ネイピアの違和感 回想 続き〜

「拾ったの」


「拾ったって

どこで?」


「あたしが生まれ育った星。

あたしが学生の頃を過ごした街にある神社だよ。


事の経緯、話すと長いよ。

大丈夫?」


「いいから話しなさい」


「わかった。

じゃあ、話すね。


あたしは昔から頭が悪く気が弱かったので、学校に行ってたときクラスメートからいじめにあっていた。


上履きや靴に画びょうを入れられたり、教科書を隠されたりは日常茶飯事だったので、

あたしはクラスメートとは孤立し、休み時間はいつも図書室で本ばかり読んで過ごした。


そして、ある日の放課後だった。

あたしはその日、私の下駄箱の中に別のクラスの男子からラブレターが入っていた。


ラブレターの相手は、私が図書室で本を読んでいるときにいつも会う男子。

その男子は私が本を読んでいるときにいつも、

声をかけてきて、

どんな本を読んでるのか聞いてきた。


あたしは最初、その男子が正直ウザかったけど、その男子はあたしが読んでいる本について自分でも読んで楽しそうに感想を話してくれた。

そして、少し打ち解けてきた頃くらいから、

あたしの表情から悩みとか察してくれて、

親身に相談に乗ってくれるようになった。


あたしが勇気をもってクラスメート達からいじめにあっていることを告白したら、実はその男子もいじめにあってて、

一人の時間を潰すために図書室に来てたということを打ち明けてくれた。


そして、その男子生徒からあたし宛にラブレターを貰ったのは、男子生徒もいじめにあっていたことを聞いた次の日だった。


あたしはもちろん、その男子生徒は人間として好きだった。

だけど、本気の恋愛をしたことが無い自分には、

どうしてもその男子生徒を恋愛対象としてみることができなかった。

男子生徒に告白されたら、勇気を持ってお断りしよう。


ラブレターには明日の放課後に校舎の屋上でと書いてあり、あたしは前の日、自分に対して本当に親身に接してくれる唯一の男子の心を傷付けるかもしれないという不安と、自分の気持ちと向き合う覚悟を持つために一睡も出来なかった。


そして次の日、やっとのことで勇気を奮い立たせたあたしは、放課後男子生徒に会うため校舎屋上に向かった。


屋上にはあたしの予想に反して、あたしのクラスの生徒を含めた男女が8人いた。

そして、あたしはある強烈な違和感に激しい憤りを覚えた。


生徒8人の輪の中心にいて、ほか数人と楽しそうに駄弁りながら笑っていた人物。

その人物こそ、図書室であたしに親身に話しかけてくれた男子であり、ラブレターをくれた男子張本人だったからだ。


「え、あの……?

これって一体」


「ぷっ、ウケるんですけど。

みろよ、俺当たった!」


「ちくしょう。

俺は流石にバレバレだから来ないとふんでたんだよなぁ〜」


「ちょっと二人とも露骨すぎよ〜、流石に泣いちゃうって、クスクス」


「あ、あ、あの……、……さん、昨日私に手紙くれましたよね?

これって、どういうことですか?」


「ごめん、屋上ってめっちゃ風つよいじゃん?

声ちっさくて何言ってるのか聞こえないん

だけどー!!」


「私が聞きたいのはー!!

私を騙してたってことですかー!?」


「あ〜ごめん。もう一回言って」


「もう、いいです……」


クスクス、ハハハ、アハアハ


あたしは一人、泣きながら家に帰った。

そして、ポストに自分宛の手紙が。


あたしは、またあいつの仕業かとその手紙を破り捨てようとしたが、全く破れない。


何よこの手紙!?


ハサミで切ろうとしても歯が立たなかった。

その手紙の開け口には、


無理矢理破いたりしようとしても無駄。

自分に必要か必要じゃないかは中を読んでから判断しなさい。


といった内容が書かれていた。

あたしは手紙を奇麗にあけて読んだ。

そして……。


手紙にはこのように書かれてあった。

あなたが自分に自信を持って生きられるように

あなたに能力を授けます。

あなたに拒否権はありません。

騙されたと思って、街内の神社の境内に来てください。

もし、日付が変わる時間までに来られなかった場合は……。


そこで手紙は終わっていた。


私は怪しい手紙だと不安に思いつつも、

手紙の最後が気になって仕方がなく、

けっきょく境内まで行ってしまった。


あたしが神社に向かった頃には辺りは既に暗くなろうとしていた。

境内のお賽銭箱までたどり着くと、

お賽銭箱の直ぐ目の前には、

空間を切り取ったのかと疑うほどに真っ白な机があり、

その机の上にはポストに入っていたのと同じような手紙と、そして小さな両耳用のワイヤレスイヤフォンがあった。







え〜と、つまりこんな経緯で拾ったんだよ。


「なるほどね。

ただし、拾ったと言うよりは、依頼人が他の人に見つからないようにあなたにこっそり託したって言うほうがしっくりくるわね」


「そうかな」


「ところで、そのイヤフォンを付けてから

あなた自身について、手紙のとおりに何か変化はあったかしら?」


「何故かクラスメートにいじめられなくなって、

身の回りの人達があたしに優しくなったんだ」


「ねえ、ナルータ?

