第189話「衣衣恋恋」中編
第十四話「衣衣恋恋」中編
ザスッ!ザスッ!ザスッ!
「ぐはぁぁっ!!」
「……フフ……フフフフ……フフ……シ……シシ」
ジトッとした三白眼少女!
その奥にある得体の知れない危うい光と無機質な小さい口元に”にへらぁ”と不気味な笑みを浮かべて――
「シ、死ね……死ね!死ね!死ね!シネ!シネ!シネ!シネ!しねっ!しねぇぇっ!」
”
ブワァッ!
スカート下には無数のギラついた光りを放つ刃達……
標的は勿論――
「ちっ!」
――
このままだと並走する馬上から俺目がけ、暗器使いである
「……」
――とはいえ
俺ならばその程度の攻撃は全て叩き落とせる!
――落とせるのだが……
「……」
ドドドッドドドッ!!
俺は腰の
ドドドッドドドッ!!
何故なら……
「
直ぐ前方から”
ダダダッ!ダダダッ!
ドドドッ!ドドドッ!!
「さい……か」
命の天秤を簡単に選択して無防備に自身の後を追う俺に、暗黒の瞳がチラリと一瞬だけ”信じられない”とばかりに俺を振り返る。
ドドドッドドドッ!!
「惚れた女の尻を前に!
ドドドドドッドドドドドッ!!
視線に勝手に応じて叫び、手綱を
「………………バカ」
そして、一途さをアピールする俺の
「死ね!死ね!死ね!死ね!シネ!シネ!シネ!シネ!しねっ!しねぇぇっ!」
――おっと!
それは
そんな無防備な俺に
――――
「
高らかな笑い声と、高らかに笑いすぎて咳き込む滑稽な叫びが響き――
「とぅ!」
続いてどこから現れたのかっ!?
巨漢の鎧騎士が宙に舞って!
――――――――ガシィィン!
「……クフッ!!」
降って湧いた巨漢の来襲に!馬上にて不意のフライングボディーアタックを喰らった三白眼少女は、圧倒的体格差に簡単に押し潰され……
「さぁっ!」「おいさっ!」「よはっ!」
ドカッ!ドカッ!ドサァァッ!
「うわわっ!
ヒヒィィン!!
馬上は騎手を含めた三人……
それに追加で飛び込んできた同じような巨漢の三人と、計六人のピラミッドが突如積み上がってその加重に馬の足は
ガッ!!――ドシャァァーー!
そして馬諸共にその場で豪快に倒れたのだった。
「見たきゃーー!
教養の欠片も感じられない声の主は、少し遅れでその事故現場に到着した
ガシャガシャと着込んだ自長よりも大きな鎧を持て余して”ぷるぷる”とつま先立ちで目一杯仰け反って威勢を張って高笑いを披露……
そして見事に蒸せて涙目になる恒例のおバカ娘だ。
「がは……うええ……きもちわる……いぃぃ……はっ!……き、
「……」
――いや、今更……格好付け直しても遅いぞ
本当にシリアスな場をぶっ壊す天性のバカ娘だと俺は呆れながらも感謝はしていた。
ドドドッドドドッ!!
自慢の暗器が不発のままで四人の巨漢に押しつぶされて埋もれた
「まぁ、けど……助かった、幼女」
「にゃ!?にゃにおぉっ!!だから私は十九歳の
もう既にかなりの距離があるにも拘わらず、お
ドドドッドドドッ!!
「……」
――
気持ちを切り替え俺は本命に集中する!
ドドドッドドドッ!!
「くっ!」
流石の暗黒姫様も、もう余裕は欠片も無い。
それは
「……」
――先に”最後の札”を切って俺の足止めを試みた
――俺にも”切り札”はあった!
故に迅速さでやり過ごすことを優先するため単独に近い数で動いた!
――目論見通りだ
ならばこの後は……
――その思考には盲点が一つ!
