっ面に「なかなかやるな」という表情を浮かべている。

 しかしサランは全く嬉しくなかった。アウトロー達との付き合いはほどほどにしておきたい。




 なぜにどうして親友と会って話がしたいというだけで、こんなに遠回りを強いられるのかと考えながら、サランは九十九市内で上弦の月を見上げる。


 ちょうど中秋の名月でもある次の満月まであと数日だ。東京タワーを小型にして安易に模してみせた九十九タワーと明るい月の取り合わせはそれほど悪いものではない。満月になれば風流さも増すだろう。


 いつもの丁級侵略者の駆除を行うルーティンワーク出撃も完了し、いつものごとくくだらりとした形で散会になる。

 

 そしてサランはいつものようにセーラー服の上半身にジャージの下半身という姿でさんお書店へ向かう。今日の目当ては古本の購入ではない。満月を迎える前にどうしてもやっておきたいことがあるからだ。

 

 閉店間際のさんお書店のガラス戸を開けると、珍しいことにモンゴロイド系列ではない客がいた。金髪に白い肌、肉感的な体格のスラブ系の美女だった。漫画の単行本を差し出し、カウンターの中にいるミユに金を支払っている。タイトルを見れば、前世紀末に人気を博した少年漫画だった。つまり終わらない前世紀末の中に閉じ込められている九十九市では今まさに人気のある漫画ということになる。

 サランが入ってくると、スラブ系美女は紙袋に入れられた単行本を受け取って立ち去ろうとする。サランとすれ違いざまに、にっこり微笑んで「Добрый вечерこんばんは」と声をかけた。サランも愛想よくにっこり微笑む。

 ガラス戸の外から、スラブ系美女はミユに手を振ってから通りを歩いて去った。ミユも親し気に手を振って見送る。そのあとで、サランにいつものように優しく声をかけた。


「お待たせしたわね鮫島さん、こんばんは。みなさんお変わりない?」

「うち含めて文芸部の連中は一応肉体的には元気なはずですけど、文芸部っていうか文化部全体がほとんど死に体ですよう」


 サランのあけすけな返事にミユは苦笑を浮かべた。今回ばかりは、人のプライバシーを弄んだりするからそうなるのよというOGとしてのお説教は口にしなかった。あえて追い打ちをかける必要はないと判断したのだろうか。

 本題に入る前に、サランはふと尋ねた。店内に残る、さっきのスラブ系美女が残した香水の残り香に気を取られた。


「珍しいですね。この辺りでスラブ系の人がいるのは」

「ご近所でロシア料理店のマダムをされてる方よ、タチアナさんって仰るの。母語でおしゃべりができる人が近所に私しかいないから、時々おしゃべり相手になってるのよ。漫画もお好きなんですって」


 ミユは専科卒の士官ワルキューレだから、主要言語なら日常会話程度ならこなせるのだ。一見、エプロンとロングスカートのよく似あう優しいお姉さんといった風情のミユだが、こういう所をみるとプロでエリートなんだなと感心してしまう。やっぱり頼りになるOGなのだ。

 そして優しいOGでもあった。


撞木シモクのバカは最近姿を見せますか?」


 単刀直入にそう訊ねると、困ったようにミユは微笑んだ。そして、今日は早めに店を閉めるからお茶でも飲んでいきなさい、と声をかけてくれたのだから。



 満月ではないけれど、せっかく明るくてきれいなお月様だから。


 そんな理由でミユは縁側に座布団をだして、番茶とスーパーで買ったとおぼしきみたらし団子を用意する。風流なんだかそうでないのか分からないところが、満月ではない月を見上げるのにちょうどいいような気がした。


「撞木さんと最後に遭ったのは先月の終わりごろね。私のワンドを無断で持ち出した数日後よ。――その件に関してはあなたもよくご存じでしょう?」


 勿論である、時間が経ったせいで固くなったみたらし団子を噛みながらサランは頷いた。


 九十九市内でもお盆とされている八月中旬、さんお書店のカウンター内に設置したFAX経由で甲種侵略者が出現したという情報が入る。古本屋店主として働きながら、まだあたたかい感熱紙を手にミユはその報告にざっと目を通した直後、目を瞠る。

