第187話「散華の空」中編
第十二話「散華の空」中編
ドシャァァァァーーーーーーーー!!
俺は意識が一瞬、飛ぶほどの衝撃を背中に受けていた!
「がはぁぁっ!」
バキィィーーーー!!
激突音とは別で!辺りに若竹が数本
「かっ……はっ……」
意識が飛ぶほどの衝撃を背中に受けながらも、俺は両手を離し――
バッ!バッ!
でんぐり返しで離脱し、うつ伏せ状態から直ぐさまに後方へと飛び退く!
「………………ぷはぁぁぁぁっ!!」
取りあえず安全圏まで離れる事が出来た俺だが、そこで初めて肺の中に圧縮されていた空気を吐き出した。
――少なくとも
痺れを抑え込み、後方へと跳び退けたのは……
咄嗟に、衝撃で圧迫された肺内の圧力に耐えて回避行動を優先したからだ。
そうしないと吐き出した呼吸による脱力と襲ってくる痛覚に飲まれ動作が多少なりとも遅れていただろう。
「くっ……」
にしても――
一瞬だけ先延ばしにしたところで、骨を軋ませた程の激痛は襲って来る。
敵には格好の追い打ちチャンスだが……
「すず……はら……さいかぁ」
”一足跳び”の地で俺が”へたって”いても追撃が無いのは、
俺に先んじて立ち上がったにも拘わらず歪めた表情で睨むだけの大男に、激痛に引き攣った笑みで俺は応じる。
「だろうなぁ……完全に折ったからな」
あの時、時間差で響いた乾いた破裂音は、”最強無敗”の利き腕が死んだ証だったのだ。
”それ”を踏まえた俺はゆっくりと立ち上がり、余裕の動作で腰を低く落とす。
「……」
――”
少し離れて転がっているのは見えるが、この位置関係で拾いに行くのは少々厳しい。
だがそれは
奴も落馬の衝撃ではぐれた槍はちょい離れた地面の上だ。
「…………」
俺は獲物を狙うネコ科の猛獣そのままに、素手のまま腰をさらに落として――
ダッ!
大きく跳んで踏み込んだ!
「見事な”
全身をしこたま打ちつけられ、骨に損傷のある状態でも、なんの躊躇の欠片も無く死闘を続行する俺を”最強無敗”はそう賞賛するが!
ブゥゥーーーーン!!
損傷具合は
笑みさえ浮かべた表情で無事な左腕を振り回して迎え撃つ武神!!
――――ヒュッ
スッ!
この距離での打撃による有効打は難しい、況して鎧越しの腹部に拳を添えただけの俺が出来ることは……
「……ふっ」
――実は…………在るっ!!
一瞬の隙から潜り込んだ
窮屈な体勢から鎧越しの分厚い胸に
「っ!?」
ガコォォォーーーー!!
体内深く骨の髄を粉砕する
「が……はぁぁぁぁっ!!」
反動も何もない、数センチの距離から”ただ押し出された”だけの拳。
しかし、受けた
ガ……ガクッ
次いで、支える力を失った巨体は垂直に崩れ落ちる。
「”
俺は、一応は決まり事とばかりに呼称を告げる。
「はっ……はっ……はっ……ぅぅ……」
未だ地に伏してはいないが両の膝はガクガクと震え、辛うじて体勢を維持するのがやっとの
更に”鎧通し”さえ備えた超実践、戦国向きの奥義の習得は――
俺が根掘り葉掘り聞き出して二人で試行錯誤、破格の天分を
――ま、まぁ……そこは良いか?ははは……
つまり、なにが言いたいかと言うと、
「ぐ……ぅぅ……」
巨大獣でさえ悶絶するのが当たり前な奥義を受けての反応としては驚異的ではあるが、
「ぐ……はぁ……お……おおおおっ!」
――ないだろう……って!?まさか!?
ブワッ!という強烈な風切り音が至近で!一瞬、聴力を奪い去り、
俺は頭上に尋常でない
ドカァァッ!
「がはっ!」
同時に!視界に火花が散った俺は、意味も分からぬまま地面に顔面を打ちつけていた!!
「おおおおおおおっ!!!!」
――な、なにが起こった!?
後頭部に強烈な衝撃を受け、地面に押し潰された??
折れてない方の腕で叩き潰されたのか!?
”
――い、いや……違うだろ!
ババッ!
朦朧とした意識下で混乱する思考はコンマ数秒も保持していられないっ!!
俺はうつ伏せに潰れて土を舐めた瞬間に湧き上がるあらゆる思考を捨て去り、腕立て伏せの体勢で両手を地べたに着くと、そのまま腕の力だけで斜め後方へと跳んだ。
ダッ――ダダッ!!
後ろへと、跳び退いたまま……
次いで右足で流れる地を蹴り増して、そして更なる後方の安全圏へと距離を取る。
――――ブオォォーーーーン!!
「……っ」
僅かに髪を掠めただけでやり過ごす事に成功する。
ズザザザァァッ!
前傾姿勢で勢いのまま後ろに滑り、両手の平を地面の摩擦で削りながらも停止する俺。
「ふっ……ふっ……はぁぁ!!」
その間にまるでラマーズ法の様な息使いで再び戦闘態勢を整える巨漢は……
力なく下げられたままの右腕以外は全く問題ないという、完全復活した覇気を
「くっ!……
――いいや!ダメージが無いはずが無い!!
「はははっ!
再び俺達は距離を置いて睨み合う。
ワアァァァァッ!!
ワアァァァァッ!!
時を同じくして、周囲で歓声とも悲鳴ともとれる集団の叫び声が戦場を包んだのだった。
「…………」
――
俺は前面の化物に注意を払いながらも小さく頷いた。
「き、
「し、城が!?
「
俺達二人を中心に、交戦中であった両軍の最前線はこの時既に最前ではなくなっていたのだ。
「……」
鉄の包囲網の外……
新政・
「こ、こうなっては……」
「こ、ここでの足止めは意味が……こ、このままでは……」
ワアァァァァッ!!ワアァァァァッ!!
混乱に拍車が掛かる新政・
だが――
「……」
「……」
ズタボロでこの状況にも”我関せず”とばかりにゆっくりと口角を上げる”最強無敗”。
――はは……この
未だ睨み合ったままの俺達にとって最早それは後事……のようだ。
俺は応じる様に口端を上げる。
ガシッ!
「…………そうかよ」
ガシャ!
俺も鼻血を拭って立ち上がると、落ちていた
――戦場、余人がどうであろうと、
そういう事だ。
それは妙に納得のいく結論だと、俺は拾った
第十二話「散華の空」中編 END
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