第179話「三羽烏」
第四話「
「この状況、さすがに
誰にも
燃えるように
常識を遙かに凌駕する巨大さと、
「
そして――
その堂々とした相手にも怯むこと無く反論する、
長い髪を二つに割って三つ編みにし、それを輪っかにしてそれぞれを両耳のところで留めた髪型の……
僅かに色を有する
「……」
「……」
”紅蓮の
幼馴染みで、もう十何年も前に主従の誓いを交わした絆の二人だからこそ許される緊張感で、二人の美女は互いの立場を一歩も譲らない。
「それを言うなら……
その反論をピシャリと打ち負かす見事な一言。
アルトォーヌもそこを突かれると痛い。
「
「…………へぇ」
さりげなく訂正された呼び名の変化に、
「な、なによ!」
「いいえ、なにも」
意味ありげに自分を見る親友に、アルトォーヌは少し頬を赤らめながら抗議の視線を向けたが――
ペリカは軽く微笑むだけで、全てお見通しと言わんばかりに
「まぁ良いわ。
含みを持たせた
「
取りあえずはこの場を収めるために妥協案を提示する。
「そう……お願いするわ、参謀殿。ふふ……」
「な、なによ」
だが、既にペリカの中では他のことに興味の対象が移動したようで……
「いえ、領王閣下……もとい、”
「ペ、ペリカっ!!」
去り際にからかう言葉を残した幼馴染みに、アルトォーヌは白い顔を朱に染めて怒鳴っていた。
――と、そんな事があってから暫く後……
――
「どうだ、まだ
「あまり芳しく在りません。直ぐにも手を打たなくては、初日にしてこの戦は取り返しのつかない大敗を
馬を降りたと同時にそう問う放蕩主君に対してでも、アルトォーヌは礼儀正しくお辞儀して迎えてから答えた。
「そうか……なら今日のところはここまでだな」
無論、俺は即座に手を打つ算段だった。
俺へと歩み寄った白き参謀は、深く頷きながら簡潔に留守中の子細を報告する。
「それでですが、退却するにしてもこの状況です、どう対応すべきか……」
敵の尋常で無い攻勢――
この状況で前衛の
一通り説明し終わったアルトォーヌの言葉に俺は頷いた。
「かなり難しいが、上手く頃合いを見て退く必要があるな……」
「はい」
俺の指示に一応は頷いた参謀だったが――
その”頃合い”が非常に困難である。
これほどの乱戦で、大劣勢で、大軍を無事撤退させるのは……
「アルトォーヌはペリカの陣へ行ってくれ、最終的にはあの”桁違いの破壊力”に頼る必要がありそうだ」
確かに説明不足であっただろう事に気付いた俺は、未だ俺と視線を絡めたままの白き参謀に補足する。
「
俺の回答に一瞬だけ
「
俺はそれだけで全て察したろう優秀な参謀に笑ってから応えたのだ。
「”頃合い”をな……作りに行ってくる」
――
「
――部下の言葉通り
当然、
そんな状況で他隊が救援に入っても、駆けつけた友軍が混乱に余計拍車をかけ道連れになる可能性しか見えないくらいに新政・
――だが、そんな焦る部下の言葉にも……
「
その部下がせっついて尋ねる相手……
大きめの瞳が魅力的なショートカットの美少女は、それでも黙々と自隊の再編成に指示を出していた。
「
焦りから部下が声を荒げるも……
「…………
唯ならぬ殺気で睨む少女の言葉に、副官である
「は、はいっ!!」
と、背筋を伸ばして隊の再編に戻るしかなかった。
――この時……
主戦場である
「…………」
――
ショートカットの美少女も内心に焦りが無いわけでは無いが、それでも彼女には信じられる事がある。
――
「……」
胸にチリリと軽い熱を覚え、少女はスッと戦場に目を移す。
「編成が済み次第、我が隊は前回と同様に距離を保ちつつ敵主力の側面に移動します」
――
ワァァッ!ワァァッ!
ワァァッ!ワァァッ!
敵味方入り乱れる大混戦に!
圧倒的不利!個々の場所を死守することだけに!
それだけに死に物狂いで対応する状況の友軍に!!
下手な援軍を送れば今以上に戦線を混乱させ、その援軍諸共に不毛な消耗戦に引きずり込まれる事になってしまうだろう、打つ手無しの状況に――
「このまま突っ込む!左右も遅れるな!!」
そんな狂乱の地に向け、
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
砂煙を引き連れ、なんの小細工も無しに
「抜刀っ!!」
左軍、右軍そして自身が先頭を切る中央軍を引き連れ、
シャラン!シャララン!
