第185話「千変万化」前編
第十話「千変万化」前編
「”
ガシィィン!と豪快に振り下ろされた槍が火花を散らして刀を叩く!
「ぬかせ”
ギィィン!と負けじとその槍を刀が
「ふん、
「
言葉と
ワァァッ!
ワァァッ!
敵味方が入り乱れる乱戦渦中――
「
ギィィーーン
ギャリィィン!
鉄の火花と鉄の臭いが
「まんまと隙を突かれた間抜けな家主に代わって負け惜しみか?
正統・
ガシィィン!
ギギィィーーン!
決戦の地――
「隙?若にそんなものなど有り得る訳が無かろうっ!」
ブオォォン!
”
シュ――バッ!
「そうか?現に
それを巧みに
「
ドカッ!
懐に入り込んだ相手を蹴りで押し返す!
「ぬぅ!」
それを受け、その蹴りを見事に
――
盟主国であった
所属は違えど同じ陣営で肩を並べて戦った歴戦の強者同士は……
同時代に同様に畏怖されし旧知の猛将同士であった!
ギャリィィン!
ガキィィン!
二人は別地にて雌雄を決する戦いに身を投じているだろう
「変わらず
「変わらぬ
激しくぶつかり合う猛将二人の
老いたりと言えど、この戦場で二人の勇猛に近づくことが出来る者さえ……
ヒュ――――ォン
「ぎゃっ」
――
ヒュ――バッ!
「ぎゃひっ!?」
トン
軽やかに着地。
「こ、このっ!」
ヒュ――
「っ!?」
一瞬出来た隙間を、そよ風が吹き去るように
――――ストン!
二人の老将が
「
二つに揺れる眩しいプラチナブロンドの美しい乙女……
光る細身の西洋剣を左手に、驚天動地の剣技で駆け抜けて来た――
サラサラとプラチナブロンドに輝く長い髪を整った輪郭の白い顎下ぐらいの位置で左右に
「う……む」
孫のように歳の離れた美少女に
「
一方、先日の
「ごめんなさい、
「だから……すぐに終わらせるね」
しかしその姿には微塵の気負いも誇張も無く……
自然体に、華麗で美しく、
そして――
ヒュ――――バッ!
プラチナに輝く二筋が尾を引いて揺れたかと思うと、その美少女は細い光刃と一体となって地を蹴っていた!
「っ!?」
その瞬間!
数多の死線を越え、生き抜いて来た
美しく煌めいて輝く死の残光だ!
それはまるで――
シュ――――バッ―――――
闇夜を切り裂く月光の剣。
―――――――――――ガシィィン!!
「っ!?」
しかし!
恐るべき剣技の美少女がっ!
その、澄んだ湖面に揺れる
自らの剣を軌道ごと撃ち落とし、剣撃を完璧に阻んだ相手に見開かれて
「ひ、
圧倒的”死地”に強引に割り込み、歴戦の猛将でさえ反応に窮した光りの一刀を難なく撃ち落とした人物は、到底それと思えないほど”おどおど”とした、おっとりお団子
「
「…………へぇ」
プラチナツインテールの美少女剣士はその一連のやり取りを見て、目前の女が
「おおーーーーい!
そこへ空気を全く読めない……
戦場とは思えぬ間抜け声を上げながら兵士をかき分け駆け寄る男がひとり。
「
間抜け男の場違いな呼びかけを受けたプラチナツインテールの美少女剣士は、特徴的な
「ろ、
”ぜぇぜぇ”と息も絶え絶えな、
「あのね、
「ま……マジかよ!?怖いな”この世界”」
プラチナツインテール美少女の言葉を聞き、
――
”
極み付けは”この世界”という……
まるで””自分達は部外者ですよ”と言わんばかりの
そんな二人にしか解らないだろう会話を聞いているのかいないのか?
「……」
その間にも
「いいわ、なら取りあえず四番をちょうだい」
シャ――キン!
そしてプラチナツインテールの美少女は……
彼女らが言うところの”この世界”では
手にしていた細身の西洋剣を腰の鞘に華麗に仕舞い、そして空いた白い左手を駆けつけた男の方へと伸ばす。
「お、
男は取りあえず納得したのだろう、肩に担いでいた
パシ!
視線を向けもせずに抜き身の剣を受け取った美少女……
ヒュ――――
輝くプラチナの二筋を引いて瞬く間に前方に沈んで消える!
「……」
そんな一挙動を切り取っても只者でない事が明らかな剣士相手にも、基本通り無手にて迎え撃つ
しかしその瞬間から彼女の、
バシュッ!シュバ!
閃く二筋の銀閃!
ヒュッ――――ザシュッ!
