EΨ= 『自ら』を灯とし 法を灯とせよ
母さん。そして、お母さんの隣には父さんもいた。
いつまでも最上階にたどり着かないエレベーター。
その中にいた僕達の目の前に今、
父さんと母さんがいる。
「どうして、父さんと母さんがここに?
ここで何してるの?」
僕は、ドーラ人で無い父さんと母さんが
この場所に現れた理由はすぐに理解できた。
「父さんと母さんはここで働いているんだ。
でも、そこにはいないよ。
ゲートの外にいるんだ」
僕は、平然とそう言い切る両親にカチーンときた。
我慢できず口に出したんた。
「父さん達は、ゲートやカミカクシがドーラ人を消す残酷な儀式ってわかってるよね?
僕達ジーパ人もアース星では少数派の移民だけど、
なにもかもアース族のいいなりに
なって、人間として大切な思いやりの気持ちまで
捨てて、あんた達は
それで本当に幸せなの?」
僕は父さんと母さんを睨みつけた。
一人間として大切な思い遣りの気持ちまで
捨てて、君はそれで本当に幸せなの?一
僕は昔、誰かに同じような事を言われた気がした。
話は僕がまだ小学生の頃までさかのぼる。
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「上履きが、落書きされてる……」
「ねえ、 アイリス? 私が上履き見つけてあげたのよ」
「……」
「何よ、いつも黙ってばっかり。
何か言いなさいよ!
あんた、ホントうざい!目障りよ!もう、あっち行って!」
僕は学校の下駄箱までちーちゃんを探しにきたんだけど、
幼なじみのちーちゃんがアイリスと長話しをしていたから、しばらく
遠目から話を盗み聞きしていた。
ちーちゃんは、周りを振り回す悪い癖があるけど、
ムードメーカーでほんとうはやさしい女の子なんだ。
だから、僕はいつの間にかちーちゃんを慕っていて多少の主従関係はあったけど仲良しだった。
でも、ちーちゃんはアイリスにだけには冷たく接し、いじめていたんだ。
これは僕がちーちゃんに聞いた話なんだけど、始めは違ったらしいんだ。
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「ねえ、あたちはみんなからちーちゃんって呼ばれてるの。
あなたのお名前おちえて?」
「あたしア、アイリス……」
「アイリスちゃん。可愛い~!」
「ねえ、今から一緒に遊ぼ!」
「……あたし、ドーラ人だけど……一緒にいいの?」
「そんなの関係無いよ! あたちたち友達になろ!」
「う、うん!……ありがとう」
「今聞こえなかったよ。もう一度おちえて」
「ううん、大丈夫。あたしも友達になりたい!」
「やった~!」
「クスクスクス!」
「ハハハ、ハハハ!」
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最初は仲がよかったちーちゃんとアイリスの間になにが起こったのか?
ちーちゃんは結局、僕に教えてくれなかった……。
僕達は小学6年生になった。
ちーちゃんのアイリスに対する嫌がらせは続いていた。
「ねえ、アイリス? 昨日掃除当番代わりにやっといてってお願いしたよね?
どうしてやってくれて無いわけ?」
「メモ、ちーちゃんの机に……。
久しぶりにお姉ちゃんが帰って来たから、
迎えに……」
「え? 何? 何言ってるか全然聞こえない!
私は学級委員だから、いつもあなた達が帰った後も一人残ってクラスの仕事やってんのよ!
偉そうに言い訳してんじゃ無いわよ!
ねえ、アーレス!あんたからもアイリスに言って!」
「まあまあ、ちーちゃん。アイリスにも事情とかあるだろうし。
アイリス可哀想だし、その辺で」
「はぁ? 可哀想って『誰』が?
聞こえ無かったからもう一度教えて。
私? それとも、アイリス? 」
「ア……、」
「ア?」
ちーちゃんは普段は優しいけど、気持ちが
ちーちゃんはきっとアイリスが美人だから、僻みもあるんじゃないだろうか?
「あ、もちろんちーちゃん…………」
僕は後ろめたくてアイリスに目を合わせる事が出来なかった。
アイリスの目は宝石のようにキラキラしていて、
この子の目を見ていると、今の情けない自分が鏡の様に映ってしまいそうで怖かった。
「全く、これだから人殺しのドーラ人は嫌いなのよ!
