第177話「借刀殺人」中編
第二話「借刀殺人」中編
ワァァッ!
ワァァッ!
敵対関係にある
「戦況はかなり不利です、このままではあと三日と……」
その隙を狙って、まるで計ったかのように――
隣接する第三国、
「そうですね……」
下ろせば長そうな髪をアップに
戦場には全く似つかわしくない
その彼女は、部下の報告に頷きながらも居城から動く気配はない。
――この窮地……
だが、城の司令官である
「このままでは先はありません。城に残った守備軍全てを率いて
未だ動かない上官に対し、部下はそう進言するが……
「いいえ、それは出来ません」
美貌の
「……」
まさか今さら臆す様な人物ではないだろうと、部下達は皆、彼女を認知しているが……
そうでなければ
「城の防衛を少し薄くしても良いので前線に兵を補充しましょう。お願いします」
「は、はい?……いえ、わかりました。直ぐにそう命令を送ります」
――で、あるのに
事ここに至っても、重すぎる腰の彼女を部下達は流石に不審に思い始めていた。
だが勿論それには理由があってのことで――
”どんな状況になろうとも、
その時は主君の問いに、聡明な彼女でも首を横に振った。
あの”食わせ者”のことよ。アレがそんな状況を
そして、その回答を受けて――
今度は
――ああ、
「……」
――だからこそ……
こんな窮地でも、こんな窮地だからこそ、
――しかし、このままではその肝心の城が……
ドン、ドン、ドン!!
「戻ったぞ、
そこに”けたたましい”足音と共に突如帰還した人物は――
「
「そんな状況じゃないだろう、直ぐに私も
帰還直後にも拘わらず
「……」
その姿をジッと観察していた
「
「うっ!?」
窮地に駆けつけてくれた同僚に向けるにはあまりにも冷たい視線を受けて、戦場では敵兵を震え上がらせる”
切れた息、汗だくの風体……そしてあまりにも早すぎる帰還。
行軍途中で
必死の強行軍にて――
「し、しかし……この
「どれくらい脱落したのですか?」
「うっ!」
自身の行動の正当性を口にする同僚に、
「さ、三千ほど……だ……いや!千は遅れるだろうが、そのうち追いつくだろう」
「……はぁ」
予想していただろうその答えに、美貌の
「
「くっ……だが、そうでもしないと間に合わなかったろう!
――結果から見て……
強引極まりないが、それでもこの状況ではその思い切った行動と、それでも三分の二もの兵を強行軍から脱落させなかったのは、流石は
「そうですね、正直なところ助かりました……ですが」
「ですが?」
思考を切り替えた
「
――っ!?
その場の誰もが予想外の応えで締めたのだった。
――
―
――それから半日ほど……
「……」
――正直、驚いた
てっきり自分が出陣し、
”
同僚がその理由としたものは、確かに筋は通っているが……
”それに……
あまり納得していないだろう
こう見えて決めたことは頑として譲らない
”ならせめて、私が連れてきた兵も持って行け。それでも戦力比は歴然だが……”
”頂きます。では後日、お互い生きて逢いましょう”
そう言い残して出陣して行った。
そこから半日、城の守りは約束通り
「て、敵襲っ!!」
場内に響く兵士の声!
――本当に来たか……流石は姫様
――しかし、
空き巣狙いに攻め込むとしては完璧だ!
城外で自分の懐が痛まない敵同士を争わせ、その隙に肝心の城を盗もうとは……
「あの”ペテン師”は相変わらずと言うこと……かっ!」
ギィィーーン!
部屋入り口付近から突然飛来した”何か”を、目にもとまらぬ抜刀で斬り落とす彼女!
「……恐ろしい軌道だ」
下ろすとそれなりに長そうな黒髪を首元で簡単に
自らが打ち落とした弓矢を見下ろしながら、
ヒュン!ヒュン!ヒュォン!
「うがっ!」「ぎゃっ!」「ひっ!」
その間も息つく暇無く炸裂する幾重もの閃光の矢!
ドタ!ドタ!ドタ!
その混乱のままに踏み込んで来る、抜刀済みの
「ぎゃっ!」
ギィィーーン
「このっ!」
ギャリィィン!
一瞬で屋内は数人の兵士による、刃が入り乱れる戦場となった!
