第188話「最良の盾と最狂の矛」後編(改訂版)

  第十三話「最良の盾と最狂の矛」後編


 「勝利は目前だ一気に突破する!!」


 俺は愛馬”しゅんせい”を駆って精鋭五百と共に中央を突き進んでいた。


 オオオオオオッ!オオオオオオッ!


 最強の武勇を誇る木場きば 武春たけはる


 そういう希代の猛将が守っていた配置ばしょだけにその後ろは完全に手薄であり、本来なら敵の本営にこのまま一直線と言ったところだったが……


 ――ひとつ、ふたつ、みっつ……


 鞍上で俺は前方左右に点在する”少数部隊”の真贋を見極めるため集中していた。


 ――そう、本来なら手薄な本営へと突撃をかけ


 一気に敵総大将である京極きょうごく 陽子はるこ鹵獲ろかくするだけだったのだが……


 前方と尾宇美おうみ城の中間には少数部隊が一定の距離を保って幾つも点在していたのだ。


 「これは先日の戦いで見た、陽子はるこが独特の陣構え……」


 ――車懸くるまがかり……いや”絶禍輪ぜっかりん”とやらでしてやられた時と同じだ


 あの時も後方には意味不明の動きをする少数部隊の存在があった。


 ――そしてそれは一見して各々おのおのが独自に、その時々の状況に応じて動いているように見えるが……


 複数に分割された小隊は全て統一された指揮のもと精密に巧妙に、時には前線の繋ぎ目に対し兵力の追加投入部隊として、時には一時的な後方支援を行う様に機能している。


 なにより……


 少数であるが故の機動力と応変さで連係し合い、都度つど情報を集約し共有しているのだ。


 つまり――


 これら点在する少数部隊はわば移動する司令部。


 激戦地に最も近い戦場後方だからこそ即時対応できる利点と、それでいて物理的距離は無くとも戦場から一歩引いた複数拠点による細密な情報収集により、まるで俯瞰ふかんしたかの如きに戦場を見渡せるのと同列の分析を可能にした……


 盤面の如く観測し得ることを可能にする、盤面遊戯ロイ・デ・シュヴァリエの不敗プレイヤーたる京極きょうごく 陽子はるこにぴったりの”戦略的司令部隊群”


 ”陽子はるこ”自身は少数部隊を臨機応変に移動し状況に応じて司令部を移すことで、その驚異的な戦術眼を余すこと無く発揮できる……


 人智を絶する彼女の頭脳からはじき出される”先読み”を存分に活かす為にだけ考案された、真に”盤面遊戯の魔女”たる京極きょうごく 陽子はるこにこそ相応しい独自陣形なのだ!



 「陽子はるこめ、南阿なんあの英雄と恐れられた伊馬狩いまそかり 春親はるちかとのかつての戦いで、まんまと本陣を強襲された苦い経験を見事に修正しただけでなく、それをこんな巫山戯ふざけたレベルの攻撃的陣形にまで昇華しやがって……」


 俺は陽子はるこの突出した才能だけで無い恐ろしさを再認していた。


 ――幾つもの少数兵力の陣が僅かに移動し変化し続ける……


 それは、即時対応できる距離で有りながら戦場を俯瞰できるという利点メリットだけで無く、


 こうして必死の思いで突破してきた我が強襲部隊の攻撃目標を有耶無耶に攪乱する意味も備えているという周到な陣形だ。


 ワアァァァァッ!!ワアァァァァッ!!


 「……」


 ――そうだ、モタモタしていると……


 一時的に混乱しているこの状況を立て直した新政・天都原軍てきに、今度こそ臨海軍おれたちは包囲殲滅されてしまうだろう。


 なんたって兵力数では相手有利は変わらず。


 最前線で一時的に互角以上に戦っていられる現在いまの状況は……


 後方拠点である尾宇美おうみ城を一時的に占拠する事に成功し、そこから新政・天都原あまつはら軍陣形の後方を雪白ゆきしろの部隊で掻き回しているからであって、その混乱に乗じて木場きばの部隊を突破した俺の少数強襲部隊が敵本陣に奇襲をかける道筋が見えただけ。


 つまりこの状況は……そう長くは続かない!



