第191話「伽藍の先触れ」前編
第十六話「
「…………」
――
――
「僕としては
涼しげな碧眼と蜂蜜のような甘いブロンドが特徴である恵まれた容姿の青年。
「我が”
容姿から
「しかし揃いも揃って渋い表情ですね。”コレ”を持参してみせても
「な、なんて”モノ”を
腰まである艶やかな長い黒髪が美しい色白の
「くっ……悪趣味」
前髪を横に流した肩までのミディアムヘアで清潔で生真面目な印象を受けつつも、毛先を軽くワンカールしている辺りオシャレにも気を遣っている最近の女子という、利発そうな瞳の闘士”
巫女姫の両脇を固めた二人の側近は、明らかに眉を
「奸賊”
「……」「……」
反応を示さず、物も言わぬ”ソレ”は――
人体の頭部を切り取った代物。
簡潔に言うならば”生首”であった。
人から物に成り下がった二つのそれは、両目と口を縫い付けられ、保存用にだろう塩漬けにされ萎びて一回りは小さく見えた。
「
”ソレ”は
「そ、そうじゃなくて……」
「うぅ……グロい……く……それって
絶句したままの
「”奸賊”に親も兄も無いだろう?二人は変な事を言う」
その
「くっ……」
「うっ……」
その笑顔に二人の女はゾッとした。
そう、これが……
野心多き三兄弟の中に在って最も忌みされ、身内からさえも恐れられた……
家督どころかあらゆる
「しかし……ここまで我が
――っ!?
言うが早く!
「ふふん」
「ふ、不遜なっ!
「な、なにをするつもりですか!?
「なにって?それは……それは”一戦交える”しかないだろう?」
そしてそれが予定通りだとでも言うように、
「今までの兄達による
「謀反?ははは、このままじゃ
怒鳴りつける
「このまま……私たちが貴方を
早々に背を向ける青年に
「へえ?取り戻した
「このっ!衛兵!出なさいっ!狼藉者です!!」
本気の警告を鼻で笑われて、
ザザザザザッ!ザザザザザッ!
直ぐに部屋へと
だが――
ブォォォォーーーーン
その瞬間、唯独りだった青年の背後が揺らぎ……
まるでそこだけ度の強いレンズのように空間が
ズズズズズズ……
何も無い虚空から”新たな人物"が姿を現す!
「なっ!?」
得体の知れない不気味な気配に
「なっ!なにっ!?」
感じたことの無い悪寒に
「荒事は極力控えるように……そう言われていたのではありませんか?」
そこには――
開口一番、白けた声色でそういう台詞を呟く……
肩まである黒髪と白い肌、細い腕で華奢な、十代半ばの清楚な少女が佇んでいた。
「な……なんで……」
突然の謎少女登場に、護衛である二人の
「仕方ないだろう?成り行きだよ」
「成り行きですか……”今回は”そういう事にしておきましょう」
悪びれる様子も無くそう応える
儚そうな印象の少女。
彼女はその顔に呪符のような、幾つもの目の如き奇妙な文様を施した黒い布を巻いて目隠しをしている。
――見た目通りなら彼女は盲人であるだろう
――”
本数も過多だが……それらはとてもこの華奢な少女が扱えるとも思えない重量なのは誰の目にも明白だ。
「くっ!」
「なんなの……いったい」
纏う雰囲気を含めてとびきりの異形を目の当たりにし、直ぐに言葉にならない二人の
「
そういう視線を受けて、謎の盲目少女剣士はまるで今更気付いたかのように薄く微笑む。
「
そうしてそういう奇妙な見た目に沿う奇天烈な呼称を名乗ったかと思うと、盲目少女剣士は五振りの凶器を従えた革製ベルト下でスカート調になった上着の裾を摘まみ、貴婦人然と優雅に会釈してみせる。
「こ、この狼藉者二人を取り押さえなさいっ!」
「おおっ!」「やああっ!」「はぁぁっ!」
ヒュバ!ヒュバ!ヒューーヒュォン!