はっ!」
ちーちゃんは感情的になる余り、自分でも口にしたくない事を言ってしまったみたいだった。
「バタン!」
アイリスは僕達に背を向け、凄い勢いで教室のドアを開け出て行った。
「ちーちゃん、アイリス追おう! さ、早く!」
僕がちーちゃんの方を向くと、ちーちゃんは窓側の自分の席につき外を向いていた。
「私行かない!」
「ちょっと、このままじゃ僕達、先生に理由を聞かれるよ。
その前に仲直りしようよ!」
「うるさい! アーレスの教室は下でしょ!
私は次の授業の予習したいから一人にさせて」
「ちーちゃんってば! そんな事言わずにさ! さあ!」
僕はちーちゃんを連れて行く為に左手を引いた。
「パチン!」
よっぽど嫌だったんだな……。
ちーちゃんは僕の手を払いのけたんだ。
僕はちーちゃんに怒声を浴びせられるだろうな。
僕は覚悟し、反射的に目を瞑った。
「…………」
でも、ちーちゃんは僕に何も言って来なかったんだ。
僕は恐る恐る目を開けてみた。
「ちーちゃん……泣いてるの?」
目の前で泣く幼なじみの女の子。
僕は彼女を純粋に抱きしめて慰めてあげたかった。
でも、包容力の乏しいガキだった僕にはそんな勇気や人生経験も無く、
ただただ、ちーちゃんの側に頼りなくつっ立っておどおどと心配することしか出来なかった……。
僕とちーちゃん、二人だけの教室には沈黙の空気が漂っていた。
すると、突然
「アイリスをいじめた奴は誰か~!」
ボーイッシュで露出の多そうな服を着た女性が
僕達の前に現れたんだ。
僕にはその顔ですぐに検討がついた。
アイリスのお姉さんだ!
「ちーちゃん逃げよう!」
僕がちーちゃんにそう言うと、ちーちゃんは
僕より先を走っていた。
ちーちゃんは運動神経が良く、足も速かった。
「あたいの妹をいじめてただじゃおかないよ!
こら待て~い!」
アイリスのお姉さんはもの凄いスピードで僕達を追いかけてきた。速い。めっちゃ速い。それは、一般人のレベルじゃなく、
専門的に凄そうなレベルだった。
どこで鍛えたんだろうか。
「アーレス、こっちよ。早く~!」
ちーちゃんはなんとかお姉さんを振り切り、
図書館に逃げ込んだらしい。
ちーちゃんは、生徒と職員しか入れない図書館の入口から僕をジェスチャーで手招きしてくれていた。
「ちーちゃん、待って~! ゼェ~ゼェ~」
僕は走り過ぎて息切れをおこし、図書館出前で立ち止まるしか無かった。
「やっと、捕まえた。観念しな!」
僕は捕まってしまった。
そして、体育館裏まで連れていかれたんだ。
僕はアイリスのお姉さんからの拷問を覚悟し、歯を食い縛ったんだ。
でも、アイリスのお姉さんは僕を激しく叱ったりはしなかったんた。
「お姉ちゃん、もういいのに」
体育館裏の木陰でチルダは一人本を読んでいた。
「アイリス、さっきはごめんね」
「いいよ。あたしにとってそういうの学校以外でも日常茶飯事だし慣れてるから」
アイリスが可哀想で仕方なかった。
「少年!まあ、ここに座りなよ!」
お姉さんはそう言うと僕の肩を軽くたたいた。
「は、はい」
お姉さんは僕の隣に座ると話しだした。
「あたいはね、君の目をみていると、
君は本当はアイリスに冷たい態度をとりたくないじゃないかなって思うんだ。
アイリスに聞いた話しなんだけどね、君はいつも、幼なじみのちーちゃんだっけ?
彼女の後ろについてペコペコして仕えてるらしいね。」
「は、はい」
「それでね、君に余計なお世話って思われるかもしれないけど、あたしは思うんだ」
お姉さんは清々しく晴れ渡った春の空を見上げながら続けた。
『自分の本当の意見や気持ちを捨てて、
彼女の言う事全てにつき従って、
それで本当に、君は、君自身の心が幸せって思う?』
「………!」
僕は、返事が出来なかった。
アイリスのお姉さんに僕の核心を突かれてしまったのだから。
「僕、僕、クスン、クスン、うぇ~ん!うぇ~ん!」
僕は気持ちが抑えられず泣き出してしまった。
僕はこの時悲しかったのもある。
でも、もっと強かった気持ちがあるんだ。
それは……、僕が今まで誰にも共感してもらえなかった気持ちをお姉さんがわかってくれたからなんだ。
だから、本当に僕は嬉しかった。
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