 ワアァァァァッ!!

 ワアァァァァッ!!


 俺が頭で状況を整理している間にも、既に左右から指揮系統の再編に成功しただろう新政・天都原あまつはら軍の両翼部隊が迫り来る!


 「ちっ!思ったよりも動きが早いな……流石は陽子はるこの部下達」


 かつては俺の指揮下で戦った面々を思い出しながら、俺はつい癖で賞賛が先行してしまうが……


 「ケツに火が付いてそれどころじゃ無いってか?…………けどな」


 俺はグッと手綱を握る手に力を込めてから我が部隊に促す!


 「京極きょうごく 陽子はるこの部隊はアレだ!現在いまはソコに居る!!一気に突撃するぞっ!!」


 大きく前方を指さしてから、俺自身が先頭を切って斜め前方の部隊へと向けて一気に加速する!


 ドドドドドッ!ドドドドドッ!


 ――そうだ、だからこそ俺は……


 ドドドドドッ!ドドドドドッ!


 前回の戦で自軍壊滅の危機を冒してさえも敵陣形の動きをつぶさに観測し、陽子はるこの思考パターンを学習する事に専念していた!


 ザザザザザッ!!


 「お!?」


 俺の強襲部隊の動きに感づいたのか?


 進行方向であった敵の少数部隊がさらに後方へと、いち早く下がり始める!


 そして――


 ドドドドドッドドドドドッ!!


 ドドドドドッドドドドドッ!!


 その間にも左右からは大軍が寄せ来る蹄の地鳴りが迫って!


 ――到底間に合わない?


 ――いいや!


 「進軍せよっ!このまま尾宇美おうみの御旗まで届くほどにっ!新政・天都原あまつはら兵を蹴散らす意気込みで進めっ!」


 ワアァァァァッ!!

 ワアァァァァッ!!


 徐々に秩序を取り戻しつつ左右から俺の率いる強襲部隊を囲い潰そうとしていた新政・天都原あまつはら軍へと向け――


 ドドドドドッドドドドドッ!!


 後ろから一気に宗三むねみつ いちの部隊が追い着いて、そのまま新政・天都原あまつはら軍と激突していた!


 ガキィィン!ギギィィーーン!


 オオオオオオッ!ワアァァァァッ!!


 激突と同時に激しく火花を散らす両軍。


 「くっ!ここに来て再突撃とは……臨海りんかい軍め、往生際の悪い」


 ギギィィーーン!ガキィィン!


 だが、一度は迫り来る新政・天都原あまつはら軍の足止めに成功したものの、既にかなり消耗していたいちの部隊は徐々に押され始める。


 「ここが勝負所ですっ!臨海りんかい王の部隊諸共にこのまま臨海りんかい軍を順次殲滅……」


 それを目聡めざとく突いた新政・天都原あまつはら軍、騎馬弓隊の将、二宮にのみや 二重ふたえがそう叫ぶと同時だった。


 「我が君が王道を穢す不遜にして不逞の輩共ぉっ!!その愚行!思い上がり!救いようのない分不相応と知りなさいぃぃ!!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


 ワアァァァァーーーーーーーーーー!!


 無茶な突撃で消耗した宗三むねみつ いち部隊の攻勢が衰えたのと入れ替わりに、今度は鈴原すずはら 真琴まことの部隊がいち部隊を遙かに凌ぐ速度と迫力で大きく前に割り込んで来たのだった!


 「こ、これは……流石に被害が馬鹿にならないです、一度距離を取って立て直してから再度包囲を……」


 本来ならば、この二宮にのみや 二重ふたえの判断は正しい。


 数に勝る新政・天都原あまつはら軍は臨海りんかい軍の一連の自暴自棄とも取れるこの無茶な連続突撃を冷静にいなしてから押し潰すのが最も効率的で安全な方法だったろう。


 ――そう、これが真っ当な攻撃だったなら……


 「二重ふたえっ!下がっては駄目!!少数部隊を擦り抜けさせる為の布石ですっ!」


 距離を取るために下がろうとしていた二重ふたえ隊を寸前で押しとどめたのは――


 「なんとしても護り切るのです!敵は既に限界を越えているのだからっ!!」


 銀縁眼鏡のキリリとした美女、十三院じゅそういん 十三子とみこが新たな部隊を率い急遽駆けつけて、槍を振るっては前線に檄を飛ばす!