「……」
だがその
「……」
奥座と入り口という、その間で斬り合う兵士達がまるで存在しないものとばかりに――
最長の距離で牽制
「
「……それはぁ……どうもぉ」
ヒュバッ!ヒュバッ!ヒュバッ!ヒュバッ!
鋭い視線は
それでも
――感心ばかりもしてられまい、このままでは全滅だな
ダッ!
「ぎゃひ!」「ぐぎゃ!」
彼女の踏切と同時に、前方に居たはずの襲撃者が首二つ、赤い帯を引いて宙に舞う!
「このっ!行かせる……ぎゃ!」
弓姫までの道を閉ざすように
「なん……!?」「ぐあぁっ!」
「うわっ!」「は、速すぎ……がはっ!」
煌めく紫電の刀身を閃かせ、雑兵を蹴散らし突入して行くは”
「ぎゃひ!」「ぐばぁっ!」
ジグザクに最短距離を詰める紫電の軌跡……
それはまさしく電光石火の闘姫であった。
「……っ!」
そしてもう一人の闘姫、
混戦の戦場を無人の野の如く来襲する
――チィィン!
「っ!?」
仕舞う間もなく、その弦は紫電の刀身に断たれて弾ける!
「終わりだ、
ギィィーーン!
しかし――
ズッ……ザァァァァ!
「……っ!?」
吹き飛んだのは
「驚いたか?
嘗て――
”
「姫様……
あの時――
その後、幾つもの絶望に心が折れ、潰えた私が無くしたのは自身の心と誇り……
――状況が状況だったとはいえ、無断で故郷を捨て家を捨てた自分に父は……
――パサリ
”刀”を手に、
――心は
「今度こそ!
細く涼しい瞳にキリリとした口元、
しっとりとした乳白色の肌にたっぷりと艶のある黒髪、薄い唇に紅を引いた女は……
流れ流れて辿り着いた異国の地で、しっかりと心と始まりの刃を、その
”今度は自分の生を存分に生きよ……と”
「参るっ!!」
煌めく紫電の刀身が輝いて!”
対して――
ギャリィィン!
「くぅっ!」
ギャリィィン!
「ほう……二刀か?それが
ガイィィン!
「……っ!?」
だが、本気の二刀を
剣による戦闘となってからは圧倒されまくりの
ギャリィィン!
「くっ!」
ヒュババッ!
「うっ……」
著しい劣勢の中で彼女は必死に考える!
――
ならば……
ギギィィン!
「くぅっ!」
そう、やはりそれは”
その”特異”な剣技だ!
そして、それは――
「はぁぁぁっ!!」
キィン!ガキィィン!シュバ!
「くぅっ!」
打ち合うごとに腕力を持って行かれる激剣に、遂には肩口を斬られ後ろに下がる
「強いな……
「はぁはぁ……」
目前の敵にまるで
「はぁ、はぁ……わ、私はぁ……どうしてもぉ……」
「ん?」
そんな中、無意識なのか言葉が漏れる
「どうしてもぉ……大物の首が欲しい……手柄がぁ……む、無理をしてでも……自分を見て欲しい男がいるのよ」
そしてそれは、常にマイペースな彼女には意外すぎる言葉だった。
「貴様のことはあまり知らんが……”男に媚びる女”には見えないが?」
「……そうぅ……ねぇっ!!」
一瞬だけ見せた隙!
途端に
カシィィン!
長いポニーテールと背中の間からコンパス状に折りたたまれた三十センチほどの”紅い棒”を取り出して軽く一振りする!
「!?」
それは中央から開いて元の倍の長さの”短弓”となった!
「し、”仕込み弓”だとっ!?」
面食らう
ヒュン――――バシュッ!
折り畳み式の紅弓から放たれた矢は部屋の柱に命中し、そして――
バフッ!
煙幕となって一瞬で視界を覆い尽くす!!
「うわっ!」
「なんだっ!」
未だ残って戦っていた兵士達が混乱する中、そういう事も示し合わせ済みだったのだろう……
「くそっ!姑息な!!」
「直ぐに後を……」
逃げる敵に追い打ちを賭けようと意気込む兵士達だが、
「追うな、
敵が去ったなら、相手の作戦をひとつ確実に潰した事になる。
そして今後、城が強襲される恐れがないなら……私も
そういう考えと思いが、
しかし――
彼女は去り際に確かに聞いた。
そして、
「
誰にも気付かれない様に呟いた
――”男に”ではないのよ、サイカくんに……よ
第二話「借刀殺人」中編 END
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