第190話「京極 陽子」後編
第十五話「
――”世界を統べる者の代償”
――”本願への代価”
いいや!俺の場合は自業自得。
唯の因果応報による身の程を
――なのに、自ら進んで背負っていたクセに俺は泣きついた
「……」
「……」
――そっと、
俺の腕の中に収まった美姫はおでこを俺の胸に
「はる……」
――そう
”よりにもよって”惚れた女に俺は……
「……さいか」
暗黒の美姫は漆黒の瞳を上げて俺の視線を
「……」
当世随一の美姫と名を馳せる
「……」
久方ぶりに感じる心地良い温もりを胸に抱きつつ、誠に情けない告白をしてしまった俺としては”このまま
「はる?ええと……だから……」
だからといって、
「望んでいた事でもあるのよ……だから」
――!?
「……私は泣くから」
彼女は先んじてそう告げると漆黒の宝石を細めて切なく潤ませる。
それは――
俺のちっぽけな
自分こそ心の片隅で切願していた理屈でない感情だと……
女を優先した”
「ずっと……ずっとよ……」
満たされ溢れる新月の滴。
布を絡め、
「だから……」
不意に離れたおでこの暖かさが愛おし過ぎて――
「はるこ」
俺は視線を下げてそれを追っていた。
ほどなく、コツンと軽くおでこ同士が軽く接触。
「さいか」
白い顎先までに時を経た月の滴を拭う俺は、そのまま彼女の形の良い
――
「……」
「……」
当然のように惹かれ合い、俺と
「……」
「……」
――離れる
この期に及んで躊躇する
「はる……」
「…………ん……う……は……」
そうして再び、"
軽く、深く、何度も触れ合い求め合う二人の唇。
彼女の
「う……は……んん……さい……」
――
うなじから都度に溢れ
「はぅ……さい……あ……ん……」
――
奪い続ける唇越しに感じる征服感。
「…………ぁ」
俺は
そして――
「っ!?……さい……ふぁ……」
熱い吐息を漏らし続ける彼女の歯を強引に
「う……はぅ……あ……は……」
さらに熱を帯びる吐息ごと飲み込み、俺と
「さい……は……さいか……」
戸惑いながらもそれを受け容れた
「……は……はぁ……むぅ……はっ」
熱い吐息の橋が架かったまま一度離れる唇。
一息置き、至近から見下ろした
「はる……俺は」
――俺はまだまだ先を望んでいるのだから……
「
熱が伝わる距離のまま再び彼女を求める俺。
「…………」
控えめにコクリと
その後――
俺を待つ間に、すっかり支えを失った様に頼りな気に佇んでいた
「……」
事を終えて再び彼女の前に立った俺に対して
「恥ずかしいから……あまり……見ないでくれると……」
彼女の両手は少しだけ躊躇するように虚空に迷い……
美姫はドレスを支える肩部分に白い指先をそっと添えたのだった。
「わかった」
内心気が気でない俺はそれを悟られないように簡潔に素っ気なくそう応える。
スッ――
僅かにそれが持ち上げられ、浮いた布の隙間から純白の肩紐がチラリと見えたかと思うと淡い色のドレスはストンと床に落ちた。
「……」
俺の心臓は激しく打っていた。
チラリと見えた純白の下着がそのまま俺の眼前に、惜しむことなく晒されている。
露出した美姫の輝くほど白い肌は、足下のドレスがなんの抵抗もなく滑り落ちたことからも見た目通り絹の
「………………嘘つき」
とても離すことなど出来ない俺の視線を受けて、彼女は恨めしそうな上目遣いで
首筋から華奢な肩に続く流れるような流線美は腰の
周囲の薄闇を淡く滲ませたかの如き、霞んで見える錯覚さえ感じるほど白く輝く美肌を包んだ純白の
それを支える肩紐の頼りなさも相まって、俺にはあまりにも扇情的に見えた。
――想像していた通り……綺麗だ
光沢のある絹の下着越しにシルエットとして映える肢体。
暗黒の美姫の裸身は窓から降り注ぐ月光さえ独占して輝いていた。
「……」
絹の肌に
とても間に合わないと知りつつも、
「だから……約束……ばか……」
直視する俺の視線を遮るためだろう、華奢な両腕で自身を抱くようにしながらも、それでも
――ゴクリ
こういう意外とも言える
希に垣間見せる可憐な乙女の部分が……
「
俺は僅かに開いていた距離を踏み出して排除する!