弧を描き、風を
高速で放たれた
戦国世界、どの剣士の、どの剣術とも違う異質の美技で――
「さすが!いつ見ても流麗かつ極限まで無駄の無い動きだなぁ」
それを間近で見てきただろう、
「
「お?
……る暇も無く、ツインテール美少女剣士の指示通りにそれを投げて渡す。
――ぱしっ!
右手で十一番の片手剣を受け取った美少女は、左手に握っていた四番と呼ばれる剣を手放し、そのまま振り返りざま……
シャラン――――シュバッ!
抜き放ったと同時に振り抜いた!
先ほどより明らかに速度を増した剣先!
ドシュッ! バシュッ!
「六番!」
再び
ブオォン!
今度は風切り音からも、厚めの一撃を秘めた剣!
「三番!」
ガシュ!、ズバァァ!
更に更に持ち替えて、今度の剣は…………と、
次から次へと
その
ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――
対して!
バシッ!バシッ!バシ!
その
バシッ!バシッ!バシ!
「……そう……ね」
ヒュンヒュン――
一通りの攻防を経て、手にしていた三番の片手剣を数回、空に閃かせた後でそっと地面に置くツインテール美少女。
――
「う、
「
対して、
「…………え?」
サァァ――
太陽光を反射して輝くプラチナブロンドが二束、優雅に風に踊る。
「え、ええと?…………な、ない!?無い無いっ!!正気か
途端に慌てて今まで以上に取り乱す男、
「だぁいじょうぶだよ。ところで
「うっ……まぁ……出力が六割も出たら良いとこだと思う……けど」
そしてそれに”つい”素直に答えてしまうあたり、
「だよねぇ?はい、”
そんな男の性格をよく知る美少女はニッコリと微笑んでから、空けた左手を彼の方へと伸ばして再び催促する。
「だっ!だから、おま……」
「
「う……うぅ」
駄目押しとばかりにパチリとウインクした美少女剣士に、完全に
――ズ、ズズズ……ガシャ!
「俺達の勝手とは違う世界だからなぁ?そこんとこ……」
見た目からもなにやらドス黒く怪しい剣気を纏った西洋剣を取り出した
「そうだね、多分死んじゃったりはしないと思うよ?この
「は?」
タッ!
言うが早く、輝くプラチナツインテールの……
「お!おいぃぃっ!!それってどうなんだぁぁっ!?」
タタッ――
叫ぶ男の声を背に、
――ヒュバッ!
直後、
疾風で一息に迫り、眼前で縦に消えるが如きの変則な動き……
「……」
”それ”を平然と視線で追える
「……だよねぇ」
その”見切り”を予測していた
地上と空中、
「……」
「……」
頭上を見上げる、見た目は愛らしい武闘士。
しかし、
「ふっ!」
それを達人を超越した
ブォッ!
小柄な
「
ズバァァァーーー!
――――――否!!
足場のしっかりした地上から先行して放たれた
ザシュゥ!
「っ!」
それでも!相対する武闘士も
これに即応し、頭上で三角に組まれていた両腕を流れるような所作で円状に変化させ、
――ど、どっちも……バケモノかよっ!!
信じられない反応速度と対応力の応酬に!
傍観者と化していた
ガシィィン!
「ふっ……は!」
ザシュゥ!――ズバァァ!――ドシュッ!――
バシュッ!――ズシャッ!――ザシッ!――シュバッ!――
ドスッ!――グシャッ!――ズバシャッ!――ズシュゥゥゥ――!!
瞬時に!同時に!瞬く間に!
四方八方!縦横無尽!
網の目の如くに
「っっっ!!」
その速度は高速剣、高速連撃とは全くの別物だった!
速いという次元では説明できない不条理のバーゲンセールである!!
ヒュ――ヒュン――ヒュヒュ――
「くっ!ふっ!はっ…………っ!?」
バシッ!バシッ!…………ザシュゥゥッ!!
「くはっ!」
こんな”モノ”は――
「ぐっ…………!?」
”
個人が対応できる範疇を大幅に越えた反則技である!!
「だ、だから……やり過ぎだって……”この世界”で”魔剣”は……」
――そうだ、これは俺の”魔剣”がひとつ……
――”
「何本もの同じ剣を、
――この”魔剣”を使いこなせる
――最強の”
「この世界への過度の干渉は
”自分にそう言っておきながら、
だが悲しいかな、
ブシャァァァァァーーーー!
と……些末事は
遂に鉄壁の牙城が破られ、
ドサッ――ゴロゴロゴロ!!
カシャァァーーン!
それと同時に
「…………」
そのままプラチナツインテールの美少女剣士は、無言にて傷ついた腕を押さえながら片膝立ちで対峙する敵を見ていた。
「
その表情に再び違和感を覚えた
そして問いかけに、プラチナツインテールの美少女剣士は静かに――
「
そう呟いて返したのだった。
第十話「千変万化」前編 END
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