第188話「最良の盾と最狂の矛」後編(改訂版)
第十三話「最良の盾と最狂の矛」後編
「勝利は目前だ一気に突破する!!」
俺は愛馬”
オオオオオオッ!オオオオオオッ!
最強の武勇を誇る
そういう希代の猛将が守っていた
――ひとつ、ふたつ、みっつ……
鞍上で俺は前方左右に点在する”少数部隊”の真贋を見極めるため集中していた。
――そう、本来なら手薄な本営へと突撃をかけ
一気に敵総大将である
前方と
「これは先日の戦いで見た、
――
あの時も後方には意味不明の動きをする少数部隊の存在があった。
――そしてそれは一見して
複数に分割された小隊は全て統一された指揮のもと精密に巧妙に、時には前線の繋ぎ目に対し兵力の追加投入部隊として、時には一時的な後方支援を行う様に機能している。
なにより……
少数であるが故の機動力と応変さで連係し合い、
つまり――
これら点在する少数部隊は
激戦地に最も近い戦場後方だからこそ即時対応できる利点と、それでいて物理的距離は無くとも戦場から一歩引いた複数拠点による細密な情報収集により、まるで
盤面の如く観測し得ることを可能にする、
”
人智を絶する彼女の頭脳から
「
俺は
――幾つもの少数兵力の陣が僅かに移動し変化し続ける……
それは、即時対応できる距離で有りながら戦場を俯瞰できるという
こうして必死の思いで突破してきた我が強襲部隊の攻撃目標を有耶無耶に攪乱する意味も備えているという周到な陣形だ。
ワアァァァァッ!!ワアァァァァッ!!
「……」
――そうだ、モタモタしていると……
一時的に混乱しているこの状況を立て直した
なんたって兵力数では相手有利は変わらず。
最前線で一時的に互角以上に戦っていられる
後方拠点である
つまりこの状況は……そう長くは続かない!
ワアァァァァッ!!
ワアァァァァッ!!
俺が頭で状況を整理している間にも、既に左右から指揮系統の再編に成功しただろう新政・
「ちっ!思ったよりも動きが早いな……流石は
「
俺はグッと手綱を握る手に力を込めてから我が部隊に促す!
「
大きく前方を指さしてから、俺自身が先頭を切って斜め前方の部隊へと向けて一気に加速する!
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
――そうだ、だからこそ俺は……
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
前回の戦で自軍壊滅の危機を冒してさえも敵陣形の動きを
ザザザザザッ!!
「お!?」
俺の強襲部隊の動きに感づいたのか?
進行方向であった敵の少数部隊がさらに後方へと、いち早く下がり始める!
そして――
ドドドドドッドドドドドッ!!
ドドドドドッドドドドドッ!!
その間にも左右からは大軍が寄せ来る蹄の地鳴りが迫って!
――到底間に合わない?
――いいや!
「進軍せよっ!このまま
ワアァァァァッ!!
ワアァァァァッ!!
徐々に秩序を取り戻しつつ左右から俺の率いる強襲部隊を囲い潰そうとしていた新政・
ドドドドドッドドドドドッ!!
後ろから一気に
ガキィィン!ギギィィーーン!
オオオオオオッ!ワアァァァァッ!!
激突と同時に激しく火花を散らす両軍。
「くっ!ここに来て再突撃とは……
ギギィィーーン!ガキィィン!
だが、一度は迫り来る新政・
「ここが勝負所ですっ!
それを
「我が君が王道を穢す不遜にして不逞の輩共ぉっ!!その愚行!思い上がり!救いようのない分不相応と知りなさいぃぃ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
ワアァァァァーーーーーーーーーー!!
無茶な突撃で消耗した
「こ、これは……流石に被害が馬鹿にならないです、一度距離を取って立て直してから再度包囲を……」
本来ならば、この
数に勝る新政・
――そう、これが真っ当な攻撃だったなら……
「
距離を取るために下がろうとしていた
「なんとしても護り切るのです!敵は既に限界を越えているのだからっ!!」
銀縁眼鏡のキリリとした美女、
「えっ!え?……と、止まって!!下がるのやめ!やめぇぇっ!!」
ドドドドドッ……ザザザザザッ!!
その声に
「……」
――ほぅ、流石だな
俺は
一見して最後の悪足掻きにしか見えない死力を振り絞った無茶な突撃は、この戦で常に優位に包囲戦を展開させる新政・
――だが、それさえもが……
俺の強襲部隊を、敵総大将である
――と、
オオオオオオッ!
オオオオオオッ!
「くっ!それにしても
激戦区に踏み留まった
「……」
我が
――だがこの瞬間、立て続けの突撃という
「中央をもっと厚く!!兵で無く常に壁に徹するかなっ!!」
新政・
――なるほど”アレ”が
前に対面した捕虜の姿とは大違い、確かに聞き及ぶ通り中々の防衛戦巧者だ。
「けどな、これは波状攻撃。つまり”波”と来れば次に登場するのは……」
ズ――――
ドドドドォォーーーーーーーーーーーーーーン!!
突如巻き上がる砂埃と強烈な破裂音!!
「ぐはぁぁ!!」「ぎゃぁぁ!」「うひゃぁ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
それは――
更に!更に!
「ブラーヴォッ!!