 「えっ!え?……と、止まって!!下がるのやめ!やめぇぇっ!!」


 ドドドドドッ……ザザザザザッ!!


 その声に二宮にのみや 二重ふたえと部隊は辛うじて踏みとどまっていた。


 「……」


 ――ほぅ、流石だな


 俺はかつて”尾宇美おうみ城大包囲戦”で共にくつわを並べた陽子はるこの腹心……十三院じゅそういん 十三子とみこが変わらずの慧眼を心中で小さく称えた。


 一見して最後の悪足掻きにしか見えない死力を振り絞った無茶な突撃は、この戦で常に優位に包囲戦を展開させる新政・天都原あまつはら軍でさえ、ここに来て一時的にでも怯ませるほどの連続突撃だった。


 ――だが、それさえもが……


 俺の強襲部隊を、敵総大将である京極きょうごく 陽子はるこの元へと擦り抜けさせる逆転の一手だと看破し、結構な被害を受けてでもその芽を摘むという断を下したのは流石、優秀の極み!


 ――と、一旦いったんは嘘偽り無く褒めておこう


 オオオオオオッ!

 オオオオオオッ!


 「くっ!それにしても臨海りんかい軍のこの異様な圧力……」


 激戦区に踏み留まった二宮にのみや 二重ふたえの部隊のみならず、継ぎ目無く繰り出された連続突撃で中央付近の新政・天都原あまつはら軍は予想以上に苦戦していた。


 「……」


 我が臨海りんかいは戦場全体では終始不利。


 ――だがこの瞬間、立て続けの突撃という所謂いわゆる”波状攻撃”は……


 「中央をもっと厚く!!兵で無く常に壁に徹するかなっ!!」


 新政・天都原あまつはらの中央部分はかなり堅いが……


 ――なるほど”アレ”が陽子はるこ円盾アイギス十倉とくら 亜十里あとり……


 前に対面した捕虜の姿とは大違い、確かに聞き及ぶ通り中々の防衛戦巧者だ。


 「けどな、これは波状攻撃。つまり”波”と来れば次に登場するのは……」


 ズ――――


 ドドドドォォーーーーーーーーーーーーーーン!!


 突如巻き上がる砂埃と強烈な破裂音!!


 「ぐはぁぁ!!」「ぎゃぁぁ!」「うひゃぁ!!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 それは――


 更に!更に!臨海りんかい軍隊列の後方から来襲する怒濤の騎馬集団!!


 「ブラーヴォッ!!良い露払いブェン・トラバホよ!臨海りんかいの貴方たち、ふふふ」


 特に先頭で赤毛馬を駆る赤毛の闘姫は――


 中央付近に集結しつつあった新政・天都原あまつはら兵士達、数十人を紙屑の如き宙に舞わせて吹っ飛ばした張本人にして、名高き長州門ながすどが覇王姫!紅蓮の焔姫ほのおひめ!ペリカ・ルシアノ=ニトゥ!


 「ふっ」


 ブワッ!


 彼女は燃えさかる炎の如き深紅の髪を優雅に左手で後ろへと払い流し、石榴ざくろの唇に戦場への期待を存分に込めた愉悦を乗せて微笑む。


「さあ、さぁ、も名も無き雑兵あなたたち!我が炎舞ロンドに焼かれて散る栄誉を授けましょう!」


 情熱的なあかい衣装と黒鉄くろがねの肩当に連結された巨大な誰憚だれはばかる事無く再び振り上げられる。


 「……」


 ただ、静かに――


 「……」


 唯々ただただ、当然如く所作で――


 「……」


 見上げる新政・天都原あまつはら兵士達はゴクリと唾を呑む以外許されず――


 唯、神の炎ウリエルの裁きを待つ――――



 ドコォォォーーーーン!!



