第180話「轍鮒の急」
第五話「
「それで?
銀縁眼鏡の秘書風美女がレンズを光らせて問う。
「そうさね、初戦は勝ったからね。下手に深追いして”あの化物”と削り合うのは得策じゃないだろう?」
細く切れ長な瞳と薄く赤い唇という実に色気漂う女が泰然たる態度で応じた。
新政・
”
――カンッ!
「!」
「!?」
そんな剣呑な雰囲気の場に無機質な音が響く――
それはクリスタルの澄んだ盤面上に、精巧な
「それで良いわ。
変わらず盤面を見つめたままの美姫の表情は二人からは窺い知れないが……
駒を置いたときの彼女らしからぬ粗雑な音に、
「……」
「……」
しかし、なんとも言えぬ緊張感……
つい先ほど大勝したとは思えぬ本営の空気である。
「そうね……」
更に――
美しい刺繍で彩られた
盤面を見つめていた
「っ!」
「っ!?」
その
白く透き通った陶器の肌に対照的な
「大義でした二人とも。今日はもう戦闘は無いでしょうから、部下共々ゆっくりと休みなさい」
恐ろしいまでに
その暗黒色の
「り、了解さ……ね、
「か、
幻想的なほどに気高く美しい主君に
――
そこに残った美姫は……
「……………………ふふ」
少し上ずったような震える声で、彼女は盤面上の
「やってくれるわ……
華奢で白い指先には過多な加重が加えられ、駒は小刻みに震えて――
「……
――ガコッ!
そのまま、美姫の指と盤面の圧に
「そうよ……こんなに乱されるのは
足下に転がる王の駒を、実際に這いつくばる敵軍の王を美しき眼差しで見下す様な美姫は……
「……ふ……ふふ」
それでも、なにを想って微笑むのか?
「ねぇ、
――
白と黒の盤面遊戯を前に、冷徹なる
――
―
「確か”
激戦地を無事離れる事に成功した後、俺の元へと直接報告に訪れた
「なるほど、対峙する敵にとっては絶対的な
それを足を組んで座した俺は、
――”
やられる方にとっては言い得て妙な……
――全く、性格の悪いお嬢様だ
巨大な車輪の
「まさに
「
半ば自嘲気味に吐き捨てた俺の感想に、もう一人の側近で、同じく俺の元へと駆けつけて来ていた
――おおっと!?
「ま、まぁ、あれだ……予想通り一筋縄ではいかない相手だってことだ」
軍の
「確かに初戦はどう見繕っても
言葉通り確かに可能性として組み込んでいたが、実際はこうまで的確に裏をかかれるとは思ってもみなかった。
だがそれでも俺には、この状況を立て直す術が無い訳でも無かったのだ。
「この段階で千にも及ぶ被害を出してしまい、申し訳ありません」
「いや、それは仕方が無い。それで収穫もあったからな……」
もっとマシな判断は出来なかったのか?
それはこの
――少なくとも俺には……
「そ、それは!つまり敵の……あの”
「さすが
俺の言葉に二人の側近は感嘆の声と羨望の眼差しを向けて来るが……
「あ、ああ……それは”ぼちぼち”といったところか」
正直、そこまでは届いていない。
多少の……糸口のようなものは見えた気もするが……
初戦の代償に見合った成果かというと、胸を張るほどではなかったのだ。
「確か、加藤
俺の言葉に
今回の新政・
この
「大雑把な報告しか聞いていないが、俺の予想外に
俺は二人の前だからと顔を引き締めるが、それでもその策士の成長に、多分、愛弟子である人物の成長に……
間違いなく不利になったにも
「本丸の
心配そうに俺を見上げる、
――まぁ、さすが……
俺は心配ないという表情で頷いてから目の前の二人に言う。
「それくらい強敵だとは知りすぎるくらい知っていた事だ。それより問題は明日以降、まだ打つ手はあ……」
「報告っ!!」
――!
半分強がり、半分は言葉通りの俺の台詞を遮るように、その場に伝令兵が転がり込んで来たのだった。
「何事か!我が軍の兵士ならば
直ぐさま
「も、申し訳ありません……ですが……ですが……」
頭をペコペコと
「
――っ!?
その報告には、さすがに
「…………はっ!?いや……それで
「は、はい!
――は?
正直、あの”
相手が”
そして、その感想は二人の側近も同様だったようで……
「……」
「……」
言葉にならずに未だ固まっている二人に代わり、俺は兵士に質問を続ける。
「詳しい戦況は……話してくれ」
「は、はい……敵の部隊、それを率いる将は長い髪を二つに結んだ、眩しいプラチナブロンドの美しい乙女で……」
兵士の話は要約するとこうだった。
そして手薄になった城そのものを
空き巣狙いの
そこに突如謎の軍が乱入!
兵力は数百程度だったそうだが、それを率いる将がとんでもない使い手で!
光る細身の西洋剣を手に
打ち破ったという……
「
俺の問に兵士は答える。
「結構な深手で……ですが命に別状はありません」
その言葉に一同がほっとしたのも束の間……
「ですが、その謎の将はそのまま兵を引き連れて南下……」
「南下?城に合流しなかったのか?」
「高々、数百程度の兵で?
兵士の報告に
――っ!?
そこで俺は、敵の”その行動”の恐ろしさに気づいた!
「くっ!
そして俺の言葉に兵士はガックリと頷き、二人の側近は”はっ”と顔を見合わせる。
「逆に
「確かに数百如き、我が
「ま!まさか……」
――そして俺には思い当たる人物があった
「それと、謎の強襲部隊の将……その正体は多分、
「え、
今度は
「そうだ、
あの人外の怪力ゴリラ!
「だがそれよりも……敵が
「ま、まさか……」
「
「…………な、それは……は!?」
一際曇った俺の表情を見て、
「
そして未だ理解していない
「
「え?ま、まさか……それって反乱を……狙って?」
そして――
そこで
「そうだ。分かり易い戦力と、そして俺の母方の血筋である
――まさかこういう手を考えていたから……
――いや、そこまでは流石に俺の考えすぎだろう
「
俺はその別働隊……つまり我が
そう、俺が思い当たる人物とは、実はこっちの方だ。
「
”
「一軍の将としては”
第五話「
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