 あの一帯の時空間は安定しており、向こう百年は侵略者の出現は無いと目されていた。そこに甲種が出現するというのは本来あり得ない筈だった、「万に一つも」という慣用句を用いて断言したっていいくらいに。


 どういうことかしら、と、本部へ連絡するために受話器を持ち上げた時、ミユは気づいたのだという。文庫本のコーナーの前で、熱心に立ち読みをしていたはずのツチカの姿がない。けれども、明るく染めたシャギーの茶髪に、夏休みだというのに制服姿の女の子の姿はすぐに見つかる。ガラス戸の外の前に出て、東の空を見上げていたという。その手には、熱心に立ち読みしていた文庫本があったままだから、古本屋店主としてミユは「こら!」と注意をした。それでツチカは我に返った。

 店内に駆け込むと、あやうく万引きになりかかった文庫本をカウンターに置く。そして後で絶対買うからワンドを貸してと全く条件の成り立っていない取引をもちかけたのだという。


「あのいつも余裕綽々にふるまいたがる子が、びっくりするぐらい焦った様子でそんなお願いをするのよ? こっちも驚いたけれど、でも、ダメよって断ったわ。遠く離れているとはいっても異常事態が起きているんだから、この九十九市にも影響が出るかもしれない。私も警戒態勢に入らなければならない以上、あなたにワンドを貸せるわけがないって」

「そもそも普通は他人のワンドは扱えませんしねえ」


 もごもごと団子をかみしめながらつぶやくサランの台詞に、ミユは頷き苦笑した。元々ツチカが他人のワンドをわが物顔で扱える稀有なワルキューレであったことを知っているのかどうかそのあたりは明らかにせず、話を先に進めた。


「撞木さんたら、その時は『分かりました、ごめんなさい』、なんてしおらしい態度をみせたものだからこっちも安心しちゃって――。大失態だったわ」


 緊急回線で上層部に連絡を取り、詳しい情報と命令を仰いでいる間にミユの六感は警報を発した。何者かが無断でワンドを持ち出している。

 何者か、なんて、一人しかいない。目を転ずれば店舗と住居を仕分けるガラス障子が全開になり、茶の間の向こうの庭先で、ツチカがまさにミユのワンドに跨って空にふわりと浮かんだ所だった。


「あの子ったら、『ごめんなさい、すぐ返すから!』なんて言い捨てて、人目もはばからずぴゅうっと空を飛んで行っちゃったわ。――もうあの時は頭を抱えるしかなかったわね。私のワルキューレ人生も終わった、ああ小雨をどうしよう……って、日が暮れて撞木さんが悪びれもなく帰ってくるまで、本当に生きた心地もしなかった」

「……ムチャクチャしやがりますね、あの野郎……」


 サランはサランで侵略者を前に大あらわだた時、この九十九市でそんなことが起きていたとは思いもよらなかった。まさかシモクツチカはミユのワンドを無断で持ち出していたとは。相変わらず妙な無茶だけはする女だ。

 その時のことを思い出すとミユの中では悔いと羞恥が蘇るらしい、小さく頭を左右に振ってからはあっとため息をつく。


「あの子が帰ってきた時は、数年ぶりに本気で怒ってしまったわ。こっちで何も起こらなかったからいいものの、あなたの勝手な行動で九十九市市民を危険にさらしたんだって――。今思い出すと本当に恥ずかしいわね。油断した私が迂闊だったわけなのに余裕をなくしてしまって。あの子が涙目になるくらい怒鳴っちゃった……。ああ恥ずかしいっ」

「涙目? あの撞木シモクが? 涙目……っ?」

「やめてやめて、繰り返さないで。私本当に反省してるんだから……っ」


 耐えきれなくなったようにミユは両手で顔を覆った。本人にとってはよほどの黒歴史らしいが、サランは激高して怒鳴るサンオミユの姿が全く想像できなくて戸惑う。怖い顔を作って「めっ」以上の怒り方をするミユすら思い浮かべるのが困難なのに、あのふてぶてしいシモクツチカが涙目になるほどの激しさを想像するのは想像を絶した。