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
――通常なら決して行ってはいけない蛮行だ!
「ぎゃひっ!」「な、なんだ!?」
混乱に更に拍車をかける愚策中の愚策だが……
――――――――ドドォォーーーーン!!!!
程無く、血に
「雑兵なんぞに構うなっ!
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
「ぎゃひ!」」「うぎゃっ!」「がはっ!」
戸惑う敵兵をクルクルと駒のように
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
その様は――
烏合の兵溜まりに、研ぎ澄まされた三本の兵槍が
ズドドドドドッ!!!
ズドドドドドッ!!!
ズドドドドドッ!!!
そしてその三本の衝撃は!
鼓膜を打ち破るほどの波となって伝播し、戦場全体に響き渡った!
「い、
「全軍に告ぐっ!我が隊はこれより直ちに反転、離脱する!!」
「なっ!?」
それは突然で、副官の
混戦の敵中で反転など
「目標ぉぉ、後方!反転ーー!!」
だがそんな疑念を抱く暇さえ与えない!
「お……おおっ!」
「おおおおおおおっ!!」
忍耐の防戦一方であった
オオオオオオッ!オオオオオオーー!!
オオオオオオッ!オオオオオオーー!!
耐えに耐え忍んでいた
「はんてーーーーんっ!!」
ザザザザザッ!ザザザザザッ!
兵士達は足並みを揃えて一斉に百八十度反転!
そして――
「全速にて前進!ぜんしーーーーんっ!!」
オォォォォォォォォッ!!
他の事には目もくれず!ただ、離脱のためだけに大逆走を開始したのだ!
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
「なっ!?」「ぎゃぅ!」「ひぃぃっ!!」
真っ正面から突っ込んできた三筋の槍と……
その三隊間の溝を大逆走する逆方向に向けた槍!
下りと上りの大奔流に挟まれ、
「ぎゃひ!」
ドサッ!
「え?えええっ!」
バタン!
右へ、左へ、前へ、後ろへ――
「うがっ!」
ドササッ!
「ちょっ!?ぎゃっ!」
ドスン!
薙ぎ倒され、すっ転び、既に倒れた兵士の上に新たな兵士が重なり合って倒れ込む!
「な、なんにゃぁっ!?これぇぇっ!!」
「ちょっ!押さ……押すんじゃない……かなっ!!」
これには”
「ちっ!これじゃぁ……どうすることも出来やしないさね!」
”
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
闇雲な突撃による強引すぎる解錠と、無謀な反転突撃による安直な脱出!!
本来なら決して功を奏しない二つの愚行が、それが――
”これしかないっ!!”
というタイミングで、ピッタリと
「ま、
その一部始終を離れた岩陰から見ていた
「なにも驚く事はないわ」
唯一、
世に言う”
「……」
――
再びチリリと胸に灯る僅かな熱に、少女は少しだけ複雑な表情を浮かべたままで、胸の前で意識せずに握っていた右拳にギュッと力を込めて命令を発する。
「くだらない”横やり”を入れさせない……それが”
ヒヒィィン!!
「は……ははっ!」
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
その号令と同時に岩陰から
敵味方入り乱れる中央周りを大きく迂回し、”そこ”を目指す!
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
――
「なっ!?き、貴様、
ギャ!ギィィーーン!
果たして”そこ”には――
今まさに戦場中央から脱出を図る友軍に向け、横合いから追撃をかけようとしていた新政・
「”させる”わけないでしょうっ!」
先頭切って直接、敵将の槍に刃をぶつける
ギギィィーーン!ギャリィィン!
「こ、この……くっ!」
これには別働隊隊長、
「おおおおっ!止めろ!」
「領王閣下と
ドドドドドッ!ドドドドドッ!
ギャリィィン!ギギィィーーン!
「くっ!だ、だめです!」
「とても……追えません!!」
ドドドドドッ!
ドドドドドッ!
その間に
そして――
突撃した
「はは、さすが
――
―
三人寄れば、なんとやら……
大国の属国であったが故に常に無理難題を押しつけられ、
数々の酷い負け戦の中で生き残る術を得てきた面子だからこそ、
幼少から同じ時を過ごし、同じ戦場で常に生死を
――世に言う”
本人達には誠に不名誉な事かもしれないが……
惨敗による決死の”撤退戦”は、彼らにとって最も得意とするものになっていたのだった。
第四話「
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