第193話「垂乳根の……」中編
第十八話「
「この”
我が母である
――
辺り一面が海だった時代に、この島国……”
最古の王国、
そしてその後、大陸から伝来したのが”仏法”である。
さらにその後世に民衆から起こったのが宗教国家
その代表格が
伝統を重んじる奴ら宗教家が重要視する起源とやら、歴史の古さ……
つまり、時系列的に並べるなら――
――結論
「カビの生えた神話の時代背景や起源の順番なんかに意味があるのかよ?」
暫し考えた末の俺の返答はこうだった。
どの国が推す神が最も歴史があるとか、どの神が正統だとか、
普段から公言している持論どおり、俺には宗教論争なんぞには興味が無いという結論を再表明する結果になったのだった。
「そうね、意味は無いわねぇ」
「おい!」
一応は真剣に考えて出した俺の応えに母親はアッサリと、我が人生の貴重な時間を浪費させた事を悪気も無く認めたのだ。
「怖い顔してないで、的を射た息子の答えに感心しただけよ。意味があるのは順番で無くて……」
「…………共通点ということでしょう。そうね、例えば”神”という存在」
視線による急なフリにも整然と答える
「さすが!
我が母親はその回答に十二分に満足したのだろう、グッと親指を立てて笑った。
――おいおい
”
「……」
――で!
”あの一件”から
異性として俺に対する反応が非常にオープンになった気がする。
「はいはい、もりヨキ。鼻の下のばさない」
「うっさい!俺をつぶさに観察してんじゃねぇよっ!!あと”もりヨキ”言うなっ!」
顔を真っ赤にした俺の抗議を”はいはい”と受け流した
「例えば我が
「……」
――確かに、
仏法では菩薩の上に如来が君臨し、それが悟りの到達点と云われているが……
「そして
「成る程ね、見事なほどに共通点があるな」
俺は
「……」
――澄ました表情のままで座る黒い瞳、黒い髪の見目麗しき姫君
「つまり?信仰は違えど崇める神は同種、人間の立場で神は都合良く姿を変えると」
――俺にしてみれば、宗教なんてものを利用する輩には付き物の”あるある話“だ
「そうだけど、その宗教に携わる家系の者としては……
相変わらず冷めた、物事を斜めから見る
「ああそうかい、神様ってのは邪心が皆無で偉大だねぇ」
本性は”ちゃらんぽらん”な母親も、こういう気遣いというか、
「けれど……
「は?」
――いやいや、それは初耳だ……
俺の怪訝な表情を見て取っただろう、母は続けた。
「無論、秘伝にされてる事よ。門外不出、口外できないのよ」
「……な、なるほど」
――な、なんか軽い秘伝だ
いや、息子の俺だから口にしたと……信じたい。
「確かにそれが真実なら、
特に
国家として掲げる主神の母神となるワケだし、色々とプライドが傷つけられる話だ。
「……!?」
――ああっ!
――だからか!?
「……」
俺は、その
「……」
王家を貶める様な母の発言にも、彼女は意外と涼しい顔で流していたのだった。
「母神の
――ややこしいな、その理屈
他宗教の神が実は同じというのと同様に、親と子が同一ってのも"神話あるある”だ。
「唯一って……だいたい夫神はどうなってるんだ?宗教によっては神って
宗教の理不尽に今更文句を言っても仕方が無いので、俺は別の違和感を尋ねるが……
「色々鋭くて聡い割には”お馬鹿な"子ねぇ……創造するのは
――理不尽だっ!!
「……」
男の立場としては色々悲しくなる解釈だが……
そう言えば人間の遺伝子も元々は女しか無くて、男はそれを守るために突然変異で生み出されたとか?そんな説があるとかなんとか。
女のために狩りをさせるため。
女のために身を挺して外敵から守るため。
女によって創り出された便利な分体。
女のために命を差し出すことを喜びに感じるDNAを刻み込まれた悲しき生命体……
――なんか俺も、
「”最も便利な道具”………………言い得て妙だな」
隣に座る超可愛い美姫を眺めていると――
理不尽だと思いながらも受け入れてしまう自分がいる。
――これが生命の神秘なのか
「今話している神とはもちろん”主神”のことよ。”唯一無二”だからこそ”全知全能”で有り得る存在」
――確かに
多少、禅問答の様相ではあるが……
「”全知全能”なんてものが複数も存在したら、色々と矛盾が発生するよなぁ」
――いや!?
――ちょっと待て!
だが俺は……忘れている事に気が付く。
「
論法が回収しきれていない事柄に気付いた俺は、即座に突っ込みを入れるも――
「龍神王ねぇ、見事なほど爬虫類っぽいわね」
と、
まるで他人事のように返された。
「ど、同一の太陽神がなんたらじゃなかったのかよ!!」
当然、俺は猛然と抗議するが……
「もりヨキ、視力は大丈夫なの?龍は龍よ。山のように大きくて、長くて、角とか牙が生えてて、太陽と似ても似つかぬ怪物でぇ……どちらかというとアレは
――くっ!龍は想像上の怪物で見たこと無いから視力は関係ないっ!!
――あと”もりヨキ”言うなっ!
「け……
逆ギレっぽい難癖に、俺の口から文句が出る前に……
俺はその言い回しに違和感を覚えていた。
「そうよぅ。
シャッ――と!
手にしていた扇を開き、口元を隠した我が母はそう言ってのける。
「!?」
――なんか……
見たことがない母親の真剣な眼差しに俺は押し黙ってしまった。
「深海の闇に住まう目の無い巨大な蛇が、太陽を飲み込む神話があるのだけど……多分実話ね」
俺は……
「目の無い蛇……そんな神話は聞いたことがない」
「言ったことないもの。これも
――くっ……
――
「まぁ
俺は自分でも感心するくらいに、なんとも大人の態度で会話を継続することを優先していた。
「さぁ?わかんない。お母様はピチピチの二十歳だから、そんな昔に生きてないもの」
「実体験は聞いてないだろうがっ!!大体お前は三十路も後半で……」
バシ!
「おうっ!!」
皆まで言えず、宙に放たれた扇が俺の脳天を直撃していた。
「くっ!事実を指摘されたら暴力に訴えるってさいて……」
「
凛と正座した神装束の女はいきり立った俺を
――うぅ……ずるい
「永遠に光が届かない暗闇の底に君臨してきた大蛇の化物は、太陽を呑み込んで待望の光りを得たのです。全智にして全能の、太陽神の
都合良く”場に相応しい態度”を使い分ける”
残念ながら俺の母親だった。
――
「呑み込んだのは太陽神の権能だというなら、それが魔獣の象徴である十二の魔眼……」
「やばたん!!はるぴょんは、もりヨキとはレベチねぇ!」
――おいっ!!
「せ、正確には、”十の神眼”と魔獣が従来から所持していた自前の、光を得られない”虚無の対眼"を合わせた”十二の魔眼”ね」
ギロリと睨んだ俺の視線を受け流石の母も多少反省したのか、
「その十の神眼……俺達が言うところの魔眼ってのはつまり」
気を取り直して俺も会話に加わる。
「そうね、瞳とは対で存在するもの。だから十の神眼は五つの
――主神の
”なんで姫……女なんだ、男じゃ駄目なのか?”
それは
――成る程、だから”魔眼の姫”なのか
一年九ヶ月近く経ってから得た
第十八話「
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