 それが本当なら、激高したミユというのはよっぽど恐ろしいのだろう。今後絶対怒らせない様にしようと心に決めた。

 そして、一応、やむにやまれず、致し方ないが、などと心の中でエクスキューズを並べ立ててから、ツチカへのフォローを渋々口にする。


「でも、まぁ、撞木のバカがそういう無茶してすっとんできてくれたからうちの地元が助かったのは確かっていうか……、動かしがたい事実っていうか……、なんつうか今度会った時はその辺フォローしてやって欲しいっていうか……」

「――あら」


 さっきまで顔を手の平で覆って恥ずかしがっていたくせに、ミユはサランのそういう苦渋に満ち満ちた仏頂面の発言を不思議そうに受け止める。心なしかどこか、面白がるようなニュアンスさえ漂わせて。


「珍しいわね。鮫島さんが撞木さんを庇うだなんて」

「庇ってなんかいません! たとえあのバカ相手でも感謝するべきところでしないのはうちの沽券にかかわるってだけの話ですようっ」


 そう言って親の仇のように固い団子にかぶりつく。そうやって甘辛い団子をかみしめるサランを、微笑ましそうに見つめたミユは数枚のFAX用紙を手渡した。


「侵略者を撃退してくれたのに頭ごなしに叱ったりして御免なさいって謝りたいし、鮫島さんがあなたをフォローしてって頼んでくれたことをあの子に教えてあげたいところだけど、撞木さんったら姿を全く見せないの。さっきも言った通り、八月の終わりに姿を見せて、熱心に読んでた田辺聖子とサガンの小説を何冊か買って『また来るね』って言って、それきりよ」


 プリントされているのは、太平洋校初等部のパジャマパーティーから九月初旬のゴシップガールによる情報漏洩、キタノカタマコの謝罪、それらの出来事をまとめた報告書だった。

 

「この件以来、撞木さんは私の前には姿を見せていない。あの子が私の前に姿を表したら最後、立場上、私はあの子の身柄を確保しなければならないもの」

「――そういう命令がでてるってことですか?」

「ええ。ただし、私が一番優先しなければならないのは小雨の眠りを妨げる存在の排除だから、撞木さんがそういう動きさえしなければ私はあの子を無視できる。私は街を護る者だからここからは決して離れられない。撞木さんがこの街の外にいるのなら私には確保の義務は生じない」

「ということは、撞木のバカは九十九市にはもういないってことですかっ?」


 それは困る、という思いと、そうあって欲しいという気持ちが、サランの中でぶつかる。その感情のゆらぎに戸惑うサランを見つめるミユには苦笑が浮かんでいる。


「――どうかしらね。無責任の誹りは受け止めなければいけないけれど、私はあの子にできれば外にいてほしい。でもあなたもよく知ってる通り彼女はなかなか一筋縄ではいかない子でしょう? 本当に今頃どこで誰といるんだか」


 そう言って、ミユは湯飲みの茶をすする。ネコの額ほどの庭には秋の虫の声が響いているが、その庭を囲むのはブロック塀だ。

 空には上弦の月、団子はスーパーのみたらしで、目の前にあるのはブロック塀。

 サランはというと上半身はセーラー服で下半身はジャージという、シモクツチカにバカにされた竹槍少女スタイルだ。三つ編みからボブに髪形が変化したところで、銃後の少女感が変わらないのがもどかしい。

 なにもかも中途半端でしまらない初秋の夜更けだというのに、サランの胸には寂しさだけがせつせつと湧き上がる。

 ジャージにくるまれた脚を縁側で曲げて、膝の上に顎を乗せた。

 そしてぽつんと呟いた。

 この優しい先輩ならきっと色んな気持ちを受け止めてくれるし、そういう言葉をすなおに吐き出せるのはきっと今しかない、そんな気持ちがサランにあったのだ。


サンオ先輩、うち、今度の満月に鰐淵に会って話そうと思うんです」

「まあ!」


 ミユの声が若干弾んだ。それについついむくれたサランはぶっきらぼうに続けた。


「ある先輩からのアドバイスもあって、どうせならうんとこっぱずかしくベッタベタにやってやろうって思って中秋の名月、泰山木マグノリアの木の下でリングでも交換してやろうと思ってんです。で、その旨書面で伝えて送りました」

