第176話「出藍の誉れ」前編
第一話「出藍の誉れ」前編
三軍に分かれて電撃進軍した
その奇襲は看破され、既に新政・
そしてそのひとつ、北上して
「
新政・
「承知していますとも。
そしてそれを受けた立派な髭の部将、
「うむ。しかし今更ながら……少数精鋭が必須とはいえ、この頭数でこの先の作業は少々酷な感じではあるが……」
握手に応じ頷きながらも不安を見せる加藤
「い、いや……や、”
その合図の意図を理解し、まだ”あどけなさ”を残す少年、
「そうでしたな、なにより”領王閣下”直々のご指名だ。失礼した」
歴戦の猛将による、若輩も若輩の少年相手だからとの侮り……
それに対する、少女と見まがう美少年の内なる気概に、強者たる”元”
「いえ、若輩は事実ですし……この
「……」
――成長した
――この若武者は少しずつだが着実に……
立派な髭の武将は、それを隣で目を細めて見守っていた。
――
「いや……だから……隊長……」
「だいじょうぶ、覚えてるから……ええと、ううんと……」
そんな忠臣、
「いや、流石に非道いですよ隊長!わざわざ
「う……だから覚えてる……あれ……あれだよ」
少し離れた位置では絶世の美少女が美しい眉を顰めて頭をフル回転させ、そしてその周りには呆れ顔の男二人が、落ち込んだ一人の男を同情の視線で見ながら抗議していた。
「も、もういい!
自分の代わりに抗議する部下を平静を装って抑える男。
「補佐?……助けてきた?……ああっ!?タケッチ!!タケッチ参上!?」
「うっ!?す、
同情する仲間二人に向けていた言葉とは裏腹に……その男は涙目だった。
「た、
「仕方ないです……
「く……
そんな二人の慰めに、長年同じ釜の飯を食った仲で死線を
目尻を拭いながらもキッと少女を睨んだ。
「
気を取り直して相対するも、だが肝心の美少女は既に飽きたのだろう、上の空で雲を見ていたのだ。
「ん?聞いてる……よ、昔の……部下、
――いや、それは問題在り過ぎるよぉ、
そんな不毛なやり取りを、我関せずと分隊の準備作業を続けるフリをして誤魔化していた
他人事ながらも、初対面である男の痛々しさに心を痛めて目を逸らす。
「くぅぅぅーー!!」
「た、
「この女っ!!”
「う……
そこには、薄情なほど合理的であると恐れられた冷徹な副隊長の姿は欠片も無かった。
――
「…………」
「
いつの間にか呆けたようにその馬鹿げたやり取りを眺めている若き主君に、立派な髭の家臣は不思議そうな視線を向ける。
「あれが
日に
その少女の特筆するべきその双眸は輝く銀河を再現したような
それはまるで幾万の星の大河の瞳。
「こんな……綺麗な女性がこの世にいるなんて……」
「……様!」
「…………」
「
「うっ!?ああ……そ、そうだな!」
部下の一括に、
「か、加藤将軍もご武運を!……ええと、それではゆくぞ!!」
こうして
「だ、大丈夫でしょうか?あの若者で……いかにも若すぎですし」
それを見送る部下の感想に、立派な太刀を背中に背負った将は笑う。
「なに、別働隊はあくまで最悪の場合の保険だ。それに我が第二軍も万が一にも敵に事前察知され迎撃準備を済まされていたならば、
「確かに……ですがその場合は、
部下の懸念にも歴戦の猛将は笑う。
「この電撃作戦に急遽対応した手腕は、
加藤
「このまま我が軍は川沿いを南下し、
――
―
「どうやら敵さんは、この
クリクリとした毛質のショートカットに特にこれといった特徴の無い目鼻立ち、全体的にそこそこ整った顔立ちではあるが、特徴の無さから地味な美人といった表現が適当だろう女が、斥候兵からの情報を聞いてそう呟いた。
「先手を取ったつもりが取られた。その状況にも対策を用意済みなんて……”王覇の英雄”……ふふ、やはり面白いわ」
対して、
長い巻髪で色白の、
「そう余裕もあらへんけど?姫様の
――
「それはそうね。とはいえ、白兵戦は数の上からも私達が不利でしょうし?」
――同じく
当初の戦術目標をこうもアッサリと捨てて、この
城を活用した時間稼ぎを目的としていた
「……で、どうするん?」
「そうね……」
話していた二人の
「先生……いえ、
応えたのは、くせっ毛のショートカットにそばかす顔の快活そうな顔立ちの少女だ。
叡智を秘めた瞳……
可能性の瞳を輝かせる少女、
「また今回、実際に部隊を率いているという加藤
「なら尚更、下手な手は打てないと言う事ね」
「いいえ、ここはその小細工を
「は?」
「なんで?」
自らの言とは全く違う結論を口にする後輩に、二人の
「戦場では”目端が利く”からこそ、逆に引っ掛かり易いという事もあります。それに”加藤
純朴な作りのそばかす少女の顔が、したたかに微笑む。
「……」
「……」
二人の女は互いに懐疑的な視線を絡めたままだったが、それでも同時にこう考えていた。
――知恵や素質はあっても柔軟さに欠け、それ故に実績乏しく、終始自信無さげだったこの少女が……
「どうでしょうか?
――”こうも”変わるのかと!
”士別れて三日なれば刮目して相対すべし”
とは云うが、それを
――
二人の女は無言で頷き合ってから後輩に向き直る。
「良いわ、
「そやね、参謀は
その自信に満ちた双眸に、
「はい、
「微妙にって事は……なるほど相手はやり手の”忍”出身者やもんなぁ、なるほど、なるほど」
「そして
続いて
「…………私は
その場所を視線で追った
「少数になる
そして二人の先輩を完全に納得させた策士の少女は、される方にとっては厄介極まりない迷惑な作戦とは対照的な……
彼女の純朴さを前面に押し出した眩しい笑顔にてこの場を締め括ったのだった。
第一話「出藍の誉れ」前編 END
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