心層科学ファンタジー《イーハトーヴ》5次元少女 ★第【2】部★

作戦の下準備

（ラジアナ？

5番目の体細胞の採取はまだ終わらないのかしら？）

（まだー！）

【舞台は戻り再びゾウの胎盤の中。

　ラジアナは不思議な形をした注射針を胎盤の内壁に押し当てながら、テレパシーを使いネイピアと会話している。

　ラジアナはネイピアから予め３つの道具を渡されていた。

３つの道具。

　一つ目は成分をデータ暗号化して送信することが出来る特殊な注射針。

　二つ目は片手にやっと治るくらいのレトロなデザインの丸いレーダー。

　そして三つ目。片眼を覆うディスプレイに相手の表情のワイプや数値が表示されるスカウターである。

（早くしてちょうだい）

（わかってるってばー！

あれ？

ねえネイピア？）

（何？）

（ここ付近の細胞はさ、さっき言ってた生殖に関わる細胞が紛れ込んで集まってできてるみたいなんだけどどうしたらいい？）

（う〜ん、そうね〜。

アイピスの特殊な体細胞操作（プログラミング）のロジックをスキャン解析する際には生殖細胞は邪魔になる要素なのよね……。

ねえ、ラジアナ？）

（何？）

（さっき調べた体細胞の中に特殊な振る舞いをする未解明な幹細胞 ′があったわよね？）

（あ、これね？）

（そう、それよ！

その細胞を今みつけた生殖細胞の集まりに移植してみて）

（移植？

どうやって？）

（移植する幹細胞 ′はほんの少しでいいから、

それを生殖細胞が集中する系の中心に注射器で注入して）

（あ、うん。

やってみる。

こう…かな？）

『シュルシュルシュルシュル！』

「わっ！

びっくりした〜！」

••• ••• 。

（バ、バレた？）

「ん？

ラジアナ、おめえ今何か言ったか？」

「いいやいいや、何でもない。

絶対だから」

「ほんとケ〜？」

細く鋭い目のアイピス。

その目はあきらかにラジアナを怪しんでいた。

「うん、ほんとほんと！」

『ラジアナ〜！

聞こえてる〜！？』

（ネイピア？

そりゃあれだけ大きな声だしたら心配するわな）

（もう、やっと出たのね。

ラジアナ？

今すごい悲鳴が聞こえたけど大丈夫？）

（大丈夫大丈夫。

それより、どうしよう……ネイピア？）

（どうしたの？）

（アタシの手の上にゾウさんのキンタマが……）

（それはアイピスの幹細胞 ′から作られたものよ）

（え、マジで？

汚なっ！

嫌だ嫌だ嫌だ〜！

あっち行け〜！）

『ポーイ！！』

　ラジアナの目はばつ印となり、

そして、その姿はまるで親の提案に嫌だ嫌だとわがままを言い駄々をこねる幼子の様である。

（まあ落ち着きなさいラジアナ）

（これが落ち着けるわけ無いじゃん！

キンタマだよ？タマタマだよ？

男の子の股の間にある小さなゾウさんのお耳に入ってるあの丸いタマタマだよ！？）

（その卑猥な表現はいいから、

先ずは落ち着きなさい！）

（……うん）

（やっと落ち着いてくれたわね）

（で、どうすんのよ？）

（そのあなたが捨てた汚らわしいものを

胎盤の壁に穴をあけて排出しなさい）

（え〜！

またこれ触んなきゃいけないのー？

無理無理無理無理、

無理無理無理無理無理無理無理無理無理

むりむりむりむりむらむらむらむらむれむれむれむれむれ、

絶〜〜対無理！）

（最後のほうはムラムラ蒸れ蒸れって、

あたかもその形状からひわいな想像をして欲情しているかのように聞こえたのだけれど、まさかね。

私の気のせい……よね）

　ネイピアはラジアナに聞こえないくらいの小さな声でそう呟いた。

（100万円積まれても絶対ワンとは

言わないからー！）

（あなたの愛犬のファンシーちゃん可愛そうね。

でも飼い主がずっと出てこれないんじゃ仕方が無いわ。

ごめんねファンシーちゃん。

ダークウェブの闇サイトでなるべく高く売ってあげるからね）

（ク、ク〜ン）

（ファンシーちゃんあなた。

そんな寂しそうな潤んだ目で私を見つめないで。

いい？これは仕方ないの。

恨むなら無責任な飼い主を恨んでね）

（ワン！　ワン！←※ラジアナの声です

触る、触る！

触りゃいいんでしょー！

うんこでもち◯こでも！）

（あら、そう♪）

（ああ、ほら。

これでいいんでしょ？）

ラジアナは素早い手つきでキンタマを掴むと、

注射針で開けた胎盤の穴を指で押し広げて、

外へと捨て放った。

（あら！

ラジアナ、あなたもやれば出来るじゃな〜い♪）

（あたりめーだし！

今後二度とアタシのファンシーをダシにすんな！）

（ごめんなさい）

（で？

その先は？）

（あなたの協力が必要な下準備はもう終わり。

後は遠隔でも大丈夫だから。

ありがとう、ラジアナ）

（遠隔？

え、どういうこと？）