「あらあらあら、まあああ〜……、そうなの。あららぁ、まぁぁ~」


 やだ、どうしましょう、と何故かミユの方が頬を赤く染めて挙動不審になる。お赤飯でも炊きましょうか等と言いだしかねないソワソワぶりだった。

 こういう態度や空気が大嫌いだからリングの交換だなんて恥ずかしい習慣には参加したくなかったのだ。でも事態はそんな段階をとっくに過ぎている。

 ヤケになった勢いで、サランは楽しそうに微笑むミユを軽く睨みながら尋ねた。


サンオ先輩はいつどうやって小雨先輩とリングを交換したんですか? お二人が太平洋校の時にはもう既にそういう習慣があったってことですか?」


 ミユは途端に無言になり、視線をそらした。ごまかすように湯飲みに口をつけて番茶をすする。自分だけ恥ずかしい思いをするのが悔しいので、サランは畳みかけた。


「満月の夜に泰山木マグノリアの木の下で請願するっていうのは、シャー・ユイが『演劇部通信』で勝手に作った掌編が元になった根拠ない伝説のはずですから、お二人の代ではなかった筈です。じゃあ、いつどんな風に交換したんですか? リング交換した時に将来こうやって一緒に過ごそうって約束したんですか?」

「ど、どうしたの? 珍しいわね、鮫島さんがこういうお話を持ち掛けるなんて――っ」


 ミユも珍しく狼狽えていることを隠さない。できればこのまま適当にはぐらかしてしまおうという年長者の思惑をサランも感じた。自分はこの優しくて怒らせると怖いらしいOGを困らせているなと自覚したけれど、サランは食い下がる。

 並みの覚悟でそこまでの決意に達したわけではないと、理解してほしかったのだ。


「リング交換したから、変則的な形でもお二人は今でも一緒にいられるんですか?」


 体育座りの要領で立てた膝の上に、サランは額を乗せた。

 鼻水が垂れ落ちそうになったので、すん、とそのまますすり上げる。庭では秋の虫たちが鳴いているにも関わらず、その音は思いのほか大きく響いた。

 ことん、と小さな音がする。ミユが湯飲みを縁台に置いたらしい。


「ご存じだと思いますけど、撞木のバカのせいで鰐淵は十月に危険な任務に就かされます。いくら上級以上の実力があるからって、普通なら初等部のぺーぺーに任せないような危ないやつです。ガチで死んじゃうかもしれないやつ」

「――」

「いや、撞木だけのせいってこともないかな。鰐淵もうちも、あの恋愛脳のバカのやらかしによくわからないまま協力していたのは確かだから。先輩がよく仰ってたように、他人のプライバシーを引っ掻き回した罰がこういう感じで巡り巡ってきたのかもしれない」


 ずずっと、もう一度音をたてて鼻水をすする。目頭をおしつけるジャージの膝には涙がにじむ。


「それでもとにかく、うちは鰐淵にってほしくないし、かなきゃなんないんなら無事に還ってきてほしいんです。そしてまた一緒に話したり、バカなことやったり、そうやって過ごしたい。高等部でも、養成校卒業してもずっと一緒にいたい」


 優しい手つきで、ミユが背中に触れる。とん、とん、と小さな子をあやすように一定のリズムで背中をさする。ぐしゃぐしゃになった顔をミユへ向けると、ミユはティッシュペーパーをサランへ差し出す。数枚引き抜いて、ビーっと音をたてて鼻をかんだ。


