ストレンジ ジェネシス
グラグラ
「おや、また地震ノラか?」
グラグラグラグラ、グラグラグラグラ
「今、今度の揺れはさっきより、は、激しいなりー!」
グラグラ、グラグラ
激しい揺れは3分程続いた。
そして。
・・・・・・
「ふぅ〜。
やっと収まったノラか」
コポコポ
「おや、今度は何の音ナノら?」
地面の下から微かに聞こえるコポコポという不思議な音。
アイピスは地面にうつ伏せになると、耳を地表に当てた。
グツグツ
「水が沸騰するときみたいな音が聴こえてくるノラ」
と、アイピスが発した次の瞬間。
ドドーン!!!!!!!!!
「い、痛てぇえええ!!!」
それは一瞬の出来事だった。
アイピスの片耳をわずかにかすめたもの。
それは、
※恐ろしく超低温でかつ粘度の無いサラサラとした無色透明な液体だった。
アイピスが反射的に右手で振り払ったその不思議な液体のサラサラとした痕跡は、決して耳や右手に残ることは無かった。
それはまるで気化したドライアイスやエタノール溶液のような様相で、
アイピスが気がついたときには既に視界からは完全に消え見えなくなっていた。
但し、もくもくと立ち昇る冷たい水蒸気のようなものと
右耳と右手の皮膚から浮き出た赤い紅斑を除いては……。
そのような不可解な性質を持つ謎の液体が、
つい先程、ほんの一瞬の間に太さがアイピスの身長程ある巨大柱となって地中から天に向かい突き上げられたのだった。
「し、死ぬかと思ったノラ」
ドーン!!
ドドーン!
ドーン!
先程の液体の噴出が、星内部の一時的な均衡を破るトリガーになったのだろうか。
アイピスの周辺の地面からも、液体の柱が次々と天に向かって突き上げ始めた。
「こ、怖いノラ〜!」
アイピスは一人、地面に膝を付くと頭を庇う格好で縮こまった。
周りにいる者は気絶している二人と、
既に絶命したネイピアだけである。
ドドドーン!!!
今度の音は近かった。
アイピスは背後を振り向くと、すぐ近くに
液体の柱ができていた。
その液体の柱が出来た場所。
そこは……。
「ネイピア〜!!!」
ネイピアがいた場所。
そのすぐ下から液体が突き上げていた。
いろいろな場所から一斉に吹き出した液体の突き上げも、時間の経過とともに段々と威力を弱め、そして次第に収まっていった。
ネイピアがいた場所から吹き出した液体の流出もようやく収まってきた。
しかし、自分では為す術もないような規模で次々と襲いかかってきた超自然的な天変地異にアイピスはまだ怯えていた。
本能的に込み上げてくる恐怖から周りの状況を冷静に注視することができないでいたのだ。
「あれ……?」
突然、まるで感情の糸がふっ切れたかのように
アイピスの態度は一変した。
そして、上体を起こし前方を見渡した。
低温の液体による仕業とはいえ、
ネイピアの遺体の痕跡が
綺麗サッパリ跡形も無く消え去っていたことに対してアイピスは強い違和感と疑問を感じたのだ。
ビクッ!
背筋が凍るような感覚。
首筋にチクリと寒気を感じた。
「さっきまで気配なんて全然感じられなかったのに、変ノラ」
アイピスがゆっくりと後ろを振り向くとそこには……。
身体同様に全身からもくもくと冷たい水蒸気を放つ赤褐色の刀身。
その刀先がアイピスの頸椎に向けられているのだ。
瞳孔の消えた白目。
そこからはまるで生気が感じられず、
今何を視ているのか、何を考えているのかすら読むことが叶わない。
自身が生み出す一切の気配を掻き消すかのように、足元は地表面から僅かに浮いている。
露出した肌も含めた全身が赤褐色の岩石と同質化している。
まるで生命から無機物にでもなったかのように
表情を失い変わり果てた少女の変貌ぶりに対して、
アイピスは自分の目を疑わずにはいられなかった。
しかし、見間違うはずはない。
そこにいたのは確かに、
死んだはずのネイピアだった。
※ほぼ中性子だけでできていて、通常の原子核よりも密度の高い量子液体。
中性子星内部の外核では、中性子2個がペアをつくり超低温下での超流動状態で存在していると考えられていますが、詳しい性質については未だによくわかっていません。
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