第186話「鉄の棺桶」後編
第十一話「
ブゥオォォォーーーーン!!
一帯に
「ぎゃ!」「ぐはぁぁ!!」
その矛先を我が
「いざ!いざ!
巨大扇風機の様相で強烈無比な刃風を巻き起こし、並み居る
「おおおおおおおおっ!!」
「ぎゃぁぁ!」「ひっ!駄目だ……」「こ、こんな化物」
その武勇の前には数の優位など皆無に等しく!
「なにを躊躇う必要があるか!”匹夫の蛮勇”相手に隊列を乱すな、目的は変わらない!前にのみに活路があると心得よっ!」
とても最終防衛ラインを守る側とは思えない、あまりにも攻撃的な
「おおおぅっ!!」
ブゥオォォォーーーーン!!
「ぐはぁぁ!!」「うわぁぁ!」
ズバァァーーーー!!
「ぎゃひ!」「がはっ!」
それでも……
その”
「くっ!常識の無い……」
これには流石の
本来ならば、こういった無類の”武”を誇る手合いは、この様に数で包囲して対処するのが唯一にして最善の対処法であるのだが……
「変わらずかよ、”最強無敗”の称号は伊達じゃないってか?……ちっ!」
普段の
――”敵ながら
と、称えてしまうほどの
だが、
ワァァッ!ワァァッ!
「み、右から……い、いえっ!左からも!?」
「て、敵部隊が押し寄せてっ!来ますっ!」
――そうだ……
突撃の先頭部隊をあの化物に良い様に抑えられ、詰まった後続の部隊は密集状態……
ここまでですっかり左右挟撃の準備を
ワァァッ!ワァァッ!
ワァァッ!ワァァッ!
ギギィィーーン!ギギィィーーン!
重厚な攻撃陣で迫る新政・
「
ギギィィーーン!
「ぎゃぁ!」「ぐわぁぁ!」
「
ブゥオォォォーーーーン
「ぐはっ!」「やめ……」
だが前方は文字通り死地だ。
先ほどまでの自ら選択した突撃とは違い、鉄兵団という敵の手によって人造的に作り上げられし
「あの……暗黒姫め」
自軍の兵力消費を最小に、最大限相手に打撃を与える――
それは、細い路地に誘い込んで広い出口付近に展開した伏兵で叩くのが最良の手段の一つだろう。
それが成れば……
たとえ倍する兵を用意されたとしても、敵方が一度に戦える兵数は少数だから包囲して順次撃破、つまりは各個撃破の形になり難なく殲滅できる!
それを踏まえ、
包囲する重厚な陣形の圧力で
「くっ!この広い戦場で隘路を作り出し見え見えの少数精鋭部隊を伏兵同然に仕立て上げる理不尽な戦術……ほんと性格に可愛げがないな、魔女め!」
俺は後方部隊の位置から自軍の窮地をそう認識しつつも、
「これならペリカを前衛部隊にしておけば……いや……」
ならばと――
この馬鹿げた包囲陣の
と、一瞬だけ後悔が俺の頭を
確かに”
――だが、それでは……
――そう、それだと……
「いっくよぉぉっ!」
ドドドドドッ!
「遅れるなぁ!この一撃こそが勝利への一手だ!」
ドドドドドッ!
両側面から敵兵の壁に圧迫され続ける我が
「ぐわぁぁ!」「ぎゃひっぃ!」「う、後ろ!?」
いつの間にか壁を大きく廻り込んでいた新たな敵部隊が
「あはははっ!どっかぁぁーーん!」
ギギィィーーン!
「撃ち払います!」
ドスゥゥ!
彼女らは我が
「……そう……だ」
圧倒的優勢、殲滅の危機に追い込んでの降伏狙いなら、当然こういう処置にでるだろう。
――だからこそ俺は、こういう編成で挑んだのだ!
ドドォォーーーーン!
「ぎゃっ!」「なっ!?」
無防備な後方から勢い込んで襲いかかる新政・
「落ち着きなさい
少し癖のある燃えるような深紅の髪の、絶対的な自信を常備する石榴の唇が、混乱
ズドォォーーーーン!!
「ぎゃひ!」「うぎゃぁぁ!」
右肩から指先までをすっかり覆う
「ふふ、
ギギィィーーン!ギギィィーーン!
「くっ!ここまで追い込んでも……抜けない!!」
「な……なんだこの密度は……」
またもう一方では完全に崩したと意気込んで押し寄せる新政・
「
僅かな碧い光りを宿した瞳以外は色を忘れたかの様な白い肌、白い髪の女性、
併せて一部隊の兵力しかない数で後背の猛攻を凌いで支え切るには、この二人の才覚しか無い!!