「――ワルキューレの友情なんて所詮養成校だけのもんだ。リングなんかとっかえたって、プロと予備役の間には生活環境の差が出てくるのは避けられないし、敵味方に分かれることもあるって撞木のバカは前にあのゴシップ文の中で分かったようなこと言ってましたけど、うちはそういうの嫌だ。あんな変なやつと学校だけのつきあいで終わるとか、嫌だ。あんな妙なキャラで固定させたままにさせとくなんて、あり得なさすぎて嫌だ。あの恋愛バカのせいで鰐淵とこのまま会えなくて死に別れとかも、もっと嫌だ」


 ティッシュをひきぬいて、サランはぐしゃぐしゃと目じりや鼻をこすった。嫌だ嫌だ、嫌、嫌と、頑是ないこどものように繰り返してぐずぐずと泣いた。

 満月まであと数日かかる月と、固い団子と、ブロック塀に囲まれた庭と、みっともない兵装で泣きじゃくる自分。何もかもがしまらないが、大人だけあってミユはサランを当然嗤ったりはしなかった。からかうようなことも言わなかった。ただ背中を擦って、泣かずにはいられない気持ちに寄り添ってくれる。


「リングを交換する風習、私達が高等部の時にはもうあったわね」


 身を寄せたミユは柔らかな声で囁く。庭で鳴いている虫たちの声とそれはほどよく響きあった。


「小雨に眠り姫としての適性が顕れたから、高等部に籍を置いたまま養成課程を打ち切って専科指導の特別課程の訓練を受けなければならないことが強制的に決まって――。青天の霹靂だった。前もあの子が言っていたけれど、私達、予備役になったら一緒に古本屋をやろうって決めてたものだから」


 すん、と鼻をすすってサランはミユの囁きに耳を傾ける。


「小雨はああいうひねくれた気性の子でしょ? あんなのはベタベタしていてみっともないから嫌だ、絶対やりたくないって否定的でだったのよ。あんな風にこれみよがしに見せびらかす連中の仲ほどすぐダメになるもんだって。私は正直リングの交換に心の中でとても憧れていたけれど、あの子がそんな風に言うから『交換しましょう』だなんてとても言い出せなかったわ」

「……」


 耳を傾けながら、意外だな、とサランはシンプルに考える。六月末、ずるずるした少女趣味のワンピース姿で缶ビールで晩酌していたサンオコサメの方が、どうみたってミユに執着していたのに。


「だから、ね。あの子ともう一緒に勉強したり部室で他愛もない話をしたり出来る最後の日に、どうしてもたまらなくなって、私からあの子にお願いしたの。リングを交換してって。小雨がこういうのを嫌いなことを知ってるけど、私はあなたと離れたくないし、一緒に古本屋さんをやる夢も捨てたくないからって。一生で一番の本気をだして頼んだの。私達しかいなかった部室でね」


 口説いたって言った方が正しいかしら、と、珍しく艶やかなセリフをミユは口にした。


「じゃあ、その時がリングを交換した日ってことになるんですか?」

「ううん。リングを交換したのは私たちが専科を卒業した日。だって、私がお願いした日にあの子がだした条件が『美柔ミユが一生私を護れる立場になったなら』だったんだもの。専科も出て曲がりなりにもプロとしてやっていける目途がたったんだから、もういいでしょう。もう待てないわって――……」


 そこまで話していて話が十四歳の女子の前ではなかなか情熱的な分野に片足つっこんでいることにようやく気付いて我に返ったらしく、ミユは露骨に話を変えた。


「まあ、ね、だから、私は、リングを交換した先輩としては、その、あれね。そういう気持ちは決してもろくて儚いものなんかじゃないって、思うのよっ。うん、そういうことっ」


 一旦涙の収まったサランがじっと見ていることに急に照れをと羞恥を感じたらしく、ミユはぱっと体から離れてしどろもどろになる。優しく落ち着いたOGが、こういうコミカルな仕草をみせるのは非常に珍しいのでサランはただじっと見つめる。

 この人は好きな人で二人きりでいる時はグイグイ来る人なのか、こういう一見大人しくて優しい楚々とした雰囲気の人から情熱的に迫られる気持ちってどんなものだろう、と、六月末にやたらと二人きりになりたがったコサメの様子を思い出しながらサランはついうっかり余計なことを考えた。

