【E^2=(m0c2)2 + (pc)2,m=E/c^2=hv/c^2=h/cλ,p=E/c=hv/c=h/λ=mc∴v=c∵m=∞,m0=0,】【γi pi Ψ=mcΨ】 部活

「そうだったんだ。

図書館まで行ってくれてありがとうございます」


「私、チルダの気持ちも理解(わか)らず

今まで酷いことたくさん言っちゃったの」


「先輩そんなに泣かないでください。

僕だってチルダに酷いことたくさん言ってきたんです。

今はまず、チルダを守る為に今できる事を考えましょう。ね、先輩?」


「そうね」


「そこで相談なんですが、先輩、

二人でここで部活やりませんか?」


「部活? 病室(ここ)で?」

先輩は驚きで泣きやんだらしい。



「部活って何をやるの?」


「チルダを幸せにする方法を考える。

いや、発明するんです!」


「ちょっと、発明って本気で言ってるの?」


「もちろん本気ですよ」


「研究室(ラボ)も資金も無いし、それにここは病院よ。

どうやって?」


「資金については僕もどうしようか考えてるところなんです。

僕が理論を考えますから、先輩にはそれを形にして

欲しいんですよ」



「ちょっと待ちなさいよ。確かに私ら科学部だけどさ、

チルダの幸せと科学とどこが関係あるのよ!」



「それが関係あるんですよ。僕はドーラ人の特徴を

知って、鏡宇宙の特性に似てるなって思ったんですよ」



「鏡宇宙って左右が反対のもう一つの宇宙が存在するってやつよね? それオカルトでしょ?」



「確かに科学者の中にはオカルト扱いする人が多いですからね。

でも、僕は虚数宇宙を越えた先に必ず鏡宇宙はあると思ってるんです」



「つまり、チルダを鏡宇宙まで送り届けるって事?」



「そうです」



「でも、そんな危険な賭けにチルダを巻き込む訳に行かないわ!」



「実は、僕は昨日既に実験をしてるんですよ」



「どうやって?」



「ゲートの技術を使って、光子(フォント)に素粒子自己複製プログラムを入れたAI情報を書き込んで10年前の鏡宇宙に※送ったんです」



「光子って光のことよね? でも、どうして光子が

鏡宇宙に行けるの?」



「僕達の宇宙は上りの重力時空、天井の光の領域、下りの斥力時空という3つの流れで出来ているんです。

ここでの重力は存在を濃く重くする滝だと思ってください。

滝の上の光の領域は、光子が光速で飛びまわっていますが、

その光に例え目があったとしても、視覚的には「点」の大きさしかない空間なんです。

僕達がゲートでさ迷った時に体験したあそこです。

実際には光子の空間に入っている間はあんなゲートの中のような空間の広さや意識はありませんが。

そして、斥力は存在を薄く軽くする逆流する滝なんです。

そして下りの斥力時空の終点、つまり光の領域と反対側に

鏡宇宙との接合部があるんです。

光子とワームホールを上手に使いこなせば、

速度を上げて秒速30万キロの前進と秒速30万キロの後退を経由して、鏡宇宙の接合部に、そしてその先の鏡宇宙に入る事が

出来るんです」



「難しくてあんまり理解出来ないわ。

それに、10年戻るのはどうして?」



「チルダが5歳以降の記憶しか持っていないって

前に言ってたからなんです」



「でも、アーレスも光速度不変の原理って知ってるでしょ?

過去へは行けないはずでしょ?」



「そこは光子の特性を使うんです。

もつれ状態にしたペアの光子を使い、

対消滅と対生成を繰り返しながら電子経由で過去に伝わった

光子のペアに情報を伝えていくんですよ」



「ちょっと待ちなさいよ!

あんたがさっきから言ってること、説明が難しすぎて

意味わかんないけど、ちょっと待って。

……、

対消滅や対生成ってつまり反物質の事よね?

あれは確か危ないんじゃなかった?」



「対消滅の時に1グラムの反物質から約90兆ジュール、

物質の消滅も合わせて180兆ジュール、

原子爆弾の3倍くらいの破壊力がありますね」



「むちゃくちゃよ! その方法は絶対に辞めてよね」



「反物質を人工的に作ったりはしないですよ。

だって、対消滅や対生成は常に、そして今この瞬間も起こっていますからね」



「今も起こってる? 嘘よ。

だったら何故私達の周りには爆発が起こらないの?」



「対生成や対消滅は宇宙の沢山の場所で絶えず起こってますよ。

その影響を受けた重力という症状が時間が前に進む根元的な理由なんです。

宇宙空間では、僕達の知らないところで一秒に一回を遥かに上回る頻度で対生成、対消滅が起きているんです。

そして、

僕達は未来に向けた対生成や対消滅が比較的に勝る陽電子が重力として振る舞う実数時間の世界の中に生きているんですよ。

だから、過去に向けた対生成や対消滅が比率的に勝る電子が斥力として振る舞う虚数時間の世界も存在するんですよ。


つまりこの一つの宇宙の中で、対生成や対消滅が、

実数時間が支配する世界と

虚数時間が支配する世界と

それぞれに未来へ向かう力と過去へ向かう力の二面性を見せてるってことなんですよ」



「つまり、宇宙のどこかにある虚数時間が支配する世界で

対生成や対消滅を利用するのね?」



「そうなんです。鏡宇宙に行く際に

最初に経験する重力の高速、そして光速、そして

最後に経験する斥力の逆速があるんですよね。

その最後の逆速の間には過去方向の対生成や対消滅が

集中していますから、その時、対消滅しようとする光子に情報をコピーしておいて、過去にゆっくりと押し戻す力を加速させるんです。



「じゃあ、危険じゃないのね?」



「危険性は無いとは、言い切れませんが

ゲートの利用とリスクは変わらないんです。

チルダの事を考えると、僕はチルダを、暮らしやすい世界に

送ってあげたいんですよ」



「そうだったんだ」

先輩は珍しく、僕をからかう素振りを見せず

笑顔で頷いてくれた。






「え~と、ところでその……、

チルダは今もゲートの組織には見つかってないですよね?」


「ええ、チルダは今あなたのご両親と私のママが

保護してるわ。安心して」


「チルダ無事なんだね。よかった~」

僕は安心すると、急にまた頭がくらくらしてきた。


「ちょっと、また熱出てるじゃない!

小難しいこと考え過ぎるからよ。


氷枕もらったから、安静にしてね。

全くも~。なんだか私アーレスの母親みたいじゃない」


「すみません先輩」



「ところでね、アーレス。

あのさ、私ゲートから戻って来てから

チルダとほとんど会話出来ていないんだ」


「まだ、仲直りは出来ていないんですね」


「そう。

でもね、アーレス私に言ってくれたじゃん。

『ここで目をそらしちゃ後で絶対後悔する~て!

そんな私の悲しむ姿絶対みたくないって!』」


「確かにそんなこと言いましたね」


「だから私ね、もう一度チルダに、そして自分に

向き合おうって決めたの。

だから、この後チルダに会いに行ってくるわ。

そこで、チルダともう一度、今度はちゃんと

話してくるから」


「そうなんですね。先輩なら大丈夫です」


「ありがとう。行ってくるわ!」

そう言って病室から出ていく先輩の後ろ姿が

僕には清々しく感じられた。



続く


※量子テレポーテーションを利用した反粒子タイムトラベルを使って実際にデータ容量を必要とするを過去に送ったわけではありません。

過去に送ったのは情報を再構築(デコード)する為に必要な0か1か未決定かの三パターンのサインだけです。






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