第181話「至る道」前編
第六話「至る道」前編
「……で、だ。俺はこの通りだ、追撃部隊はお前に任せる」
丸太の様な巨大な両腕を万歳し、胴部にぐるぐる巻きに巻かれた包帯を見せながら大男は仕事を投げる。
「…………とんだ間抜けねぇ?
目の前で椅子に腰掛けた大怪我の大男と同じ高さの目線にて、呆れ顔で腕を組んで立った垂れ目気味の女はため息を吐く。
「それは……あれだ……そのお嬢ちゃんが強かったってだけのことだ」
垂れ目美女の蔑む様な視線と言葉にも全く意に介さずに真顔で応える大男は、
「そんなにぃ?ちょっとあり得ないって感じだけどぉ、悔しそうでもないしぃ」
幾重にも巻かれた包帯の下から更に血が滲んでいるのを見ても、
「別にヘコんで無いわけじゃないがな、だが
無類の武を誇り、そして強者との戦いを愉しむこの大男であっても、ひとたび将として戦場に立てば個人的感情より全軍の事情を優先するのは当たり前。
「まぁな、負けるのが初めてってわけでもないしな……」
言いながらも、実は
――
過去において、天性の
小国群の国々は盟主国である
つまり、王として生を受けたといっても一生涯、属国扱いで使い潰されるだけの人生。
この乱世に王として、否!
そんな自分の境遇に荒れていたこの時の
「テメェ、
そう言って挑発的に
「…………跡取りと言っても兄が二人居る」
既に戦場での暴れぶりから”
「はん?そうかよ……なら兄貴二人をぶちのめしてから相手してやるよ、お子様……」
必死に顔には出さないようにしているが、怖じ気づいた末の言い逃れだと思った
ガン!
その少年は自分に突きつけられた
――とても十代前半の
「テメェ……」
未だ初陣前の
「相手しても良いけどな……アンタ、
――っ!?
歴戦の兵士でも固まってしまうような
それでいて身の程知らずの空威張りでも、空元気でも無いのがヒシヒシと伝わる自信と冷静さに満ちた目が――
「余計気にくわねぇ……なっ!」
ブオォォーーーーン!!
戦場に初参加したばかりの若造……
当時は未だ十二にもならぬ
一回り以上離れた子供相手に、初陣もまだ済まぬ新兵に……
戦場で
だがその当時、敗北の事実以上に
「…………」
あれから――
数々の戦場を経て、
だが……
「…………」
――あの”ツインテール嬢ちゃん”の剣……
「スミヨシ?」
「ああ、悪いな……ちょっと考え事をしていた」
明らかに覇気を欠いた今日の
「追撃部隊は良いけどぉ、敵はあからさまに南に進路を向けたのでしょう?罠なんじゃないのぉ?」
この
今回も、敵が巧みだったのは勿論認めるが……
手勢が僅か数百だからこそ、この戦場への接近も見落としたのだ。
そんな少数部隊が南方……つまり国境を越えて
ならこれは誘いで、追撃しようものなら、この先で伏兵部隊による奇襲がある?
そう考えるのも無理からぬことであった。
「まぁな……だが他にも部隊があって途中合流するかもしれん。いや、既に先行した軍が
「あり得るかしらぁ?」
新政・
広大な領土であるから、蟻の子一匹とはいかないが……
脅威となるような、数千、数万の兵を見落とすなど考えにくいことだ。
「わからん。だがそうならば
後は戦場で培った”勘”といえるかもしれないが……
「……」
同じく戦場で鍛えられた
「サイカくんに指示を仰いだ方が良くないかしらぁ?」
どちらにしても判断は難しい。
「無論だ。既に報告の兵は走らせたが、その間になにもせんワケにもいかん。だいいち、手遅れになる」
「…………わかったわ」
結果、暫く考えてから
「そうか、助かる!なら取りあえず足の速い兵を二千ほど連れて行け、その後用意が調い次第に三千の兵で追わせる」
「それだとぉ、城を落とすのが困難じゃない?既に少数だけどぉ、あの城には”
そう言った
「暫し時間がかかるのは仕方ない、よりヤバそうな匂いがする方を先に潰してからだ。後ろは心配する必要は無い、
それは攻城戦と同時に、追撃を頼んだ
「そうねぇ、間抜けな巨大ミイラ男じゃぁ、魔除けの置物くらいしか役に立たないわぁ」
「言いたい放題言いやがって。大体テメェも”
巨大ミイラ男の
「ちっ!相変わらず嫌なくらいマイペースな女だ」
その背を見送りながらも、
「確かにこれじゃぁな……ここで睨みを効かすくらいしか役に立たん
第六話「至る道」前編 END
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