「おっ?」「へ?」「っ!」「なっ!」
盲目少女剣士が両腰に携えた刀を二本同時に抜き放ったかと思うと、信じられないことにその二刀を宙に置いたまま、目にも
ギン!ギン!ギン!ギギィィーーン!!
あっという間に先行して襲いかかった四人の兵士の剣が宙に舞う。
ヒュ、ヒュ、ヒュ、ヒューーーーキン!
そして四振りの刀をほぼ同時に腰の鞘に戻す!
「な……!?」
「なにが……いったい!?」
四本の
武術の源流である
「お
――改めて
肩まである黒髪と白い肌、そして細い腕。
武人というにはあまりに無縁そうな、華奢で清楚な十代半ばの盲目少女。
呪符のような、幾つもの目の如き奇妙な文様を施した黒い布を巻いて目隠しをしている奇異な少女剣士の存在は、人の及ばぬ”狂った
「というワケだ。雑魚はこの程度の頭数じゃ物の数にもならない。武の達人である”
「この……言わせておけば!主神に仇なす恥知らず!」
口惜しいがどうにも相手の言うとおりである事実に、
「…………
だが
そして、
つまり――
「
認めたくは無いがそういう言い回しに
「まさか!?
隣で
「そうだ。まあね、人間誰しも弱みはあるものでね。とはいえ、真面目一徹な
「そ、そんな……今までずっと同士として……」
「まんまと……して……やられたというワケね、くっ!」
ここに来て明るみになった予期せぬ第三勢力の台頭に愕然とする二人。
「ははは、ほんと!正面から争うばかりの
言い当てられて自慢げに暴露する
「
そんな馬鹿笑い真っ只中の
「ちっ!ちょっと黙っててくれないか?いま最高に良い気分……」
自らを庇うように立つ”
「…………少し不快ですね」
変わらず落ち着いた柔らかい声ながらも、少女はゆっくり無表情に
――ゾクリ!
――それはまるで遙か海の向こうに存在するという、人を石に変える魔女の邪眼
実際は彼女の本当の瞳は幾つもの異形の瞳を形取った文様の記された布きれで覆われており、それ故に実際に視線を放つ
そこに居る者達はそういうお伽噺を思い出すほどに、盲目少女が今し方見せた微弱な表情の変化はそれを再現させていたのだ。
「……くっ……わかったよ……
話の腰を折られたからか?それとも多少なりとも怯んでしまった自分に苛立ったのか?
「承知致しましたわ」
スッと
「や、約束が違う!!”あなた達”は手を出さないって!!」
誰もが息を飲む場面に声を張り上げて立ち上がったのは主座に居た
「て、
「約束?それはどういう……」
不本意極まる展開であったものの選択肢無く戦闘に入る直前だった
突然出たその意味不明な言葉に一瞬、意識を逸れさせられる。
「あ!……それは……
そして”しまった”とばかりに咄嗟に淡い桃色の唇を両手で隠す
それは
いや、その背後に居る怪人に向けた言葉であった。
だがまさか以前に……
この
”天啓を得た”という嘘で
全人類の敵かもしれないという怪人、”
「約束は
「そ……そんな屁理屈……」
一応返ってきた盲目少女剣士の意外にも丁寧で優しささえ感じる口調に、納得していないものの
「
素手の両手を
「ちっ!なにしてるんだよ、
お楽しみの時間を邪魔されてから一気にご機嫌斜めになっていた
「くっ!恥知らず……」
「これは……少し不味いですね」
とはいえ、
「はははは!もう死ねよ!
殴殺の快感に再び酔い始めた
――――
「それはどうかなぁ、ねぇ
――っ!?
一瞬、皆が目を向けた声の先、広間の入り口付近には……
軽薄な美形の剣士、
「くだらねぇ……」
やる気の無い態度が表に出た、見た目は悪くないが目つきは少々悪い男。
いや、目つきが悪いと言うよりも本当の意味で何者にも動じない瞳を思わせる不感症ぶりが黒い瞳に宿った、ある意味得体の知れない見るからに
――
が立っていたのだった。
第十六話「
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