現実の中に、いつの間にか異質が紛れ込んでいる。

 ホラーの短編集だが、読んでみるとこれまでのホラーとはちょっと違う。
 読者の意図しないまま、いつの間にか怪異が主人公たちの実生活の中に、紛れ込んでいるのだ。そして、ラストに主人公たちの現実が、怪異と地続きだったことが判明し、そこで納得する。納得して、背筋が凍るのはその後だ。ここまで時間差でやって来る不気味さを、小生は知らなかった。
 ホラーと聞くと、主人公がいた場所とは全く別の場所で怪異が起こったり、主人公自体が怪異だったり、何かの狭間だったり、伝奇的だったりする。しかし、この小説は、どこまでも現実的だ。例えばドライブ中の車の中。例えば何気なく乗り込んだバスの中。それぞれの主人公たちは、それほど怖い想いをしていないように描かれる。しかし、そのドライブやバスから離れてやっと、自分が置かれていた状況を把握し、読者も納得する。日常に隠れていたのは、もしかしてこうだったのではないかと。そして、それが現実に起きていたことを思い出し、ゾクリとくる。

 一話一話が短編となっており、とても読みやすいです。
 ホラーに現実味を感じない人や、心霊現象などを信じない方に、
 特にお勧めします。

 是非、御一読下さい。