特に先頭で赤毛馬を駆る赤毛の闘姫は――
中央付近に集結しつつあった新政・
「ふっ」
ブワッ!
彼女は燃えさかる炎の如き深紅の髪を優雅に左手で後ろへと払い流し、
「さあ、さぁ、
情熱的な
「……」
「……」
「……」
見上げる新政・
唯、
ドコォォォーーーーン!!
そして
「うわぁぁ!!」「がはっ!」「ぎゃっ!」
ガシャ!ガシャガシャ!メキキ……ドドーーン!!!!
途端に新政・
数十もの馬と武装兵士達が正面からの衝撃に圧迫されて列途中は盛り上がり、そのまま爆散していた。
「む、無茶苦茶です……あれは……」
なんとか踏み
「くっ!ここに来て
加勢に来たはずの
第一、第二に次いでの突撃三撃目はペリカの鉄槌部隊、
それはとびきりの大砲だった。
――そうだ。”波”に乗って現れ来るのは
文字通り、
「放てっ!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!
ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!
この機を逃さず、少し下がっていた
「ぎゃっ!」「ぐはっ!」「うぎゃっ!」
これにて新政・
「
――
これで
「……」
これが終始劣勢の戦場に
続けざまの三連突撃……
全てはこの一瞬の勝機のためだけに編成された縦列陣形であった。
――呼称は”
「良しっ!」
この局地、この瞬間を見定める為だけに
圧倒的火力を用いて一時の勢力圏を築いた!
そして、この好機、その隙に――
「
ヒヒィィン!!
俺は俺で更に愛馬”
ドドドッ!ドドドッ!
慌てふためき、この場へと集結しつつある新政・
ドドドッ!ドドドッ!
後事は我が三将に任せて、混乱する敵軍の只中を縫う様に走り抜ける!
ドドドッ!ドドドッ!
――これで目星を付けた部隊が
敵軍の動勢が、
ドドドッ!ドドドッ……
「い、行かせるかっ!…………ぎゃっ!」
「この先は……ぐはっ!」
残敵による必死の抵抗を斬り捨て、数々の足止めを喰らいながらも――
ドドドッ!ドドドドッ!!
俺が率いる強襲部隊は右へ左へ、
ドドッ!ドドッ!――ズザザザァァッ!
敵部隊の隙間を縫うように複雑に
ヒヒィィン!!
だが確実に!
「着いて来れない者は無理をするな!その場で敵を抑えるのに徹しろ」
ドドドドドッ!!
この時点で既に俺の率いる強襲部隊は十人も残っていなかった。
途中で負傷し、足止めされ、或いはこの複雑な進路に着いて来れず離脱していった。
「……」
――いったい最後にどれだけ残るだろうか?
ドドドドド!ドドドドドッ!
――いや!
「その時は俺独りきりでも勝利はもぎ取れる!」
ドドドドドッ――――
「させないかなっ!!」
――っ!?
そんな俺の進路に横合いから強引に割り込むように現れたのは、数名ほどの敵兵士達。
「ちっ!しつこいな」
それはそのまま新たな障害となる!
「……すぅ」
そしてその障害を率いる女は馬上で静かに深呼吸してから、
ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――
集団の中央にて武器も携帯していない両手を使い、風を切って幾度も虚空に円を描き始めていた。
――
なるほど、ここに来て防御に徹するその”
――俺の勝機はこの一瞬、限られた時間内しか存在しないのだから
ドドドドドッ!
ドドドドドッ!
俺は揺れる馬上で血塗られた
「はっ!」
お次は手綱を完全に手放し、そのまま突き進んだ!
ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――
その間も何度も何度も空に円を描く女の両腕……
ドドドドドッ!
ドドドドドッ!
――
「来るかなっ!
ドドドドドッ――
――――ガシィ!!
「さい……か!?ひ、ひゃ!?」
俺と女が最接近した瞬間!
旋回していた女の腕を難なく擦り抜けた俺の右手が女の肩を鷲掴んでいた。
そして――
グイッ!
「う……ひゃぁぁっ!!」
バランスを崩させて馬から引き落とす。
ドサッ――ゴッ!ゴッ!
「ぎゃっ!ふん!うきゃっ!ひぃぃ!!」
ゴロゴロゴロ…………
「か、かなぁぁぁっ…………ぎゃふ!」
ゴロロ…………………………カクッ
不細工に地面に激突し、豪快に転がっては砂煙と共に小さくなって行き、遙か彼方で寝相悪く転がったまま動かなくなった女。
「わ、悪いな……構ってやる暇無くて」
ドドドドドッ!
――まぁ、アレでも武術の達人らしいから死にはせんだろう?多分?
中々の雑な扱いで退場願った相手に対し、心の中で手を合わせる俺。
宗教国家”
だが、その
最上段位”
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
「……」
――
俺はチラリと後方を確認する。
そして――
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
――見えた
遂に!前方に疾走する三騎の影、その後ろ姿を確認。
左右に一騎づつ、一人乗りと二人乗りという護衛を従えて走る騎影の中心には……
――上等な黒い軍服姿の女
「……」
目を奪われるほど美しい緑の黒髪は綺麗に纏めて結い上げられている。
そう、普段からは見慣れない恰好であっても……
「……
その馬を駆るのは確かに――
決して
第十三話「最良の盾と最狂の矛」後編 END
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