我が陣営には”覇王姫”つまりペリカ・ルシアノ=ニトゥが率いる
そしてその一角にして、”智の砦”アルトォーヌ・サレン=ロアノフと並び称される”両砦”のもう一人の異能者……”武の砦”
小柄で可愛らしい風貌とは裏腹に軍を率いては天性の直感と呆れるほどの強運を備え、凶悪なまでの軍の強さを誇る通称”戦の子”
――
あの少々おバカなツインテール娘は……
自らの隊を窮地に陥れるような罠を回避する”異質”すぎる”武運”
自らの隊が狙いを定めた獲物へと確実に辿り着く”神がかり的”な”武運”
どんな戦国武将でも喉から手が出るほど欲する”最強の天賦”を二つとも併せ持つ反則娘である。
――無論、
そして、
統率力の低さから率いられる兵力も二、三百が限度。
おまけに武力も知力も
天は破格の異能という二物を与えたが、それを帳消しにするぐらいに武将としては
絶妙に微妙な
滅茶苦茶クセがある駒であり、それを使い
――”自らの隊を窮地に陥れるような罠を回避する異質すぎる武運”
が発動され、攻撃的戦力としては全く機能しない。
――ならばと!
そんな
「……」
――”勝ち筋”
――つまりは”
とどのつまり、俺の戦術は”
今回の俺の策、その全ては”
たとえ局地的で時間限定であろうとも!
この瞬間、この領域に限っては!
獲物へと確実に辿り着く”神がかり的”な”武運”が発動する!
この組み合わせが成立した時、俺以外に辿り着けないと思われた真実に……
”盤面の魔女”が本営に!
全く知略と縁の無い反則的な
ダダダッ!ダダダッ!
「くっ……」
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
――すべては決した
ドドドドドッドドドドドッ!!
――戦略、戦術、全ての才に於いて
「くっ……さいか……」
ドドドドドッドドドドドッ!!
――こと逆境……”負ける経験”に関して俺は彼女を圧倒的に凌駕するっ!!
ドドドドドドドドドドッ!!
「はるこぉぉっ!!」
俺は右手を大きく前方に伸ばし、そして遂に――
「くっ!……さい……か」
――初めて……十五のあの邂逅からずっと、ずっと……
ガッ!
焦がれ続けた女の肩に!目一杯伸ばした指先が背後から触れた!!
「っ!」
1ミリでも繋がれば俺には充分!
グラッ――
そこから器用に手繰り寄せ、大きくバランスを崩させて――
「きゃっ!」
揺れる馬上から容易く落下させる!
――
全速で
――ダッ!
「っ!」
「……」
瞬間!漆黒の宝石と視線が交わるも――
俺はそのまま彼女を両手だけでなく全身を使って抱き包んでいた。
――――ガッ!
直後、一緒に矢のように流れる荒地に激突!
「ぐっ!」
衝撃と痛みに顔を
文字通り壊れ物を扱う様に、優しくタオルで包み込むように、
「……っ」
俺の腕に包まれた
ガッ!――ガガッ!――ガッ!!
そのまま二度、三度、二転、三転しながら俺の体は地面に叩き付けられ、都度削られて小石のように跳ね続ける!
「ぐ!……はっ!……く……」
そして――
ガガッ!――ドシャァァーー!!
散々に跳ね飛んだ挙げ句に、最後には数メートルも背中を削られながら地面を滑ってから俺はやっと停止したのだった。
――
「…………うぅ……さい……」
派手な事故同然の状況に遭っても全く無傷だった美姫は呆けた
「……っ!?」
――ガッ!
だが俺はそれより
――――――――ドシャッ!
そしてそのまま、これまた乱暴に美姫の顔を地面に押し潰す!
「っ…………うぅ」
悲鳴を上げる間もなく”うつ伏せ”に押さえつけて、続いてその背に馬乗りになる俺。
「さい……」
ググッ!