 そんな気持ちがサランの眼差しから漏れたせいか、ミユはごまかすように月を見上げた。


「それにしても、今はいいわね。満月の夜、泰山木マグノリアの木の下で――なんてそんな美しい習慣が出来上がってるなんて。羨ましいわ。沙唯先生のお手柄ね」

「でもだから、根拠なんてないですよう。雰囲気だけなんですから」

「根拠なんてなくていいのよ。大事なのは、何を賭けて何を信じるか。現に私は半年に一度しか遭えないけれど小雨と今でも一緒にいて、古本屋をやりながらあの子を護っているんだから」


 ミユはそう言って、自分の左手をサランに見せる。薬指にはこの街では無用の長物なリングが輝いている。

 そういえば以前、弾避け効果があると兵隊さんの間で評判を呼んでいたミナコの手によるジャクリーンのイラストが掲載された『ヴァルハラ通信』を出撃前のタイガに手渡していたのだった。鰯の頭も信心から、と言って。

 根拠のないただひたすら甘ったるくロマンチックなだけの仕来りだって鰯の頭だ。乙女趣味のシャー・ユイが作った掌編がベースになってるのだから、鰯の頭なんぞよりよっぽど信じやすく、ただずっと一緒にいたいだけだという願いだって託しやすい。


 最後にもう一度鼻をかみ、ぬるくなった渋茶を仰いでサランはミユに頭を下げてお茶と団子のお礼を口にした。


「お陰様で腹が決まりました」

「そう? お役に立てて何よりよ」


 そうやって微笑むミユはいつもの優しいお姉さまで、ついうっかりぽろぽろと情熱的な一面を垣間見せていたさっきまでの様子は伺えない状態になっていた。まして、一瞬でもサンオコサメを危険に晒てしまった恐怖からシモクツチカを涙ぐませるほど激昂したことがある人には、とてもじゃないが見えない。



 宿舎の門限までにはまだ余裕があるうちに、サランはさんお書店を後にする。 

 ビルの壁面をかけ上って屋上に出ると、予備校のビルのふりをした宿舎まで九十九市の上部を移動する。繁華街はあいかわらずまばゆくて、街の外れには北ノ方電機の工場の灯りが見える。

 

 空に雲もないせいか、満月に満たない上弦の月の下でも、今日の九十九市は夜でも随分明るかった。

 そのせいだったか、ふと視界に入った九十九タワーの鉄骨にサランは違和感を覚えた。


 ん? と、あるビルの屋上でサランは足を停めてタワーに向けて目を凝らす。


 見間違いか、と最初は思った。だから、瞬きを繰り返し、タワー上部の鉄骨を凝視する。まだ人通りが耐えていないバスターミナル前の九十九タワーを見上げる人はだれもいない。だからだれも、そこに人がいて、赤白に塗られた鉄骨の上に悠々と腰を下ろしていることに気が付かない。


 気づいたのはビルの屋上にいるサランだけだった。ちょうどビルの高さとその鉄骨の位置が大体同じだったせいもある。


 タワーに座って、前世紀末期モデルの携帯電話を耳にあてているのは制服姿の女子だった。

 茶髪のシャギーにやたら長い脚と短いスカートに、ルーズソックスのあの女。


 何度まばたきをしてもその姿は消えない。見間違いではない、シモクツチカはぬけぬけと、九十九市内に居座っていたのだ。


 その事実を目の当たりにした直後、サランの頭から宿舎の門限その他全てのことが吹っ飛んでいた。室外機や窓のでっぱりなどに足をかけながら、ビルの壁面をすばやく伝いおりて地上に降り立つとタワーの根本まで駆け寄った。

 


 満月の夜に泰山木マグノリアの木の下で、ジュリと再会する前にサランにはどうしてもしておきたいことがあったのだ。

 あの規格外で無茶苦茶で、恋愛脳の色ボケで、性格が歪んでいるくせに妙な面での思い切りがよく、サランの地元を助けたかと思えば自分の侍女だったワニブチジュリを危険に晒して一言の詫びもない、シモクツチカというあの女。

 

 あいつをどうしても一発は殴っておきたい。

 

 

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