「え……きゃっ!?」
そしてそのまま彼女の細い腰を再び抱きしめ――
「出来るだけ優しくしたいが……我慢できそうにない!」
俺は
「さい……さいか……あの……さい……」
「……」
戸惑う彼女にも応えず俺は歩を進める。
――そう、待てるはずも無い!
――自制なんて出来るはずが無い!
ドサッ!
「きゃっ!」
そしてベッドに彼女を軽く放り出す俺。
――ずっと想ってきた女だ!!
俺は上着を乱暴に脱ぎ捨ててから、ギシッ!とスプリングを軋ませて覆い被さった!
「ずっと……ずっと、こうしたかった」
俺はあられも無い姿の彼女に半裸で覆い被さり、そして――
「……」
「……」
――くそ……カッコわるいな
ただ欲望に負ける情けない自分に対し、急に自己嫌悪が襲い来た俺はそこまでで留まっていた。
欲望とは別に
「はる……」
思わず謝罪の言葉を吐きかけた時――
「っ!?」
そっと――
俺の下から白い腕が伸びて来て、俺の首に巻き付くように後頭部で組まれていた。
「知ってたわ……」
頬を染めながら、少しだけ震えが伝わる腕のまま彼女は目一杯に努力して微笑んでいた。
「……はる」
「知ってるのよ、いいわ。
揺らめく漆黒の光を細めて彼女は……
「けど……はる……俺は自制が効かないかも知れ……」
「女だって!」
――!?
「女でも……そういう感情は在るのよ……ずっと……」
「…………」
これ以上言わせないで!と言うように、彼女は他人を魅了して止まない
「はる……
白い頬から耳まで朱に染めて彼女は両腕をシーツの上に投げ出し、肢体を無防備に、俺に委ねる。
緊張を隠せずギュッと握られたシーツ上の拳が小さく震えて握られていた。
――その可愛さたるや……
「…………」
王道に至る道を、覇道を用いて進む”王覇の英雄”なんて世間で噂される男は――
なんのことはない、俺は俺の為に動いているに過ぎない小者だ。
一見、好き放題に振る舞っているかに見える
後世に、
それは自身の
だが俺は……
その無責任さは……
皮肉にも”
そういう孤高の道を進むと決めた俺がこの終盤に来て泣き言を吐き出し、
――”
それも惚れた女に……いや、それだからこそ……始末に負えない情けない男だ。
「……」
後世の赤の他人から振り返られるなら、俺の人生は悲劇の
なら、近しい者達からはどうだろうか?
「……」
言わずもがな――
俺は見苦しく彼女に
”
俺が
「……」
何時ぞや、
――"ああ、良い男だね
あの時は冗談じゃない!と思ったものだが……
――案外、"言い得て妙”だったかもしれない
「…………さい……か?」
覚悟を決めただろう美姫は自分に覆い被さったままで思案に
「ああ、すまない、
「っ!?………………ばか」
応えると俺は、不意打ちに頬を染める
「ちょっ!?い、いきなり……あ……うぅ……んん……」
決して嘘では無い。
けれど――
「さい……か……う……ん……」
「はる……」
世間で崇められ恐れられる策謀家“
「さい……か……あ……」
俺は待望であった、彼女の豊かな双房を両掌に弄び続ける。
慈愛に満ちる
その
「
肩紐に手を掛け、逆の手は膝丈の裾を捲り上げる。
「ん……さい……か……」
――俺がずっと焦がれていた女……
「いま、
「………………さいか」
第十五話「
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