姉上との別れ

「アイラ? 怪我は無い?

大丈夫……だった?」



「あ、あ、あ、あ、あ~姉上~!?」



「…………ピチャッ、…………ピチャッ、…………ピチャッ」

洗面器ほどの濃い水溜まりをみた我輩は、

吐きたい衝動に耐えるのに必死だった。


そう……。身を屈め自分をしっかりと抱きしめてくれた姉上フエルマによって

我輩は命を救われていた。


「姉上、ううん、お姉ちゃん……、

血、頭から血がどんどん溢れてるよ!!

早く止めなきゃ!!」



「ううん、私のことはいいの。

ほらっ、そこの壁の穴を抜けたら出口だわ。

ネイピアを起こして二人で出なさい」



「ネイピアはもちろん起こすよ。

姉上も、さ、早く出よ!」



「今の自分の身体のことは私自身が一番わかっっているわ……。

ごめんね……アイラ。

お姉ちゃん、あなたと会えなくなるのは残念だけど。

あなたは明るくそして芯の強い娘よ!

だから、あなたのその明るさでみんなを元気に

してあげてね……。

私とあなたはいつだって心で繋がっているから……、

ううぅ!!」



「お姉ちゃん! 喋らないで!

私、今すぐ救急車呼ぶから!」



「…………」



「姉上!?

ねえ、ねえったら!

返事してよぉ~!


…………、

え~ん! え~ん!え~ん!」


それからしばらくの間、

我輩は 生物の五感 を超えた循環に還えっていく冷えきった唯一の肉親を

やみくもに揺さぶっては、

ただただ泣き続けることしかできなかった。





◇お~い!

声が聞こえたが、そこにまだ誰かいるのか!?◇



「誰の声……?

あ……れ?

私どうして眠ってたんだろう?」



「ネイピア!

気がついたナリね?」



「あなた、アイラじゃない!?

あなたがどうして私の部屋にいるの?

って言うか、ここって私の家じゃない?

燃えてる! ねえ、アイラ?

ここ、何処よ!!」



「ネイピアの 達家族の家 だった ところナリよ……」



「え?

ちょっとどういう事?

私のお父さん、お母さんは無事なの?

ねえ?」



「ネイピア?

あんたの両親は二人とも無事。

安心するナリよ……」



「本当~。よかったわ~。

ところでアイラ?あなた顔色悪いけど、ど……」



「うるさいな……。

何でもないナリよ」



「アイラ、泣いてる? ごめんね……」




◇子どもが二人、無事発見しました!



はい、速やかに救出します◇

「ねえ、君たち、怪我はしてないかね?」



「眩しぃ~!!」



「ごめんね。

すぐにライトを消すよ」



「消防士の人みたいナリね」



「君たち、急がせて悪いんだがこの場所ももう危ない。

私の手を離さず出口までついてきてほしい。

歩けるか?」



「は、はい。

歩けるナリ」



「そっちのお娘ちゃんも!」




「わ、わかったわ!」




「ちょ、ちょっと待つナリ!」



「お娘ちゃんどうしたんだ?」




「姉上も一緒に!」



「姉上? 他にも誰かいるのか?

どこにいるんだい?」



「あっちナリ!」



「え? お娘ちゃんの指先す先には誰もいないよ?」

消防士の立つ場所からは見えなかったらしい。



「お娘ちゃん、ここにとどまるのはもう危険だ!おじさんと早く出口まで行くんだ!」



「嫌~! 嫌~!」



「お娘ちゃん……」



◆どうした?

なかなか出てこないが?◆



◇お娘ちゃん一人、

ななかなか出口に行きたがらないんだ……。

何か未練があるらしい◇



◆時間が無いぞ!

もう、天井が落ちるのも時間の問題だ◆



◇了解!◇



「お娘ちゃん、ごめん!」



「え……?

嫌だ~!嫌だ~!」

我輩は消防士に無理やり担がれて出口まで連れ出された。


我輩とネイピアは今、立ち入り禁止のバリケードのすぐ外側の安全な場所にいる。


何時間そうやっていたのだろうか……。

我輩とネイピアの二人は姉と共に燃え続ける瓦礫の山を

まるで銅像の様に感情を殺し唖然と見つめていた。


「あねうえ……、バタン」



「ねえ?

アイラ!?大丈夫?

しっかりして?」

















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