今のあなたの話を聞いて、私からあなたに言ってあげられることが2つあるわ」


「え、何?」


「一つ目。

あなたのそのイヤフォンが発信機の役割になっているわ」


「え、そうなの?

あたしはアイラ様とは手紙でしかやり取りはないし、顔も声も面識は無いよ」


「あなたが例えそうであっても、

あなたが今どこにいて、誰とどのような話をしているのか、音声や映像を通して絶えず相手、

つまりアイラの方へは筒抜けでしょうね」


「え、やっぱそうなんだ……」


「それともう一つ。

この問題はあなた自身がどう考えるのか、

あなた次第なんだけどね。

自分自身では何も努力せずに誰かの力を借りる。

そうやって自分が生きやすくなったって、

本当にそれであなた自身自分を好きになれるのかしら?

胸を張って生きられるのかしら?

あなたらしい生き方と言えるのかしらね?」


「実はね、あたしもその事は薄々感じていたんだ。

あ、そうだ!

ネイピアちゃんにお願いがある。

あたしの耳について外れないイヤフォン、

外すの手伝ってくれない?

そのまま壊すか捨てるかするつもりだから」


「ほんとうにいいの?」


「いいの。

あたしは自分で努力したいから。

だから、あたしにはこれいらない」


「わかったわ。

ちょっとじっとしててね」


「あ、うん」


「あら、両耳とも簡単にはずれたわよ」


「ほんとうだ!

何でー?

あたし自分自身では外せないような特殊な作りなのかな?」


「ねえ、ナルータ?」


「はい?」


「今外した発信機は?」


「これだよ。

握りつぶしたよ」


「ナルータ握力半端ないな。

イヤフォンもう原型を留めないくらいバラバラじゃん」


「本当。

確かにさっきまでつけてた発信機付きイヤフォンに間違い無さそうね」


「ラジアナ、伏せて!!」


「え??」

シュン!!!!


「は・・・!?」


「危なかったわね」


「ねえネイピア?

一体、これどういうこと?」

納得できないというラジアナの不可解な顔。

突然の理解できない状況にネイピアに対する疑念はなかなか拭えないでいた。


ラジアナが感じた突然の理解できない状況とはつまりこうだ。

慌ててラジアナのところに詰め寄ったネイピア。

ネイピアはラジアナの頭を掴んだかと思うと、

なんの躊躇もなく無理矢理空間の下方へとねじ伏せた。


「急にあんなことするからあたし舌かんじゃっ、たじゃん!!」


「あなた本当にバカよね。

さっきのあなたにしたことにはちゃんと理由があるのよ。

感謝はされても、文句言われる筋合いは無いわよ。

まあ、頭の足りないあなたに宇宙ゴミの危険性をいくら説明したところで時間の無駄なのでしょうけど」


「なんだとー!」


「まあまあ、二人とも落ち着こう?

ね?」


「ナルータは黙ってて」


「う、うん。わかった。

(あ、そうだ。今のうちに……)


ボッ!

バチバチバチ


「ちょっと、ナルータ?」

「えっ!?」


「どうしたんだよ、急に変な声出して」


「驚くよ。

目も合わせないまま急に話しかけられたんだもん」


「あら、ごめんなさいナルータ」


ラジアナの方向を向いたままのネイピアが、

突然ナルータに話しかけたのだ。


「ねえ、ところで……?」


「何?」


「発信機は壊れたんだし、わざわざ燃やさなくてもよくないかしら?」


「……、

いいの。

これはあたしのけじめだから」


「ナルータ、どういう風の吹き回しだよ。

今日やけに潔いじゃん」


「え、普通だよ。

ところで、さっきまで二人喧嘩してなかった?」


「私とラジアナとはいつもこんな感じよ?」


「そうそう。

その時はお互いイラっとするけど後には引かないよ、

あたし等」


「二人とも、立ち直り早すぎだよー」


「そっかぁ?」



「ところでねえ、ナルータ。

一つ聞いてもいいかしら?」


「え、何かな?」


「一つどうにも不思議なことがあるのよね。

空気のない宇宙ではものが燃えるのに必要な酸素が無いはずなのだけれど」


「不思議、そうかな?」


「あなた、当然そのこと知ってて、

わざと火をつける直前に水筒を開けて、

綿棒で極少量をイヤフォンに塗って着火したのよね?


極低温で保存した液体酸素を入れたその水筒」


「ネイピアさ、何でナルータが壊れた発信機燃やすときに水筒開けたところまでわかったの?

あのときあたし達二人で言い合っててナルータとは全然違う方を向いてたよね?」


「手鏡で見える角度を調節したのよ」


「マジで!?」


「……。

誤解されないために説明しておくけど、

水筒を予め用意してたのは、火を付ける為じゃないよ。

あたし能力使い終わった直後は今みたく呼吸が荒くなるから、呼吸を落ち着かせるために酸素を吸引しようと持ち歩いてるんだよ。

そしてもう一つ、何故今あたしが水筒の液体酸素を使って火を付けたのか。

あたし元々知ってたんだよ、宇宙で火をつけるときには酸素が別にいるっていうこと」


「その知識あたしは全然知らなかったのに、よくそんな小難しいこと知ってたねナルータ。

頭悪いって自分で言ってた割にはさ」


「実はさ、ネイピアやラジアナと出会う少し前にネットで調べたの」


「そもそも何で調べたんだよ?