 そして焔姫ほのおひめ黒鉄くろがね籠手こては無抵抗の兵団に再度振り抜かれたのだった!


 「うわぁぁ!!」「がはっ!」「ぎゃっ!」


 ガシャ!ガシャガシャ!メキキ……ドドーーン!!!!


 途端に新政・天都原あまつはら軍の兵士達は三列目に及ぶまで!


数十もの馬と武装兵士達が正面からの衝撃に圧迫されて列途中は盛り上がり、そのまま爆散していた。


 「む、無茶苦茶です……あれは……」


 なんとか踏みとどまっていた二宮にのみや 二重ふたえ部隊もこの勢いに蹴散らされ、


 「くっ!ここに来てほのおひめなんて……」


 加勢に来たはずの十三院じゅそういん 十三子とみこ部隊も完全にその場に押しとどめられる。



 第一、第二に次いでの突撃三撃目はペリカの鉄槌部隊、


 それはとびきりの大砲だった。


 ――そうだ。”波”に乗って現れ来るのは無敵艦隊アルマダ


 文字通り、焔姫かのじょの部隊が覇王の拳ボンバルディアンドがこの波状攻撃最大にして最狂の大トリを務める真打ちなのだ!



 「放てっ!」


 ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!


 この機を逃さず、少し下がっていた宗三むねみつ いち部隊が剣や槍を弓矢に持ち替え、敵軍後方部隊へと遠距離攻撃を開始する!


 「ぎゃっ!」「ぐはっ!」「うぎゃっ!」


 これにて新政・天都原あまつはら軍は予備兵力も含めて大混乱、付近に存在する余剰戦力も余すこと無く叩く!叩く!徹底的に叩く!


 「いち隊を後方に置きつつ、私たちも目前の敵を討ち続けます!」


 鈴原すずはら 真琴まことの連携もバッチリだ。


 ――


 これでいらいったい、この時間帯だけは、戦場で唯一臨海軍おれたちが圧倒的有利に立つ場所になった。


 「……」


 これが終始劣勢の戦場にいて俺が絞り出した唯一の勝利への道。


 続けざまの三連突撃……


 全てはこの一瞬の勝機のためだけに編成された縦列陣形であった。


 ――呼称は”縦深じゅうしん突撃陣”!



 「良しっ!」


 この局地、この瞬間を見定める為だけにけんにんばつを経て死力を解き放ち!


 圧倒的火力を用いて一時の勢力圏を築いた!


 そして、この好機、その隙に――


 「一原いちはら 一枝かずえ七山ななやま 七子ななこも手元に無い状況で、残った最側近である十三院じゅそういん 十三子とみこそばを離れざるを得ない状況ならば……」


 ヒヒィィン!!


 俺は俺で更に愛馬”瞬星しゅんせい”を急がせていた!


 ドドドッ!ドドドッ!


 慌てふためき、この場へと集結しつつある新政・天都原あまつはら軍を尻目に――


 ドドドッ!ドドドッ!


 後事は我が三将に任せて、混乱する敵軍の只中を縫う様に走り抜ける!


 ドドドッ!ドドドッ!


 ――これで目星を付けた部隊が陽子はるこの居る部隊に間違いないと確証を得た


 敵軍の動勢が、十三院じゅそういん 十三子とみこの動きが……俺の予測を確信に変える!


 ドドドッ!ドドドッ……


 「い、行かせるかっ!…………ぎゃっ!」


 「この先は……ぐはっ!」


 残敵による必死の抵抗を斬り捨て、数々の足止めを喰らいながらも――


 ドドドッ!ドドドドッ!!


 俺が率いる強襲部隊は右へ左へ、


 ドドッ!ドドッ!――ズザザザァァッ!


 敵部隊の隙間を縫うように複雑に疾走はしり抜け……


 ヒヒィィン!!


 だが確実に!陽子ターゲットを見据えて突き進むっ!! 


 「着いて来れない者は無理をするな!その場で敵を抑えるのに徹しろ」


 ドドドドドッ!!


