困難は分割せよ

「しかし、困ったわね。

今わかっている情報を整理するわ。

まずは私達に不利な情報から。

 一つ。私達の近くに目では見えない敵がいるって言うこと。

 そして、二つ目。

その敵にうっかり触れてしまうと、触れた物体は問答無用に存在を消されてしまうということ」


「ねえ、ネイピア?

どうしてその物質に触れただけで存在が消されちゃうの?」


「存在が消されるって言うのは表現が正確じゃ無いわね。

 触れた物体も、その物体を構成する全ての物質がストレンジ物質に変化してしまうのよ。

 また、ストレンジ物質に変わるときに元の物質の質量や体積も変化して小さくなる。

だから見えなくなると言うわけよ」


「なるほど!

話の腰をおってごめん。

それで、さっき言っては今わかってる情報ってとこ」


「私達に不利な情報を話していたわね。

要約すると

1 見えない敵である。

位置や動作が掴み辛い

 考え得る対策

対象を直接観察することだけに囚われるのでは無く、間接的に相手の位置を探る方法を考える。

 対策の弱点

相手の位置が把握出来ても、相手の感染を阻止する方法は別に考えないといけない。


2 接触による被害

触れても触れられても駄目。

 考え得る対策は……」


「もういいよ、ネイピア。

アタシもううんざり。

無理ゲ、積みゲー確定じゃん!!」


「落ち着きなさい、ラジアナ!」


「だって、目に見えないし、

触れても触れられても即死な相手なんて

卑怯過ぎじゃーん!

 そんな無茶苦茶な敵アタシらに倒せる訳無いって。

あー、最後の晩餐、最期くらい美味しい料理食べたいなー!」


「私達に有利な情報だってあるわ」


「有利って何が?」


「私達に有利な情報

1 少なくとも今私達は存在している」


「だから何なのさ?

確かな裏付けや期待値からしか動かないネイピアらしく無いじゃん。

この期に及んでスポ魂や青春ドラマにでも目覚めたわけ?」


「まだ話は途中よ。

私達が今存在するのは宇宙空間。

しかし、宇宙空間と言えども物質や素粒子は少なからず存在するはず。

 それなのに、今私達のところまではストレンジ物質の感染は届いていない。

つまりそこから導き出されるのは……」


「導き出されるのは、何なノラ?」


「私達に有利な情報

敵はウイルスのように、物質を媒介してでしか

私達の方向に移動したり攻撃をしかけてくることが出来ない。

 また、ストレンジ物質の感染は全ての種類の物質に対して等しく同じ速度で作用する訳では無い」


「つまり、敵はウイルスのようにしてしかオイラ達に攻撃をしかけてこれない。

そしてまた、感染のスピードは

媒介する物質の種類で違うって、そういうこのナノら?」



「じゃあさ、ストレンジ物質の感染が効きにくい物質で直接叩いちゃえば!?」


「そう簡単では無いの。

ストレンジ物質の感染に耐性のある抗ストレンジ物質が存在することと、

ストレンジ物質の感染自体を止められることとは同じじゃないから」


「ねー、ネイピアちゃんー?」


「わっ!

ナルータ、そういやあんた居たんだ!」


「居たんだって、さっきネイピアちゃんが私の話出してたじゃん。

ラジアナちゃん酷いよー!」


「悪かった悪かった」


「それでどうしたの、ナルータ?」


「実はね、私ネイピアちゃんのさっきの話を聞いてて思ったのー。

ストレンジ感染が効きにくい物質をネイピアちゃんの必殺技で解析したらどうかなー?」


「アホか!」

ポコ

「痛ーい!

何でー?ラジアナちゃん酷ーい」


「ストレンジ物質の感染が効きにくい物質を突き止めだからって、その先どううすんだよ」


「いいえ、それいい案かもしれないわ」


「え、いいの?マジで?」


「ストレンジ物質を抗ストレンジ物質で一旦閉じ込めるのよ。そして、閉じ込めて時間稼ぎしている間にクオリアを呼んできてブラックホールに吸い込んでもらう。

実際、ストレンジ物質感染の連鎖反応を収束させる為の仮説として、ブラックホールに吸い込ませる方法が考えられているのだから、感染出来ない空間に閉じ込めるという方法が一番現実的でしょうね」


「でもさ、アタシさっきから聞いてて思うんだけど、

 感染が効きにくい物質を突き止めたところで、

それをどうやって増やしたり、

ストレンジ物質を閉じ込める袋状に変形させたりするつもりなのさ?」


「それには私に考えがあるわ。

さあ、ストレンジ物質の感染が私達のところまで届いてしまう前に、解析を始めるわ」


「ねえ、ネイピアが解析してる間、アタシ達はどうしたらいいの?」


「感染は濃い部分と薄い部分、そのように分布しているはずだから迂闊に動くのは危険よ。

背後にも迫っているかもしれない。

だから、私の解析が終わるまでじっとして動かないで」


「わ、わかった……」



五分後。


十分後。


十五分後。


「ねえ、ネイピア?

そろそろ解った?」


「ええ、わかったわ」


「で、結局アタシらはどうすればいいんだ?」


「ラジアナ?

あなたはここで動かずじっとしていて。

私はストレンジ物質を一か所に集めてくるから」


「ちょっ、ネイピアあんた正気?」


「大丈夫よ。

それと……、ねえアイピス?

あなたにお願いがあるの」

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