宇宙で火をつけるシチュなんてそうそう無いだろ?」


「片親の親戚が仕事で二日間出張に行ってる間だけ、あたしは自分の両親と一緒に甥っ子の面倒をみていたんだ。

そのときだよ。

甥っ子に理科の宿題を手伝って欲しいって言われて手伝ってたら、調べていたサイトにそう書いていたの」


このタイミングで

ラジアナは二人の会話に割って入ると、

ネイピアにヒソヒソ耳打ちをした。

「ねえ、ネイピア?」


「何?」


「手鏡なんてさっき持って無かったじゃん」


「あれはハッタリよ」


「じゃあ尚更なんでわかったの?」


「別に、わざわざ見なくても、

宇宙で火がついたという事実がわかった時点で、着火時に必要な支燃性ガスが用意してありそうなことくらい容易に推測できるわ。


吸入する酸素濃度は健康な人で濃度40%以下でなくてはならなないの。100%純粋な酸素は猛毒で、それを吸うと人体の細胞分子なら電子を奪って次々と組織を破壊し、やがて死に至るはずよ。


それに、もしナルータの症状が本当に過呼吸だとしたら気体の二酸化炭素のほうがむしろ必要なのよ」


「そうなんだ。

じゃあさ、ネイピアはナルータが何の為にあの水筒持ってきてると思う?」


「武器」


「そ、即答!?」


「実はね、あの水筒を武器として利用した場合の被害をフェルミ推定で影響を推測してみたの。


450mlの液体酸素と同量の燃料が入った水筒を投げ、その水筒が破裂すると仮定。


液体酸素爆薬の爆発熱は約2,200 kcal/kg1。450mlの液体酸素の質量は約0.5kgなので、

液体酸素の爆発熱は約1,100 kcal。


爆発熱は爆発エネルギーと等しいと仮定。


1 kcalは約4.2 kJなので、爆発エネルギーは約4.6 MJ。


爆発エネルギーは爆速の二乗に比例。


液体酸素爆薬の爆速は約4,500~5,000 m/s1。


爆速の平均値を4,750 m/sとすると、爆発エネルギーは約1.1×108 J/kg。


と推定できるわ。

これは約26 kgのTNT火薬の爆発エネルギーに相当する大きさよ。

何の対策も無しに初見殺しでこのレベルの攻撃を受けたとしたら、いくら5次元少女の私達であったとしても、決して無視できない規模の被害を受ける可能性があるわ。


しかし、これはあくまで仮定の話よ。

実際の爆発のエネルギーや被害は、水筒の中の液体酸素と燃料の量や種類、着火装置の設定、水筒の材質や形状、水筒の投げ方や着地点、敵の位置や状態などによって大きく変わるから。


ラジアナ?これであなたの質問の答えになったかしら?」


「ニホンゴでok?(΄◉◞౪◟◉`)」


「ウフフ♪

あなたってホントわかりやすいわ。

ラジアナ、あなたが私の話の内容を理解するときっとこう疑問に思うはずよ、

TNT換算で26kgの威力って結局私達どうなるのかってこと」


「う、うん」


「真空中だから影響は広範囲にまでは広がるわ。

約26 kgのTNT火薬の爆発エネルギーは、約40m以内の木造家屋を破壊できるほどの威力があるの。つまり、約10棟の木造家屋を一度に吹き飛ばせるくらいってこと。


私達がこの爆発に巻き込まれると考えてみて?

チームが壊滅状態になるのは必至ね」


「じゃあ、あたし達は不用意に半径40m圏内には集まらないほうがいいよね?」


「そうね。

なんとなく話はわかった?」


「う、うん。なんとなくはね」


「だから、純粋酸素の、しかも気体の酸素ではなく液体酸素を調整器を使わずに水筒から直接吸引という事自体が説明としてナンセンスだわ。

それに、

ナルータななぜあんなに焦って発信機を壊したのか?


なぜあんなに焦って燃やしたのか?


なぜ、木造家屋10棟を一度に吹き飛ばす程の危険な液体酸素をわざわざ持ってきたのか?


他にも不審な点を拾い出すときりがないわ」





じ〜。

じ〜。


「あのねネイピアちゃん?

あたしの顔にまだ……、何かついてる?」


(本当にあの発信機は燃えて宇宙のチリになったのかしら?

例えば、燃えた分とは別に……もう一つスペアがある。

そういう線は無いかしら?


……。

私がナルータの全身を観察した限り、

その線だけは、少なくとも無さそうね)


※読者視点で考えてもっと根本的な違和感(回想の内容と最初のほうで描写された実際の内容に一部根本的な食い違い)がありますが、その謎については後々明かされます。

この物語を読み解く鍵。

それは、これが彼女達の情報戦だということです。




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