 この時点で既に俺の率いる強襲部隊は十人も残っていなかった。


 途中で負傷し、足止めされ、或いはこの複雑な進路に着いて来れず離脱していった。


 「……」


 ――いったい最後にどれだけ残るだろうか?


 ドドドドド!ドドドドドッ!


 ――いや!陽子はるこに届いたなら……


 「その時は俺独りきりでも勝利はもぎ取れる!」


 ドドドドドッ――――


 「させないかなっ!!」


 ――っ!?


 そんな俺の進路に横合いから強引に割り込むように現れたのは、数名ほどの敵兵士達。


 「ちっ!しつこいな」


 それはそのまま新たな障害となる!


 「……すぅ」


 そしてその障害を率いる女は馬上で静かに深呼吸してから、


 ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――


 集団の中央にて武器も携帯していない両手を使い、風を切って幾度も虚空に円を描き始めていた。


 ――十倉とくら……亜十里あとり


 なるほど、ここに来て防御に徹するその”時間稼ぎはんだん”は正しい。


 ――俺の勝機はこの一瞬、限られた時間内しか存在しないのだから


 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!


 俺は揺れる馬上で血塗られた小烏丸こがらすまるを左手に持ち替え――


 「はっ!」


 お次は手綱を完全に手放し、そのまま突き進んだ!


 ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――


 その間も何度も何度も空に円を描く女の両腕……


 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!


 ――あっれだ!最後まで主君の盾となり立ちはだかるその心意気!


 「来るかなっ!鈴原すずはらさい……」


 ドドドドドッ――


 ――――ガシィ!!


 「さい……か!?ひ、ひゃ!?」


 俺と女が最接近した瞬間!


 旋回していた女の腕を難なく擦り抜けた俺の右手が女の肩を鷲掴んでいた。


 そして――


 グイッ!


 「う……ひゃぁぁっ!!」


 バランスを崩させて馬から引き落とす。


 ドサッ――ゴッ!ゴッ!


 「ぎゃっ!ふん!うきゃっ!ひぃぃ!!」


 ゴロゴロゴロ…………


 「か、かなぁぁぁっ…………ぎゃふ!」


 ゴロロ…………………………カクッ


 不細工に地面に激突し、豪快に転がっては砂煙と共に小さくなって行き、遙か彼方で寝相悪く転がったまま動かなくなった女。


 「わ、悪いな……構ってやる暇無くて」


 ドドドドドッ!


 ――まぁ、アレでも武術の達人らしいから死にはせんだろう?多分?


 中々の雑な扱いで退場願った相手に対し、心の中で手を合わせる俺。



 宗教国家”七峰しちほう”宗都の鶴賀つるが領で、六神道ろくしんどう東外とが 真理奈まりなから聞いた評価通りなら……


 十倉とくら 亜十里あとり……本名、弐宇羅にうら たまきは分家では随一の使い手だったらしい。


 だが、その東外とがの元門下生で、創始者以来の神童と呼ばれていた”ひとりの女”


 最上段位”かいでん”の更に上に君臨するという唯一の”いん”であった清奈せなさんと比べるなら、その技は俺にとっては余りにも未熟、児戯にも等しかったのだ。


 ドドドドドッ!ドドドドドッ!


 「……」


 ――扨置さておき、


 現在いまついて来られているのは…………三人だけか


 俺はチラリと後方を確認する。


 そして――


 ドドドドドッ!ドドドドドッ!


 ――見えた


 遂に!前方に疾走する三騎の影、その後ろ姿を確認。


 左右に一騎づつ、一人乗りと二人乗りという護衛を従えて走る騎影の中心には……


 ――上等な黒い軍服姿の女


 「……」


 目を奪われるほど美しい緑の黒髪は綺麗に纏めて結い上げられている。


 そう、普段からは見慣れない恰好であっても……


 「……はる


 その馬を駆るのは確かに――


 決して鈴原 最嘉おれ京極 陽子あいつを見紛うワケがなかった。


 第十三話「最良の盾と最狂の矛」後編 END

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