初戦の結果、全体兵力に劣ってしまった我が
――そうだ、
――だが……
「りょ、領王閣下!!このままでは……」
――だからこそ、この状況にて俺は……
「完全に包囲され、も、もう……」
――故にこの窮地でさえ……
「領王閣下っ!もう各部隊が持ちませんっ!」
――この絶体絶命の窮地でさえ打つ手が……無い!!
「突撃の手を緩めるなっ!”
最前線で必死に食い下がる
「急所の防備のみに集中しなさいっ!遠距離の弓ではかすり傷よ、惑わされずに接近する長槍部隊の対処を優先!!」
中盤を必死に保つ
「
「密集!ペリカの背面に回らせない様に対処して下さい!」
そして、後方を死守するペリカとアルトォーヌ。
「りょ、領王閣下ぁっ!!」
――殲滅の危機から逃れられないこの状況でさえも……
「…………隊列を維持し、随時応戦」
「閣下っ!?」
俺は……この状況で打開策を持たない。
「く……左はもう持ちませ……ぐわ!」
「右も……もう……隊列が……」
――
「ぐうぅぅ!も、持ち堪え……」
「す、隙間を空けるな!一気に切り崩されるぞ!!」
突撃の頭を抑えられ、大兵力の包囲下にある現在の
――風前の灯火だった
ワァァッ!ワァァッ!ワァァッ!
それでも容赦なく、途切れること無く、押し寄せる兵士の波!
「放てっ!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュバッバッ!
「ぎゃっ!」「うわっ!」「ぐわぁぁ!」
「突き崩せっ!」
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
前後左右!蟻の這い出る隙もない完璧な敵軍の包囲陣形は、ここぞと一気にその囲いを狭めつつ
「
何度も言うが、”この状況”では勝機は存在しない。
一刻も早く全軍降伏の指示を出さなければ全滅。
一兵残らず完全に殲滅されるだろう。
総指揮官として、
――
―
「……どうやら勝ったわね」
絶世の美姫が有する暗黒の
「
同時に深淵の底に優しい光りが一瞬だけ淡く光って……
「責め手は完全に結果が出るまで緩めないこと、徹底させなさい」
続いて各指揮官に指示を出す、暗黒姫の深淵は直ぐに元の冷酷な闇に還る。
「……」
美姫の近くに控えた少女はそんな主君の反応を目にしてしまい、驚きでジトッとした三白眼の瞳をパチクリと瞬かせていた。
良く言えば大人しい感じの見た目、文化系女子。悪く言えば少々暗めの少女でお世辞にも感情が豊かとは言えない少女がこういう反応をするのは中々に珍しい。
年齢不詳だがどう見ても見た目は十代前半の少女は、”
「……」
少し間を置いて、
――やはり”主君”にとって特別など存在しない……
主君の常に冷静で冷徹な暗黒色の
「今回は貴女の出番は無さそうだわ、
自分を凝視するジトッとした三白眼の視線を受けて、それが仕事の催促だと受け取ったのか、暗黒の美姫は少女にそう告げた。
そして再び表情をスッと引き締め――
自らが用意した砂塵舞う死地に常闇の視線を向け、
「
――
―
「
ワァァッ!ワァァッ!ワァァッ!
尋常ならざる劣勢の陣中で、負け惜しみとしてさえも
ワァァッ!ワァァッ!ワァァッ!
間断無く寄せ来る新政・
最早、降伏か全滅かの選択肢しか存在しないと思われた戦場に――
――クワァッ!
世間では凶兆の訪れを告げると云われる黒き翼が天空に舞う。
「あれ……は」
敵兵に圧迫される隊内にて、
――クワワワッ!!
血と鋼が入り乱れる極地と、それらを巻き上げる鉄臭い砂塵の天頂に――
「遂に……成したの……か?」
――バサッ!バサッ!
――
「……」
「……」
「……」
血で血を洗う雄叫びと悲鳴、鉄の潰し合う雑音が占有する阿鼻叫喚の死地只中に、一瞬だけぽっかりと出来た空白の瞬間……
「……」
暗黒色の
「
口数少ないはずの三白眼少女がその違和感につい、主君の名を口にした時……
「…………
美姫の美しき
――
――バサササッ!
黒き翼は力尽きる寸前の我が
――クワワワッ!!
遂には天守に舞い降りた。
「…………」
――この瞬間
――それは結実する
俺は……
「おおおおおおっ!!」
大きく拳を振り上げ!そして高らかに叫んだのだ!
「
第十一話「
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