第185話「千変万化」後編
第十話「千変万化」後編
困惑の影で曇る
――彼女……
――
――”ここまで”して決着を先延ばしされる相手とは……
「私の……”
そして二人の視線の先――
腕を負傷した
「……」
応じる様に――
澄んだ湖面に揺れる
――スッ
壊れた剣を捨て、最初の攻防で一旦は腰の鞘に収めていた剣を抜き放った!
「う、
只ならぬ彼女の雰囲気に、
「三割じゃ失礼だったみたい。けれど結果は変わらないよ?」
だがそれより先に、プラチナツインテールの美少女が放った言葉は
「……」
――
――そう、だがそれは”先延ばし”になっただけ
「う、
ヒュバッ!
細身の刀身を軽やかに一振り!
「私は落ち着いてるよ、
空を切った鋭利な切っ先を敵に向け、プラチナツインテールの美少女は美しい
「……」
そして、背筋の凍る瞳でそれに応じる女もまた……
――
それは総合戦闘力で……というのではなく、”無手格闘術の分野でも!”という意味だ。
総合戦闘力では――
”あの出会いの時”でも既に私より強かった……かもしれない。
そんな
さらに比べものにならないくらい強くなった現在の
新政・
連れの男が”
「つ、強いかもしれませんよぉ?……お、王さまぁ」
つい、
――
「ここからは……出来るだけ”そう”ならないように手加減の配分には気をつけるけど、それでも
「……」
「
「……」
「この世界……乱世を治めるのは、
「…………………………お……お、王さまわぁ……」
――っ!?
それは性格が豹変したのでも、
幼少期、孤児であった彼女は、その才能から武の名門である
金銭で買い取られたという経緯から強制的に武の名門家の下働きの身分となったのだ。
元から引っ込み思案で自信の無い性格だった彼女は、そういう身分差や特異な環境も加わり、かなり辛い幼少期を経験したものだった。
上流階級や金持ちの門下生、その取り巻きが多い環境で……
対する自分は奴隷同然の身分。
だが、なまじ才能があった分だけ……
親無しの捨て子が見所があるからと、上流階級の門下生達と同じ場所に立っているという妬みや嫉み、差別意識から来る虐め。
それら全てから我が身を守るために彼女が作り出したのが……
言葉少なく感情を抑えた仮面の自分であった。
この外郭を
自分で無いならどんな酷いことを言われても、されても現実では無い。
だが
それが
それとも、もう既に二重の生活は限界だったのか?
それは本人にも解らなかったが……
結構危ない、過酷で困難な仕事をやらされていても、
――良いんじゃない?
そう言って、稽古の合間の片手間によく彼は事も無さげに笑っていた。
それは……
彼女の過酷な半生の枷を外す、無責任で、それでいて……
とても優しい言葉に感じた。
――どっちでも……
――”俺の役に立つなら”良いんじゃない?
「ふ……ふふ……な、なんて、ひどい方だろう……ふふ」
実は
見た目よりもずっと聡く、鋭い。
――でも彼は……
――
――ずっと彼を見て来たから……わかる……
「お、王さまは……や、優しいから……たまに嘘が本当になっちゃうんですよ……ふふ」
独り言の様にそう呟いた
「………………わからない。実際は凄く立派な人ってこと?」
けれど、その笑顔が本物ということは……
「ひ、ひどい方ですよぉ?……そ、それで……すごく……優しい
「??……
「そ、そうですかぁ?」
困惑する
「?」
そんな戦場とは無縁なおっとりした視線に釣られ、思わずそれを目で追ってしまう
「なっ!?」
「お……おいおい!」
――”それ”を見た!
「あ、
そして二人の反応を前に
実際、新政・
ワァァッ!
ギャリィィン!
――の、さらに先の海岸に!
ゴォォォォーー!
何隻かの軍船から空を覆うほどに黒煙が立ち籠めていたのだ!
勿論、燃えているのは新政・
そしてその策を仕込んだ張本人は――
”
「なんてこと……」
プラチナツインテールの美少女剣士は呆然と煙り柱を見上げ呟く。
「う……ああ……
彼女の
――
「それ燃えろ!やれ燃えろ!もーえろよ、もえろーよ、炎よもえろーー!!ははは!」
火災現場では、
「おうよっ!敵は片道切符の宿無しだ!一気に蹴散らすぞぉぉ!!」
オオオオオオッ!
同時に、陸上では同じく
――
「……」
奇襲をかけた新政・
その間に手薄になった軍船を
「う、
「……」
「
いつも通り落ち着かない男だが、今回に関しては
――このままでは休息どころか退却も出来なくなる!
「……」
事ここに至るまでに新政・
一つは、
それにより手薄になるはずだった
もう一つは、主戦力であり敵軍突破の要である”
これによる弊害は、致命的な誤算の三つ目に繋がり……
――
「ひーのこぉをまぁきあーげぇ!てーーんまでのぼぉれぇぇ!!」
「も、
つまり意識を目前の戦いに集中させすぎた隙を突かれ、敵の工作部隊が巧みに軍船……新政・
「……これって」
――戦場では今のところ
プラチナツインテールの美少女剣士は速やかに頭の中で状況を纏め始める。
「
――このまま戦いが長引いたら……このままじゃ私達には戻る場所がない
「
――当然、最悪の場合の撤退も出来なくなる可能……性……
「
ドカッ!
「
思考中の彼女の耳元で無神経にがなり立てる
「ばか
ヒュオン、ヒュヒュ――――キン!
プラチナツインテールの美少女剣士は、光る切っ先で数度空を斬ってから華麗に鞘に戻す。
「お、おい!痛いって!てか、
「……」
理不尽な仕打ちに抗議する男を無視し、美少女剣士は
「ここは……
そして意外なほどアッサリとそう語りかける。
「……」
先ほどまで死闘を演じていた二人の女の視線が静かに絡み合い。
――
一呼吸置いて、プラチナツインテールの
スッ……
滑らかな膨らみの曲線を包む上質な衣装の前にその手を宛てがって軽い握り拳を作る。
「私は――」
「ファンデンベルグ帝国が第一の騎士、”
神秘的な
自信に満ちた
「…………」
その姿はどこまでも透明で……
魅せられた者の背筋を震わせるほどの存在感。
謎の美少女剣士と異質の刀鍛治という、なにか
彼女が
「
そして――
それを察した
「ええ、
相応の応えに微笑んだ新政・
「
少し離れた場所で再び”
「なんですと!?船が……燃えておるのか!?」
そしてその時になって、初めてその状況に気付き目を白黒させる老将。
「おいおい、今頃気付くって……もうボケ始まってんのか?なら、向こうはちょうど燃えてるから火葬場に……」
「
とはいえ、流石は歴戦の名将である
直ぐさま状況から最善を選択し、直ちに全軍に命令を下した。
「
一言多い馬鹿な男に軽い制裁を与えながら……
「バカしてないで私達も戻るよ?
また、そんな茶番には付き合わずにサッサと背を向けるプラチナツインテールの美少女剣士。
「つ、冷たいじゃねぇか!マイハニー!
こうして――
新政・
無論、現状での交戦継続は兵に対する損害と
――
そんな敵に無駄な追撃をする事無く、
「で、ですからぁ……お、王さまはひどいひとだって……ふふふ」
第十話「千変万化」後編 END
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