第182話「北風とあざとい太陽」
第七話「北風とあざとい太陽」
――時間軸は
「では、貴殿等は抜けると言うことか?」
少し前まで
傘下に降した近隣小国群の王達を前に、怒気を孕んだ声でそう問うのは……
先代の
「そ、そうは言っておらぬ、暫し様子を見たいと……」
「そうだ、戦となるなら我らにも用意というものがだな……あ、あるのだ」
老将の鋭い眼光を前に、そこに集った数人の王達は目を
彼らは
少し前まで同等であったはずの
「戦国に在っては戦こそが誉れっ!それが戦乱の王たる方々の考えなら失望しか無いっ!!」
――っ!?
齢七十にも迫る老将でありながらも
「我らが言いたいのは準備の問題であって、その様な精神論では無い!」
王達の中でも特に実力のある
「そ、そうだ。直ぐに兵は用意できぬというだけ、暫し時間を頂きたい旨を領王閣下にお伝え願いたいと……」
「け、決して戦わぬと言っている訳では無い」
それに
――ここは
「……」
口々に発せられる反論に、無言にてギロリと眼光を向ける老将の隻眼。
「うっ!」
「ぬぅ……」
分厚い顔面に刻んだ年輪よりも遙かに多彩に面積のほとんどを占める
――老いても尚、一睨みで王達の心胆を寒からしめる偉丈夫!
長年の戦場で実戦経験値を
「
だが、
その迫力を正面から受け止めてそう言い放ち、ゆっくりと立ち上がる。
「う、うむ……そう領王閣下にお伝え頂こう」
そこに
実際のところ、小国群の王達は色々と理由をつけてはいるが……
一度は勢いのある
そして、その新政・
つまり、今し方の王達の言い分は――
結果を見てから安全に動きたいが為の、唯の言い訳に過ぎないことは明らかであったのだ。
「ふん……」
だが
この時点では
急成長した
――恐ろしいのは、この襲撃はそこまで見抜いての”
「良い。ならば
分厚い顔面に刻んだ皺を歪ませ、鋭い眼光でそう吐き捨てる
正直、城防備に残った兵力のみで襲来した新政・
「そうか、では我らは……」
「おう!安心召されよ、
心にも無い台詞を残し、その場に居た小国群の王達数人は激戦となるだろう
「はてさて、
剣呑な話し合いがお開きになる寸前の広間に、可愛らしいながらも中々に尊大な口調の声が響いていた。
「もうお帰りになられるのか?せっかく
大きなリボンで結ばれた”ゆったり”とした長い黒髪と、自信に輝くどんぐり眼という、中々将来有望そうな容姿の少女が仁王立ちして入り口を塞ぐように立ちはだかる。
見た目は非常に愛らしいながらも、少々気性に難が有りそうな少女の後ろには、同じように数人の少女達……
戦が始まる直前の城には似つかわしく無い、華やかな集団がそこに存在したのだった。
「こ、
その少女を見て一際大きく反応したのは――
小国群の王達が急先鋒であった
「で、父上様、これはどういうお心か?」
そう、生意気な少女の名は、
彼女達、急激に強大になった
結果的にそこが最前線の一つになるとは全く皮肉であった。
「仕える
「ぬ、ぬう……幼いお前にはまだ政治は
突然現れて虚を突かれた父は一瞬だけ戸惑うが、そこは小国とはいえ王たる者の威厳、小娘の青臭い正論如きは切って捨て……
「政治?政治とな?ならば
王たる者の威厳で切って捨て……
「え……マジ?」
一瞬で
「
それを見た
「
「いや……それは……てか……父と縁を切るって?
ドンドンと捲し立てる娘に父親は……
「
「う、うむ……
「それに父上様……
その態度に娘は何かを感じたのか、一転して雰囲気を変えてモジモジと、
「!?」
「……た、大変……可愛がって頂いており……ます」
恥じらいいっぱいの声でそう告げた。
「か!?可愛がってっ!?そ、それは……」
生意気であった少女は、伏し目がちに頬を染めて乙女の
「っ!!!!!!!!」
そしてその反応に、その言葉に、
「はい……そういう意味でございます」(←ウソ)
幼いまでも
「なっ!?……ななっ!」
なんとも乙女の恥じらいを前面に出した、中々の演技力で
――元を正せば、
政略道具として娘を差し出したのは
実は父親としての、親馬鹿な
「お兄ちゃ……
策略のためとはいえ、自身の願望を実際に口にすることにより、なんだか自分でも気持ち良くなってきたのだろう……
流れるように次々と並べられる嘘八百!
そして
「ぬ……ぬぬぬ……」
「お、おい、
「ぬぅおぉぉぉっ!!
「う、
「くぅぅ!あの
「いや、だから
「そればかりか
「
ドカッ!
先ほどまでの王たる振る舞いはどこへやら……
完全に取り乱しまくる馬鹿親の後頭部に
「うっ!い、痛いではないか、
「お主が娘の言葉如きでみっともなく取り乱すからだっ!この馬鹿親が!!」
とんだ見かけ倒しの王だと、呆れて怒鳴りつける
「ふん、
「お父様、実は
すかさず、
「ぶっ殺すぅぅっ!!あの
親馬鹿は
「父上様、
「
親馬鹿どころか既に未だ見ぬ孫の祖父馬鹿モードの
「お父様も……」
「やらいでかっ!
馬鹿具合がどっこいの
「え、えぇーー?」
完全なる私情にて王としての威厳も、統率者の政治とやらも……百八十度ひっくり返った
「ここまで来て怖じ気づくような腑抜けなどこの場には居るまいっ!」
「お……おおー」
二人のあまりの勢いに流され、つい小さく腕を振り上げる。
「声が小さいっ!それでも王を名乗る強者共かぁぁっ!!」
「おおおおーーーー!!」
完全に場の雰囲気に呑まれ、残りの王達も成り行きで一致団結する。
「…………ぬぅ?これは……なんとしたことか」
そして呆気に取られているのは、なにも小国群の王達だけでは無かった。
”
近隣諸国にその武名を響き渡らせた猛将の威を
押して駄目なら引いてみろ!
まさしく寓話の”北風と太陽”……
「時に
そして――
大きなリボンで結ばれた、ゆったりとした長い黒髪と、自信に輝くどんぐり眼という、まだまだ幼くも将来有望な容姿の
「う……うむ……承知」
頬を染めながらもコッソリと猛将にそう告げるのだった。
第七話「北風とあざとい太陽」END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます