親友のピンチ

「姉上は探しに来ぬようにと言ったナリけど、

我輩心配ナリ~!」

(それに……、

ネイピアは我輩の親友でもあるのに、

親友のピンチを姉上だけに任せるなんて

我輩出来ないナリ!)

よし!

我輩は我輩の出来る手助けをすることに決めたナリ!!」

我輩はそう言って自分を奮い立たせると、

ネイピアの住むマンションに向かって家を後にした。



(ネイピアを助けに広井駅まで電車に乗ったのはいいナリが……、

ネイピアの住んでる広井市の具体的な住所覚えていなくて困ったナリ~!)


「お嬢ちゃん、キョロキョロと誰か人を探しているのかい?」


「あ、はい……ナリ」

我輩が駅を出てすぐのロータリーのところで

右往左往していると、

コーヒーを飲みながら休憩していたタクシー運転手の白髪のおじさんに声をかけられた。


「あの~、我輩 友達のマンション『イラッショナルナンバー』

まで行きたいナリが、行きかたを覚えていないナリよ~」


「イラッショナルナンバーってどこかで聞いたことあるな~。

あ、そうだ!

今日の昼過ぎに火災があってまだ燃え続けているところじゃないか!?」


「おじさん知っているナリか!」


「もちろん。

タクシーのラジオで知ったんだよ。

あそこは今は危険だ!」


「大切な親友と姉上の安否が知りたいナリ!

だから、どうしても行きたいナリ!!」


「それは可哀想に……。


お嬢ちゃんの気持ちはわかるよ。

でもね、火事って言うのは本当に恐ろしいんだ。

絶体に立ち入ってはいけないよ」



「それでも……、

我輩は姉上と友達を見捨てたり出来ないナリよ!」

我輩は運転手のおじさんに涙ながらにそう言って訴えた。



「お嬢ちゃんが仮に今から助けに駆けつけてもね、

火災の現場には入れてもらえないんだ。

ね、お嬢ちゃん。

お嬢ちゃん本当に辛いとは思うけど……、

消防のお兄ちゃん達を信じよう?

ね?」



「嫌…………ナリ!!」



「お嬢ちゃん? ね?」



「…………」


運転手のなげかけに対し我輩は意気消沈し、

下を向いてしばらくの間無言の抵抗を続けた。

そして、その沈黙も無断だとわかると

我輩は自分の真剣な目力を発揮させ

運転手を圧倒した」


「ふぅ~。

仕方ないな。

おじさん、お嬢ちゃんには負けたよ」



「我輩……、行っていいナリか?」



「お嬢ちゃんはどうしてもお姉さんとお友達の安否を確認しに行きたいんだろ?」



「もちろんナリ!」



「わかった。

但し、安否を確認するだけだよ。

安否が例えわからなくても

絶体に危険な現場には立ち入らないこと!

約束できるね?」



「わかったナリ!

約束するナリ!!」



「じゃあおじさんはこれ以上お嬢ちゃんを止めないよ。

近くの安全な場所まで乗せて行こう。

乗りなさい」



「我輩、タクシーに乗るお金足りないナリ……」

(しくじったナリ。

時計裏のお金少し持ってくればよかったナリ~)


「おや?

運賃の心配かい?

わしは個人経営だし、

今回はお嬢ちゃんがお姉ちゃんと友達を大切に思う気持ちに

感動したからお金はとらない。

少しは安心できたかい?」



「おじさん、ありがとう……ナリ」


こうして我輩はタクシーで火災現場近くまで

向かった。




「お嬢ちゃん、着いたよ。

車ではここまでしか近づけない。

ここまででいい?」



「大丈夫。ありがとうナリ」



「帰りはこのバスを使うといい」

そう言って運転手はバスの路線を書いたメモをアイラにくれた。



「本当にお世話になったナリ」



「じゃあ、お嬢ちゃん。くれぐれも気を付けてね」

運転手はそう言い終えると、

車線を手早く切り返し来た方向へと走り去った。



「あれがネイピアのマンションナリね!」


我輩は幾重にも重ねられた立ち入り禁止のテープに行く手を阻まれた。

道の左脇に視線を移すと、

見張りの警察管からじろじろと横目で観察れているのがわかった。

ここに来る前運転手が言っていたように、

火災現場まではここからかなりの距離があった。


「我輩、こんなところでじっとしていたく無いナリ~!」

我輩は困った口調でそう独り言うと、

その場所から空に巻き上がる煙を見つめながら策を巡らすことにした。



「アイラちゃん!?」


「アイラちゃんじゃないかい?」



「ネイピアのおばさん……ナリか!?


みんな無事だったんナリね!」

我輩の記憶の中のおばさんは、

歳の割には見た目が若く、

ネイピアがそのまま大人になったような見た目の人だった。

しかし、久しぶりに見たおばさんの顔は歳相応に老けてしまっていて、

我輩が記憶していた決して遠くない過去の印象とはかけ離れてけしまっていた。




「心配かけてごめんね……。

さあ、こっちの公民館が避難所になっているから一緒においで」

おばさんは我輩の質問を上手くごまかすと

避難所まで案内してくれた。



「はい、行かせてもらうナリ。

それで、ネイピアちゃんは?」



「…………」



「我輩の姉上は今どこにいるナリか?」



「フエルマちゃんよね?

来て無いわよ」



(姉上が来て無い?

おかしいナリね?

姉上の用事って言うのは別のことだったんナリね)


「ところでおばさん?

ト、トイレはどこナリか?」



「トイレはね、そこの通路を曲がって…」


普段は空気の読めない我輩だったが、

感情を必死に殺し笑顔を作るおばさんの表情をみて、

それ以上はおばさんの大切な娘ネイピアのことを深追いして聞くべきでは無いことだけは重々理解できた。



「あの~、

皆さんに伺います!

どなたか私の防火服見かけて無いですか~!?」


「おばさん?

あの大人の男の人はさっきから何か探しているナリか?」



「あの人はね、ボランティアで地域の消防団をやってくれているんだけど、

避難所に持って来ていた自分の防火服がなくなったみたいで、

避難所に来ている人全員に心当たりが無いか聞いて回っているのよ」

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