「……っ……か……あ……う……」
至上の美姫と称えられる見目麗しき女性のご尊顔を、野蛮丸出しの雑さで荒野に押し着ける暴挙は――
「ひ、姫様っ!!」
「
「悪いな、
実は、実害は見た目ほどでなく、その辺はちゃんと手加減をしている。
シュル――
そして俺は、ポケットから取り出した布切れにて、押さえ込んでいる
「……」
――神如き権能を
用心する事に越したことは無い。
ギュッ!ギュギュ!
更に、馬乗りになったままの状態で俺は美姫の両手を後ろ手に拘束していた。
「くっ……」
目隠しでうつ伏せに組み伏せられ、無礼にも馬乗りになった男の手によって虜囚そのものに成り下がっていゆく
たとえその身が無傷であろうと……
崇め称えられてきた
――ズザザザァァッ!!
「なんてことすんだいっ!若造っ!!」
馬を飛ばし、率いる部隊よりも一足先に辿り着いた
「は、
そしてその直後に、全てを捨てて駆け着けただろうボロボロの
「……」
野蛮な男に暴挙の限りを尽くされ虜囚となった主君の姿。
彼女達の忠誠心が本物、忠臣成ればこそ――
「く……この……」
「は……はるこ……さま」
その心を引き裂くのには十分すぎる
「……」
――俺にしてみれば当然それも狙っている
グイッと、俺は無言にて拘束した
ドサッ!
そのまま虜囚の
「……」
「……」
二人の
本当に肌に突き刺さるほど殺意剥き出しの視線を三百六十度から俺にぶつけて来る。
「…………怖いな」
――
だが俺は……
凍てつく敵意の中心であろうと、戦場全体に響き渡るよう声を張り上げてこの時の為に用意していた言葉を発するのだ。
「新政・
――――――――っ!!
我が命に即応する声はひとつも無い!
「……」「……」「……」「……」
誰一人従わず、そして全ての新政・
――だろうな……
戦場全体を見渡せば見渡すほどに――
負けを認めるなんて決して納得のいかない状況だ。
「只で済むなんて思うんじゃないよっ!
「これで戦は終わりだ。まだ続行するというのなら
俺はその一歩をそういう台詞で止めた。
「あ?……なんだってぇ?アンタ、自分の置かれた状況が……」
「とい
実際、それを完全に止めたのはもう一人の
「
「……」
怒りを抑え切れない切れ長の瞳で同僚を睨む女だが、それを銀縁眼鏡の女は無言で首を横に振って諭す。
――そうそう、そういう事だよ、”とい
俺は駄目押しとばかりに腕の中の虜囚をグイッと!更に密着させて、
その細首に腕を絡めて”へし折る”パフォーマンスを見せつけた。
「ちっ……解ってるさね、
抜きかけた白鞘を戻しガシャンと地面に放り出すと、馬を降りて――
ドサッ!
――っ!?
その行動に多くの新政・
「……」
続いて
「……賢明だな、
この
短期決戦を想定
まるでそれは”
臣下の
他のどの様な勝利条件よりもお互いの王を獲る事が優先されるであろう事実を、
ザザザザザッ!ザザザザザッ!
そして――
崇拝する
「…………終戦だ」
馬上の俺は静かに頷いた。
――――――――――ワアァァァァアァァァァッ!!
少し間を置いて現実を認識した我が兵士達から歓声が上がる!
「か、勝ったぞぉぉ!!」
「我々
ワアァァァァッ!!ワアァァァァッ!!
ワアァァァァッ!!ワアァァァァッ!!
終始劣勢で、壊滅寸前からの大逆転劇だ。
ワアァァァァッ!!ワアァァァァッ!!
ワアァァァァッ!!ワアァァァァッ!!
この狂喜乱舞ぶりも無理ないだろう。
――ただ……
「……はる」
俺の腕の中で力なく
「…………」
美しい容姿を泥に穢された
虜囚となった以降に一言も言葉を発しなかったのは……
「…………そうか」
俺が
最悪の行く末を意味していたのだった。
第十四話「衣衣恋恋」中編 END
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