第3話 相変わらず不服だらけの双子。

 冠城の目の前でいつもと同じように双子がリュックを枕にうたた寝している。いや、微睡んでいる。真夏の日差しは背後の木に程よく弱められ学生会室は比較的過ごしやすい。今日は窓から風が入る。気持ち良いのだろう。


 先日の中途退学者食い止め事案は予想よりは良い形で収まりつつある。荒井の周囲を巻き込む熱弁は教授陣大半を感動させ、やる気イマイチだった生徒達をも焚きつけた。結果、色々なところで変化が起きた。

 レポートの書き方を欠席した者も直接聞きに行けばやる気は十分と評価され、恫喝する教授の問題を良しとしない流れになっていたことで教授陣側からも諫める動きが出始めた。学生図書館も調べ物には我らこそがと声をあげ、様々なイベントを打ち出した。具体的にいえばレポート作成に役立つ資料や踏み込みたい人のためのレアな書籍の放出、レファレンス業務の売り込み。今まで意識になかった力強い味方として生徒も頼りはじめレポートの質が上がったと教師生徒共に好評だ。

 意外なところで先輩達が『〇〇教授の研究ノート』といったレポートだけではない注意点や面白話、ちょっと評価が上がるかもしれない裏情報を発信。それは楽しい日常のスパイスとなって異学年交流にもつながったらしい。

 双子は良い流れを阻害しようとしている人物を特定して状況や相手により冠城や教授へと情報を流したり、踏み出せないでくすぶっている生徒にさり気なく「こういうのがあるんだってねー」と水を向けたり陰で動いていた。双子は表に出るのを嫌う。だけど、誰よりも不満に敏感だ。

 

 近頃何となくではあるが双子の機嫌が悪い気がしていた。今日はちょうど自分達以外は講義で出払っている。久しぶりに聞いてみるかとさり気なく薄いノート2冊とボールペンを出して、おもむろに声をかけた。


 「最近、機嫌が悪いな」

 「……よく、わかるね」


 結城と勇樹が左右対称に向かい合っていた互いを見つめ、ピッタリ同じタイミングで冠城へと視線を向ける。気だるそうな、少しだけ興味を覚えた瞳。


 「お前達は機嫌が悪いと眠る率が上がる」

 「ふーん……よく見ているんだ、会長」

 「当然だ。で、どうした」

 「最近、嫌いなものが大挙しているから苛々しているだけだよ」

 「具体的には」

 「祭りと選挙と面談」

 「祭りは好きなんじゃなかったか?」

 「好きだけど、嫌いなの」

 「ほお?」


 これは聞き取りがいがあるぞと内心ほくそえみ冠城は淡々とした口調そのままにノートを開いた。双子の言葉は願い。住み良くなって欲しいという希望の種だ。そんな冠城に気付いているのかいないのか、双子は交互に、同時に話し始めた。


 「祭りは、色々なところで冷たい」

 「不便」

 「駐車場が有料のところが多いし、健常者以外は行きずらいし、休む場所も少ない、治安も悪くなりやすい、楽しいのに楽しめない」

 「あちこちの企業の駐車場、土日祝休みで閉めるなら、宣伝してもらうとか、片付けちゃんとやるとかの条件でイベントの時に開放すればいいじゃん」

 「そうしたら、すごく路駐とか減るのに」

 「混雑が、どこにもフォローがないから、不満が高じてトラブル増える感じが嫌い」

 「障害とまで行かなくても、疲れやすい人とか、怪我した人とかも人の流れに乗れないと嫌がられて悪態つかれたり、邪魔だって人間多いし」

 「休憩場所もそうだけど、動けない人のために出前みたく、少し離れた休憩場所に届けるっていうのもあればいいのに」

 「それにマナーが悪いやつのせいってだけじゃなく、ごみ箱少ないし」

 「人気がない仕事でもお給料出せば、こまめにゴミ箱を空けるってことはできると思うの。不審物が心配ならゴミ箱周辺の警戒を強めればいい」

 「なんでもボランティアって嫌い」

 「就職難でいっぱい困っている人がいるのに、ボランティアを全否定する気はないけれど、その一部でも収入を得られる形にできれば助かる人もいっぱいいると考えちゃうわけ」

 「寛容さっていうの? それが今の世の中すごく減っているなーってすごく感じるから楽しめないんだよ」

 「出店に行ったり、浴衣とか着飾って楽しそうなの見るのも、夜店も、特別感も好きなのに」

 「どーして楽しめないんだよ!」


 ダンッとヒートアップしてきた双子が身を起こして、やはり同じタイミングで机を叩いた。好き、ゆえに許せないというところらしい。まったくだと深く同意の念を滲ませ冠城は頷く。

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